11 / 45
もう一つの出会い
しおりを挟む
◆
音楽室から今日は違う曲が流れていた。
でもおそらく弾いているのは同じ人のような気がした。時間帯も前と同じだったからだろうか。
僕にはピアノのことは全然わからないけれど、その力加減とか、流れとか、そんなもので感じていた。
曲は誰でも知っている曲「エリーゼのために」だった。
今日は廊下の窓は開いていなかったので僕はもっとピアノを聞きたくて音楽室の扉に一番近い廊下の窓を開けた。
窓枠は錆びついていて開けるとぼろぼろと粉が落ちてきた。
窓の外は大きな植樹があってピアノの音はその木をくるくると回りながらこちらに届いてくるようだった。
前に聞いた「別れの曲」は悲しい感じのする曲だったけど、「エリーゼのために」は曲が違うせいか激しさが混ざっている気がした。
・・というよりも、これを弾いている人、何かに苛立っていないか?
そう感じた瞬間にピアノは突然、終わった。
その後、バーンという激しい音が鳴り響いてガタガタと音がしたと思うと、大きな扉が突然開いた。
扉は外開きなので大きな扉がぐわーっと僕の体に迫ってきた。
避ける暇もなく「そんな勢いよく開けなくても」と思った時には僕は廊下の壁と音楽室の扉の間に挟まれていた。
でも、人の体はそんな簡単にはつぶれたりしないものだ。ある程度の弾力がある。
扉を開けた人はその弾力を感じたのだろうか、「誰か、いるの?」と言った。
訊きながら扉をぐいぐいと確かめるように押している。
「いる、いる」と言いながら僕は扉を押し退けた。
「ご、ごめんなさい。私、少し慌ててて」女の子は何度も頭を下げ謝った。
女の子だった。同じ五年生だろうか?この子がピアノを引いていたのだろうか?
廊下の窓から入り込む風にそよぐ長い黒髪が印象的だった。
「ええよ、知らんかったんやから」
女の子に謝られるのは苦手だ。というか、しゃべること自体苦手だ。
「どこかぶつけなかった?保健室行った方がよくない?」と言うと「そうだ、保健室!」と思い出したように大きな声を出し「一緒に来て」と僕の手を強く引いた。
「休み時間が終わってしまう」授業に遅れたら先生に怒られる。
「怪我の方が大事よ」彼女は僕の手を引き保健室に向かった。
僕は怪我なんかしてへんから。
逆らって彼女の手を振り解くのも気が引け二人で保健室に向かった。
彼女に興味があったせいかもしれなかった。
あの曲を弾いていた当人だろうから。
僕の頭の中で最初に聴いた「別れの曲」と苛立ったような「エリーゼのために」が響いていた。
階段を下りると廊下の向こうから女の子がこちらに向かってくるのが見えた。
おでこに大きなガーゼが当てられ留められている。
この女の子、どっかで見たことある。そうだ、和菓子の芦田堂の娘さんだ。
「智子、大丈夫?」女の子の友達なのかな?親しそうだ。
「加奈ちゃん、私、全然平気だよ」智子と呼ばれた子が答える。
「よかった・・でも、そのおでこ」
加奈ちゃんと呼ばれた女の子はすごく安心した表情を見せた。
「ああ、これ、保健室のおばさん、大げさだよお」
おでこをぽんと叩いて笑った。
「ごめんね。一緒に保健室、行かなくて」
「いいよ、いいよ。それで、ピアノ、弾けたの?」
「うん」小さく頷く。
やっぱりあの曲を弾いていたのは彼女だ。事情はよくわからないけれど、彼女にとってピアノはとても大事なもののようだ。
「聴きたかったなあ・・それで、こちらは?」
本当に聴きたかった様子の顔を見せたあと僕の方を指して訊ねる。
「ああ、ごめん。智子・・私、この人の名前、知らないの」
それはそうだろうね。初対面だ。
「あ、あなたは、大丈夫?」
加奈ちゃんと呼ばれた女の子はどうしていいかわからないようにして僕に一応訊ねる。
「そやから、僕は何でもないって。僕は村上陽一、一組や」
「私は二組の石谷加奈子」
石谷さんはすごく恥ずかしそうにしている。
そりゃそうだろう。一応、男子である僕をここまで引っ張ってきたんだから。
「加奈ちゃんが自己紹介してるよお」
何がおかしいのか芦田堂の娘さんがけらけらと笑う。
笑われるとよけいに石谷さんは恥ずかしそうにした。
彼女が笑うと、おでこのガーゼが傾いた。
「智子、それ、取れそう」
石谷さんが慌てて芦田さんのおでこのガーゼを押さえた。
「えへへ。加奈ちゃん、ありがとう。保健室のおばさん、適当に付けてるよ」
「それと、この子は芦田智子、同じ二組よ」石谷さんが芦田さんの代わりに紹介する。
「それで加奈ちゃん、一体どうしたの?」
「え、ええ・・私が思いっきり扉を開けてこの人にぶつけちゃたの」
「それはいけないよ。私からも謝ります。この通りです」
芦田さんはペコリと頭を下げた。
音楽室から今日は違う曲が流れていた。
でもおそらく弾いているのは同じ人のような気がした。時間帯も前と同じだったからだろうか。
僕にはピアノのことは全然わからないけれど、その力加減とか、流れとか、そんなもので感じていた。
曲は誰でも知っている曲「エリーゼのために」だった。
今日は廊下の窓は開いていなかったので僕はもっとピアノを聞きたくて音楽室の扉に一番近い廊下の窓を開けた。
窓枠は錆びついていて開けるとぼろぼろと粉が落ちてきた。
窓の外は大きな植樹があってピアノの音はその木をくるくると回りながらこちらに届いてくるようだった。
前に聞いた「別れの曲」は悲しい感じのする曲だったけど、「エリーゼのために」は曲が違うせいか激しさが混ざっている気がした。
・・というよりも、これを弾いている人、何かに苛立っていないか?
