完璧すぎるα俳優の私が君の人生を無理やり奪うまで

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5「遥、ヒート中はうちに居なさい」

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それからだった。

『今日も泊まるだろ?』

毎日の様に連絡が来る。
多分撮影の終わりが見えない日以外、ほぼこの調子だ。

あれからセックスがどうとか言う事はなく、婚約者がどんな人だとか父がどうか、どうでもいい話をしながら過ごしている。

婚約者的に、男性オメガが入り浸っているのは許容範囲内なのかは知らないが、あのラット以外でセックスはしていないし、荒木さんからしたらハウスキーパー兼友人なのかもしれない。

最近では台本も置きっぱなし、俺がいても平気で台詞入れやら、演技の練習をしている。

時にはヒロインの台詞を俺が言ってあげたり。

俺は車も運転出来るので、スタッフが足りないという日にバンの運転をしてあげたりもした。

時には撮影で三日程開ける時もあったが、基本的に毎日俺を呼び寄せては髪の毛を乾かしてくれたり…夜泊まる様になってからはハウスキーパーとは呼べなくなっている。

俺の料理のレパートリーも増えに増え…あの人が美味しいと言った物は一週間以内にまた食卓に並べた。

プレゼント好きのあの人から貰った服や部屋着、歯ブラシに下着も…そこが居場所だと言うようにこの家に鎮座している。

俺を抱き枕にして寝るのが常になり…この人は俺を抱き上げてはどこかに運ぶのが癖になっているようだ。

そして、今日も帰ると意味もなく抱き上げられ彼の部屋にあるデカいクッションに座られせられる。

そして、一緒に帰ると意味もなく抱き上げられ彼の部屋にあるデカいクッションに座られせられる。


「遥、いい匂いがする」

「あーー……あざす」

荒木さんの言葉には心当たりがあったが、それは言わないでおいた。

そうか、以前連絡が取れなくなった騒動からもう二ヶ月程になるのか。

この部屋に来る頻度も大分増え、当たり前の様に寝起きする。今日も夕飯を食したら、風呂に入り、荒木さんがベッドに来るのを待った。

抱き締め、おやすみ……と呟くアルファの体温、意識していなくても…この強いアルファのフェロモンは俺にとって毒だ。



「遥、おはよう…髪の毛セットしてくれないか」

「あ、うん」

起きると、まずはこの人の為に冷たいタオルを持ってきて、洗顔に誘導しタオルを渡す。自分でも過保護だとは思うが、この人は朝が弱い。

最近では、こうして家事以外の事も頼ってくれる様になった。出掛ける事もしばしばあり、服を選べとか…爪を切れとか、そんな事。

この人の少し長めのミルクティー色の髪の毛を、掻きあげてスプレーで整える。さらさらで心地いい猫っ毛。

こうして気持ちよさそうに目を細められると、いつも堅苦しいスーツに身を包むこの人が先程とは別人みたいだ。

「荒木さんてさ、ハーフ?」

「いや、クォーターだ。祖母がロシア人で…顔立ちは日本人なのに髪色だけ日本人離れしてしまった」

だから染めなくてもずっとミルクティー色なんだ。

「遥も…さらさらの黒髪に金髪が綺麗だ、初めて見た時も触れてみたいと思う程綺麗な髪だった」

あの時は、触るなとか言ってたくせに本当は触れてみたいと思っていたのだろうか。

「今度、一緒に美術館に行こう、遥みたいな綺麗な彫刻をネットで見たんだ」

さらりと、俺の髪の毛を梳くとそのまま頭を撫でる。

「美術館なんて柄じゃねーよ」

「帰りに服を買ってあげよう、私が載った雑誌のブランド、欲しがってただろ?」

「え、マジ?あれめっちゃ可愛いよな」

「遥に良く似合うだろう」


なんか……


「お前にはずっとハウスキーパーして欲しいし、欲しい物でも、金でも…行きたい所でもなんでも言ってくれ。時間はあまり取れないが、どこでも付き合う」

「え~それなら映画観に行きたい、あんた出てるやつ!なんか賞取ったろ?」

「映画か……流石に騒動になるからな、試写に呼ぶから、その日は空けといてくれ」

「やったぁ」

なんか…………

「今日も家で帰りを待っててくれるか?」


なんか、優しくない?!

