完璧すぎるα俳優の私が君の人生を無理やり奪うまで

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11 「嬉しい……?それだけ泣き腫らしたのも嬉しいからだと言うのか?何故?」 終

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「ただいま」

鍵の回る音。
この顔を見られるのは些か困るが、俺を溺愛する旦那にはすぐにバレてしまうだろう。

そして…鞄を受け取る俺の顔を一瞥すると、驚いた様に後ずさった。

「遥?!」

目は真っ赤に腫れ上がり…泣いていた事は明白だったから。

いつも通り、俺ごと抱き抱えるとリビングへと運ぶ。

「遥?!その顔……どうした、私が…昨日無理に抱いたから…それとも…何か嫌な事を言う奴が居たのか?!」

おろおろと俺の周りを回る忠聖さんが珍しくて可愛らしい。

「……そ、忠聖さんのせい」

「遥……また私は何か……」

眉が下がり、俺の手を握ると心配そうに覗き込んだ。

「……俺、プロポーズされてない。本人に言ってちゃんと確認取る前にテレビで言うとかありえないし、俺嬉しすぎて……顔こんなんになっちゃっただろ」

飼い主を心配する大型犬みたいにしゅんと耳を垂らす。

「……プロポーズ、しただろ」

「ずっと一緒に居ろって?普通の男女ならそれで通じるかもしんねーけど、婚約者いて、無理やり番って…そんな感じのアルファとオメガなら、ちゃんと結婚しようって言わなきゃ分かんないよ」

俺は、忠聖さんのネクタイを掴むと、唇に唇を重ねた。すぐに頭を寄せられ…その何倍もの熱量で舌を絡められる。

この男は…俺の事が信じられない程に好きだ。

キスを仕掛けただけで、頬は高揚し…愛おしそうに頬を撫ぜる。

髪の毛の一本一本が忠聖さんのものだとでも言うかのように梳くと目の下にキスを落とした。

「婚約者…とっくの昔に別れてる、そもそもあの人はビジネスパートナーで、恋人ですらないんだ……すまない…私にとって、お前と番って結婚しない選択肢が無さすぎて…まさか分かってないと思ってなくて…」

「引越しとかもだけどさ、俺に何も言わなすぎ」

少し震えた忠聖さんの手、その上から重ねるみたいに握り込むと、指同士を絡ませ握り直された。

「…すまない。昔から…ずっと一人で全てを決めてきたから…つい。ちなみに結婚は…来月に凄く縁起のいい周期があって…そこで役所に行こうかと…」

だが…俺には腑に落ちない点がある。
別に…俺だってセフレもいたし好きになった人も過去には色々あったし…。

「でも…流石にあれだけラブラブな写真を所狭しと飾って…付き合ってない、は無理があるだろ…別に気にしないし、嘘は……」

「遥…違う…」

必死な表情のまま、俺の肩を掴み首を振った。

「あれは……全部AI生成だ。前にも言ったが、家に呼んだ人間に変な気を起こさせなくする為、愛妻家イメージを付ける為のもので…私は婚約者と手も繋いだことが無い」


ぽかんと開け放った口が気に入ったのか、その唇を虐めるみたいに下唇を食む。

「ま、まじ?」

「ああ、私が人生で好きになったのはお前だけだ。だから…間違ってしまうし、遠回りして…うまく接せられない事もある…許してくれ」


またしても、俺の何かが壊れたみたいに涙が目から落ちてくる。別にいい…なんて言いながら、初めて好きになったなどと言われたら…俺のダムは崩壊した。

「……な、なぜ泣く?!」

忠聖さんは、たどたどしく抱き締めると背中をぽんぽんと叩いてくれた。


「っ、だって…嬉しいから……」

抱き締め返す手が震える、こんなに幸せだと逆に怖くなる。嘘だったと言われたら…生きていけない様な気がして。

「嬉しい……?それだけ泣き腫らしたのも嬉しいからだと言うのか?何故?」

今日何度取られたのか分からない呆気。

「っ、す…!好きだからに決まってんだろ…!」

あれだけ幸せなセックスをして…俺からのハグもキスも強請れば強請るだけ降らせてくれたのに…好きじゃないと思う理由が分からない。

毎日この人の胸元に頭を埋めて寝るのが至福で…起きたらすぐにその頬に口付けを落とす。

これが好きじゃなかったら何だと言うのだ。

この男の事を考えて…うじうじと悩んだり一緒に風呂に入りたがったり…今更すぎる。


「……っ、好き…いや、好きなのかもしれないとも思ったが…てっきり、番になってしまったらどうしようもないから色々と諦めたのかと……」


「俺が、番っちゃったくらいで好きでもない男と暮らすわけないだろ!しかもこっちは、婚約者と一緒に住んで、子どもをどう可愛がるか…とかまで色々考えてたのにさ……好きだ、
大好きだよ……あんたみたいな、言葉足らずの分からず屋で強引な男だけど…好きなんだ」

