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7 「今日くらいはこの男に心を許してもいいのでしょうか…聖女様 」
◇
「飽きないんだよなぁ」
フェルディナンドは、自らあの隠し通路に行けない日でも、従者に一言一句を記録させていた。
その日の会話たちは、昔とは違う…あからさまに好意を持ったアルベルトのもの。
以前、アルベルトはリーシャの美しい容姿以外何も興味がないと伝わる内容だったが、今では不敬ギリギリの懸想が見え隠れしている。
「…アルベルトは鋭いのか鈍いのか…。まず、多分リーシャの心がアルベルトに向かないのは抱き方なんて関係無いし、僕はリーシャを手放さない。リーシャは僕が好きだから暗殺を止めてるんじゃなくて、彼は行き過ぎな聖女信仰の息子だから、これ以上王家に波風立てたくないだけだろう」
パラパラと、その日の報告記録を捲りながら…従者の入れたコーヒーに口を付ける。
従者はフェルディナンドの苛立ちを感じ取り、率直な疑問を産んだ。
「陛下、なぜ殿下とリーシャ様の逢瀬を止めないのですか?何なら殿下には罰をお与えになっても…」
従者は、温くなったコーヒーを新しいものに取替えながら、フェルディナンドに対し問いかけた。
第五王子、それは公爵家よりも立場が弱い、ただ飯食らいだと言われても仕方のない不遇の皇太子。王位に付いてから周りからの、手のひら返しは記憶に新しい。
もちろんアルベルトに関してもそうであり、彼らは皇太子にも関わらず、そのうち爵位でも与えて飼い殺しにされるのだろうと、誰もフェルディナンドやアルベルトを個として認識していなかった。
「僕は、元々リーシャを遠くから見ている事しか出来ない存在でした。そのうち爵位を賜って王宮から出たら…二度と会えなかったでしょう。諦めてたんです、全部。今…手の中に居るのが夢で…。もう自死を止めて頂いただけで十分すぎるくらい」
「リーシャ様……悪辣な令息だと噂が立ったこともありますが…強かな方ですね。第一王子にも身体を許し、陛下からの寵愛を閉ざしたと聞きましたが。今の動向を見ると、殿下の事もうまく転がして…もうたった二人しか居ない王族を必死に守ろうとしてらっしゃる」
「うーん、僕を守る為…いや王族を守る為に弟に抱かれるくらいなら全部殺してしまいたいけれど。僕以降の王族なんてどうだっていいし」
リーシャがアルベルトに抱かれるのは、性欲やフェルディナンドに対する試し行動やだけではなかった。
王宮中の噂話や動きに詳しいアルベルトからそれとなく聞き出し、フェルディナンド暗殺の動きを制止しようとしている。
そして、見事に手中に落とした。
アルベルトが懸想を抱えてからは、リーシャにとってアルベルトは明確な鴨として飼っているのも事実。
「陛下…流石にいけませんよ」
苦笑いを浮かべる官吏に、冗談だとリアクションをすると椅子から立ち上がった。
「…僕は冗談で言っているのではないですよ。リーシャを正室にと匂わせているのですが、やはり父上の事が好きだからなのか…頷く気はないみたいです。ああ全員殺してしまいたい。本当に人というのは浅ましい。諦めるはずだった恋だったのに、少し近寄ればもっともっと欲しくなる」
「陛下……」
「まぁ、それを望まないからこそリーシャがアルベルトを制止しているのに、僕がリーシャを悲しませるわけにはいきません」
フェルディナンドは、笑顔を貼り付けたが目は笑ってはいなかった。
従者は冷や汗を垂らす。
リーシャが聖女の子孫と呼ばれる王族の信仰者だったから良かったが、これが女狐が変異した怪物だったらこの国は終わっていた。
いや…まだリーシャが女狐でない確証は無いが、リーシャが国を滅ぼしたいと言えば、フェルディナンドもアルベルトもそれに頷くのではないかという想像が過ぎる。
「そろそろ行きましょうか、リーシャが待っています」
「騎士を呼びますのでお待ちください」
フェルディナンドは自室に戻る事はあまりない。
彼が常に生活をするのは城でも一番豪華に作り上げられたリーシャの暮らす宮だ。
最近では共寝を断られ、自室のベッドを温めている。
本来なら閨の時だけ渡るその宮への長い渡り廊下。
