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教室での会話
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◆
「聞いて、村上くん!」
休み時間、教室の席でぼうっと座って考えごとをしていると、香山さんが寄ってきた。
「香山さん、どないしたんや?」
「今回の悠子の成績、前科目、テストの点、良かったの!」
香山さん、無茶苦茶、嬉しそうだ。小川さんって、前は成績悪かったのか?
「仁美ちゃん、そんな大きい声で言うたら恥ずかしい」
小川さんが駆け寄って来て香山さんを制しにきた。
僕も席のところに二人も女の子がいると恥ずかしい。
「別にいいじゃないの。村上くんだし」
村上くんだし、って、どういうことや?
「でも。そんなに特別ええことないし」
もじもじするって言うのは、こういうことを言うんだろう。
「前の成績より、全然いいわよ」
「そんなっ。仁美ちゃん、少し、上がったくらいよ」
一体、この二人はなんでここにおるんや?
「何で良くなったんや?」
僕にもしゃべらせてくれ!と言いたいくらい、二人は僕の前で勝手にしゃべっている。
「村上くん、うち、お母さんに勉強机を買ってもらってん」
勉強机なかったんか?僕の家では当たり前のことが小川さんの家では当たり前ではない。「悠子は、お母さんに高校に行かせて欲しいって言ったのよ」
僕たちは来年、小学六年生になる。その次は中学生だ。僕はまだその次の高校のことなんて考えてもみなかった。
けれど、目の前の二人は僕より、ずっと先の未来を見ている。
「そうそう。中学は隣にある中学に自動的に行けるけど、高校は成績が良くないと、行きたいところに行かれへんて、悠子と話しててね。それで悠子、お母さんとゆっくり話したんやって」
それで勉強机を・・勉強机がなかったら、勉強なんてろくろくできない。小川さんはこれまで勉強机なしで頑張ってきたのか。
「私、お勉強、頑張って、仁美ちゃんと同じ公立の高校に行くねん」
小川さんの前に新しい線路が引かれたようだった。
「村上くん、これ見て!」
小川さんは背中に隠していた本を僕に見せた。
「この参考書、お母さんが買ってくれてん」
算数の分厚い参考書だ。僕も似たようなのを持っている。
「お母さんの初月給で・・私が算数、苦手や、って言うたから」
小川さん、すごく嬉しそうだ。
「お母さん、働くようになったんか?」
「うん。隣町のスーパーで」
「隣町のスーパーって、新しくできたスーパーのことか?」
母が以前、隣町に出来たスーパーは長田さんの会社の系列や、って僕に話していたのを思い出した。
案の定、スーパーという言葉が聞こえたのか、前の方の席の長田さんがこちらを少し振り向いた。そんなに気にしている風でもなくすぐに顔を戻した。
「うん。お母さん、そこでレジのお仕事をしてんねん」
僕はこの夏にアパートで出会ったシュミーズ一枚の小川さんのお母さんの姿を思い出して、どうもスーパーのレジに立っている所を想像できないでいた。
長田さん系列のスーパーで働くようになったのは何か意味があるのだろうか?
香山さんに聞きたかったけれど、ここは教室なのであとで聞こう。
「小川さん、頑張って、そ、その、香山さんと同じ高校に行くんや」
「うん。村上くん、ありがとう」
小川さんは気持ちよく頷いた。
「村上くん、今、私のこと、香山さん、と言わずに、仁美ちゃん、って言おうとしたでしょ」
「そ、そんなことないって。香山さん、何、言うんや」
僕は慌てて否定する。図星だった。
「村上くん、その通りだって、顔に出てるわよ」
前に叔母さんにも僕が顔に出るタイプって言われたのを思い出した。
小川さんは香山さんと僕の顔を見比べて微笑んでいた。
二人が自分の席に戻ると修二が寄ってきて「村上、お前、最近、あの二人と仲ええんやな」と僕を冷やかした。
「別に仲ええわけちゃうって」
「別にどっちでもかまへんけど、この前、俺、聞かれたんや」
「何を?」少し、心臓がドキドキしはじめた。
「村上くんって、香山さんと小川さんと仲がいいの?って」
「修二、それ、誰にや?」
「長田さんや」
更に心臓がドンと胸を叩いた気がした。
「聞いて、村上くん!」
休み時間、教室の席でぼうっと座って考えごとをしていると、香山さんが寄ってきた。
「香山さん、どないしたんや?」
「今回の悠子の成績、前科目、テストの点、良かったの!」
香山さん、無茶苦茶、嬉しそうだ。小川さんって、前は成績悪かったのか?
