完璧すぎるα俳優の私が君の人生を無理やり奪うまで

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6「忠聖さん、婚約者さんとなんかあった?写真、一枚もないけど」

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「ぁ、ぜんぶっ、ちょうだ、あ…あぁ、!」


気持ちいい。
流石に四日目ともなると、気持ちよすぎて頭がおかしくなりそうだ。

俺は、ネックガードを取りたくてガリガリと掻き毟った所が痛いし、セフレは抑制剤飲んでるけどほぼラットで、無理やり曲げられた脚はダルい。

そして…痛みを思い出してもすぐに快楽の中に溶けていく。
確かに…番えば楽なのだろうか。

セフレに毎回相手してもらってるとはいえ、それでもキツイものはキツイ。

番なら、精子を胎内に受け止めただけで焼け付くような発情は抑えられるのかもしれない。


セフレが、ゴム越しに射精する感覚が腹に伝わってくる。流石に限界の様で、疼く俺のナカからゆっくりと出ていくと、フラフラと冷蔵庫へ向かった。

まだまだ身体は熱いが、大分楽になった。

ぶん投げられたペットボトルの水を口に入れると、久々の水分が染み渡る。

俺は、あれだけヒートセックスを心配していた忠聖さんの事が気になって携帯を開くと、二日目くらいの夜に一件だけ連絡が来ていた。

『ちゃんと、食事は摂ってくれ』

ヒートセックス反対の恨みつらみが書かれていたらどうしようとも思ったが、想像に反して一件の気遣いが嬉しい。

買い込んだパンやらそのまま食べれるゼリーやらを胃に入れると、またしてもラットのアルファを誘おうと子宮が疼き、オスを誘う。

あと二日、それがこの忌々しいヒートの終わり。


そして、ヒートが終わって真っ先にしたのは忠聖さんへの連絡だった。少し気まずかったがあの心配っぷりを見てしまったら、無碍には出来ない。


『明日からまた夕飯作るけど、何がいい?』

一応復帰は明日から、そう思って連絡したのだが…暇になってしまいその日に向かう事にした。

家にはいつでも来ていいと言われていたし、何なら連絡しないで行った事も何度もあるので…行きなれた忠聖邸に電車で向かう。

まだ午前中だが、忠聖さんはもう居なかった。

「……なにこれ」

部屋の異常な様子……皿という皿は割れ、物が散乱している。
投げられる様な物は全て投げたらしく、スタンドライトも服もサボテンも、全てがぐちゃぐちゃに荒らされている。

綺麗なのはベッドの周辺だけで…日めくりカレンダーが今日の分も律儀に剥がされているのを見るに、今日もちゃんとここから出勤している……?泥棒に荒らされた訳ではないのだろうか。

