完璧すぎるα俳優の私が君の人生を無理やり奪うまで

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7「そ、だよな。結婚するんだし」

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「忠聖さん、まだ帰ってこねえのかよ」

実は、俺はあれからもう一ヶ月くらい忠聖さんに会っていない。

寂しいという感情を久々に思い出した。

忠聖さんは…今海外にいる。
凄く大掛かりな撮影をしているのだろうという想像はつくが、一ヶ月もの間……アメリカから帰ってこなかった。


『……アメリカ?』

『ああ』

『どのくらい行くの?撮影?』

『予定では一ヶ月、長引けばもう少し、例のネット配信のみの配給会社の撮影だ』

『そういうの、邪道って言ってなかった?』

『…休暇が欲しくてね…そのドラマがクランクアップしたら少し休暇を取る。一応社長だし、わがままばかりは言ってられないだろ、ウチの俳優使って欲しいのもあるし、ずっと蹴ってはいたが今回だけ、出てやる』

『ふーん、なんか珍しいね』


あの会話からもう一ヶ月。

「っ、全然帰ってこねえ!」

荒木忠聖という存在は、俺の中に根深く居着いてしまっている。

週に一度くらい部屋には訪れ軽く掃除はするが、家主の帰ってこない部屋はなんだか冷たい。

褒められたい、美味しいと微笑んで欲しい。



結局忠聖さんが帰国したのはその二週間程後だった。正しくは、帰国したのは一週間後、俺は帰国を事後報告で知り…一週間も日本に居たのに連絡をくれなかったのだ。


「嘘つき」

前に俺もヒートの時一週間連絡を無視した事もあるし、俺は帰国の連絡を待っていただけで連絡を無視されていたわけでもない……不貞腐れるのはお門違い、分かっていても気に入らない。

「そんな可愛い顔をしないでくれ…」

俺の身体が埋まる程のお土産。
もう帰ってきているからね…と連絡が来て、俺は腸をふつふつと弱火で炙られているような苦しさを抱えたまま、あの部屋に行った。

「一ヶ月で帰ってくるって言ったじゃん、しかも日本帰ってきたのは一週間前?この部屋の管理してたのは誰だよ、なんでそんな冷てーの?」

「…遥、そんな感情的になってくれると思ってなくてな……帰国してからは、色々やる事があった。これから私は度々休暇を取る事になるだろうから、仕事も山積みだ」

アメリカ、という言葉が連想する物は何だ?

「アメリカ行ってたなら、婚約者さんに会えた?」

そう、俺にとっては…婚約者の在住地。
一ヶ月もアメリカに行き、下手したら毎日会っていたのだろうか。

「ああ、会った」

婚約者の写真が撤去された時は、二人がうまくいく事を願っていたが…今はうまくそれを思えない。

俺はどうしてしまったんだろう、どうでも良かった事の全てが俺を苦しめる。そして、軽くつまらなそうに返事をすると、顔を背けた。

アメリカに一ヶ月も行っていた忠聖さんがいきなり仕事の体形を変えるというのも……結婚をするからなのだろうか。

「遥、こっちを向いてくれ…この一ヶ月、ちゃんと眠れたか?」


俺がこんなにも苛立つのは、この事もあるだろう。忠聖さんが居なくなって…俺はあまり眠れていなかった。

例のセフレをたまに呼んではいたが、セックスは気分じゃない。時にはベータのフリをして女を口説いては泊めてもらったり…俺は初めて、自分の性質を煩わしく感じた。

俺の父は酒乱だ。

夜になると必ず俺の部屋に来ては暴力を奮う。だが、政治家の父が殴るのはオメガの俺だけ。

アルファの妹や、友人達がいる時は殴らないから…俺は物心着く頃には常に誰かと眠る様になり、今でも誰かと一緒じゃないと眠れない。

今まではセックスのついでに誰かと寝ていたが、この人が毎日寝てくれるようになって…セフレもたくさん切れたし、何よりセックスをしたくなくなった。

でも誰か居ないと眠れない……、それが苦しい。

「……ああ、元カレいるし。あいつとはセックスしたかねーけど、しないとわざわざ寝る為に来てくれないし」

少しは罪悪感を感じて欲しい…というあまりに理不尽な俺の当てつけ。

忠聖さんが一ヶ月も居ないから、俺はしたくもないセックスをする羽目になった、それを知って顔を歪めて欲しい。

「……そうか」

「…それだけ?」

俺はどんな顔をしているのだろう、声を出したら泣いてしまいそうで、小声で絞り出す。

忠聖さんはそれに気づいたのか、ただの優しさか…俺の身体を抱き締める。いつもベッドでしてくれるみたいに、優しく……宝物を抱き締める様に。

「…遥、海外にはもう行かない、今回は初めての仕事相手で無理だったが、今後もし海外で仕事がある時はお前を連れていく、したくもないセックスをしてまで、誰かと寝なくていい」


忠聖さんと居ると…もし父がマトモだったらこんな幸せがあったのかと思う時がある。
今だって俺の、理不尽でくだらない駄々っ子を抱き締めてくれるのだから。

「………別にいいし、俺もそのうちまた彼氏出来るだろうしさ」

そんな、強がりみたいなセリフが情けなく口から出ていく。

全力で叫びたかった。
でもあんたは結婚しちゃうじゃん!

そう、言いたかったが…困らせたいわけじゃない。

「……。」

否定はしてくれないのか、恋人など作るなと言ってはくれないのか………。

俺はこの男に何を求めているんだろう。

分かるのは、俺はこの男を失いたくない、ただの家政婦でも……友人でも、親戚の子みたいな庇護心でも、セフレでも。


身体がふらつく。
アルファのフェロモンが絡み付いているから。

二ヶ月刻みに抜いている抑制剤。
ヒートまであと二週間を切っている、身体はほんの少しずつだが、アルファのフェロモンに反応してきていた。

まだ大丈夫だろうが、忠聖さんのフェロモンの心地良さの中にいるだけで俺は身体が熱くなりそうだ。


「……忠聖さん、ごめん。一ヶ月よく寝れなくてイライラしてた。またハウスキーパーやるからさ、よろしく」

忠聖さんの身体を押し、距離を取った。
忠聖さんは何も悪くない、悪いのは思い通りにならない事にイラつき、感情のコントールが出来ていない俺。

忠聖さんがアメリカから帰ってきてくれた事だけを今は喜ぼう。

「それなら…少し仮眠、取ろうか。夕飯にはまだ早いし…遥、来なさい」

忠聖さんは、リクライニングソファに座るとポンポンと膝の上を叩く。

「え?」

「私は見ないといけない映画があるから…遥は私の膝で寝ていなさい」

ベッドの時は大体どちらかが寝ころんでから、片方が入り込むが…ここはソファで…しかも起きたままの忠聖さん…恥ずかしさは段違いだ。

「え……いいよ、恥ずい」

「いいから、来なさい。アメリカで随分疲弊した、私も遥と寝たい」

悪い意味ではないが、この人の言葉は信じられない。人を操る為の言葉をすぐに吐くし、コントロールが上手いから。

だから、他意を考えてはいけないと思いつつも俺と寝たいという言葉は嬉しさを隠しきれない。

結婚したらもう寝てくれないくせに。
ハウスキーパーとしては一緒に居られても、この幸福は今だけだ。

だが、のそのそと近づくと…忠聖さんの腕に巻き付く。

「遥」

頭をがっしりとした手が俺の頭を撫で、髪の毛を手ぐしで梳いては耳に掛ける。

2人がけのリクライニングソファで抱き竦められ…痛いくらいにその鍛え上げられた胸板に押し付けられた。
唇は恐らく髪の毛に当てられ動いていて、頬同士は軽く当たり、頭を撫でていない方の手はしっかりと腰を支える。

恋人同士なら、このまま情事が始まってしまいそうなくらい熱い抱擁のまま…俺はフェロモンに酔い…うとうととしていた。

忠聖さんは映画を見始めたが、少しも腕の中から出す気はないようで…脚を絡ませる。

俺は、いつも忠聖さんに抱き締められ寝ていたが、今日だけは…こうしてもいいだろうか。

自分の左手を忠聖さんの腰に巻き付け、胸元のフェロモンを吸い込んだ。
頭がそれを求めているみたいに深く呼吸すると…触れてもいないのにぞわぞわと快楽が背筋に通る。

そして…それと同時に沸き起こる安心感と眠気。

ここにある全部が心地いい。

「遥…眠れたかな」

その声がギリギリ届くくらいに溶けた意識。

「遥、ごめん…一人にして」

愛おしそうに…呼ぶ声が演技だと思いたくはない。だがこの人は、俺が居なくならない様にと贈り物をあんなに用意する人間だし、荒木忠聖には、こんな愛おしそうな演技をするくらい朝飯前だと分かっている。

