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予行演習
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◆
運動会の合同練習と予選が始まった。
合同練習は僕たち一組と二組、三組が体育の授業を同じ時間にして合同で練習する。
合同練習するのは団体で一つのテーマを元に表現するもので、組み体操をアレンジしたり、大勢の生徒で何かの形を作ったりする。
今年のテーマは「地球」だけど、同じ音楽を何度も聞きながら同じことを繰り返すので本当に面倒臭い。夢に出てきそうだ。
違うクラスの生徒たちを見ていると今までに同じクラスだった子が大勢いるのがわかる。
二組には「芦田堂」の娘、芦田さんやピアノを弾いていた石谷さんがいる。
他にも知っている女の子がいるなと思った時、僕の目が止まった。
長田さんと同じような髪型の女の子が二組に何人かいる。いや、三組にもいる。
僕たちのクラスの清田さんや八木さんのように長田さんの髪型を真似ている子が他のクラスにも大勢いたんだ。
それは当たり前のことだった。今まで僕が気づかなかっただけだ。
長田さんは四年生の終わり頃、この町に越してきて押し花を配っていたのだから、他のクラスでもらった子がいてもおかしくはない。
いじめが存在する可能性は僕たちのクラスだけではない。他のクラスにも可能性は十分にある。
長田さんはある種の女の子の憧れの対象だった、そして、女の子たちはそこから外れた子をいじめの対象にしてしまう。
でも、それを解決するのは副委員長の仕事ではない。
「はやく、村上くん、手っ!」
香山さんの声が聞こえた。香山さんが僕の方に手を差し出していた。
フォークダンスの練習になっていた。
クラス全員が二重の円になって男女で手を取り合ってダンスをする。円は回転するので、ダンスの相手が変わっていく。
女子の数が少なくて数合わせで男同士で踊っている生徒もいる。
それに比べると僕は幸せか、と思うと全然そんなことはない。
僕は音痴だ、だからダンスも苦手だ。
「村上くん、音楽と合ってないわよ」
香山さん、ごめんなさい。次は文哉くんだから、あいつは上手いはず・・と思っていたら、円は逆回転し始めた。
香山さんはまたさっき踊ったばかりの松下くんと当たった。
香山さん、またごめんなさい。松下くんも音痴です。
でも香山さんはいやな顔ひとつせず、二回目の松下くんとダンスをしている。
少し、イヤだった・・だって、松下くん、よく洟を手で拭っているからだ。
ちゃんと手を洗っているだろうな?
あの手で香山さんと手をつなぐのは男としてちょっと許せない。
そう思いながら僕は井口さんと手を取り合った。
「村上くん、この前は話を聞いてくれて、ありがとう」
あの時は僕が井口さんに押し花のことを質問したのにな、お礼を言われるとは。
「僕の方こそ、色々と訊いたりして」
そして、井口さんはこう言った。
「いるわね、他のクラスにも長田さんと同じ髪型の女の子」
僕は頷いた。
「いじめ、あるかもしれないわね」
井口さんは大人しい見かけの割には正義感が強そうだ。
長田さんは押し花を渡す相手をかなり正確に選んでいたのかもしれない。
「そうやな、うちのクラスにはなくても、他のクラスにあるかもしれん」
あれ、井口さん、怒ってる?
「村上くん、足が私と全然、合ってない!」
また言われた。もうフォークダンスはイヤだ!
あと二人で長田さんにダンスの順番があたると思っていたら、先生の合図で練習が終わった。
ホッとする一方、長田さんとダンスをしてみたかったような気がしたけど、また音楽と合ってない、とかいうきついセリフをあの長田さんに言われたりしたら、もう二度と立ち直れないような気がしたので、これでよかったと思った。
そして、100m走の予選が始まった。
そもそも、予選で勝ち残らないと運動会の本番に出ることができない。
叔母さんに一位をとることを見せることはおろか、出場できないという無様なことになってしまう。
スタートラインに立った。
「位置について、用意、ドン!」
男の先生の号令で一斉にスタートした。
足が地面を離れた。
以前と感覚が違う。体が軽く感じられた。
それまで遠かったゴールがすごく近くに見えた。
「村上くん、速いじゃない。やっぱりアンカーは村上くんよ」
一組の所に戻ると香山さんが第一声そう言った。
一応、予選は通過した。
「村上くん、走るの得意やったんやね」
小川さんまで嬉しそうに微笑んでいる。
なんだか、すごく照れる。照れながら空を仰ぎ見た。
よく澄み渡った秋の空がどこまでも続いていた。
地球が丸いというのを感じるくらいに。
生徒全員の上にこの青空がある。
僕は今、すごく幸せを感じているけれど、幸せでない人もきっといる。
みんな公平にこの綺麗な青空が与えられているはずなのに、生徒たちの中に差別が存在するかもしれない。
これはどうしようもないことなのだろうか?
もし差別やいじめがあったとして、僕にいったい何ができる?
