scenes~日常~

ゆえ

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満員電車より

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今日もいつもと同じ満員の電車に揺られている。しかし、少しだけイレギュラーな要素がある。それは、進行方向側の足元に置かれた、ある程度の質量を感じる物体の存在だ。普段なら何も感じない、ただの荷物。しかし、これが原因で僕はとある事件を起こしてしまうことになる―――。
    まずは状況説明。荷物が置かれているのは僕の左足側。右側には、言うなればクッション性抜群の、上質な布団のような男の背中があった。そして最後に、頭上周辺には、何もない。端的に言えば、満員電車のドア付近の真ん中で、カバンと男に挟まれていた。
    ここからが本題。電車は加速、減速を繰り返し、乗客は慣性にしたがって前後に揺られる。慣性に抗うには、足を開いて重心を操らなければならない。しかし、僕には出来なかった。そう、左足の側には、あの、重たいカバンがあるのだ。上半身だけを使って、必死に耐える。できるだけ右側の布団にのめり込もう、そう、考えていたときだった。あろうことか、布団が、いや、布団のような男が、こちらに寄り掛かってきたのである。慣性だけではなり得ない、明らかにおかしい体重のかかり方。こちらには目もくれず、手の中にある光る板を一心に擦っている。気づかない。何かに掴まらないと。辺りを見回す。何もない。そう、''何もない''のだ。つり革はおろか、手を伸ばせば届くはずの金属の棒も、何も。電車は駅に差し掛かり、最後の減速を始める。もう駄目である。このままでは、慣性に押されて人の海に投げ込まれてしまう。気づいたら、僕の右手は男の肩をがっしりとつかんでいた。
    「すみません!」
 男は不思議そうな、不機嫌のような、そういった類の顔でこちらを確認し、電車を降りていった。朝から知らない奴に自分の肩を捕まれたら、普通そうなるなろう。僕は階段の端を、ゆっくりと駆け上がった。
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