完璧すぎるα俳優の私が君の人生を無理やり奪うまで

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10 「っ、出さないからな…私は、絶対」

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俺、番っちゃった、荒木忠聖と……。

新居とやらにすぐに引越しをさせられて……俺は仕事を全て辞めた。忠聖さんにしつこくお願いされ、携帯も買い替え…毎日やる事はあの人にご飯を作り掃除をする事。

でも……結婚間近の忠聖さんが番など作っていいのだろうか。思い出される壁の写真たち。

二人で笑い合う、忠聖さんと婚約者、海だったり山だったり…海外、テーマパーク、たくさんの旅行地の幸福な様子が写されていた。

新居にはもちろん無いし、何ならリビングには一枚だけ、二人で撮った写真が飾ってある。

それは……優越感と、ほんの少しの罪悪感、そして不安。

もし婚約者と結婚したら…俺達は三人で住むのだろうか、俺は家政婦だし。
よくある話だ、日々の住まいとは別にオメガのヒートの期間だけ帰ってこない旦那…。

アルファが愛人のオメガを何人も番にするのはよくある話でも、一緒に住むなんて…映画の中の話だ。

もし三人で住むのだとしたら…そこに俺の居場所はあるんだろうか。

忠聖さんの言っていた事も、少し分かる。
俺はもし…噛まれる前に番になる打診をされていたら、こうして色々と考えては悩んでいただろう。

それでもきっと俺は、忠聖さんの番になる事を選んだとは思うけど、やっぱり忠聖さんが婚約者と愛し合うのを傍から見なければいけないのは辛い。

アルファ夫婦間で生まれた子どもと、オメガの愛人との子ども……なんてしょっちゅう作品にされている様なシチュエーションで、まさかその不安が自分に降りかかるとは思ってもみなかった。

オメガはアルファを産むが、妊娠はしづらい。

忠聖さんは、俺にアルファの子を産ませ、荒木忠聖という人生を完璧に彩ろうとしたのか……やはり、家で一人というのは俺に考える暇を与えてしまう。


「考え無しに引っ越してきちゃったの…間違いだったよなぁ」

家事は嫌いじゃない。
忠聖さんと居れるのも幸せ…。

だが、今の俺には逃げ場がない。
実家にも帰れないし、携帯に知り合いはいないし…この関係がいい物になるとは思えないのは俺だけだろうか。

もちろん、忠聖さんと番った事に後悔は無いのだが…どうにも俺は不安だった。

「そもそもさぁ、婚約者いるのに噛むって…忠聖さんって俺を家政婦として繋ぎ止める為に番ったって事だよな?」

一生を荒木忠聖にくれ、という盛大なセリフに惑わされていたが……そもそも、アルファがオメガの愛人を作るのは、ヒートセックスを味わいたいからというのとアルファを産む為で………俺は家政婦兼ヒートセックスが出来るオメガてして、無理やり番にされた……?

