「水の行方」~ 花言葉の裏側で(水シリーズ②)

小原ききょう(TOブックス大賞受賞)

文字の大きさ
7 / 45

芦田智子

しおりを挟む


 私こと芦田智子は加奈子ちゃんと友達だ。
 私はずっと加奈ちゃんを見ていた。時々話しかけたりしたけど、加奈ちゃんは私のことはあんまり意識していなかった。
 でも、今日、やっと友達になれた。
「智子」って下の名前で呼んでもらえた。けれど、私は気づかないふりをした。
 少し、恥かしかったから。
 加奈ちゃんは時々昼休みに音楽室に行ってピアノを弾いていた。
 私は楽器なんて笛とハーモニカくらいしか吹けないからすごく羨ましかった。
 私は加奈ちゃんと友達になりたいのと同時に、加奈ちゃんに憧れてもいるファンの一人だ。加奈ちゃんは四年生の頃から香山さんという綺麗な女の子を目標にしているみたいだ けど、あまり相手にされていないのが私にはわかった。
 香山さんは私たちを見ていない。もっと遠くを見ている。
 五年生になると香山さんと私たちは違うクラスになった。五年生になってからの加奈ちゃんは教室でいつも一人きりで寂びしそうに見えた。
 香山さんという目標と離れてしまったせいだろうか?
 家が遠いせいだろうか?
 加奈ちゃんはきっと無理して生きてる、と私は感じた。
 私は学校の成績は悪いけど、そういうのはすぐにわかる。
 それに音楽室にこもってピアノを弾く回数も最近増えた。
 だから、私が友達になって、仲良くなって加奈ちゃんの力になってあげると決めていた。

「智子、自分の顔を鏡で見なって、石谷さんと仲良くしても自分が損するだけだよ」
 きっと周りの人はそう言うだろう。
 みんな、私の顔で判断してそう言うに決まってる。
 ブスだと加奈ちゃんと友達になってはいけないの?そんなことないよね。
 昔、近所の男の子たちに「智子のブス」とよく言われた。
 私が四年生の時も「お母さん、香山さんみたいなお洋服買って」とお母さんにおねだりしたら「あなたみたいな子に似合うわけないでしょう」一言で返された。
 あなたみたいな子ってどういう意味?
 自分の娘なのに、お母さんまで私をブスだと言いたいのかな?
 私は鏡を見る。こうやって近くで見ていると、目も程よく大きいし、口だって小さい。
「邪魔だ、そこ、のけよ。ブス」
 家の中で鏡を見ているとお兄ちゃんが通りすがりに言う。
 私、そんなにブスじゃないよ。
「それ、私のこと?」と私はお兄ちゃんに訊く。
「聞こえねえのか。お前しかいねえじゃねえかよ、ブス!」
 又、私のことをブスと言った。
 ブスと言う方がブスなんだ。私はいつも心の中で言い返す。
「智子はブスじゃないよ」
 加奈ちゃんはまるで私の考えていることがわかるように言ってくれた。
 私がブスじゃないとはっきり言ってくれたのは加奈ちゃんだけだ。
 だから私は加奈ちゃんに何があってもついていく。
 香山さんを目標にしている加奈ちゃんについていきます。
 二人一緒ならこの世に怖いものなんて何一つないんだ。

 でも、私には一つ心配事がある。
 私たちの隣のクラスには長田さんというお嬢さんがいる。
 加奈ちゃんは長田さんのことをすごく意識しているようだ。
 同じようにピアノを習っているからだろうか?
 長田さんは香山さんと雰囲気が違って冷たい感じがする。
 四年生の時、長田さんは私たちに挨拶のしるしのように押し花を配った。
 あまりいい感じはしなかった。
 押し花は「私の配下になりなさい」という意味らしかった。
 なんだ、物で釣るのか、と思い更に嫌な感じを抱いた。
「これ頂くの、少し、考えさせてください」と私は言った。
 お父さんから「何かを判断する時にはそう答えなさい」といつも言われている。
 相手にされなかったけど、私は長田さんより香山さんのような人が好きだった。
 どことなく孤独な感じがして格好いい。目標にするのなら絶対香山さんがよかった。
 別に金持ちだからとかそんなことは関係ない。
 でもそう上手くいかないのが世の中だ。

 少し前に長田さんの母親と長田さん本人がお店に来て和菓子を大量注文したことがある。
「こちらの大福、二百個ほど頂けるかしら?」
 お父さんは「時間がかかるので自宅に配達します」と丁寧に受けていた。
 二百個の大福・・どうするんだろう?
 けれど、お父さんもお母さんも大喜びだった。
 私の家は銭湯の横で「芦田堂」という名前の和菓子屋さんを営んでいる。もう何十年も続く老舗店なのだと、お父さんはよく町の人に自慢している。
 だから、私にはわかる。長田さんの家は商売が上手いのだ。
 和菓子店は駅前に行けばもっとたくさん種類の多い店がある。わざわざ、ここで買うのは地元だからだ。
「芦田堂」に恩を売っているのだ。いくら私がバカで、ブスでもそれくらいわかる。
 私は和菓子店の娘だ。
 長田さんは母親の横で私の方を見て微笑んでいた。
 すごく嫌な感じがした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―

MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」 「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」 失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。 46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。

処理中です...