血を吸うかぐや姫

小原ききょう(TOブックス大賞受賞)

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伊澄瑠璃子しかいない①

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◆伊澄瑠璃子しかいない

 誰かが呼んだ警察や救急車でファミレスはごった返し、僕らがいる隙はなくなった。
 何とか会計を済ませると、このまま帰宅する気のない三人は別の喫茶店に場所を移した。
 席はさっきと同じ・・向かいの席に神城。僕の横に君島律子。君島さんはもう僕の彼女的な存在だな・・望んでそうなったわけではないが。

 そして、少し落ち着きを取り戻すと、
 まず神城が、
「君島さん・・ちょっと私、あなたを見直したわ」と言った。「君島さんは、みんなにちやほやされているお嬢さ ま・・そう思っていたわ。意外と度胸があるのね」
 いや、それは神城の思い過ごしだ。
 君島律子は、僕に血を吸われたことによって、運動神経が向上したのに過ぎない。
 対して、君島さんは、
「あら、私は屑木くんのためにしただけですわ」と憎まれ口を返した。
 君島さんが僕の為にしてくれたことは有難いが、神城とは仲良くして欲しいものだ。

「それで・・屑木くん」と神城は話を切り出した。
「さっきの屑木くんの話・・そして、ファミレスでのこと・・」神城は一息ついて、「もう無茶苦茶ね」と言った。
 僕は「確かに」と頷いた。本当だったら、体が疲れるところだ。しかし、度重なる緊張のせいか、疲れは感じられない。体が吸血鬼化しているせいだろうか。

 君島さんがコーヒーを一口飲むと、「さっきもそうでしたけど、コーヒーの味がしませんわ」と言った。
「・・そうなるんだよ」
 僕もそうだった。嗜好品の味が体に伝わらなくなった。
 君島さんの場合は僕が血を吸ったせいだから、彼女には申し訳ない気もした。
 しかし、あの時の状況は致し方なかった。どうしようもなく僕は君島さんの喉元に歯を当てた。
 そんな君島さんに僕は、
「食べ物より・・血が恋しくなる」と言った。
 そう言った僕に、
「かまいませんわ・・そうなったら、また屑木くんに血を吸わさせてもらいますわ」と答えた。なぜか君島さんは、この状況を楽しんでるようにも見えた。
 
 神城はそんな君島さんを見て呆れ果て「もう知らないわ」と顔をぷいと背けた。
 神城にも悪いことをしている。僕は神城の大親友の佐々木奈々を守れなかった。

 けれど、何とかしたい・・そんな気持ちが僕の中に強くある。
 佐々木奈々はもちろんのこと、松村も救いたい。

 そう思うのと同時に、神城が、
「あの二人・・奈々と松村くん・・あのままにしておいたら、さっきの、ファミレスの男みたいになるんじゃないの?」と言った。
「そう思う」僕は小さく答えた。
 僕の言葉を聞いて神城は力が抜けたように、「はあっ」と息を吐いた。
 そして、「奈々とはね・・中学の時から友達なのよ。よく遊んだし、悩み事も打ち明け合ったりしたわ」と言った。
 それは二人の仲をみていればわかる。だから、何とかしたい。
「そんな奈々が・・いずれ、ああなるって言うの?」
 神城の嘆きに、どう答えていいのかわからない。

 すると君島さんが、
「ねえ、屑木くん」としなだれかかるようにして、
「さっきみたいに、体の中の変なものを取り出したらいいんじゃなくって?」と言った。
 僕が言おうとしていたことだ。
 神城は「君島さん。簡単に言うけど、どうやってあんなものを出すのよ!」と大きく言った。かなり感情の入った声だ。佐々木を心配する心、君島律子に対する焼き餅?
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