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第一章
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しおりを挟む「ユイ。俺が成人したら、一緒にこの村を出ない?」
僕の誕生日から数日が経ったある日、孤児院を出たらどうするつもりなのか尋ねたら、ルークがそう言ってきた。その突然の提案に、思考が止まってしまった。今まではこの世界に馴染むことに必死で、村から出ることなんて考えもしなかった。
「俺、この孤児院に入った事情が、他の子たちとは少し違って…。家族とも、たまに連絡取ってるんだ」
「…そうだったんだ?」
「うん。成人したら一度家に戻って、自分がこれからどうしたいのか、改めて話すつもり」
ルークはここを離れた後のことを、もう考えているんだ……。
「それで──、どうする?」
司祭様や院長、孤児院の子ども達と別れるのは寂しい。それに、ようやく定着した生活を捨てて新天地を目指すのは、ものすごく不安だしエネルギーもいる。
でも──、
「僕も、一緒に行く」
──ずっと、ルークのそばにいたい。それに……。
「ルークと一緒なら、何処へでも行ける気がする」
にっこり微笑むと、ルークはそれまで不安そうだった顔をほころばせ、ぎゅっと抱きしめてきた。
「うん。何処へでも連れて行ってあげる。……だから、ずっと俺のそばにいて?」
成人に達する数か月前から、ルークは村から一番近い街へ出かけることが多くなった。自立に備えて、自分が作った魔法薬や調合した薬を売って、少しずつお金を貯めているらしい。
孤児院を出るときには支度金が渡されるが、ルークはそれを他の子ども達のために使ってほしいと、院長に以前から受け取りの辞退すると伝えていたそうだ。
ルークがお金を稼いでいると聞いて、僕は内心焦っていた。
僕には先立つものがない。この世界に来てずっと教会や孤児院でお世話になっていたから、お金を稼いだことがないのだ。教会を出ることを報告した折に、時間があまりない中で何かお金を稼ぐ方法はないかと、司祭様と院長に相談してみた。
「そのことなら心配ない。君はこれまで、礼拝の日にピアノを弾いてくれていただろう?」
「はい…。それが何か?」
「このクイントス領の教会には、ピアノ奏者が少なくてね。だから演奏のできる者には、領主様から特別手当が支給されるんだ」
「あなたがいつか、ここを出る時のためにと思って取っておいたの。黙っててごめんなさいね」
二人が申し訳なさそうに言った。でもこの世界に来てから、お金が必要だと思ったことがなかったのも事実だ。寄付金や村の人たちからのお裾分けで、十分生活できていたし。
「ユイがいなくなるのは、正直寂しい。だが、君の人生だ。やりたいようにやりなさい」
「もちろん、いつでも帰ってきていいんだからね?」
二人の優しい言葉に、涙が滲んだ。
「はい……、ありがとう…ございます」
僕が俯いて言うと、院長がそっと抱きしめてくれた。そして司祭様も院長と一緒に寄り添い、頭を優しく撫でてくれた。
教会を出る目処が立ち、それからは教会の仕事や孤児院の手伝いにも、より一層励んだ。ルークも朝食を終えて掃除や洗濯を終えると、今日も魔法薬を売りに街へ出かける準備をしていた。
「今日はそんなに量が多くないから、お昼ごろには帰れると思う」
「うん、分かった。気を付けて」
ルークは街に行くとき転移魔法を使う。いつも教会裏で魔法陣を展開させて街の路地裏に転移し、帰りも同じく教会裏に戻ってくる。転移魔法は、使用者が事前に設定した座標間しか行き来できないらしい。
僕はルークが街に行くときは、決まって見送りをしていた。
「いってきます」
ルークがチュッと軽く音をたてながら、僕の唇に触れるだけのキスを落とした。
「ルークっ!誰かに見られたらって、いつも…っ」
「でもユイも、分かっているのに避けないよね?」
「───…っ!!」
「ははっ、そんなに怒らないで?じゃあ今度こそ、いってきます」
「いってらっしゃい」
魔法陣の光に包まれて、ルークは笑顔を見せながら消えていった。別れ際はいつも名残惜しくなるが、遠くからリリィが僕を呼ぶ声が聞こえて、慌てて熱くなった頬を叩きながら孤児院に戻った。
そうして子ども達や村の人と過ごしながら、帰ってきたルークを出迎えるという、いつもと変わらない日を過ごすはずだった。
でも、夕方になってもルークは孤児院へ帰ってこなかった。
そして次にルークを見たとき、彼はサラときつく抱き合いながら、熱い口づけを交わしていた。
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