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パワーショベル
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◆パワーショベル
あの時の事が鮮明に思い出されたが、思い出せば思い出すほど、あの時の自分が怖くなってくる。
あの時の自分と、あの時の見知らぬ女の声が怖い。
花田課長は「白井くんも一緒に工場長にお願いに行こう」と私の背中を押すように言った。私は頷き、一緒に工場に向かった。
その時の私は、重機を運転できるのなら何でもする。それくらいの勢いだった。
もちろん、その目的は課長に正義の鉄槌を下すためだ。
ああ、あの時の心情、光景が次々と浮かんでくる。
私の膨らむ義憤は、あの声に操作されていたのだ。
工場長は、敷地内の詰め所にいた。
「白井くんは免許を持っているそうだ」
課長はそう切り出したが、
「えっ、あのショベルは、今、メーカーに修理を依頼しているところなんですよ。乗るなんて、とんでもない」
工場長は強く断った。
「別にかまわんじゃないか。ちょっと試運転みたいなのをするだけだ。深く考えることはない」
課長はそう言っているが、何かあった時に責任を取らされるのは工場長だ。
それに周りの工員たちも話を聞いている。聞いているが何も言えない。
私の心は異常に高ぶっていた。周囲の視線を浴びることにより、更に拍車がかかった。
課長は、「何かあったら、わしが責任をとるよ」と出まかせを言った。そんな気がある訳がない。何かあったら工場のせいにするに決まっている。
課長が責任を取っても取らなくても、その時の私はパワーショベルに乗ることしか考えていなかった。他の重機ではダメなのだ。
すると、あれほど渋っていた工場長の顔がビクンと痙攣したかのようになり、「分かりました。乗ってもいいですよ」と言った。
まるで誰かに脅されて言ったみたいだった。
真面目な工場長の心を動かしたのは、あの女の声のような気がした。
その声は誰にも聞こえないし、その姿も誰にも見えない。
工場長は、私の顔を見て「ちょっとだけですよ」と言った。
課長は、工場長の了承を取り付けると、「さあ、白井くん、乗りたまえ」と得意げに言った。
そして、「わしも一緒に乗りたいところだが、下で見ていることにするよ」とイヤらしい笑みを湛えて言った。
当たり前だ。課長にはできるだけ重機の近くで私を見てもらわなければならない。
花田課長は私の腰から足を舐め回すように見た後、
「あのパワーショベルの操縦席なら、白井くんの綺麗な足がよ~く見えるから、わしは下で鑑賞に徹することにするよ」と言った。
目つきが例えようもなくイヤらしい。
確かに操縦席はスケルトンになっていて、下からでも操縦する人間が良く見える。特に下からだと、課長の言う私の足がよく見えるに違いない。
だが普通の男はそんなことは言わないし見ない。
私は思っていた。
セクハラは、女が黙っていると、どんどんつけ上がってくる。相手の反応を見ながら楽しんでいるのだ。大人しくしていれば、更に酷いこと、イヤらしいことを言ってくる。
私は何も答えず、冷たい視線を送った。
せいぜい言うがいいわ。それがあなたの最期のセクハラ発言にしてあげるわ。
「課長、ヘルメットを被ってください」工場長が言った。
私は被っているが、課長は人の言うことを聞かない人間だ。
「そんなものいるか!」課長は本社の人間であるにも関わらず、吐き捨てるように言った。
ああ、やはりそうでなくてはいけない。ヘルメットを被っていたのでは、効果は半減だ。
あの時の私はそう考えていた。まるで誰かに唆されるように。
私は操縦席に上がると、前に運転したのを思い出しレバーを握りエンジンをかけた。始動すると、想像以上のエンジン音が耳をつんざいた。
ずいぶん前に講習を受けた切りなので、あやふやな操縦だったが、これで作業をするわけではない。目的を遂行すればいいだけのことだ。
「・・そうそう、そんな感じよ」
またあの時の女の声が聞こえた。
これは誰かの亡霊だろうか?
