63 / 133
それぞれの能力②
しおりを挟む
仰向けに倒れ込んだ中年男を見ると、男が気絶しているように見えた。口からダラリと「あれ」がはみ出ている。
更に観察するよう見てみると、「あれ」は再び、男の体内に戻ろうとしているように見えた。
いつのまにか、僕の傍に来た神城が、「屑木くん・・あれが、そうなの?」と言った。「あれが奈々の中にも入っているの?」
「そうだ」と僕は応えた。
その時、僕はあることを考えていた。
取り敢えず、「あれ」に触れても何もなかった。それに「あれ」の小型版は、体内に入らないと血を吸うことはできない。比較的無力なのかもしれない。
だったら、やってみる価値のあることがある。
僕は気を失っているかのような男の元に駆け寄った。
そして、再び、「あれ」を手で掴み、引っ張った。
「あれ」が男の体内に戻る前に、こいつを引き摺りだすんだ!
だが、何てやり難い・・小さな手のようなもので、出ることを拒んでいる。
その様子を見ていた君島さんが、
「また、手が汚れますわ」と言って加勢した。
僕たち吸血鬼二人の力だ・・それは男の口の中からズボッと抜けた。抜け落ちたそれは床の上でブルンブルンと動いている。だが、襲いかかってくるような感じではない。
宿主の人間からの栄養供給がなければ、そのパワーを維持できないのだろうか?
「ギ・ギ・ギ」と断末魔のような声を上げ、その動きが小さくなっていく。同時に縮んでいくようだ。
「おい、君たち、何なんだ? これは?」
このファミレスの店長らしき男が言った。遅い出番だ。これまで奥に逃げていたんじゃないのか?
僕は「僕にもわかりません」と答えた。曖昧な情報を見知らぬ人間に伝えるわけにもいかない。
ほとぼりが冷めたのを見計らって、数人の客が「あれ」の様子を伺いに来た。
「こんなの見たことがないぞ!」
「これって・・ナメクジの巨大なやつか?」
「そうじゃないよ。小さな手みたいなものがある」
客たちがそう言い始めた時には、それの動きは停止していた。停止した上に、ヌメリ感が失われ・・所々が、ひび割れているようだった。放置しておくと崩れ去ってしまう・・そんな風にも見えた。やはり、「あれ」の小型版は宿主がないと生きていけないのか。
あの屋敷の中に蠢いていた巨大なものや、楽器ケースの中から出てきた中型サイズのものは自立しているように思えた。
「あれ」は何であるのか? そして何をしたいのか? 人間の中に入り込み、何をしようと考えているんだ?
そもそも、「あれ」を口の中から出すことのできる伊澄瑠璃子は何者なんだ?
そして、僕はこう考えを続けた。
・・「あれ」は人間になろうとしているのではないだろうか?
なぜ、そう思うのか? それは保健医の言葉だ。
「『あれ』は・・伊澄さんが、懸命に守ろうとしているものよ」
吉田女医が言ったのが、「物」なのか、「者」なのかは不明だが、やはり、僕にはそれが「者」・・つまり人間としか思えなかった。
伊澄瑠璃子は、人間である誰かを守ろうとしている・・
そこまで考えが及んだ時、
「おい、これ、どうするんだよ?」と客の誰かが言った。
「こんなの見たことがない」
「こういう時は、保健所だろ」
「警察か? こんな時は警察じゃないのか?・・一応、事件だ」
そんな声より大きな声が響いた。
「それより、誰か救急車を!」
店長が倒れているウェイトレスと中年男を見ながら言った。
名札に「美里」と書かれている年配のウェイトレスが、僕や君島さんのような吸血鬼になることは間違いない。
問題なのは・・僕が知りたいのは、体内から「あれ」が無くなった後、その人間がどうなるのか?
それが知りたい・・
もしかすると、佐々木や松村を救えるのではないか・・そう思った。
だが、そんな期待を無に帰すように、誰かが、
「この男・・もう死んでいる」と言った。
仰向けの中年男を見ると、口元から黒い液体を出し、その目は見開かれたまま閉じなかった。
・・いったん、体内に「あれ」が入った人間は、もう元の体に戻ることはないのか?