「遥……大丈夫、私が全部守る」

優しい時の父をつい思い出し……俺は、一筋だけ涙を流した。

そして……俺が知っているのはそこまで。
夢も見ないくらいに沈んだ意識。


「遥、私がこの一ヶ月……君が誰と寝ているか考えないとでも思ったか?夜になると、毎日狂いそうだった。さっきだって……セックスしないと寝て貰えないなんて私に言って……私が逆上して君を閉じ込めるかもしれないという危機管理能力は毛頭ない。だけどそんな事はいい……君が誰と遊んでようと」



多分フェロモンを感じすぎたせいで重かった身体が……妙に軽い。
さっきまで感じていた、性欲というか…オメガの発情に似た忠聖さんへの欲求もかなり落ち着いていて……不思議な感覚だ。

「遥…起きたか」

忠聖さんが隣で本を読んでいた。

「…あ、忠聖さん」

「よく寝ていた。本当に…眠れていなかったんだな。しかも…あと一ヶ月程で…その、ヒートもあるだろうから、色々辛かっただろう、本当にオメガは大変だ」

「ん、ああ…でも、なんか身体軽い…」

俺が猫にでも見えているのか、わしわしと顔や頭を撫であげる。

「ああ、それは…勃起していたのを、処理しておいたからかな」

一瞬意識が宇宙に行ったみたいにぽかん、と口を開けていたが、すぐに困惑と羞恥が身体を占める。

「っは?!」

「……可愛かった」

「は?!寝てる俺の身体を弄ったって事?!」

「……溜まっていては辛いだろうし、私のフェロモンが悪さしているのも分かっていたから…嫌だったか?ちゃんと清拭しておいたよ」

この人が帰ってきてから……俺がこの人のフェロモンでふわふわと多幸感と性欲に溺れていた事などとっくにバレていたのだ。

恥ずかしいし、忠聖さんの言った可愛いという言葉………眠っている俺がどんな反応をしたのかを考えるとじたばたと暴れたくなる。

確かにラットセックスはしたけど……今はシラフなのに、あの荒木忠聖の骨ばった手が俺の身体を這い…性器にも触れたのだろう。

寝ていた事がもったいない……と思ってしまう。

「忠聖さんは………自分の事務所の役者やスタッフにご機嫌取りでセックスしたりヌいたり出来る社長だもんな、軽く受け取っとくわ、さんきゅ…?」

俺はソファから立ち上がると冷蔵庫へと向かう。嬉しさと悲しさに満ちた顔を見せたくなかった。

だが、俺に付いて立ち上がった忠聖さんは十五センチ程ある身長差に合わせる様に少ししゃがむ。

「遥、私は昔ご機嫌取りというか、必要に応じて抱く時もあった。だがそれは非常に重大な理由がある時だよ。そして…もう私は二度と打算で人と寝ない」

真剣に目線を合わせてそう言われると、つい顔に熱が集まる。

「……そ、だよな。結婚するんだし」

「………結婚か」

忠聖さんは否定も肯定もしない。
寝ている時とはいえ、荒木忠聖に下の世話をしてもらった事は純粋に思い出として胸に仕舞おう。


その日は、鯖の煮付けにホタルイカの酢の物、味噌汁とサラダ、デザートにはトマトのゼリーを付けた。

「……すまない、疲れているのは分かっていたから夕飯は遠慮したかったが、どうしても遥の料理が食べたかった」

「いや、仮眠も取れたし大丈夫。俺も…ずっと忠聖さんにご飯作りたかったし」

最初は、この人を嫌いだったはずだ、金持ちで俳優で…田中さんとセックスする邪魔されて……それが今では…レオさんよりもこの人の方がかっこいいと思ってしまう。

丁度、そんな事を考えていた時だ。

「そういえば……次の撮影、レオも来るぞ。流石にセックスは打診してやれないが、話すくらいは出来るだろうが…どうだ?」

前なら、喜んで着いて行っただろう。

「んー、別にいいや。ていうかどういう風の吹き回し?レオさん推すのやめて違う奴推せって言ってたじゃん」

「……いや、今は…誰の事も推さないでほしいさ、ただ…これからお前も私も劇的に環境が変わるだろうから、なるべくストレスを取ってやりたいんだよ」

劇的な環境の変化……この部屋に以前の様な埋め尽くす写真達が無くて良かったと思う。あったら……俺はきっと平静では居られなかったと思うから。

「へへ、まあ今俺が推してんのは荒木忠聖って事で。皿、食べ終わったらシンク置いといて。俺は風呂入ってきますから」

茶化すように言ったが、その言葉はもうとっくの昔に本当だ。

俺にとって荒木忠聖は、誰にも取られたくなくて…ずっと側に居たい、唯一の存在だった。
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