お兄ちゃんじゃん、あんなの。
俺にはお兄ちゃんがいないから……つい顔が緩む。こんな、甘ったるい家族みたいな思いやりのある荒木忠聖なんて、解釈不一致でしかない。

そして……こういうのは良くないが…優越感を感じざるを得ない。

もう俺の中で彼とラットセックスした記憶なんて忘れかけるくらい、お互いに肩を貸し合える友人のようになっていた。

最初は思いっきり嫌な高慢社長だったのに、いきなりラットセックスして…今じゃこんなにも一緒にいるだなんて。

俺はセフレの数はかなり減ったし悪友も居なくなった。金にも困らないし荒木さんは一緒に寝てくれる。あの人の体温は落ち着く。

アルファなのに高圧的でも無く、穏やかなフェロモンを感じる度にオメガの欲が満たされる。

「うん、行ってらっしゃい……忠聖(ただひと)さん」


「………っ」

少しくらいこの人の為になれたら…なんて、俺らしくない事を思ったり…してもいいのだろうか。

俺が一週間連絡が取れなくなっちゃうだけであんなに心配して、プレゼントまで買い込んでしまう忠聖さんの事を思うと、今日帰ってきたら早めに伝えないといけないと心に決めた。

しばらく黙ったまま玄関で何か言いたげな忠聖さんを見送り、鍵を閉める。

俺は、その日大量の食材を買い込んだ。
いつもなら一日分だけ作っておくのだが、その日作ったのは、ゆっくり食べれば五日くらい持ちそうな程の料理たち。

そりゃ同じ日当なんだから、こんな事してやる義理はないのだが…いや、義理があるから作ってあげた。俺の料理が無いと、あの人は苦痛だと思いながら生きないといけないし。

まぁ、たった一週間だからそれでもいいのかもしれないが。

最近忠聖さんの帰りは早い。
撮影は天辺を跨ぐこともあったのに、今は19時頃には帰宅してくる日もザラだった。

そして、丁度八品目の惣菜を作り終わって…タッパーに詰めた頃。

『遥、そろそろ帰るよ』

忠聖さんの連絡に少し心が踊った。
喜んでくれるだろうか。


「ただいま」

鍵の開く音と、フェロモンのいい匂いはセット。いつもみたいに鞄と上着を受け取りに玄関まで走る。

「遥…」

玄関分の高さがあるのに俺の身長は、それでも忠聖さんには届かずに出会い頭で頭を撫でられた。

「おかえりなさい、忠聖さん」

「…………」

そして…リビングに向かうと、大量のタッパー達が忠聖さんを出迎える。

「遥、これは?」

「あの……忠聖さん、前は黙ったまま連絡取れなくなっちゃっただろ。俺、もう少しでヒートだから…… 今二ヶ月スパンで来させてて。たくさん作っておいた、俺が居ない間…食べて」

そう、俺はもう少しでヒートだ。
あの時…連絡も出来ずヒートに入った時、俺にとって適当なバイト先でしか無かったが、今は忠聖さんに不義理な事はしたくない。

もう少しで二ヶ月、抑制剤を徐々に減らしヒートを誘発させ、家に閉じこもる。

「……そうか、前一週間も連絡が取れなかったのはヒートだったのか……私は知らずに、携帯代も払えないのか…と呆れていた、すまない。そうか…だから最近妙に………いや、何でもない」

オメガにヒートが来るのは当たり前とはいえ、やはりヒートが来るとかそういう話は少し恥ずかしい。

親族間でも…なんとなくタブー視された会話だ。

「ありがとう、遥……今日の夕飯も、私の好きな物ばかりだ」

もう薄らと匂いが出ているのは分かっていたし、こんなにも信頼出来る間柄とはいえ、忠聖さんもアルファ。

ヒート前に側に居られるのは嫌だろう。

「うん、食べて…少ししたら、今日は帰るから……俺、明日も別の仕事あるし、そのままヒート休暇って事で」

「…休暇?そうだな、ヒート中なんか家事なんて出来っこない」

ヒート中に出来るのは、精々死なない様に飯を食べる事と水を飲む事。ヒートにセックスをしないでもいられるくらいの薬は凄く副作用が強いから、普通のオメガなら飲みたくはない。
一週間、セックスに明け暮れるしかない……性別だ。