冷たい物が肩に落ちる。
抱き締められたままの体勢で、その正体が何かは見えないが……忠聖さんは黙っていて、二滴目の冷たい物はまた俺の肩を濡らした。


じっと抱き合って……忠聖さんが落ち着くまで、俺も黙っていたが、ふいにその口が開かれる。

「……吉日など待っていられるか…そもそも、私は迷信を信じないし、凶日に婚姻を結んだから引き裂こうとするような神に私が負けるわけがない」

俺を抱いたまま、立ち上がる忠聖さんが俺をリビングへと運ぶ。何処に隠し持っていたのか、ピンク色の文字が書かれた紙と、半分が埋まった達筆の字。

俺は、躊躇する事なくボールペンと紙を受け取り、名前や住所を書き込んだ。

「…荒木遥……」

この紙が提出された瞬間から、俺は荒木遥になる。それを思うと……またしても暖かい物が込み上げた。

「……嫌か?」

「……嫌なわけ、ない。家族とか、ずっとよく分かんなかったし……実感ないけど、なんか…言葉に出来ないくらい今、幸せで…」

もうこれで使う事もない、大河内の実印。
家族に言うのは事後報告になってしまうが、俺を守ってくれた妹や母には…この人を連れてちゃんと報告しに行くべきだろう。

そして…父は今でも怖い、だが…今は隣には俺の夫がいるから。

誰かとじゃなきゃ眠れない体質をあの父が作ってくれなかったら……この人と夫婦になれていないかもしれないのだから、俺が虐げられてまで産まれた意味を初めて理解した気がした。

書き終わると、忠聖さんが俺の手を取る。
本当に役所に出しに行くつもりらしく、車のキーを持ち、また俺を抱き上げた。


最初は…利害の一致は一種の打算で始まった関係かもしれない、だが…俺の人生はここから始まる。

この…愛おしい人と、きっとこれから逢いに来てくれるこの人に似た我が子と共に。







俺はREO。
悪役、小物キャラや反社役をやらせたら右に出る者はいない。

大体が最後には発狂したり死んだりするキャラやかませ犬ばかりだが、中堅俳優として名を売っているのだから勝ち組だ。

そして……プライベートの素行もあまり良くなく、社長にはいつも怒られているが…最近はその社長は俺を見る目が優しい。

「レオ、ネット配給のアングラ映画のオファーがたくさん来ている、助かるよ」


今まで、純文学の様な映画に出る俳優が一流と言わんばかりだった社長が、俺を褒めるなど…以前なら雪が降る程の事だ。

そして……その理由は明白だった。

あの日、本当は俺が食うはずだったオメガとの結婚。最近ではそのニュースで持ち切りで…しかも事務所の誰とも会わせないと来たものだから、顔を知っている俺は少しだけ悦を感じる。


元々、婚約者の方はかなり政略的な意味合いが強い事は中堅以上なら知っている事だ。

だが、あんな…ギャルの様なオメガを嫁に据えて…毎日幸せそうに微笑む荒木忠聖は正直気色悪い事この上ない。

いつもなら、時間が余っても打ち合わせや演技指導に時間を割き、ストイックすぎる荒木忠聖の現場は嫌われていた。

だが…今ではなるべく早く帰りたがるこの新婚の片割れ。ヒート休暇も生き生きと宣言しているし、ありがたい事ではあるが…手のひら返しが憎らしい。

「…社長、ニュース…結婚の事で持ち切りっすね」

「…ああ、妻も毎日驚いているが…内心嬉しそうだから、公開してよかった…公開しない選択肢は無かったが」

確かにあのオメガは可愛かった。
だが…あのオメガの何が荒木忠聖という完璧人間を変えたのか、興味が無い方がおかしい。


「…前はよくホームパーティに呼んでくれたのに…奥さんのお披露目、しないんすか?」

別に取って食おうというわけじゃない、俺狙いだったあのオメガと…それにデレつく荒木忠聖をただ見てみたかっただけだ。

だが、控え室内に響いたのは特大の舌打ち、そしておぞましい程に歪んだ社長の顔。

「…ああ、いつでも会わせてやる。言っとくがな…私の嫁は今微塵もお前になど興味無い。録画や検索履歴も、私の物ばかり。秘密裏に書いてるSNSも全部私の事だ、だから…別に私はお前と妻を会わせても、全く動じないぞ」

動じない、と言いながら睨みつける社長など初めて見る姿だ…。

やはり俺の事は少しは憎たらしいみたいだが、もう二人の間に入る余地は無いらしい。


「社長…携帯覗いてるんすか?嫌われますよ」

俺は、この人が好きではなかった。
人間らしくなく、恋愛や食べる物、持つ物全てが計算され尽くしていて気持ち悪い。

だが……こんな姿を見てしまったら……。


「…うるさい…ばれなきゃいいんだ」

その日の役は、天才検事が警察局の方針に逆らってまで正義を貫くという役だった、俺はその容疑者。

あれだけ俺に惚気と嫌味を撒き散らしていたのに、カチンコが鳴ればもう纏う空気は、司法を遵守する尊い検事様だ。

「やっぱりすげえな、荒木忠聖」

いつか、この人みたいなでかい役もやってみたい…とその背中を見て思ってしまう。


「……ってか、すげえのは荒木忠聖じゃなくてそれをあんなにも変えちまった可愛いオメガの奥様…かな?」


そんな可愛らしい奥様が、だだっ広い自宅で荒木忠聖の事を待ちながらくしゃみをしていた事など、俺は知る由もない。



おわり
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