私と同じようなセクハラに遭った人の霊が、私を後押ししてくれている。そんな気がした。
下で花田課長がニヤニヤしながら私を見ているのが見えた。
バカみたいだ。
私は課長に侮蔑の眼差しを向けた。
私は操縦席から「課長、見ていてくださいね」と大きな声で言った。
「ああ、分かっとる。じっくり見ているよ」
課長の「見る」というのは、ショベルの動作ではなく私の体だ。
それを分かっていて私は言った。
「課長、ショベルの近くにいてくださいよ」
私の言葉に課長は「わかった、わかった」と繰り返し言った。
課長はこう思っている。「自分は死ぬことはない」と。
「あんなスケベ親父、私が潰してあげるわ!」
どうしてそんな言葉が出たのか。私は普段使ったことのない言葉で罵った。
その時、また背中がゾゾッとして、冷気が身を包んだ。
同時に、
「ああっ!」思わず声を上げた。
無理もない。重機のハンドルレバーを握る私の指が、異様に長くなっているのだ。
「な、何、これ?」
目の錯覚か、それとも絶え間なくされるセクハラで頭がおかしくなってしまったのだろうか。
更に驚いたことに、手が勝手に・・自分の意思とは関係なく動き出した。
おまけに長い髪がハラハラと前に落ちてきて、レバーを握る両手にまとわりつき出した。普通であれば、鬱陶しい髪のはずだが、そうは思わなかった。むしろ、髪が手の動きを支えているように思えた。
私の意思もちゃんとある。手に感覚があるのが分かる。
つまり、私の意思と、別の誰か・・おそらくあの声の主であろう人とが連動している。そんな感覚だ。
別の意思は、長くなった指やそれに絡みつく髪に宿っている。
だが私と目的が同じなら、別に構わないわ。
講習で習った時よりも、ショベルのアームが自在に動いた。面白いほど私の思い通りに動く。まるで私の指先のようだ。
修理に出す予定と聞いていたが、全くそんな感じは無かった。
数名の工員たちが私を見ているのが見て取れた。
真下にいる花田課長が「すごいじゃないか」と称賛の声を上げている。
工員の一人が「花田課長、そこに居たら危ないですよ!」と注意喚起したが、
「黙れっ!」と返して、その場を動こうとしない。少しでも私の足を見たいのだろう。
工員たちの真面目な顔と課長のニヤニヤ顔が対照的だ。
私は課長を脅かすため、ショベルのアームを上下、そして左右にと振った。
アームの先はコンクリでも破壊するパワーがある。
操縦の動作が大きくなると、タイトスカートがずり上がっていくのも気にしなくなった。
ある種の人間にはそれはエサとなるのかもしれない。
その証拠に、課長をこの場から離れさそうとする工場長の腕を「うるさい!」と振り払って食い付くように私を見上げた。
私は人の心を読むことはできないけれど、課長がこう言っているように見えた。
「おお、白井くんのスカートがずり上がって、ムチムチの白い太腿が丸見えだ」
いや、見えるだけではなかった。
課長の声が間近に聞こえる。
誰かが私に聞かせているのだろうか。場所が離れているにも関わらず、課長のイヤらしい呟きが次々に耳に入ってきた。
「もうたまらなくなってきたぞ・・今夜は白井くんを無理にでも晩飯に連れて行こう。中谷の奴は、何とか理由をつけて帰ってもらうことにする。こんなチャンスは滅多にない。今夜こそ、この女を抱いてやる。飯の次は、行きつけの飲み屋だ。その後は、これも行きつけのスナックだ。あそこのママに言えば、白井くんを酩酊状態にさせて、二階の部屋を用意してくれるはずだ。前の女子社員にもしたから、もう慣れたものだ。その後は互いに合意であったと証拠を作れば何とかなる」
何なの、この声!