ほんの少し寒いその道を歩くのが、フェルディナンドは好きだった。彼の為に足を動かすその時間が。
会ったら彼はどんな顔をしているかを想像して白い息を吐く。
「…少し遅くなってしまったから、今日も寝てくれないかもしれないな」
その小さな呟きは、リーシャの自室のドアノブを掴むと無意識に吐き出される。
ノックをしても、返事が返ってきた事など無いので、フェルディナンドはそのままドアを開けた。
「フェルディナンド」
「ああ、リーシャ」
ベッドの上で本を読むリーシャは扉を見つめて、入り込んできた男の名前を呼んだ。
「リーシャ、遅くなってすみません。食事にしましょう」
天蓋の隙間からベッドの上のリーシャに手を伸ばすと、頬に軽く手を添え額に口付けを落とす。
「フェルディナンド、帰りなさい」
「…リーシャ、最近は何故そんなに怒っているのですか…理由を教えてください」
子犬のように擦り寄るフェルディナンドを押しのける。風呂場で童貞ではないと告げ怒りを買った時も食事くらいはしてくれたはずだ。
「心当たりは?」
「心当たり……」
「あんなにイライラしたのは初めてです。あの汚らわしいものに対して謝りなさい」
フェルディナンドは、そう言われようやく思い出したあの贈り物。
あの時は本当に性欲由来の逢瀬だと疑っていたから、よかれと美しい装飾をした張形を作らせアイリスに渡した。
だが実際は、フェルディナンドの考えるより海のような思惑を持ったアルベルトとの逢瀬…それを考えるとフェルディナンドの顔からは血の気が引いていく。
「っ、も…申し訳ございません…」
リーシャは、慌てふためくフェルディナンドに溜飲を下げたようだった。
ため息を吐き、フェルディナンドを見据えるとこう呟く。
「……風邪をひきました」
その言葉にリーシャを一頻り心配すると、フェルディナンドは医師を呼ぼうと踵を返す。
だが、その服の裾をリーシャは掴んだ。
「…あなたが、毎日うざったいくらいに私を暖めるから、一人で寝るのに不慣れになった」
「………リーシャ」
「お腹だって減りました、待ちくたびれた」
その身体をベッドに倒す。
いつも優しすぎるフェルディナンドの大きい手は痛い程にリーシャの肩にくい込んでいる。
口付けは何度もした、でも…こんなにもその目に情欲を宿した目で見つめられた事は無かっただろう。
頬を赤らめるリーシャはぎゅっと目を瞑ると、その首に軽く腕を回す。
だが降ってきたのは頬への優しいキスだった。
「リーシャ、少しだけ…こうさせて」
ちゅ、ちゅ、と可愛い音を立てながら顔にキスを送り首元に降りていく。
リーシャの耳と首の間に顔を埋めるとそこで静かに呼吸をした。
密着しながら待つ一分間は長い。
リーシャにとって、一生とも一瞬とも取れる時間はフェルディナンドの一言で終わりを迎える。
リーシャの太ももには、確かに硬いものが当たっている。リーシャはお得いの、猫のような舌で彼の耳を舐める。
頬に口付けを落とし、少し膝を立てると柔らかい二つの丸みを刺激した。
頬を寄せ、口付けを落とし……何度もしてきたみたいに甘え擦り寄る。
ベッドの上で、リーシャがその気になれば、男はすぐに篭絡する愚かな生き物だと、散々嘲笑した。
だが、フェルディナンドは痛い程立ち上がったものに気にも止めずにリーシャに優しい口付けを落としただけだった。
「ごめん、お腹すいてるのに。リーシャ、ご飯にしましょう」
その体温が身体の上から去っていく。
「……フェルディナンド、アイリスと反省会話したのではなかったのですか?」
「……え?」
フェルディナンドはその言葉の意味が分からずに動揺し、ぱたぱたとリーシャの周りを回った。
「リーシャ?ごめんなさい、怒らないで……リーシャ…やっと抱き締められたのに、また明日からお預けは嫌です」
「何が悪いのか分からないのに謝る所も嫌い」
顔を蒼白させ、リーシャに縋るフェルディナンドの姿に、リーシャは小さく笑う。
料理を運んできた従者が前菜の準備を始めると、フェルディナンドはフォークを子供のように持ち、小さな黄色いトマトをリーシャの皿に置いた。
「…これは?」
「僕の好きな…トマトです。僕は、あなたが大好きのに、うまく立ち回れない。もう謝りません、ただ…僕はリーシャが好きだから、少しでも嫌いを挽回したくて、好物をあなたに」