俺達は食事を囲み、作った料理達を冷蔵庫と冷凍庫にしまっていく。

既に、忠聖さんのフェロモンでほろ酔いくらいの気持ちになってしまっていた。

片付けを終えて、ソファに二人で腰掛けると忠聖さんが俺にタオルケットを掛けてくれる。

優しくて暖かい。ぼんやりした俺の脳みそは、幸せな熱を産む。

「ん、ありがとう」

「遥、顔が赤い。心配だ……番っていないオメガのヒートは相当苦しいと聞く」

「別に番ってるかどうかはそこまで問題じゃないんじゃない?番居ないから知らないけど」

「抑制剤を飲むのか?やはり熱いが……明日別の仕事なんて出来るのか?」

忠聖さんの太ももら辺に座ったまま横になると、忠聖さんがおでこに触れる。

「抑制剤は副作用が凄いから飲まないよ、仕事はまだ平気、明日から常用の抑制剤も抜くから明後日辺りから引きこもりかな」

そのまま手は頬に触れ、ひんやりとした忠聖さんの手が心地よかった。

「抑制剤飲まないでいられる?神経が焼き切れると聞くが……」

「まぁ、その辺はさ…セックスするし」

セッ……と大きな動揺の声の後に、続いた言葉は俺は…驚くしかなかった。

「……私が帰るまで待てるのか?ずらせるものは極力ずらすが……」

この人の言葉はたまに分からない時がある。

久々の困惑、そうだ…この人はセックスをお礼だとか思っちゃうズレズレ社長だった。

「…何言ってんの、忠聖さん。家に帰るんだから別にあんたとは会わないでしょ」

「じゃあ、誰とセックスするんだ」

忠聖さんが声を荒らげる。
最初に会った時に、俺に黙れと叫んでいた感じでもない、強いて言うなら……俺が一人で寝れなくなった原因を作った親父の声色。

「誰とって……セフレでしょ」

セフレの話はした事もあるし、その時も程々にしろよ…くらいの感触だったと記憶している。
そもそも、従業員のご機嫌取りでセックスを提案する様な大人にとやかく言われる話でもない。

「………ヒートセックスなんて危険だ、そんな誰かも分からない奴とヒートに一緒に居て噛まれたらどうする、はぁ……馬鹿だとは思ってたが遥がここまで馬鹿だとは。お前と居ると心底苛立つ。そもそもオメガなのだから、全部私に任せてここに居たらいいものの…思い通りにならない、すぐに居なくなる、連絡もろくに返さないし、電話してもすぐに出ない」


忠聖さんがぶつぶつと吐き出している言葉は、どう考えても俺への恨み言だ。
軽口の中で、連絡返すのが遅いと言われた事はあるが、忠聖さんだって忙しいくせにーと不貞腐れれば、そうだな…と笑っていた気がする。

「…大丈夫だよ、毎回ヒートは同じ奴と寝てるし」

忠聖さんが、俺の腕を掴みあげた。
ラットの時を思い出すその力……怒っている事はとにかく伝わるが、ヒートセックスするな…なんて……ヤバい毒親の教育でもあまり聞かない。

「遥、ヒート中はうちに居なさい」

この人、ちょっとズレてるとは思っていたが頭がおかしくなってしまったんだろうか。
大好きだった、信頼出来る大人の忠聖象が崩れていく。

「忠聖さん、意味が本気で分からないんだけど、忠聖さんだってアルファだろ?部屋別にしたってラット起こしちゃうよ。そしたらセックスしちゃうし、あんたのヒートセックスしちゃダメっていうのにも矛盾するし……婚約者居るのにヒートのオメガを家に居させる意味が分からない」

そう言ったら、あんなに憤っていたのが嘘みたいに黙ってしまった。正論を吹っ掛けれて俯いたまま、座り込む。
心配になる程鬱々としていて……色々と話し掛けたが、忠聖さんは黙っていた。

「忠聖さん…?本当にどうしちゃったの?俺帰るよ?」

流石に無視を決め込まれ、忠聖さんは動く事もなく俯いているので、俺は帰り支度を始める。

「じゃあ、もう行くから……忠聖さんも仕事頑張ってね」

「遥」

銅像の様に動かなかった忠聖さんが俺に駆け寄ると、一万円札を握らせた。

「……頼む、頼むから…タクシーで帰ってくれ」

あまりに悲痛で細い声のそれは、突っぱねられないくらい……弱々しかったのだ。

「うん、ありがとう……また連絡する」

そう言うと、ドアへ向かう。
振り向いたがリビングから俺を見たまま手すら振ろうとしない。

オメガとセックスした事がないと言っていたしヒートセックスに、ど偏見があるのか…俺には今日の忠聖さんの言動は分からない。

言われた通りタクシーに乗り……俺は帰路へ着いた。
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