「仁美ちゃん、そんな大きい声で言うたら恥ずかしい」
小川さんが駆け寄って来て香山さんを制しにきた。
僕も席のところに二人も女の子がいると恥ずかしい。
「別にいいじゃないの。村上くんだし」
村上くんだし、って、どういうことや?
「でも。そんなに特別ええことないし」
もじもじするって言うのは、こういうことを言うんだろう。
「前の成績より、全然いいわよ」
「そんなっ。仁美ちゃん、少し、上がったくらいよ」
一体、この二人はなんでここにおるんや?
「何で良くなったんや?」
僕にもしゃべらせてくれ!と言いたいくらい、二人は僕の前で勝手にしゃべっている。
「村上くん、うち、お母さんに勉強机を買ってもらってん」
勉強机なかったんか?僕の家では当たり前のことが小川さんの家では当たり前ではない。「悠子は、お母さんに高校に行かせて欲しいって言ったのよ」
僕たちは来年、小学六年生になる。その次は中学生だ。僕はまだその次の高校のことなんて考えてもみなかった。
けれど、目の前の二人は僕より、ずっと先の未来を見ている。
「そうそう。中学は隣にある中学に自動的に行けるけど、高校は成績が良くないと、行きたいところに行かれへんて、悠子と話しててね。それで悠子、お母さんとゆっくり話したんやって」
それで勉強机を・・勉強机がなかったら、勉強なんてろくろくできない。小川さんはこれまで勉強机なしで頑張ってきたのか。
「私、お勉強、頑張って、仁美ちゃんと同じ公立の高校に行くねん」
小川さんの前に新しい線路が引かれたようだった。
「村上くん、これ見て!」
小川さんは背中に隠していた本を僕に見せた。
「この参考書、お母さんが買ってくれてん」
算数の分厚い参考書だ。僕も似たようなのを持っている。
「お母さんの初月給で・・私が算数、苦手や、って言うたから」
小川さん、すごく嬉しそうだ。
「お母さん、働くようになったんか?」
「うん。隣町のスーパーで」
「隣町のスーパーって、新しくできたスーパーのことか?」
母が以前、隣町に出来たスーパーは長田さんの会社の系列や、って僕に話していたのを思い出した。
案の定、スーパーという言葉が聞こえたのか、前の方の席の長田さんがこちらを少し振り向いた。そんなに気にしている風でもなくすぐに顔を戻した。
「うん。お母さん、そこでレジのお仕事をしてんねん」
僕はこの夏にアパートで出会ったシュミーズ一枚の小川さんのお母さんの姿を思い出して、どうもスーパーのレジに立っている所を想像できないでいた。
長田さん系列のスーパーで働くようになったのは何か意味があるのだろうか?
香山さんに聞きたかったけれど、ここは教室なのであとで聞こう。
「小川さん、頑張って、そ、その、香山さんと同じ高校に行くんや」
「うん。村上くん、ありがとう」
小川さんは気持ちよく頷いた。
「村上くん、今、私のこと、香山さん、と言わずに、仁美ちゃん、って言おうとしたでしょ」
「そ、そんなことないって。香山さん、何、言うんや」
僕は慌てて否定する。図星だった。
「村上くん、その通りだって、顔に出てるわよ」
前に叔母さんにも僕が顔に出るタイプって言われたのを思い出した。
小川さんは香山さんと僕の顔を見比べて微笑んでいた。
二人が自分の席に戻ると修二が寄ってきて「村上、お前、最近、あの二人と仲ええんやな」と僕を冷やかした。
「別に仲ええわけちゃうって」
「別にどっちでもかまへんけど、この前、俺、聞かれたんや」
「何を?」少し、心臓がドキドキしはじめた。
「村上くんって、香山さんと小川さんと仲がいいの?って」
「修二、それ、誰にや?」
「長田さんや」
更に心臓がドンと胸を叩いた気がした。
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