忘れられた側室は、次期王の寵妃になりたくないので

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6 「……っはぁ、あと一年、早く産まれてたらなぁ」


「リーシャ、今日昼に伺いました」

「アイリスに聞きましたよ、殿下と関係を持つのが嫌と言ったらしいですね」

「う……そりゃ、嫌です。でも僕は…あなたを縛りたくはない」

フェルディナンドは、リーシャを湯の中に優しく落とすと自らの服が濡れるのも厭わずに一緒に入っていく。

十年も暮らしていた側室宮の湯船は、皇后宮と比べれば狭いが馴染みがあるようでリーシャは心地よさそうに微笑んだ。

「流石にあなたの母の部屋で抱かれる訳にいかないでしょう?私とアルベルトが致しているのを知っていてわざわざ覗きを?」

美しい花びらの散るバスルームに、長い黒髪が揺蕩う。

「少し気になったものですから」

「……アイリスに何か言われたのですか?あの子とは長い関係ですからね、私の事はなんでも知っています」

「でも、三年程離れていたとか」

いつも感情を動かさないリーシャが珍しく顔を歪めるとフェルディナンドに背を向ける。

肩甲骨の浮き出た美しく白い背中。

「私にも色々あるのですよ。フェルナンド、あなたに知られたくない事ばかり。嫌われたいわけじゃありませんから」

その小さな声が耳に届く頃には、口から内蔵が出そうな程の恋慕に耐えられなくなりフェルディナンドが細い背中を抱いた。


「リーシャ、あなたの事をもっと知りたい。毎日同じ部屋で寝て…あなたと僕の間に名前が欲しい」

リーシャはわざとらしく聞き返す。

「どういう意味ですか?」

「リーシャ…僕は幼い頃あなたと出会った。陛下の寵愛が潰え、正室の座をアルベルトの母に奪われた可哀想な方だと思っていました」

フェルナンドは、神妙にリーシャを覗き込むとその美しい瞳を見据える。

「その通りでしょう?」

「あなた、三年前…陛下からの正室の申し入れを断った過去があるそうですね。即位して、詳しい史書を読み知りました」

リーシャはただ笑う。
同じ王宮に身を寄せていたのにフェルナンドはリーシャの事を何も知らない。週に一度は逢瀬を重ねたその関係にも関わらず、何も。

「フェルナンド、お前は可愛いですね」

抱きすくめるフェルディナンドの体温は、湯の温度よりも熱い気がして…リーシャは少し身震いをした。

「……リーシャ、」

「……あなたは、何故私をそんなにも愛するのですか。陛下の寵愛も頂けない惨めな側室を」

後ろから抱き締められたまま身を翻すと、リーシャはフェルディナンドの青色を見つめる。

ピンク色の指先がその頬に触れた。

「…そりゃ初めは…隠し扉を見つけて、その先に居たあなたの美しさに息を飲んだから。でもこんなにも好きになったのは…知ったから。そして考えた…また知りたくなって、知って…考えている…ずっと頭の中をリーシャでいっぱいにされたのです」

「…まるで私が悪いみたいな言い方」

「恨み言も言いたくなります。僕には意地悪ばかりして、わざとらしく弟を誘って…抱かれてその跡の残った身体を僕に見せつけて…それでも好きなのです、嫌いになりたい」

痛い程の体温は、少し震え…リーシャを溶かす。

「どうせそのうちに飽きるでしょう」

「ふふ、十年の片思いですよ。それなら僕が飽きるまで、僕の側に居てください」

その唇に重ねる唇、甘い口付けをリーシャは甘受し、自ら舌を押し入れてその蕩けそうな甘さに酔っているようだった。

そして、黒髪を優しく梳くフェルナンドの手に触れる。

「……逆上せた。そんなにこれ好きなのですか?切ってやろうかしら」

フェルディナンドの抱擁を振りほどくと、勢いよく湯から立ち上がった。
腰下まで伸ばした髪の毛に触れながら、煩わしそうに見つめる。

「僕は構いませんよ、どんな髪型でもあなたを愛していますからね」

フェルディナンドは、リーシャの魂胆が見えていた。そう言えば、フェルナンドががっかりするとでも思うのだろうか。

リーシャは愛の温度を確かめる。

そして、望む言葉に赤面し浴室から出ていく後ろ姿を見送った。

「はぁ、どんなあなたでも愛してますから…出来れば僕の愛を試すために他の男に抱かれるのなら…やめて欲しいなぁ」


リーシャは、元々着てた衣類に身を通すと自分の居場所である皇后宮へ向かう。
フェルディナンドは例の隠し通路から皇后宮まで行くのだろうと高を括っていた。

だが、内部を通って戻る作りの隠し通路と渡り廊下では掛かる時間が全く違ったらしい。

リーシャが戻った頃にはアイリスの手にはフェルディナンドからの贈り物が握られている。

「フェルディナンド、来たのですか?」

「ええ、つい先程」

「そう言えば、側室宮にいた時から何やら包みを持っていましたね。その時渡せばいいものを」

「リーシャ様の荷物になってしまうと思ったのでしょうか?」

リーシャがその包みを受け取ると、中身を見て目を丸くする。

「アイリス……やっぱり今日の共寝は無しですね。あの男、少し見返したと思えば、またしても嫌いになります」

「リーシャ様……どうかなさいましたか?」

中身は、張形だった。
明らかに男性器を模した大きなそれは根元に薔薇の彫刻がしてあり、リーシャが好むようにわざわざ作らせた事が一目瞭然である。

「あ……そういえば、今日陛下がお越しになった時に殿下に抱かれるのはリーシャ様が性欲が溜まっているからではないかと仰っていました」


リーシャは、床にそれを叩きつけるとアイリスが不快な物を触るかのように端切れに包み不用品の中に押し入れた。

「お前は何と?」

「リーシャ様はそのような欲は持ち合わせませんと」

「ああイライラする。アイリス、アルベルトに明日から来週まで毎日、文を送りなさい。側室宮に来るようにと」





その日も、リーシャはフェルディナンドの腹違いの弟、アルベルトの腕の中に居た。

連日の閨は流石のリーシャでもままならない。
しかもアルベルトは前王よりずっと若く、毎日だろうが朝晩だろうがリーシャが求めれば応じる胆力があるだろう。

リーシャが始めた事とはいえ、怒りの矛先を捨て鉢のようにぶつけた事を二日前程から後悔していた。

アルベルトに近づく事は意味があるとはいえ、フェルディナンドが余計な事をしなければこんな事にはなってはいない。

その事がさらにフェルディナンドへの怒りと結びつける。

「っあ、ぁ、ぅ」

「はぁ、リーシャ…リーシャ…美しい…」

「っ、敬称を付けなさいっ、」

狭い後孔の中に性器を埋め、美しいリーシャを蹂躙してしまえば劣情は留まる事を知らない。

アルベルトは王子たちの中でもその整った顏が目立つ男だ。

母譲りのふわふわの巻き毛とフェルディナンドとも違う甘い顏は、見る者を魅了した。

だが、その軽薄な性格と勉強嫌いで政へは全くの無頓着。第六王子として、生きてきたのだから仕方がないが、王の側近として生きるには些か脳みそが足りない。

以前、フェルディナンドに覗かれ肝を冷やした事も忘れたのか、リーシャに誘われれば、のこのことまた側室宮にやってきた。

そして、リーシャに口付けを落とされれば簡単に篭絡され硬くなる性器。


リーシャを満足させたいと言うが、いつもアルベルトは快楽に打ち負け、気づけばリーシャに思い切り腰を打付けている。

「っは、リーシャ様…はぁ、」

アルベルトはほんの些細な興味だった。
フェルディナンドが囲って離さない男。

しかも出自は元々父の側室らしい。
何故フェルディナンドその父の側室と知り合いなのか、執着するのかは分からないが、彼は気にりもしなかった。

一目見て…下世話な噂話のネタになればいいというくらいの、軽い気持ち。

だがそこは、アルベルトに言わせてみれば…蟻地獄だった。

アルベルトも、怖くないわけではない。
王政の国で、王の色を抱くなど…だが目の前の欲には抗えない。

そして、フェルディナンドの性格が温厚だというのもアルベルトを突き上がらせる要因でもある。

「リーシャ様、ナカに、種を…」

「っ、ぁ、あ、駄目だって言ってるでしょう?」

リーシャから従者経由で誘いが来た時だけの逢瀬。兄であるフェルディナンドは毎日この身体を抱き締めて寝ているというのに。

当て馬のように呼び付けられては、身体だけを許される。その事がアルベルトには堪らなく悔しい。

いつもなら、女は抱けば自分を好きになるという自負があった。だが、抱けば抱く程、リーシャは自分を利用しているだけなのだろうという気持ちが過ぎる。

「……っはぁ、あと一年、早く産まれてたらなぁ」

あと一年、早く産まれていたら王位もリーシャもアルベルトのものだった。

何度思ったか分からない空想を抱きながら、あと十数分もすれば終わってしまう彼との時間に思いを馳せる。

そして、リーシャの言いつけ通りに性器を引き抜くとその昂りでリーシャの身体を汚した。

「リーシャ様……」

「…アルベルト、殿下……」

ピロートークを味わうようにその身体を抱き締め、腕の中に閉じ込めると時が止まればいいと囁いた。

「……殿下、流石は王族でも一番の色男です。好きにならないようにしないと」

今日はリーシャの機嫌がいいらしい。
いつもならすぐに立ち去れと言われるにも関わらず、その日は黙ってアルベルトの腕の中に鎮座する。

「俺は、リーシャ様が居れば……」

「ところで」

都合の悪い言葉を聞かないようにと遮るように言葉を張ると、アルベルトもそれに気づいたのは口を噤んだ。

「あなたの信者たちの動きに変わりはありませんか?」

リーシャは、アルベルトと致すと頻りにそんな話を聞いてきた。

流石のアルベルトでも、それが目的なのだと薄ら感じ取れる。

「…それは、陛下に危害を加える者が居ないかという問いですよね。今…俺の派閥なんて居ませんよ。陛下は、貴族にも国民にも程よく蜜を与えて飼い慣らしています。代わりに自分の欲には目を瞑ってね」

「殿下、あなたの母君が殉葬されなかったのはフェルディナンドの計らいでしょう?母を救った兄上への言い草がそれですか?」

つまらなそうに口を尖らせるアルベルトは、さらに強くリーシャを抱き締めた。

ほんの少しその気持ちが自分に傾いたのかと、期待したのも束の間、フェルディナンドへの暗殺の動きが無いかを確かめたいだけだと現実を突き付けられた。


「……ねぇリーシャ様。なんで俺には抱かれるんですか。単純に、王宮の中の事を知るためだけですか…。陛下なんてどうせ、俺の母君…前王の皇后をそのまま娶るでしょう。殉葬もさせず、今も王宮に置いたまま…そうしたら、あなたは前と同じ事になる」


だから、自分に媚びればいいと言わんばかりに詰め寄るアルベルト。

だが、リーシャは眉ひとつ動かさない。

「殿下、あなたこそ皇妃は誰をお取りに?たくさん、世継ぎを見る為にはお早いほうがいいですから」

皇妃、世継ぎ……それは、静かな拒絶。
そして誘惑するように、リーシャの方から背中に腕を回すとその唇にゆっくりと口付ける。

「はぁ、リーシャ様は本当にご機嫌取りがうまい」

「私の心配はいいのです、もしフェルディナンドの寵愛が潰えたら、その時はあなたの側室にでもすればいい」

リーシャの言葉に、嫉妬を顔に宿したアルベルトが表情を変えた。

「…陛下が手放すかな?俺の側室にしたら…俺を愛する?主人を迎えるみたいに…いつも俺を待っていて、渡ればキスを強請って…悦んでくれる?どうしよ…そしたら、側室宮に入り浸って…未来の妻にリーシャ様が虐められちゃう…」

どんな想像をしているのか…どんどん頬に赤みが差し、もう一度リーシャに覆い被さると逃がさぬようにと手を付き、唇を奪った。

「っは、あ、殿下…」

「リーシャ様、お願い…もう一回……」

「…殿下、ダメです。私がいつかフェルディナンドに捨てられたら、いくらでも抱けばいい。ああ…フェルディナンドが暗殺されたら私は殉葬でしょうから、フェルディナンドが暗殺される前に寵愛が潰えればの話ですが……」

もう一度熱くなったそれをリーシャの太ももにゴリゴリと押し付けると、アルベルトは悔しそうに…リーシャの瞳を見る。


「…リーシャ様、以外と陛下の事好きだよな。俺にも…信者にも暗殺の芽が生まれぬように、釘を刺したいんでしょう?」

「ばか言わないで、私は誰が相手だろうと王宮に入る事が決まった時に、全てを委ねると決意しましたから」

起き上がると、リーシャは浴室へと向かう。
それはアルベルトへの解散の合図でもあった。

清拭用の布だけ投げつけてやると、汚れた身体をアルベルトは拭う。

何度も浴室に一緒に入りたいと頼んだが、リーシャがアルベルトの要求を飲んだ事は無かった。

「はいはい、もう帰りますよ。……というか、伯爵家産まれのリーシャ様がなんで父上の側室に召し上げられたんですか?普通なら断りそうなものですが」

「……秘密です」

パタリと閉まる浴室のドア、先程まで抱いていたリーシャの体温を思い出すとその枕に顔を埋め、最後の残り香を楽しむ。

「っちぇ、あ~可愛い。もっと…最初から大事に抱いてたら…少しは違ったのかな」

珍しい性欲処理くらいにしか思っていなかったリーシャとの逢瀬、その頃に戻れたのなら…とまた空想に浸る。

「…早く、陛下リーシャに飽きないかなぁ」



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