この国では珍しい黄色のそれ。
リーシャは食の好みが薄いが、ご機嫌取りにと分け与えられた黄色が何とも可愛らしかったようだ。
「許しましょう」
その日のメインディッシュは羊で、切り分けるのが大変そうなリーシャを見据えると自らのフォークを伸ばし、切り分けてリーシャの口へ運ぶ。
一瞬顔を歪めたが、リーシャはそれを小さな口で啄めば、フェルディナンドは嬉しそうに見つめた。
「リーシャ、あなたの大変な事は全部やってあげますし、あなたの欲しいものはいくらでもあげられるようになった。リーシャ、僕の側にいて、リーシャ」
「初めて会った時は、八歳だか九歳だかだったのに、本当に王になったのですね」
それに肯定すれば、リーシャの機嫌が悪くなると思ったのか、フェルディナンドは黙ったままだった。
「…ですから、事実上は王である事は私も分かっています。実は私はあなたがまだ一歳の時に会ったことがあるのですよ」
一瞬目を見開いたが、よくよく考えれば伯爵家のリーシャが側室に召し上げられる前に王宮に来ていても不思議ではない。
「可愛かったですか?一歳の僕は」
「……ええ、あの時はアルベルトの誕生を祝いに行ったのです。その時一歳のあなたに会って、乳母に抱かれていて…幼心に不憫でした。母を亡くした事は聞いていましたから」
「…アルベルトの母の事は、正室になる前は好きだったのですか?」
リーシャは何も言わない。
フェルディナンドは王に即位して、知る事の出来る範囲も増え、リーシャの事がもっと分からなくなっていた。
誰かに聞こうにも、前王の側近は謀反で皆亡くなっていたし、何か知っていそうな官吏は言うつもりはないらしい。
何も教えてくれないのは分かっているがつい口を付く。
「リーシャ、あなたの妹が本来側室に召し上げられ、あなたは騎士になるつもりだったそうですね。でも、記録では消されていますが、あなたは明らかに騎士になる為に王宮に来た経路ではない。最初は騎士団で陛下に見初められたのかと思っていましたが…違いますね、あなたは何故………」
「フェルディナンド、今日は一緒に湯に入りますか?」
にこりと、美しい笑顔をフェルディナンドに向ける。
「う……リーシャ……。いつか、きっと教えてくださいね。そして…湯はお一人で…あなたに虐められて、情けなく欲情した僕の顔を見せたくないのです」
リーシャは、意地悪そうに口角を上げるとフェルディナンドに背を向け、纏っていた衣服を脱いでいく。
全裸の美しい背中を見せつけるように、ぱさりと衣服を落とし、浴室へ向かった。
「……おかしくなりそう」
パンを三欠けも食べたフェルディナンドは、就寝前のワインに口をつけながらうとうとと船を漕いでいた。
リーシャはゆっくりと嗜好を楽しみ、上がって見てみれば半裸のままソファに丸々まった大きな男。
「フェルディナンド、今度はあなたが風邪をひきます、私の防寒具が無くなったら困るのですから…起きて」
「……りーしゃ?あいし、ています…」
そのまま太い腕に捕獲されると、リーシャは強い力で胸の中に押し込まれる。
「……私をこんな所で寝させるつもり?」
「……」
「ちょっと、本当にここで寝るつもりですか?はぁ、困った男…。何故あなたは私を抱かないのでしょうね、むしろ私にとって抱かれるのが当たり前だというのに」
「………」
「寝ていると、あの時を思い出しますね。あなたが私に会いに来て…少し寝てしまった日。まだあなたが十二歳くらいの時、可愛かった」
「………」
「フェルディナンド、あなたの正室にはなれません。私は陛下のものでいると決めていますから……だから、陛下の正室入りも断った。嫌な予感がします、あなたとこうして…ふざけていられるのもきっと長くない」
「…………」
「今日くらいはこの男に心を許してもいいのでしょうか…聖女様 」
だが、リーシャはその腕を振りほどかなかった。狭いソファと、フェルディナンドのゴツゴツした筋肉、痛いくらいに抱き締めてくる腕…それを甘受したのだ。
「飽きないんだよなぁ」
フェルディナンドは、自らあの隠し通路に行けない日でも、従者に一言一句を記録させていた。