運動会の合同練習と予選が始まった。
合同練習は僕たち一組と二組、三組が体育の授業を同じ時間にして合同で練習する。
合同練習するのは団体で一つのテーマを元に表現するもので、組み体操をアレンジしたり、大勢の生徒で何かの形を作ったりする。
今年のテーマは「地球」だけど、同じ音楽を何度も聞きながら同じことを繰り返すので本当に面倒臭い。夢に出てきそうだ。
違うクラスの生徒たちを見ていると今までに同じクラスだった子が大勢いるのがわかる。
二組には「芦田堂」の娘、芦田さんやピアノを弾いていた石谷さんがいる。
他にも知っている女の子がいるなと思った時、僕の目が止まった。
長田さんと同じような髪型の女の子が二組に何人かいる。いや、三組にもいる。
僕たちのクラスの清田さんや八木さんのように長田さんの髪型を真似ている子が他のクラスにも大勢いたんだ。
それは当たり前のことだった。今まで僕が気づかなかっただけだ。
長田さんは四年生の終わり頃、この町に越してきて押し花を配っていたのだから、他のクラスでもらった子がいてもおかしくはない。
いじめが存在する可能性は僕たちのクラスだけではない。他のクラスにも可能性は十分にある。
長田さんはある種の女の子の憧れの対象だった、そして、女の子たちはそこから外れた子をいじめの対象にしてしまう。
でも、それを解決するのは副委員長の仕事ではない。
「はやく、村上くん、手っ!」
香山さんの声が聞こえた。香山さんが僕の方に手を差し出していた。
フォークダンスの練習になっていた。
クラス全員が二重の円になって男女で手を取り合ってダンスをする。円は回転するので、ダンスの相手が変わっていく。
女子の数が少なくて数合わせで男同士で踊っている生徒もいる。
それに比べると僕は幸せか、と思うと全然そんなことはない。
僕は音痴だ、だからダンスも苦手だ。
「村上くん、音楽と合ってないわよ」
香山さん、ごめんなさい。次は文哉くんだから、あいつは上手いはず・・と思っていたら、円は逆回転し始めた。
香山さんはまたさっき踊ったばかりの松下くんと当たった。
香山さん、またごめんなさい。松下くんも音痴です。
でも香山さんはいやな顔ひとつせず、二回目の松下くんとダンスをしている。
少し、イヤだった・・だって、松下くん、よく洟を手で拭っているからだ。
ちゃんと手を洗っているだろうな?
あの手で香山さんと手をつなぐのは男としてちょっと許せない。
そう思いながら僕は井口さんと手を取り合った。
「村上くん、この前は話を聞いてくれて、ありがとう」
あの時は僕が井口さんに押し花のことを質問したのにな、お礼を言われるとは。
「僕の方こそ、色々と訊いたりして」
そして、井口さんはこう言った。
「いるわね、他のクラスにも長田さんと同じ髪型の女の子」
僕は頷いた。
「いじめ、あるかもしれないわね」
井口さんは大人しい見かけの割には正義感が強そうだ。
長田さんは押し花を渡す相手をかなり正確に選んでいたのかもしれない。
「そうやな、うちのクラスにはなくても、他のクラスにあるかもしれん」
あれ、井口さん、怒ってる?
「村上くん、足が私と全然、合ってない!」
また言われた。もうフォークダンスはイヤだ!
あと二人で長田さんにダンスの順番があたると思っていたら、先生の合図で練習が終わった。
ホッとする一方、長田さんとダンスをしてみたかったような気がしたけど、また音楽と合ってない、とかいうきついセリフをあの長田さんに言われたりしたら、もう二度と立ち直れないような気がしたので、これでよかったと思った。
そして、100m走の予選が始まった。
そもそも、予選で勝ち残らないと運動会の本番に出ることができない。
叔母さんに一位をとることを見せることはおろか、出場できないという無様なことになってしまう。
スタートラインに立った。
「位置について、用意、ドン!」
男の先生の号令で一斉にスタートした。
足が地面を離れた。
以前と感覚が違う。体が軽く感じられた。
それまで遠かったゴールがすごく近くに見えた。
「村上くん、速いじゃない。やっぱりアンカーは村上くんよ」
一組の所に戻ると香山さんが第一声そう言った。
一応、予選は通過した。
「村上くん、走るの得意やったんやね」
小川さんまで嬉しそうに微笑んでいる。
なんだか、すごく照れる。照れながら空を仰ぎ見た。
よく澄み渡った秋の空がどこまでも続いていた。
地球が丸いというのを感じるくらいに。
生徒全員の上にこの青空がある。
僕は今、すごく幸せを感じているけれど、幸せでない人もきっといる。
みんな公平にこの綺麗な青空が与えられているはずなのに、生徒たちの中に差別が存在するかもしれない。
これはどうしようもないことなのだろうか?
もし差別やいじめがあったとして、僕にいったい何ができる?
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