課長の心の声が丸聞こえだわ。
やっぱり、前に工場視察に課長に同行した女性社員は、課長に無理やりに何かされたんだわ。
気のせいなんかじゃない。
まるで、あの女の人の声が、私に聞かせているように思った。そうでないと説明がつかない。私にはこんな能力はない。
けれど、心に聞こえる女にはその能力がある。そうとしか考えられない。
「みんなは、わしのことをセクハラ親父とか、セクハラ上司だと言うが、昔はこれが当たり前だったんだ。今は地方に飛ばされたわしの上司も女性社員を何人も手を付けていた。上司もそれを励行していた。『君も出世すれば、若い女性社員をやりたい放題だ』そう言っていた。だから、わしは信じていた。それがどうだ。時代が変わると、セクハラとか、勝手に言葉を作りやがって。それこそハラスメントだ!」
ああっ、気持ち悪い! 課長はこんな考え方で生きているの? 社会人として無茶苦茶だわ。
聞きたくなくても勝手にどんどん声が入ってくる。
「おまけに、娘も年頃になると、わしのことを気持ち悪いとか言いやがって、昔は可愛かったのに、今は小遣いをせびるだけのガキだ。その金で不良グループとつき合っているみたいだ。子供でもできたらどうするつもりだ。それもこれも女房のせいだ。ちゃんと教育してこなかったからだ。何もかも女房が悪い。稼ぎが悪いとか抜かしやがるが、あいつこそ、女の色気が全く無くなってしまった。あれじゃまるで枯れた大木のようだ。あんな女、親父が金持ちじゃなければ、とっくの昔に別れているところだ」
課長の声はそこまで言うと、
「そうだ。いいことを思いついた。女房を殺してしまえばいいんだ。そうすれば、大手を振って、好きな女を遊べるぞ。それがいい」
課長の声はそこまで言うと、パワーショベルのアームの先端を見上げ、
「このパーショベルで、女房の頭をかち割ったら、どれだけか気持ちいいだろうなあ」と言った。
その顔は不気味に歪んでいた。
それはもはやセクハラを超えた男の醜い顔だ。
「よし、決めたぞ。今夜、白井くんをものにして、女房を亡き者にしてやるぞ。ああ、考え出したら、興奮してきたぞ。まずは白井さゆりという女をこの手に入れることだ。わしから離れなくしてやる!」
課長の声を聞いた瞬間、
「こんな男、本当に死ねばいいんだわ!」
本気でそう思った。生きている価値のない人間だと確信した。この男を放っておけば、その妻まで殺されてしまう。
すると、また女の声が聞こえた。
「本当にそうね。あんな男、いなくなればいいのにね」
そして女の声は、
「あの男のアイデアの通り、このパワーショベルのアームで頭をかち割ってあげましょうね」と言って笑った。
その次の瞬間、
異変は起こった。エンジン音が獣が吠えるよう異音を出した。まるでこの重機自体が誰かの意思を持っているかのようだった。
重機のアームが異様な動きを始めた。
ああっ、操縦が出来ない!
パニックが襲った。
だが、私の手は何事も起きていないかのように、器用に操作をしている。
まるで私の潜在意識と誰かの意思がこのパワーショベルを動かしているみたいだ。
あの時の事が鮮明に思い出されたが、思い出せば思い出すほど、あの時の自分が怖くなってくる。
あの時の自分と、あの時の見知らぬ女の声が怖い。
花田課長は「白井くんも一緒に工場長にお願いに行こう」と私の背中を押すように言った。私は頷き、一緒に工場に向かった。
その時の私は、重機を運転できるのなら何でもする。それくらいの勢いだった。
もちろん、その目的は課長に正義の鉄槌を下すためだ。
ああ、あの時の心情、光景が次々と浮かんでくる。
私の膨らむ義憤は、あの声に操作されていたのだ。
工場長は、敷地内の詰め所にいた。
「白井くんは免許を持っているそうだ」
課長はそう切り出したが、
「えっ、あのショベルは、今、メーカーに修理を依頼しているところなんですよ。乗るなんて、とんでもない」
工場長は強く断った。
「別にかまわんじゃないか。ちょっと試運転みたいなのをするだけだ。深く考えることはない」
課長はそう言っているが、何かあった時に責任を取らされるのは工場長だ。
それに周りの工員たちも話を聞いている。聞いているが何も言えない。
私の心は異常に高ぶっていた。周囲の視線を浴びることにより、更に拍車がかかった。
課長は、「何かあったら、わしが責任をとるよ」と出まかせを言った。そんな気がある訳がない。何かあったら工場のせいにするに決まっている。
課長が責任を取っても取らなくても、その時の私はパワーショベルに乗ることしか考えていなかった。他の重機ではダメなのだ。
すると、あれほど渋っていた工場長の顔がビクンと痙攣したかのようになり、「分かりました。乗ってもいいですよ」と言った。
まるで誰かに脅されて言ったみたいだった。
真面目な工場長の心を動かしたのは、あの女の声のような気がした。
その声は誰にも聞こえないし、その姿も誰にも見えない。
工場長は、私の顔を見て「ちょっとだけですよ」と言った。
課長は、工場長の了承を取り付けると、「さあ、白井くん、乗りたまえ」と得意げに言った。
そして、「わしも一緒に乗りたいところだが、下で見ていることにするよ」とイヤらしい笑みを湛えて言った。
当たり前だ。課長にはできるだけ重機の近くで私を見てもらわなければならない。