その日の会話たちは、昔とは違う…あからさまに好意を持ったアルベルトのもの。
以前、アルベルトはリーシャの美しい容姿以外何も興味がないと伝わる内容だったが、今では不敬ギリギリの懸想が見え隠れしている。
「…アルベルトは鋭いのか鈍いのか…。まず、多分リーシャの心がアルベルトに向かないのは抱き方なんて関係無いし、僕はリーシャを手放さない。リーシャは僕が好きだから暗殺を止めてるんじゃなくて、彼は行き過ぎな聖女信仰の息子だから、これ以上王家に波風立てたくないだけだろう」
パラパラと、その日の報告記録を捲りながら…従者の入れたコーヒーに口を付ける。
従者はフェルディナンドの苛立ちを感じ取り、率直な疑問を産んだ。
「陛下、なぜ殿下とリーシャ様の逢瀬を止めないのですか?何なら殿下には罰をお与えになっても…」
従者は、温くなったコーヒーを新しいものに取替えながら、フェルディナンドに対し問いかけた。
第五王子、それは公爵家よりも立場が弱い、ただ飯食らいだと言われても仕方のない不遇の皇太子。王位に付いてから周りからの、手のひら返しは記憶に新しい。
もちろんアルベルトに関してもそうであり、彼らは皇太子にも関わらず、そのうち爵位でも与えて飼い殺しにされるのだろうと、誰もフェルディナンドやアルベルトを個として認識していなかった。
「僕は、元々リーシャを遠くから見ている事しか出来ない存在でした。そのうち爵位を賜って王宮から出たら…二度と会えなかったでしょう。諦めてたんです、全部。今…手の中に居るのが夢で…。もう自死を止めて頂いただけで十分すぎるくらい」
「リーシャ様……悪辣な令息だと噂が立ったこともありますが…強かな方ですね。第一王子にも身体を許し、陛下からの寵愛を閉ざしたと聞きましたが。今の動向を見ると、殿下の事もうまく転がして…もうたった二人しか居ない王族を必死に守ろうとしてらっしゃる」
「うーん、僕を守る為…いや王族を守る為に弟に抱かれるくらいなら全部殺してしまいたいけれど。僕以降の王族なんてどうだっていいし」
リーシャがアルベルトに抱かれるのは、性欲やフェルディナンドに対する試し行動やだけではなかった。
王宮中の噂話や動きに詳しいアルベルトからそれとなく聞き出し、フェルディナンド暗殺の動きを制止しようとしている。
そして、見事に手中に落とした。
アルベルトが懸想を抱えてからは、リーシャにとってアルベルトは明確な鴨として飼っているのも事実。
「陛下…流石にいけませんよ」
苦笑いを浮かべる官吏に、冗談だとリアクションをすると椅子から立ち上がった。
「…僕は冗談で言っているのではないですよ。リーシャを正室にと匂わせているのですが、やはり父上の事が好きだからなのか…頷く気はないみたいです。ああ全員殺してしまいたい。本当に人というのは浅ましい。諦めるはずだった恋だったのに、少し近寄ればもっともっと欲しくなる」
「陛下……」
「まぁ、それを望まないからこそリーシャがアルベルトを制止しているのに、僕がリーシャを悲しませるわけにはいきません」
フェルディナンドは、笑顔を貼り付けたが目は笑ってはいなかった。
従者は冷や汗を垂らす。
リーシャが聖女の子孫と呼ばれる王族の信仰者だったから良かったが、これが女狐が変異した怪物だったらこの国は終わっていた。
いや…まだリーシャが女狐でない確証は無いが、リーシャが国を滅ぼしたいと言えば、フェルディナンドもアルベルトもそれに頷くのではないかという想像が過ぎる。
「そろそろ行きましょうか、リーシャが待っています」
「騎士を呼びますのでお待ちください」
フェルディナンドは自室に戻る事はあまりない。
彼が常に生活をするのは城でも一番豪華に作り上げられたリーシャの暮らす宮だ。
最近では共寝を断られ、自室のベッドを温めている。
本来なら閨の時だけ渡るその宮への長い渡り廊下。
ほんの少し寒いその道を歩くのが、フェルディナンドは好きだった。彼の為に足を動かすその時間が。
会ったら彼はどんな顔をしているかを想像して白い息を吐く。
「…少し遅くなってしまったから、今日も寝てくれないかもしれないな」
その小さな呟きは、リーシャの自室のドアノブを掴むと無意識に吐き出される。