そもそも、泥棒ならこんな食器棚の食器をいちいち割らないような気もする。

そう、考えていると俺の携帯が鳴った。

『遥、待ってるよ。私も今日は用事があるから、丁度よかった。明日からよろしく』

いつも通りの忠聖さんの連絡……。

俺は、すぐに家を出て……今日来たという事は言わなかった。忠聖さんにだって、触れられたくない事くらいあるだろうから。


翌日に、また忠聖さんの家へ向かう。まだ部屋の現状があれだったらどうしようかとも思ったが、むしろ理由を聞けるだけそっちの方がいいのかもしれない。

だが…俺の思惑どおり、部屋は元に戻っていた。いや、厳密には全く違う。

家具はほとんど違う物になっていて、皿も…スタンドライトも割れていた物は、似てるけど前のものではない。

そして………一番違うのが、あれだけ張り巡らされていた婚約者の写真が一枚も無かった。

この状況を見たら誰もが思うだろう。


「忠聖さん、婚約者さんと何かあった?写真、一枚もないけど」

帰宅した忠聖さんはいつも通りだった。優しくて、昨日の部屋が嘘みたいに普通。

俺の飯を美味しそうに食べている。

「…模様替えかな」

荒木忠聖の顔が美しく微笑んだ。

だが、昨日の部屋を見てしまっている俺には……それが、どうも気丈に振舞って居るようにも見えた。

「…そか、忠聖さん…あの、ヒートだけど……」

ヒートセックスを心配していたから、大丈夫だったよと告げたかったのだが、それは忠聖さんの声に遮られた。

「遥」

「遥…今日は一緒に寝るだろう、暖かそうな毛布を買ったんだ」

あまりに美しく作り物のような笑顔。時々……俺は忠聖さんの事が分からなくなる。

この、荒木忠聖が…何を考えているのか。


「遥、見たいって言ってた映画、一緒に観ようか。実は……絶対にダメなんだけど、DVDに焼いてもらったんだ。間違ってもSNSに書いたりするなよ」

試写はヒートで見ることが出来なかった。
いつもみたいに笑う忠聖さんの顔に、さらさらの髪の毛が揺れる。

「マジ?!凄い…!そんな事流石の俺もしねーって、観よう!観よう!」

婚約者と何かあったのなら、それが俺のせいだったらどうしよう。オメガと寝起きする事に嫌気が差して?別に、それって誰も悪くないけれど、少しだけ……罪悪感が湧く。

なるべく、忠聖さんには笑顔でいて欲しいから。



「すげー…ここ、どう撮ってんの?本当に凄い、忠聖さんが動物の世界から居なくなるのを本気で悲しんでるようにしか見えない…」

明るくて少しドジな青年の荒木忠聖が動物の世界に迷い込む話。

普段を知っているだけに、俺には別人にしか見えない。

「はは、それは演技力の賜物だ。流石に私くらいになれば…泣くのもお手の物で…本気で役に入ってれば、勝手に泣いてしまうしな」

忠聖さんが買ってくれた毛布が暖かい。

「役に入るって…よく言うけどさ、本当の自分って見失ったりしねーの?」

「……私は、荒木忠聖らしく生きようって思っていて、人生が荒木忠聖という役だ。だけど……私は初めて、役じゃない私を見た」

忠聖さんの膝の上に膝枕をするように寝転がると、俺の髪の毛を忠聖さんの手が撫ぜる。

「……見たって……最近?」

「……ああ、最近。荒木忠聖は、とにかく完璧な人生だ。小さい頃から勉強も…運動も、彼女も…会社も演技も、貰う役も。もし私が続きのシナリオを書くなら…そのうち映画でも撮って、国民栄誉賞の取得者になるだろう」

「完璧な役の男を演じていくのをやめたって事?」

「ああ、やめた。私の書くシナリオの荒木忠聖は、生きたい様に生きる事にした。完璧はやめて、したい事が見つかったんだ。そんなのもいいだろう、映画は起承転結が無いと面白くないし、ただやっぱり荒木忠聖の人生は喜劇じゃないと。絶対…幸せになるストーリーだ」

少しだけ、忠聖さんの言葉は俺の胸に刺さった。俺という主人公……オメガとして生まれ、それを売ってみたり遊んでみたり…定職には就かず俳優のハウスキーパーをしてみたり……俺の人生もちゃんと喜劇になるのかな。

「俺も…将来の事とかあんまり考えないけど、いつか愛した人に項噛んでもらうのかな、俺の事だから事故って噛まれそう」

言った後、この手の話題はまずかったかと思ったが……忠聖さんはまた美しく笑った。

「大丈夫、きっと喜劇だよ」

忠聖さんが俺を撫でる手が気持ちいい。

別に誰とも番えなくても…こんな風に、あんたの家の掃除…してれば別に俺はいいや。

そんな事を考えながら……微睡んでいく。
明日も、この人をこの家で待ちたい。

「忠聖さんの喜劇は…登場人物はいるの?決まっている…登場人物」

眠たそうにする俺を運ぶつもりなのか、抱き上げられて揺さぶられるとそれが揺りかごの様で心地いい。

「ああ、一人いる。あとは…いてもいなくてもいいが、やはり子供の存在は考えてしまうな」

トントンと背中を叩かれ…抱っこされて、あやされる子供の様に…うとうとと安寧が包む。

たった一人の登場人物…それはやはり婚約者なのだろうか。写真が無くなってから、関係が拗れてしまったのかと心配はしていたが…愛おしげに呟く言葉達は、深い愛を感じさせる。

「……そこに俺もいる?」

「……当たり前だ」

俺は、その言葉だけで良かった。
ハウスキーパーでも友人でも何でもいい、忠聖さんと一緒に居るのは楽しくて…幸せだ。

いつの間にか、俺の中でこの人は側で支えたい人になっていた。
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