花田課長は私の腰から足を舐め回すように見た後、
「あのパワーショベルの操縦席なら、白井くんの綺麗な足がよ~く見えるから、わしは下で鑑賞に徹することにするよ」と言った。
目つきが例えようもなくイヤらしい。
確かに操縦席はスケルトンになっていて、下からでも操縦する人間が良く見える。特に下からだと、課長の言う私の足がよく見えるに違いない。
だが普通の男はそんなことは言わないし見ない。
私は思っていた。
セクハラは、女が黙っていると、どんどんつけ上がってくる。相手の反応を見ながら楽しんでいるのだ。大人しくしていれば、更に酷いこと、イヤらしいことを言ってくる。
私は何も答えず、冷たい視線を送った。
せいぜい言うがいいわ。それがあなたの最期のセクハラ発言にしてあげるわ。
「課長、ヘルメットを被ってください」工場長が言った。
私は被っているが、課長は人の言うことを聞かない人間だ。
「そんなものいるか!」課長は本社の人間であるにも関わらず、吐き捨てるように言った。
ああ、やはりそうでなくてはいけない。ヘルメットを被っていたのでは、効果は半減だ。
あの時の私はそう考えていた。まるで誰かに唆されるように。
私は操縦席に上がると、前に運転したのを思い出しレバーを握りエンジンをかけた。始動すると、想像以上のエンジン音が耳をつんざいた。
ずいぶん前に講習を受けた切りなので、あやふやな操縦だったが、これで作業をするわけではない。目的を遂行すればいいだけのことだ。
「・・そうそう、そんな感じよ」
またあの時の女の声が聞こえた。
これは誰かの亡霊だろうか?
私と同じようなセクハラに遭った人の霊が、私を後押ししてくれている。そんな気がした。
下で花田課長がニヤニヤしながら私を見ているのが見えた。
バカみたいだ。
私は課長に侮蔑の眼差しを向けた。
私は操縦席から「課長、見ていてくださいね」と大きな声で言った。
「ああ、分かっとる。じっくり見ているよ」
課長の「見る」というのは、ショベルの動作ではなく私の体だ。
それを分かっていて私は言った。
「課長、ショベルの近くにいてくださいよ」
私の言葉に課長は「わかった、わかった」と繰り返し言った。
課長はこう思っている。「自分は死ぬことはない」と。
「あんなスケベ親父、私が潰してあげるわ!」
どうしてそんな言葉が出たのか。私は普段使ったことのない言葉で罵った。
その時、また背中がゾゾッとして、冷気が身を包んだ。
同時に、
「ああっ!」思わず声を上げた。
無理もない。重機のハンドルレバーを握る私の指が、異様に長くなっているのだ。
「な、何、これ?」
目の錯覚か、それとも絶え間なくされるセクハラで頭がおかしくなってしまったのだろうか。
更に驚いたことに、手が勝手に・・自分の意思とは関係なく動き出した。
おまけに長い髪がハラハラと前に落ちてきて、レバーを握る両手にまとわりつき出した。普通であれば、鬱陶しい髪のはずだが、そうは思わなかった。むしろ、髪が手の動きを支えているように思えた。
私の意思もちゃんとある。手に感覚があるのが分かる。
つまり、私の意思と、別の誰か・・おそらくあの声の主であろう人とが連動している。そんな感覚だ。
別の意思は、長くなった指やそれに絡みつく髪に宿っている。
だが私と目的が同じなら、別に構わないわ。
講習で習った時よりも、ショベルのアームが自在に動いた。面白いほど私の思い通りに動く。まるで私の指先のようだ。
修理に出す予定と聞いていたが、全くそんな感じは無かった。
数名の工員たちが私を見ているのが見て取れた。
真下にいる花田課長が「すごいじゃないか」と称賛の声を上げている。
工員の一人が「花田課長、そこに居たら危ないですよ!」と注意喚起したが、
「黙れっ!」と返して、その場を動こうとしない。少しでも私の足を見たいのだろう。
工員たちの真面目な顔と課長のニヤニヤ顔が対照的だ。
私は課長を脅かすため、ショベルのアームを上下、そして左右にと振った。
アームの先はコンクリでも破壊するパワーがある。
操縦の動作が大きくなると、タイトスカートがずり上がっていくのも気にしなくなった。
ある種の人間にはそれはエサとなるのかもしれない。
その証拠に、課長をこの場から離れさそうとする工場長の腕を「うるさい!」と振り払って食い付くように私を見上げた。
私は人の心を読むことはできないけれど、課長がこう言っているように見えた。
「おお、白井くんのスカートがずり上がって、ムチムチの白い太腿が丸見えだ」
いや、見えるだけではなかった。
課長の声が間近に聞こえる。
誰かが私に聞かせているのだろうか。場所が離れているにも関わらず、課長のイヤらしい呟きが次々に耳に入ってきた。
「もうたまらなくなってきたぞ・・今夜は白井くんを無理にでも晩飯に連れて行こう。中谷の奴は、何とか理由をつけて帰ってもらうことにする。こんなチャンスは滅多にない。今夜こそ、この女を抱いてやる。飯の次は、行きつけの飲み屋だ。その後は、これも行きつけのスナックだ。あそこのママに言えば、白井くんを酩酊状態にさせて、二階の部屋を用意してくれるはずだ。前の女子社員にもしたから、もう慣れたものだ。その後は互いに合意であったと証拠を作れば何とかなる」
何なの、この声!