しかし、まだ希望はある。
松村は屋敷でこう言っていた。
「俺と佐々木は・・まだ人間だ。体に血が流れている」
今は、松村の言葉を信じるしかない。
そして、目の前に横たわっている男は、あの屋敷の大学生カップルと同じように、既に体の中に血は無い、と思われる。
男は、「あれ」を入れている「容器」に過ぎなかった。
更に観察するよう見てみると、「あれ」は再び、男の体内に戻ろうとしているように見えた。
いつのまにか、僕の傍に来た神城が、「屑木くん・・あれが、そうなの?」と言った。「あれが奈々の中にも入っているの?」
「そうだ」と僕は応えた。
その時、僕はあることを考えていた。
取り敢えず、「あれ」に触れても何もなかった。それに「あれ」の小型版は、体内に入らないと血を吸うことはできない。比較的無力なのかもしれない。
だったら、やってみる価値のあることがある。
僕は気を失っているかのような男の元に駆け寄った。
そして、再び、「あれ」を手で掴み、引っ張った。
「あれ」が男の体内に戻る前に、こいつを引き摺りだすんだ!
だが、何てやり難い・・小さな手のようなもので、出ることを拒んでいる。
その様子を見ていた君島さんが、
「また、手が汚れますわ」と言って加勢した。
僕たち吸血鬼二人の力だ・・それは男の口の中からズボッと抜けた。抜け落ちたそれは床の上でブルンブルンと動いている。だが、襲いかかってくるような感じではない。
宿主の人間からの栄養供給がなければ、そのパワーを維持できないのだろうか?
「ギ・ギ・ギ」と断末魔のような声を上げ、その動きが小さくなっていく。同時に縮んでいくようだ。
「おい、君たち、何なんだ? これは?」
このファミレスの店長らしき男が言った。遅い出番だ。これまで奥に逃げていたんじゃないのか?
僕は「僕にもわかりません」と答えた。曖昧な情報を見知らぬ人間に伝えるわけにもいかない。
ほとぼりが冷めたのを見計らって、数人の客が「あれ」の様子を伺いに来た。
「こんなの見たことがないぞ!」
「これって・・ナメクジの巨大なやつか?」
「そうじゃないよ。小さな手みたいなものがある」
客たちがそう言い始めた時には、それの動きは停止していた。停止した上に、ヌメリ感が失われ・・所々が、ひび割れているようだった。放置しておくと崩れ去ってしまう・・そんな風にも見えた。やはり、「あれ」の小型版は宿主がないと生きていけないのか。
あの屋敷の中に蠢いていた巨大なものや、楽器ケースの中から出てきた中型サイズのものは自立しているように思えた。
「あれ」は何であるのか? そして何をしたいのか? 人間の中に入り込み、何をしようと考えているんだ?
そもそも、「あれ」を口の中から出すことのできる伊澄瑠璃子は何者なんだ?
そして、僕はこう考えを続けた。
・・「あれ」は人間になろうとしているのではないだろうか?
なぜ、そう思うのか? それは保健医の言葉だ。
「『あれ』は・・伊澄さんが、懸命に守ろうとしているものよ」
吉田女医が言ったのが、「物」なのか、「者」なのかは不明だが、やはり、僕にはそれが「者」・・つまり人間としか思えなかった。
伊澄瑠璃子は、人間である誰かを守ろうとしている・・
そこまで考えが及んだ時、
「おい、これ、どうするんだよ?」と客の誰かが言った。
「こんなの見たことがない」
「こういう時は、保健所だろ」
「警察か? こんな時は警察じゃないのか?・・一応、事件だ」
そんな声より大きな声が響いた。
「それより、誰か救急車を!」
店長が倒れているウェイトレスと中年男を見ながら言った。
名札に「美里」と書かれている年配のウェイトレスが、僕や君島さんのような吸血鬼になることは間違いない。
問題なのは・・僕が知りたいのは、体内から「あれ」が無くなった後、その人間がどうなるのか?
それが知りたい・・
もしかすると、佐々木や松村を救えるのではないか・・そう思った。
だが、そんな期待を無に帰すように、誰かが、
「この男・・もう死んでいる」と言った。
仰向けの中年男を見ると、口元から黒い液体を出し、その目は見開かれたまま閉じなかった。
・・いったん、体内に「あれ」が入った人間は、もう元の体に戻ることはないのか?
しかし、まだ希望はある。
松村は屋敷でこう言っていた。
「俺と佐々木は・・まだ人間だ。体に血が流れている」
今は、松村の言葉を信じるしかない。
そして、目の前に横たわっている男は、あの屋敷の大学生カップルと同じように、既に体の中に血は無い、と思われる。
男は、「あれ」を入れている「容器」に過ぎなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/18:『いるみねーしょん』の章を追加。2025/12/25の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/17:『まく』の章を追加。2025/12/24の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/16:『よってくる』の章を追加。2025/12/23の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/15:『ちいさなむし』の章を追加。2025/12/22の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/14:『さむいしゃわー』の章を追加。2025/12/21の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/13:『ものおと』の章を追加。2025/12/20の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/12:『つえ』の章を追加。2025/12/19の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
高校生なのに娘ができちゃった!?
まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!?
そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる