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【番外編】そこにある、確かなもの。
6. -ユイside- ③
しおりを挟む翌朝目が覚めると、あんなにぐちゃぐちゃになっていたベッドは何事もなかったように整えられ、僕は身綺麗になって寝間着を纏っていた。まるで昨夜の出来事が夢だったかのようだ。しかし、起き上がろうとしても身体が重だるくて力が入らず、昨夜のことが夢ではないことを物語っている。
身動きが取れなくてベッドの中でもぞもぞ動いていたら、寝室の外から足音が聞こえてきた。背を向けていたドアが静かに開き、足音がベッドに近づいてくると、背後から伸びてきた冷たい手が僕の額を覆った。
「ひゃっ」
「あ、ごめんね。ビックリした?」
「うん、大丈夫」
「横になってて。熱がまだ高いから」
視線を声の方へ向けると、そこには柔らかく笑うルークの姿があった。サイドテーブルに水差しと一口大に切られた果物、そして薬包が載ったトレイが置かれている。
「熱冷ましの薬を持ってきた。飲めそう?」
「うん」
ルークが背中にクッションを重ねてくれて上体を起こすと、渡された薬を口に運んだ。水で流し込むと口の中に苦みが広がって、思わず眉頭を寄せた。
「多分、身体の変化による影響で熱が出たんだ。今日は一日ゆっくり休んで」
僕の額に口づけをしてルークが部屋を出ていこうとして、慌ててルークの服を掴んで止めた。
「待って、ルーク!あの…昨日は、ごめんなさい。その…僕……」
眠りに墜ちる前の記憶は曖昧だが、途中で急に帯びていた熱が冷水を浴びたように引いて、思考が鮮明になったのは覚えてる。証だの家族だのと口ではきれいごとを並べておきながら、本当は子どもを『ルークを縛る道具』として考えていることに気付いて涙が零れた。そんな自分の醜い部分を曝け出してしまったんだ。
僕は、なんて醜悪な人間なんだろう……。
落としていた視線を上げると、ルークは優しい表情で僕を見つめ、ベッドの縁に腰を下ろした。
「ユイが謝ることなんて何もないよ。むしろ、ユイの思っていることを聞けて良かったって思ってる。俺の方こそ、ごめん。ユイの不安に気づけなくて」
「そんなっ…」
ルークは何も悪くない。
そう言いかけたが、ルークはそれを遮るように僕の両頬にそっと手を添え、額を重ね合わせた。
「ねぇ、ユイ。これだけは言わせて。たとえそこにどんな想いがあったとしても、生まれてくる子は俺たちを縛る鎖じゃない。その子は、俺たちの繋がりを強くする絆なんだ」
………絆?
「だから、何も心配しなくていい。ユイの心のままに、望んでもいいんだよ。ユイの望みは、俺の望みでもあるんだから」
ルークの言葉に、涙が頬を伝った。自分の醜い部分を受け入れ、まるごと愛してくれる伴侶に苦しくなるほど愛おしさが募っていく。
涙を流す僕にルークはそれ以上何も言わず、零れ落ちる涙を優しく拭ってくれた。
「それに、あんな情熱的に誘ってもらえて、俺嬉しかったよ?」
そうだ。昨夜は気持ちがぐちゃぐちゃになって、ルークを無理やり押し倒すように求めてしまった。
「そっ…それは、もう忘れて!」
「えぇ?あんなエッチなユイは滅多に見られないから、忘れるなんてできないよ」
「あんなこと、二度としないから!」
ただでさえ熱があるのに、昨夜のことを思い出して顔から火が吹き出そうだ。そんな僕を見て、ルークは可笑しそうに肩を震わせている。
「そうだ。口の中が苦いよね?果物食べる?」
「…うん、欲しい」
サイドテーブルに置いた皿を取り、ルークはその中からきれいに皮を剥いたブドウをフォークで刺した。それを僕に差し出すかと思っていたら、自分の口に含み、そのまま唇を重ねてきた。
甘くてひんやりしたブドウが、ルークの熱い舌と絡みがら咥内で転がる。
「…ふ…、んっ……。すごく甘い。もっとちょうだい…?」
「ん、たくさん食べて」
唇を重ねるルークの甘い給餌は、皿が空になってもしばらく続いた。僕はその熱い求愛に、蕩かされるまま身を委ねた。
あの夜を境に、ルークとの情事は今まで以上に深く、熱く感じるようになった。身体の変化のせいかもしれないが、何よりルークが僕の全てを受け入れてくれたことで心が軽くなり、彼への愛おしさが増したからだと思う。
だから、僕の中に新しい命が生まれたことを知った時は、本当に嬉しかった。そして幸福は、それだけに留まらなかった。
妊娠が分かって二度目の検診に行った時、担当の医術師から驚きの言葉が告げられた。
「前回は小さくて分からなかったのですが、どうやら双子のようです」
それを聞いた時、僕とルークは驚いた顔を見合わせ、同時に頬を緩ませた。
身籠ってからのルークは輪をかけて過保護になったが、お腹にいる子どもが二人だと分かった後は、僕はもうお姫様状態だった。
「勿体ないなぁ」
「それ言うの何回目?」
リビングのソファーでお茶を飲みながらゆっくりしていると、ルークは首元まで短くなった僕の髪を弄りながら残念そうにぼやいた。出産に備えて周囲の環境を整えているうちに、あっという間に臨月に入り、僕が背中まで伸びていた髪をバッサリ切ったからだ。
「長いと子ども達のお世話をするのに邪魔になっちゃうでしょ?」
「そうかもしれないけど…」
納得いかない様子のルークは、眉間に皺を寄せて少し唇を尖らせている。僕は宥めるように、尖らせた唇に触れるだけの口づけをした。
「子育てが落ち着いたら、また伸ばすから」
「そんな風に俺を甘やして、子ども相手だとどうなるんだろうね?」
「ふふっ、メロメロになって何でも聞いちゃいそう」
僕が大きくなったお腹を撫でていると、ルークが肩に手を回し、頬や額に何度も啄むような口づけを落としてきた。
「でも、俺も構ってくれないと、イタズラするからね」
「まったく、困った旦那様だ」
お腹に添えた僕の手に自身の手を重ね、年齢にそぐわない拗ねた顔をするルークが可愛くて、笑みがこぼれる。
これから産まれてくる子ども達も、こんな表情をするのかな。
そう思うと微笑ましくなり、僕は今日の柔らかな日差しのような、温かい未来しか想像できなかった。
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毎日楽しみに読んでます。
途中辛い場面もありましたが、ユイが健気に頑張っている姿に涙です。
やっと待ちに待っていた再会。これからどうなるのか、とても楽しみです🎶
感想、ありがとうございます!読んでいただいて、とてもうれしいです♬
ハッピーエンドに向けて、日々書き進めていますので、今後も楽しんでいただければと思います(≧▽≦)