課長の心の声が丸聞こえだわ。
やっぱり、前に工場視察に課長に同行した女性社員は、課長に無理やりに何かされたんだわ。
気のせいなんかじゃない。
まるで、あの女の人の声が、私に聞かせているように思った。そうでないと説明がつかない。私にはこんな能力はない。
けれど、心に聞こえる女にはその能力がある。そうとしか考えられない。
「みんなは、わしのことをセクハラ親父とか、セクハラ上司だと言うが、昔はこれが当たり前だったんだ。今は地方に飛ばされたわしの上司も女性社員を何人も手を付けていた。上司もそれを励行していた。『君も出世すれば、若い女性社員をやりたい放題だ』そう言っていた。だから、わしは信じていた。それがどうだ。時代が変わると、セクハラとか、勝手に言葉を作りやがって。それこそハラスメントだ!」
ああっ、気持ち悪い! 課長はこんな考え方で生きているの? 社会人として無茶苦茶だわ。
聞きたくなくても勝手にどんどん声が入ってくる。
「おまけに、娘も年頃になると、わしのことを気持ち悪いとか言いやがって、昔は可愛かったのに、今は小遣いをせびるだけのガキだ。その金で不良グループとつき合っているみたいだ。子供でもできたらどうするつもりだ。それもこれも女房のせいだ。ちゃんと教育してこなかったからだ。何もかも女房が悪い。稼ぎが悪いとか抜かしやがるが、あいつこそ、女の色気が全く無くなってしまった。あれじゃまるで枯れた大木のようだ。あんな女、親父が金持ちじゃなければ、とっくの昔に別れているところだ」
課長の声はそこまで言うと、
「そうだ。いいことを思いついた。女房を殺してしまえばいいんだ。そうすれば、大手を振って、好きな女を遊べるぞ。それがいい」
課長の声はそこまで言うと、パワーショベルのアームの先端を見上げ、
「このパーショベルで、女房の頭をかち割ったら、どれだけか気持ちいいだろうなあ」と言った。
その顔は不気味に歪んでいた。
それはもはやセクハラを超えた男の醜い顔だ。
「よし、決めたぞ。今夜、白井くんをものにして、女房を亡き者にしてやるぞ。ああ、考え出したら、興奮してきたぞ。まずは白井さゆりという女をこの手に入れることだ。わしから離れなくしてやる!」
課長の声を聞いた瞬間、
「こんな男、本当に死ねばいいんだわ!」
本気でそう思った。生きている価値のない人間だと確信した。この男を放っておけば、その妻まで殺されてしまう。
すると、また女の声が聞こえた。
「本当にそうね。あんな男、いなくなればいいのにね」
そして女の声は、
「あの男のアイデアの通り、このパワーショベルのアームで頭をかち割ってあげましょうね」と言って笑った。
その次の瞬間、
異変は起こった。エンジン音が獣が吠えるよう異音を出した。まるでこの重機自体が誰かの意思を持っているかのようだった。
重機のアームが異様な動きを始めた。
ああっ、操縦が出来ない!
パニックが襲った。
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