そう感じた瞬間にピアノは突然、終わった。
その後、バーンという激しい音が鳴り響いてガタガタと音がしたと思うと、大きな扉が突然開いた。
扉は外開きなので大きな扉がぐわーっと僕の体に迫ってきた。
避ける暇もなく「そんな勢いよく開けなくても」と思った時には僕は廊下の壁と音楽室の扉の間に挟まれていた。
でも、人の体はそんな簡単にはつぶれたりしないものだ。ある程度の弾力がある。
扉を開けた人はその弾力を感じたのだろうか、「誰か、いるの?」と言った。
訊きながら扉をぐいぐいと確かめるように押している。
「いる、いる」と言いながら僕は扉を押し退けた。
「ご、ごめんなさい。私、少し慌ててて」女の子は何度も頭を下げ謝った。
女の子だった。同じ五年生だろうか?この子がピアノを引いていたのだろうか?
廊下の窓から入り込む風にそよぐ長い黒髪が印象的だった。
「ええよ、知らんかったんやから」
女の子に謝られるのは苦手だ。というか、しゃべること自体苦手だ。
「どこかぶつけなかった?保健室行った方がよくない?」と言うと「そうだ、保健室!」と思い出したように大きな声を出し「一緒に来て」と僕の手を強く引いた。
「休み時間が終わってしまう」授業に遅れたら先生に怒られる。
「怪我の方が大事よ」彼女は僕の手を引き保健室に向かった。
僕は怪我なんかしてへんから。
逆らって彼女の手を振り解くのも気が引け二人で保健室に向かった。
彼女に興味があったせいかもしれなかった。
あの曲を弾いていた当人だろうから。
僕の頭の中で最初に聴いた「別れの曲」と苛立ったような「エリーゼのために」が響いていた。
階段を下りると廊下の向こうから女の子がこちらに向かってくるのが見えた。
おでこに大きなガーゼが当てられ留められている。
この女の子、どっかで見たことある。そうだ、和菓子の芦田堂の娘さんだ。
「智子、大丈夫?」女の子の友達なのかな?親しそうだ。
「加奈ちゃん、私、全然平気だよ」智子と呼ばれた子が答える。
「よかった・・でも、そのおでこ」
加奈ちゃんと呼ばれた女の子はすごく安心した表情を見せた。
「ああ、これ、保健室のおばさん、大げさだよお」
おでこをぽんと叩いて笑った。
「ごめんね。一緒に保健室、行かなくて」
「いいよ、いいよ。それで、ピアノ、弾けたの?」
「うん」小さく頷く。
やっぱりあの曲を弾いていたのは彼女だ。事情はよくわからないけれど、彼女にとってピアノはとても大事なもののようだ。
「聴きたかったなあ・・それで、こちらは?」
本当に聴きたかった様子の顔を見せたあと僕の方を指して訊ねる。
「ああ、ごめん。智子・・私、この人の名前、知らないの」
それはそうだろうね。初対面だ。
「あ、あなたは、大丈夫?」
加奈ちゃんと呼ばれた女の子はどうしていいかわからないようにして僕に一応訊ねる。
「そやから、僕は何でもないって。僕は村上陽一、一組や」
「私は二組の石谷加奈子」
石谷さんはすごく恥ずかしそうにしている。
そりゃそうだろう。一応、男子である僕をここまで引っ張ってきたんだから。
「加奈ちゃんが自己紹介してるよお」
何がおかしいのか芦田堂の娘さんがけらけらと笑う。
笑われるとよけいに石谷さんは恥ずかしそうにした。
彼女が笑うと、おでこのガーゼが傾いた。
「智子、それ、取れそう」
石谷さんが慌てて芦田さんのおでこのガーゼを押さえた。
「えへへ。加奈ちゃん、ありがとう。保健室のおばさん、適当に付けてるよ」
「それと、この子は芦田智子、同じ二組よ」石谷さんが芦田さんの代わりに紹介する。
「それで加奈ちゃん、一体どうしたの?」
「え、ええ・・私が思いっきり扉を開けてこの人にぶつけちゃたの」
「それはいけないよ。私からも謝ります。この通りです」
芦田さんはペコリと頭を下げた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる