完璧すぎるα俳優の私が君の人生を無理やり奪うまで

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9「ただひと、さん……番?ほんと?番っちゃったの、おれ……」

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オメガというのは、何とも………不憫だ。
アルファという立場からこうして見下している事は否定しない。

だが、人は平等ではないから。
アルファやベータでも、私が考えもできない様な不幸な境遇の者もいるだろうし、もちろんオメガでも幸せな者も多い。

だが、この大河内遥という男は不憫だ。

私と出会ってしまったから。

私が…荒木忠聖という役から降りた絶対的なきっかけは、遥にヒートを告げられた時。

前々から、元カレ兼セフレがいるというのは耳にしてはいたが、私とこんなに一緒に居るのなら、そんな馬の骨の顔などすぐに見たく無くなると高を括っていた。

だが、ヒート……それだけは……違う。
もし今回のヒートで遥の項が噛まれたら?

一生そのセフレのフェロモンにしか発情しなくなり、ヒートの時専用の抑制剤も効かなくなる。ヒートの時、番が居なければ死も同然の苦しみが襲う。

つまりは、オメガはヒート時に噛まれたアルファに人生を捧げるんだ。
契約ではない、約束でもない、ヒートの時に項を噛むという行為で……あいつの人生を事実的に掌握できる。

その危険がある行為を、他のアルファと行うという自覚。常に銃口を突きつけられた状態で命乞いをする犬の様だ。

あの日…穏やかな関係を築いていた遥にヒートは他のアルファと過ごすと言われ……生きてきた中で一番…許されざる行為だと感じた。

性処理は百歩譲っていい、だが噛まれるのだけは絶対にダメだ。

私という不誠実でどうしようもない男は遥の目の前にあるヒートに対処してはいけない男だった。

指を銜えて待つしかなかった、その時もアルファとヒートセックスをしている遥を。
耐えられない、部屋中の物という物に当たり……ただ遥の項が噛まれない事を願うだけの屈辱。

もちろん、遥にこんな感情を振り乱す姿は見せる訳にはいかないが……私は気づいたのだ、荒木忠聖という男は順風満帆という役を降りるのだと。

大河内遥を、心の底から愛している。
何の打算も計算もない、もし遥の四肢が動かなくたって顔がズタズタになったって、私は遥と居たい。そして……そこに他の誰もいて欲しくないし、遥を抱きたい。ラットでも、ヒートでもなく…恋人として。

むしろ私の手しか取れなくなるのなら、こいつの人生や精神も、とことこん傷が付いてしまえばいい……などと、恋愛なんてした事のない私は、利己的すぎる独占欲に心を荒ませる。

次のヒートで、絶対に遥の項は噛もう、そう決めた。
あまりに非可逆性すぎて、恐ろしすぎる発情…もう私はあの不安に耐える事は出来ない。


今から三ヶ月前、ヒートに向けて私はあまりやりたくない仕事との提携をした。
本当は荒木忠聖の役者の仕事を疎かにするつもりは無かったのだが、これから番えば今まで通りにはいかなくなるので、ウチの役者の活躍の場を増やしたいというのもある。

だから、海外にも行ったし……婚約者にも会った。元々ビジネスパートナーとしての側面と、私のイメージアップの一因という見方が強かったので、相応の慰謝料と相手の食品会社との提携を結び、俺との婚約を決めた時よりずっと嬉しそうだった。

まさか私が、荒木忠聖という役に宛てがう伴侶ではなく、好きで仕方ない者を置こうと思う日が来るなんて……な。


そして、セフレの問題……彼は金で即買収出来たので割愛。

アメリカでネット配給のドラマを撮るのも実は少しだけ楽しかった。地上波では絶対放送出来ない様なアングラな内容、ここまで最低すぎる男の役は初めてだ。

久々に演じて楽しい、という撮影だった気がする。本来は違法だが、ネックガードの電子キーを壊す装置も忘れずに購入。

色々な外堀を埋め、私は日本へと帰国した。
準備や、番った後の新居探し…あとは一ヶ月も居なかった会社での調節、これからも休暇を増やす為の対応。

無理に番うのだから、ヒートの苦しみを度返ししても私から逃げるかもしれない。だから……その為の内側から開かない部屋を作ってもいいマンション、もしくは戸建て。

そして…帰宅後に色々と方をつけて遥を呼ぶと、彼はくしゃくしゃに顔を歪めていた。
遥にとってただの雇い主でしかない私に対して、あんなにも寂しがってくれる。

抱き締めて、唇を奪いたいが…まだ早い。

遥の無神経なセフレの発言だって一ヶ月も他の男と寝ていたという事実だって、私はもうどうでもいいんだ。

私のフェロモンで反応した性器を、口の中で弄ぶと、ぴくりと揺れる身体に口付けをする。
やはり日頃、眠れていなかったようで、起きる事はなく、私の与える快楽に身悶えする。
可愛い……このまま、挿入してしまいたい…が、それ自体は噛んだ後にいつでも出来ると思えば…今の私にはどんな事でも我慢出来る。

口の中に、遥の精を受けると清拭をしてやる。

遥、もう来月には……君はずっと私の側にいる事になるから。


そして……遥があのセフレと約束していた日。
私は一週間のオフを取っていたので、あのアパートに向かう。ドア越しにも遥の匂いがして、やはり番にする事を強行してよかったとすら思った。

鍵はもちろん作成済み、鍵は何なら針金などでも簡単に開けられそうなほど簡素で…私は辟易とする。

遥、遅くなって申し訳ない。
ヒートのオメガとは初めて見たが、あんなに強気で凛とした遥が弱々しく私の脚に縋る。

もう合理的な事を考える事も出来ない様で、私が行ったワルイコト達には興味を示さなかった。

私に抱いて欲しくて、追い縋りキスを強請る。
ああ……なんて可愛い、狂いそうな程に過去の男には苛立つが、これからこの姿を見ていいのは、この荒木忠聖だけ。


「遥、これは君のネックガードを外す為に持ってきた電子キーの代わりになる改造ガジェットだ。君が押しなさい、その熱を静める為なら私と番うのなら、押してくれ」

これは、同意だからいいだろう?と言いたかった訳じゃない。

遥が私に抱かれる為に、私の番になる為に、自らネックガードを外すのを見たかっただけ。

あまりの支配欲にゾワゾワと悦が走る。

これが…私がオメガを不憫だと思う全貌だ。
ヒートにこうして、私の様な悪い男に入り込まれたら、番わざるを得ない。

あんな…薄い板のドアに些細な鍵、数十万払えば買う事の出来る違法装置…こんな事で掌握されるんだ。


すぐにそのボタンを押すと、またしても私の口に吸い付き、舌を押し入れてくる。

キスがこんなにも素晴らしいという事を初めて知った。レオとセックスしたいと言い、私のセックスを拒んだこの唇も今では私に抱いてくれと懇願する。

遥がベータでなく、オメガだった事を、居もしない神に感謝した。

「遥、外してくれありがとう。遥、愛してる、お前が私の人生を変えた。自分より大事な物を見つけた…いや違うな。私は自分が一番大事だから、こんな事を君にしてるんだ…でも謝るつもりはない」

遥の唇に、深く口付けをし…その身体をベッドに縫い付ける。

もう、自慰で後ろのアナはドロドロに解れていたが…それでも、シラフでは初めての…いや、好きになってから初めての遥とのセックス、前戯も快楽も楽しみたい。

乳首を吸い、耳元に口付けをする。
何をしても悦ぶ遥の身体……そして、私を求め挿入をせがんでは嬌声をあげる。

あまりに幸福で、可愛くて……愛している。

「すまない、遥……前戯を楽しむなどとかっこつけたが…やはり、無理みたいだ。またヒートの君と楽しむのはいつか、抗ラット剤を打った時にするとしよう」

私はすぐに遥の可愛さに籠絡され、初めてセックスをする猿のように遥の身体を押さえつける。

遥は、無意識か…最後に少し残った理性なのかゴムの在処を伝えようとしたが……これから番うのにそんな物が介在するなど許すわけが無い。

私は、そのナカにぬぷぬぷと入り込んでいく。柔らかく、熱く……溶けそうな遥の胎のナカ。

気がおかしくなりそうなくらいの快楽。
今までしてきたセックスと同じものだとは思えない。荒木忠聖のするセックス……相手を適度に喜ばせ、女ならゴムを二重にし…相手の反応を見て、射精のタイミングを図る。

それがセックスだと思っていたのに、これはなんだ…込み上げてくる精子が吹き出ない様にしていないと、すぐにでも遥のナカにぶちまけそうになる。

遥は、もう自らの腹の上に射精しており、余計に濃くなったフェロモンは俺の脳みその電極をそのまま刺激する。

性器の熱した焼きごての様な熱さ、フェロモン、ナカの感覚……全てが、体感したことのないあまりの悦楽。

溺れそうなくらいに、ピストン運動を繰り返した。
無理やり策略的にネックガードを外させておいて何を言うんだと思うだろうが…私は割とロマンチストだ。

やはり最初の射精に合わせて噛みたくて……正常位で思い切り組み敷いていた体勢をうつ伏せに変えると、その美しい項を舐める。

ああ、なんて無防備な項。
遥を寝転がせたまま、ナカに入り込むと、ずっとずっと……焦らす様に項をしゃぶる。

遥は、項を触られる度に熱が這い上がるみたいで、その度に腰が揺れてナカに精を媚びているみたいだった。

ああ、出してしまおうか、それとも……番では無いこの一瞬の無防備な項を楽しもうか……そんな事を考えている私を煽る遥が嬌声まじりに叫ぶ。

「っあ、~~っおねが、ぁただ、まさ、さ、ぁ、かんで、あんたの、ものにして…あ、ぁあ、すき、あ、忠ひと、さ、好き、ぁ」

ヒートの最中のリップサービス、遥が言っているのでは無い。この…強くて金も権力もあるアルファに本能が言わせた言葉だと理解している、それでも……その言葉を聞いてしまったら、射精のコントロールなど出来るはずはない。

荒木忠聖が……情けない。
遥の好きという言葉に反応し、ばちゅばちゅと欲のままナカを擦り上げると、彼の身体を抱き締め押し潰したまま……込み上げてくる精に我慢出来なかった。

ドクドクと、ナカに注ぎ込むのと同時だ。

「っ、はるか……噛むよ」

長い髪の毛を少し退かして、思い切り歯を押し当て力を込める。歯が肉を貫く嫌な音。そのまま、吸い付けば遥の血の味が口の中に広がる。

身体が瞬く間に熱くなる、動物の遺伝子をそのまま受け継ぎ、どんな分野でもベータやオメガより優れたアルファの喜びが……身体を駆け巡った。

アルファとは孤独だ、アルファは……アルファ同士かアルファとオメガからしか産まれない為、必ずアルファの親のどちらかはアルファ。

私の家は典型的な愛のないアルファ同士の結婚で、父も母もオメガの愛人がいた。
アルファの孤独はオメガでしか癒せないのだ。

それを知っていても……私はアルファと婚約したし、オメガと番う気など無かった。


もちろん、遥を孤独から逃げる為の隠れ蓑にする為の番じゃない、ただ……遥を愛してしまったから。

お願いだ、荒木忠聖の何を用いても幸せにする、苦労もさせない、何もしなくていい……話さなくても、子だって宿さなくていい……だから、私の側にいてくれ。

弱いオメガ、こうしてアルファに無理やり組み敷かれてしまったら番わせられてしまう。

だから、私が守らなければいけない。森羅万象の全てからこの弱い遥を。

「遥、愛している」


遥はくったりと……意識を失っている。
私はまだ抑制剤が効いているうちに持ってきた食料や水を寝室に運び込んだ。

軽く抱き上げ水を飲ませ……すぐにまた汚れるだろうが清拭をして抱き締める。

私の遥だ……もうこれで、誰も……一生遥とは番えない。遥は、私でないとヒートの熱を発散出来ない。

その事が堪らなく……私の全てを満たす。

腕の中の遥が、前にソファで抱き合った時みたいに私の胸に入り込み、アルファのフェロモンを嗅ぎとると、また身体を震わせた。

そうだ、もう遥はこのフェロモンしか嗅ぎとれない…それを自覚すると、口角を上げ、また口付けを落とす。

「……ただ、ひとさん……」

「遥、番の精をナカで受け止めるとヒートは……いつもよりマシか?」

番の精、わざわざ口にしたくなりそう伝えれば……先程までの事を思い出したのか、遥の顔が赤く染る。

「ただひと、さん……番?ほんと?番っちゃったの、おれ……」

ゆっくりと、首の後ろに手を回すと、私の付けた傷に触れた。

「……わ、ほんとに……なんで、おれ……っはぁ、番……忠聖さんの……?はぁ、ただひとさん、おれ…よく覚えてない、俺のナカ…出した?おねが、思いだしたい、もう一回……したい」

さっきみたいな、理性など存在せずただ本能のままアルファに媚びる遥も可愛かったが、こうして羞恥を隠しきらぬまま身体を隠し煽る遥も一興。

もちろんヒートが一度のセックスで収まる訳ではないから……理不尽に番にされた事への現実的な怒りなどは持ち合わせる余裕はまだ無い様だ。

「……遥、あと数時間で私の抗ラット剤が多分切れるだろう、それでも……絶対に君に辛い思いはさせない。嫌だったらちゃんと言ってくれ」

無理やり番にした人物のセリフとは思えない。だが、遥は嬉しそうに顔を覆う。

「……ただひとさん、おれのヒートなんかにつきあって…っはぁ、仕事……は?」

私は、その赤く火照った身体をベッドに優しく倒すと口付けを頬にもおでこにも……唇にも落としていく。

「大丈夫、この為の海外出張だ。一週間は休暇を取ってある」

私は、これから三ヶ月に一度休暇を取らなければいけないからな……なんて幸せな響きだろう。

私は事務所のアルファが番のヒートで休暇を取るのが凄く煩わしかった。
三ヶ月に一度の休暇を取る為に……無理な日程もこなすアルファ達の気持ちも分からなかったし、オメガと結婚などするから……と見下していた気さえする。

それが今はどうだ、この一週間の為に生きられるなら何でも出来る…これが一生続くと思うと、愛おしいオメガの為に働きたくなる気持ちが手に取る様だ。

遥の身体に刻みつけたい、私の形を。
私がいないと……もうヒートを過ごす事の出来ない可愛い番に覚えて欲しい、私のセックス、形…匂い、どう犯されるのか。

遥に最低限の栄養補給をさせると、またベッドに縫い付け口付けを落とす。この淫らなオメガは、美しい肢体を自分の手で持ち上げると私の精を誘った。


ああ、もうどれくらいこうしているだろう。
部屋に狂った様に響く嬌声と水音。

もうとっくに抑制剤は切れているようで、少し時計から目を離した隙に三時間が経っていた。

その次は気づけばまた二時間、遥の身体を貪り続け、意識も絶え絶えになる遥を揺り起こしては、性器をしゃぶらせ、ナカに性器を押し込み……果てる。

射精して、少しだけ頭がクリアになっているうちに遥にゼリー飲料を飲ませたり水分を摂らせる。

もう、あまり会話をする事もままならないが……射精を重ねる毎に私の身を焦がす様な熱も落ち着いてきた。

「……ただひとさん、みず…ありがと、はぁ……まだ少し熱い、けど…二日も経ってないとは思えないくらい、からだ…らく」

遥の嗄れた声。
到底楽そうには見えないが、今までのヒートはどれだけ大変だったのだろう。
横たわった遥の頭を撫でれば、私の腰に腕を回し擦り寄った。

「遥、酷くしてしまってすまない…ラットとヒートのセックスは…凄まじいな」

快感のレベルは本当に図り知ることの出来ないセックス、だが…自分が自分でなくなる様な感覚は少し怖い。
オメガは……遥は、物心着いた時からこんなヒートを三月毎に抱えていたのだから、不憫だ。

「忠聖さん、気持ちよかった……過去の、どんなヒートよりも……」


番だから、と言ってしまえばそれまでだが…無理やり番った私には勿体なさすぎる言葉だ。

「……お願い、もう一回だけ……」

ペットボトルが床に落ちる。
遥が私の腕を引き、体勢を崩し……唇に触れた。

「こんな荒木忠聖のすがた、見れんの…おれ。ぼろぼろ、いつも決まってるかみのけ、荒れてて、からだ中キスマ、あんなかっこいい、荒木忠聖がさ…おれの噛み跡だらけ」

熱の冷めて来た遥の目には、みっともなく浮かれた荒木忠聖が写っているのだろう。

遥の身体も……噛み跡も鬱血もそこらかしこに付いている。特に、何度も何度も噛み直した首への傷は痛々しい。

そして……遥が私の唇に口を重ね、ゆっくりと舌を絡めると味わうみたいに吸い付く。

「っ……忠聖さん…」

遥の舌が、首筋に吸い付き…そのまま、赤い跡を残しながら舌は性器へと辿り着く。

たどたどしい、遥の口淫。
先程の様に、口の中にただ突っ込み動かす物とは違う、彼の意思で放り込まれた口の中、蠢く舌。

「う、む…こんな事、したの初めて」

初めて…その言葉に呆気なく心が昂る。
そして…それを裏付けるみたいに、下手くそな舌使いが私の欲望にまた火を灯した。

「……普段はしないのか」

「ん、ふ…ふぇらNGだから、おれ」

もう痣だらけの腕を掴むと、思い切りベッドに倒す。

口から性器を抜くと、その唇を思い切り塞ぎ……またしても首筋を噛み締めた。

「っ、た」

「遥……お前と居るとおかしくなる」

右脚の太ももを持ち上げ、もう何度も何度も突き上げたそこに、またしても性器を埋めた。

「っんぅ!」

両手は恋人繋ぎで押さえつけ、唇を角度を変えては吸い付き……一番奥に押し入れていく。散々したはずなのに…新鮮に快楽を生み出す遥のナカ、この私が……こんなにも夢中になってセックスをしている。

その後も体位を変えては、遥を虐め……遥はもう十分だと泣き言を言ってもやめてはあげられなかった。

私のものだと、何度も何度も教え吸い付き、ナカに遺伝子情報を刷り込む。

子が出来てしまえばいい、もっと…もっと頑丈な鎖が私達を縛り上げるから。


荒木忠聖という男の人生は、身勝手で…理不尽で…自分の欲の為にこの男の項を噛む、最低なシナリオ。何をしてでも償う覚悟がある程に、この男…大河内遥を取られたくなかった。


「あ~最高、番うとヒートこんな楽なの……その、やべーし」

最後に精をナカに放ってから、しばらく寝ていたと思ったが、起きた頃には遥はピンピンとしていた。

私は、叱咤を受けるとばかり思っていたので、そう言い放ち、笑う顔の遥に困惑する。

「遥……」

「てかさあ、セフレは?鍵は?何その装置?」

怒涛の質問が押し寄せる。
だが、その目に怒りはなく好奇心が上回っている様だ。

「遥……怒らないのか、セフレは蹴散らした。鍵は前もって複製してた、装置は簡単に購入出来るんだこんなの」

私は……遥の怒らない、むしろ少し元気な様子が痛々しい。自分の人生を奪われても怒る事も出来ない性別など…あってたまるはずがない。

でも、だからこそ……こうして一生守る……と言い聞かせても、少し苦しい。


「蹴散らした?ていうかさ、忠聖さん俺と番いたかったの?ヒートセックスしたいってよりは番になる事が目的だったよな?」

朗らかなのだ、微塵も怒りなど無い様子で冷蔵庫にびっしりと入れた甘味を頬張る。

土下座の要求でも、暴行でも何をされても構わないと思っていただけに、遥の平然とした態度は腑に落ちない。

「……遥、無理やり噛んだんだぞ、卑怯な方法で。番いたかった、絶対に番うつもりだったから……海外にも行ったし、会社の形態も変えた。君は人生を無理やり私のものにされた、もっと…怒って、泣いていいんだ」

自分でも、何を言っているんだ…と思わざるを得ない。もっと、正当化する様な理由を考えていたはずなのに…。

「んー、俺別に…忠聖さんに番たいって言われたら、いいよーって言ってたし。俺の父親もオメガの愛人居てさ、俺はああなりたくないって思ってたけど…オメガなりに幸せそうだったし、そりゃ…やっぱり少しは悲しいよ。でも…ちゃんとナンチャラエングミとかしてさ、ちゃんと一生面倒見てくれるなら……それでもいいや、俺」

初めて、演技以外で涙を堪えたと思う。
私と番ってもいいと思ってくれていた……それだけで……もう、今ここで命が尽きても文句は言えない程の僥倖だ。

「……荒木忠聖に……遥の人生をくれ。絶対に苦労はさせない、望む事はなんだってする、したくない事は何一つしなくていい、遥……君の一生を私と共に生きてください」

私は跪くと裸でアイスを銜える遥の手を握る。ボロアパート、お互いが半裸と全裸……なんて滑稽なプロポーズだ。だが、私は心臓から砂糖菓子を吐きそうな程に幸せで…嬉しくて、この……男がたまらなく好きだった。

「っはは、そんな畏まんなくていいし。はいはい、忠聖さん」

遥は、もう仕方のない事を考えない様にしているのかもしれない。どうせ番の解消は出来ないし、本当は嫌だが…養われるのも悪くない、と自分を言い聞かせているのだろうか。

それでも……狂おしい程に喜ぶ憐れな私の肩を抱いてくれる遥を、絶対に幸せにしたいと思った。

「日本で一番有名で?社長で俳優で、ちょーモテモテは荒木忠聖さんがさ、口説くでもなく、無理やり噛むなよな。ちゃんと口説けよ」

私達は身体を清め、車で私の家へと向かう。
流石にあのボロアパートはすぐに引き払うつもりだ、新居も決まっているし。

車の中では、左側にいる遥が大音量のお気に入りの音楽と共に、そう吐き捨てた。

「……そんな時間はなかっただろ、今回のヒートで絶対に番うと決めていたし…正直選択肢には無かった。最悪、勘づかれれば逃げられるかもしれないし…」

「はぁ、ださ。忠聖さんってそういう所あるよな、それだけ完璧人間しといて、なんか自分に自信ないとこある。普通に、番いたいーって言えばいいのに」

そう…なのだろう。
遥に対してだけ妙に…空回り、うまく生きれない。遥にそう言われても……結果論上手くいったとはいえ…番う前に聞いていたら遥は逃げそうだと思った。

「…お前は何も欲しがらないだろ、私の身体も金も。どう口説けって言うんだ」

「……別に金と身体だけじゃないだろ?荒木忠聖の優しいとことか可愛いとことか、ていうか理由なんか無くてもさ、忠聖さんと一緒にいたいって思うんだよ」

心臓が言いようのない熱を産む。
理由が無くても一緒に居たい、という言葉は私にとって甘すぎる。
こんな甘い物を摂取してしまったら、もう他の栄養で生きていけないのかと思う程に甘い。

それは私にとって恐怖だ。
とっくに気づいていた遥への執着が膨れ上がり、これが無いと生きていけなくなるのが。

いや、もうとっくの昔にそうなっているのだが、さらに甘さをもたらす遥の言葉は…これ以上私をどうしたいのだと…頭を抱えてしまう。

調べあげた彼の出生を見た時は驚いた。
有名政治家の次男坊……オメガというだけで厄介者扱いされた、不遇の身。

愛されなかった事は分かる、それが彼の形成にどう関わったのかは知らないが、遥の底抜けの優しさと暖かさは私に対する父性を求めた形なのかもしれない。

「遥、私も…君がその四肢を失っても、声を、視力を、何を失っても…私は君の側にいる」

ちらりと右側に目をやると、少し微笑んで…というよりも笑いを堪えている様だった。

「っ、はは…忠聖さん…それはキモイし不謹慎」

キモい…多分初めて言われた言葉に少し目眩がするがケラケラと笑う遥が可愛いのだから、幸せだ。


「遥、実は新居を決めた。凄くいい所を選んだのだが、遥が嫌なら止めるが…明日見に行かないか?」

「え……引っ越すの?俺は別に遠くなければどこでもいいよ」

つまらなそうに手遊びする手を引っ張ると、その手を握り込んだ。

「……遠い?どこから遠いと嫌なんだ?」

「そりゃ、俺の家からだよ…通うの大変だろ?」

このオメガは…本気で言っているのだろうか。

「遥…あのアパートはもう帰らないよ」

見るからに困惑しているが、困惑したいのは私だ。折角番ったのに、なぜ離れて暮らすと思うのか…私にも分かる様に説明して欲しい。

「……え、一緒に住むってこと?」

この可愛い……少し頭の弱い遥との生活は少しだけ前途多難だ。
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