「荒木忠聖は最低野郎だけど、そんな奴じゃないか……はぁ」

日中は、こうして不安や不満でモヤモヤと過ごすがあの人が帰ってきてしまえば何もかもどうでもよくなってしまうのが…情けない。

そうこうしているうちに、鍋が吹きこぼれる。

「っわ!」

あの人が帰ってくるまで…あと5時間。
楽しみで…焦れったくて切ない…そんな時間。


今日は、油淋鶏と蒸し野菜、中華スープにピーマンのお浸し、デザートにはフルーツ。

やる事がないので、シャツにアイロンをかけ刺繍で飾り入れる。

素人が触っていいスーツではないのだろうが、あの人の数十万は下らないスーツに身を包んでいる姿が好きで、つい無駄な手入れをしてしまう。

鍵の開く音、ドアの開閉音。

「っ」

俺は走り玄関に近づくと、その愛おしい男が立っていた。

「…忠聖さん?!早くない?」

「ちょっと撮影が巻いて…いつもなら既存シーンの取り直しやリハをするが、今日はそのまま終わりにした。あんなに喜んだスタッフを初めて見たよ」

スキニーパンツに大きめのパーカー、何を着ても似合ってしまう男が…俺の番が、俺を抱き上げる。

いつもこうして、鞄を受け取るが…最近では俺を抱き上げリビングへ向かう為、俺の行動は無駄でしかない。

「もー、だから、抱っこしちゃったら意味無いでしょ、忠聖さんも疲れてんのに!」

「私の疲れのピークはドアの前までだ、ドアを開けた瞬間から今日あった嫌な事も全部どうだってよくなる」

そう言われ、抱き込まれたまま忠聖さんは座り…膝の上で、充電するみたいに強く、強く抱き締められた。

この男は……今、婚約者よりも俺の方が好きなんじゃないだろうか……という願望にも似た馬鹿な想像が膨らんだ。

だが、婚約者と俺どっちが好き?なんて卑しい質問をこの人に送りたくはない。

それに、口篭られた時に俺は酷く傷つくのは目に見えているし。

唇を吸われる。
愛おしそうに頭を撫でられ、髪の毛を梳くと優しく耳に掛け、顔中にキスを落とされる。

何度も角度を変えては舌を絡ませ、唾液が交換されていく。

これで……好きじゃなかったら…何なんだ。

家に居る時は、大体俺の身体に触れていて…本を読むにも抱き抱え…皿を洗っていても後ろから抱き込まれ……昔の淡白な荒木忠聖が見たら卒倒しそうな程に甘い。

「遥、今日は変わり無かったか?」

「…別にないよ、家に居るだけだし」

よかった、と言うとまたキスをする。

その手が…服の中をまさぐり…厭らしく背中を伝った。

「……忠聖さん?油淋鶏、出来てるけど……」

パッと俺の服の中から出ていく忠聖さんの手。
最近はどうもこんな感じだ、少し触れて……戸惑う。

「…あ、ああ…食べよう」

その言葉を聞いてキッチンへと向かった。

さっき作ったばかりの唐揚げに甘酢を振りかけ……忠聖さんが背中に寄り添う。

「もう、なんでそんな甘えん坊なの…忠聖さん」

勘違いしそうだ、全てを捨てても俺を選んでくれるんじゃないかって。

「遥……夜、抱いてもいいか」

ヒートでも、ラットでもないセックス…それだけで…身体が疼く。

荒木忠聖という一人の男が俺を抱きたいと言っている。

それだけで…振り返って彼の唇に口付けしたくなった。
セフレとは…散々したセックスなのに…こんなにも…心臓が鳴る。

そっと振り返ると…俺よりも高い身長を屈め、頬にそっと優しい唇が触れた。

「っ、でも…ヒートじゃないから妊娠しないよ?」

俺はこの男に、なんて言われたいんだろう。
妊娠しないならしても意味が無いな、と言われても…妊娠なんてさせるつもりはないと言われても…きっと傷つくのに。

俺は、いつの間にか俺が一番嫌いな人種に変わっていたのだと自覚する。
とにかく、この人が俺の一挙手一投足で困ったり機嫌を取ったりする事を望んでしまう。

番とはいえ、俺はただの家政婦で…そのうちに婚約者の女性が俺達の間に入り込んでくるのに……俺は…いつの間にか、俺だけを…愛して欲しくなっていた。

「…妊娠?遥は妊娠したいのか?私は…遥は妊娠しなくてもいいと考えてはいるが…遥は、私と子が欲しいのか?」

俺は…俺は、何も分からない。
子が欲しいのか、欲しくないのかも…とにかくこの人と一緒に居れればいいなんて、綺麗事過ぎたのだ。

番った影響で不安定なのかもしれないが、妊娠しなくていいと言われたのも、婚約者に産ませるからという含みを感じてしまう。


何よりも、うじうじと悩んでこの人に構って欲しくて嫌味な質問を投げかけようとする俺自身が嫌いだった。

傷つきたくなくてちゃんと話し合う勇気もないくせに、一丁前に悩み…自分だけを選んで欲しいと嘆く。

この男が他の人を愛するのを見るのが…堪らなく嫌だ。

「忠聖…さん、俺……少し外の空気吸ってもいい?ごめん………」

そのうち戻るから…と小さく呟いたが泣くのを堪えているせいで語尾は小さい。

帰る所なんて無い……連絡先も残っていないし…心配する母親に無理を言って金を借りてホテルに泊まるくらいしか、俺の居場所は無い。

俺は、調理中の食物を置いたままエプロンを外し…そして、忠聖さんに抱き締められていた。

「どこに行く、遥」

「っ…はなして」

腕力も身長も、到底適うはずもなく…俺の身体は自分の意思も関係無く宙に浮く。

抱き抱えたまま運ばれた二階部分、寝室に使っている部屋に座らせられると、引き出しから取り出した鍵を鍵穴へと差し込んだ。

「遥は疑問にも思わなかったみたいだが…この部屋は鍵穴しかない、鍵を閉めてしまったら外からも内からも鍵を使わないと開かない、普段は別に閉めていなかったが、こういう時の為だ」

最初は、俺の意思なんて関係無く抱きたかったのかとも思ったが…忠聖さんは隣に座ると俺を心配そうに見た。

「遥、何故泣きながら私から離れようとする?私の直せる事ならなんでも直す、頼む……こんな所にお前を一生閉じ込めて起きたくない…。言っておくが、お前は私から逃げられない。もし今誤魔化して…私が居ないうちに逃げても必ず、必ず見つけられる様に何重もの細工がしてある」


忠聖さんはゾッとする程に光の籠らない目で俺を写し…言っている内容を咀嚼し…考えているとその執念の深さに心臓が鳴る。

これでは…まるで深く愛されているようだ。

俺がどこに逃げてもこの人は見つけて…俺がもう出て行けないように引っ越す前からこんな部屋まで用意されていた。

その事に…俺の拗れた紐の結び目が解れていくみたいだ。無理やり番われて…監禁されかけて、喜んでしまう。

「俺、婚約者とうまくやれるかな」

「は?」

こんなにも、呆然とした…荒木忠聖を初めて見た気がする。

「婚約者?遥、お前…政治家の息子なのは知っているが婚約者が居るのか?」

「へ?」

違う、とすぐに弁明しようとする俺の身体に荒木忠聖が降ってくる。

ベッドに倒され、その口付けを受け入れると…その顔は悲しみなのか怒りなのか分からない程に歪んでいた。

「許さない…」

「忠聖さ、」

「絶対許さないからな、私は…家族からもお前を隠す、どれだけ会いたいと願っても絶対に……お前だけは…私の…」

婚約者が居るのは、あんたの方…という言葉を投げる隙も無いくらいに吸われた首筋、唇……。

俺はあんたに婚約者が居ると知ってもずっとイイコで居たのに、この人は俺に婚約者がいるかもしれないと思っただけでこんな風になってしまうのか。

押さえ付けられた手が痛い、強すぎる執着…これが愛じゃなければなんだ。

「……忠聖さん」

「っ、出さないからな…私は、絶対」

「俺に婚約者はいないよ…ごめん、何でもないんだ…」

こんなにも、取り乱し俺を抱き竦めるこの男。
もう聞かなくても不安になる事はない程に…その確かな愛を俺に見せてくれた。


くい込んだ腕が痛い、俺の脳みそは不思議と冷静になっていて、油淋鶏を温め直さないと…と場にそぐわない事を考える。

「………遥、お前がいないと生きていけない…」

その理由は、この人があまりに感情を揺さぶっているからで…俺は何もここまで重く捉えてはいない。本当に一緒に住む事になっても、この人が俺を説得していたなら応じていただろう。

なのに…この男は、俺に婚約者がいるかもしれないと思っただけで……この世の終わりみたいに絶望を宿している。

「……私にはお前だけ、絶対に離す事の出来ないたった一人の愛おしい存在だ……お前を飼い殺しにしたら、私は、死にきれない」


もう、ちゃんと分かっていた。
別に婚約者が居ようと居なかろうと…俺はこの人を愛していた、言われたかっただけなんだ…愛していると。

「うん、忠聖さん…拗ねてごめん、今ちゃんと分かった」

「遥、遥……お願いだ、離れていかないでくれ。私にはお前がいないと生きる意味もないくらい……好きなんだ、お前が」

頭を撫でる、あんなに偉大だった俳優荒木忠聖が…あまりに情けなく俺に縋っている。


この人は、俺をちゃんと好きだった。
有名俳優という重荷の下で藻掻く、たった一人の男を支えられる、それだけで…俺はどんな苦行でも成し遂げられる気さえする。

「はいはい、忠聖さん。俺ここにいるから……ご飯食べようよ」

どうしようもない…この男を俺も…酷く愛している。


その日は…そのまま、油淋鶏に手を付ける事もなく、貪られたのは俺の身体だった。

何度も、本当に出ていかないか?と聞かれた。

その度に…何度もイかされぼんやりとした脳みそは肯定を呟き、熱に浮かされ荒木忠聖のものだと言わせられる。

孕まないオメガの胎に、これ程かと注がれた精液は……荒木忠聖の、確かな愛だった。



俺は、日々の家事が余計に暇になった。
なんせ考える事が無いからだ。

抱き潰され、痛い身体を無理やり起こし朝食を拵えると忠聖さんを送り出す。この人の帰りを待つ間は、出た作品をチェックしたり…掃除したり、夜の買い物をしたりと、まるで代わり映えの無い日々。

前までは、婚約者と俺との三角関係の事ばかりを考えていれば時は過ぎたが…今はそれすらもない。

家事をし…忠聖さんを待つ生活。
あの人が帰ってくる事だけが楽しみで…毎日の様に抱かれ、愛を囁かれる。

婚約者との顛末は結局聞かなかったが、もう別れた可能性も高いだろう。あの日、最後までそれは聞けなかったが…俺への愛は明白で、それが一番大事な事だと思えたから。

そもそも、未婚の方が荒木忠聖にとっては都合がいい筈だ。オメガとの結婚…しかも俺の様な人間との婚姻など醜聞でしかない。


だが……俺の目に入ったのは、緊急速報のテロップだった。

『荒木忠聖、結婚!』

最初は、やはり婚姻自体は婚約者と済ませたのだと…青ざめる顔で見つめていたのだが…どうにも訳が違う。

相手は一般オメガ男性…昼から放送するニュースに荒木忠聖がコメンテーターとして出演する際に軽く説明がなされるとキャスターが言う。

俺は……ほんの少しの恐怖と戦いながら、ニュース番組の始まりを待っていた。

もし、俺じゃない人間との婚姻のニュースでも心を乱さぬように…自分に言い聞かせて。

そして、真ん中のイスに座らせられた俺の番の姿。コマーシャルを開けたらすぐにその、凛々しく長い足がイスから投げ出されている。

『まさか、あの荒木忠聖が結婚とは~めでたいですね』

『はい、厳密には結婚はまだですが…婚約は無事に』

俺は、目をまん丸に開くとテレビに駆け寄った。

『お相手は、オメガの男性だとか』

『はい、ひょんな事から出会いまして…一般人なので、あまりお話出来ませんが可愛くて家事のうまい年下の男性です。半ば私から強引に婚姻を迫ってしまいましたが…今は一緒に暮らして…うまくやっています』

手の甲に冷たい水滴が落ちてくる。
こんなの…どう考えたって俺の事だろう。

幸せそうな顔の荒木忠聖なんて解釈不一致だ、結婚した事なんて言わなければ女性ファンにも困らないのに…俺は、嬉しくて、嬉しくて…ぼたぼたと垂れてくる涙はずっと不安だった俺の心を潤した。

『オメガという事ですと、やはり荒木さんはアルファの息子さんか娘さんを…?』

『はは…今の時世それは……まぁ、ですが気になる人も居ると思うのでお答え致しますと、私は子は望んでいません。少子化の現代を考えるとお叱りを受けるかもしれませんが、私は妻を失う可能性が1%でもあるのなら…二人だけでいいかと』

『おー物凄い溺愛っぷりですね!』

オメガの出産は、難産の場合が多い。
俺が邪推して苦しんだ忠聖さんの発言は、俺を思っての事だった。

「っ、そんな好きならさぁ、ちゃんと言えよ!」

俺ばっかり、好きなのだと思っていた。
ぽたぽたと落ちる涙が……とめどなく流れては、床を濡らす。

「っ、絶対産んでやるし、おれ死なねーし…荒木忠聖の遺伝子残してやる…絶対美形だろそんなの…」


俺は…世界で一番幸せな…オメガだ。
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