ノックをしても、返事が返ってきた事など無いので、フェルディナンドはそのままドアを開けた。
「フェルディナンド」
「ああ、リーシャ」
ベッドの上で本を読むリーシャは扉を見つめて、入り込んできた男の名前を呼んだ。
「リーシャ、遅くなってすみません。食事にしましょう」
天蓋の隙間からベッドの上のリーシャに手を伸ばすと、頬に軽く手を添え額に口付けを落とす。
「フェルディナンド、帰りなさい」
「…リーシャ、最近は何故そんなに怒っているのですか…理由を教えてください」
子犬のように擦り寄るフェルディナンドを押しのける。風呂場で童貞ではないと告げ怒りを買った時も食事くらいはしてくれたはずだ。
「心当たりは?」
「心当たり……」
「あんなにイライラしたのは初めてです。あの汚らわしいものに対して謝りなさい」
フェルディナンドは、そう言われようやく思い出したあの贈り物。
あの時は本当に性欲由来の逢瀬だと疑っていたから、よかれと美しい装飾をした張形を作らせアイリスに渡した。
だが実際は、フェルディナンドの考えるより海のような思惑を持ったアルベルトとの逢瀬…それを考えるとフェルディナンドの顔からは血の気が引いていく。
「っ、も…申し訳ございません…」
リーシャは、慌てふためくフェルディナンドに溜飲を下げたようだった。
ため息を吐き、フェルディナンドを見据えるとこう呟く。
「……風邪をひきました」
その言葉にリーシャを一頻り心配すると、フェルディナンドは医師を呼ぼうと踵を返す。
だが、その服の裾をリーシャは掴んだ。
「…あなたが、毎日うざったいくらいに私を暖めるから、一人で寝るのに不慣れになった」
「………リーシャ」
「お腹だって減りました、待ちくたびれた」
その身体をベッドに倒す。
いつも優しすぎるフェルディナンドの大きい手は痛い程にリーシャの肩にくい込んでいる。
口付けは何度もした、でも…こんなにもその目に情欲を宿した目で見つめられた事は無かっただろう。
頬を赤らめるリーシャはぎゅっと目を瞑ると、その首に軽く腕を回す。
だが降ってきたのは頬への優しいキスだった。
「リーシャ、少しだけ…こうさせて」
ちゅ、ちゅ、と可愛い音を立てながら顔にキスを送り首元に降りていく。
リーシャの耳と首の間に顔を埋めるとそこで静かに呼吸をした。
密着しながら待つ一分間は長い。
リーシャにとって、一生とも一瞬とも取れる時間はフェルディナンドの一言で終わりを迎える。
リーシャの太ももには、確かに硬いものが当たっている。リーシャはお得いの、猫のような舌で彼の耳を舐める。
頬に口付けを落とし、少し膝を立てると柔らかい二つの丸みを刺激した。
頬を寄せ、口付けを落とし……何度もしてきたみたいに甘え擦り寄る。
ベッドの上で、リーシャがその気になれば、男はすぐに篭絡する愚かな生き物だと、散々嘲笑した。
だが、フェルディナンドは痛い程立ち上がったものに気にも止めずにリーシャに優しい口付けを落としただけだった。
「ごめん、お腹すいてるのに。リーシャ、ご飯にしましょう」
その体温が身体の上から去っていく。
「……フェルディナンド、アイリスと反省会話したのではなかったのですか?」
「……え?」
フェルディナンドはその言葉の意味が分からずに動揺し、ぱたぱたとリーシャの周りを回った。
「リーシャ?ごめんなさい、怒らないで……リーシャ…やっと抱き締められたのに、また明日からお預けは嫌です」
「何が悪いのか分からないのに謝る所も嫌い」
顔を蒼白させ、リーシャに縋るフェルディナンドの姿に、リーシャは小さく笑う。
料理を運んできた従者が前菜の準備を始めると、フェルディナンドはフォークを子供のように持ち、小さな黄色いトマトをリーシャの皿に置いた。
「…これは?」
「僕の好きな…トマトです。僕は、あなたが大好きのに、うまく立ち回れない。もう謝りません、ただ…僕はリーシャが好きだから、少しでも嫌いを挽回したくて、好物をあなたに」
この国では珍しい黄色のそれ。
リーシャは食の好みが薄いが、ご機嫌取りにと分け与えられた黄色が何とも可愛らしかったようだ。
「許しましょう」
その日のメインディッシュは羊で、切り分けるのが大変そうなリーシャを見据えると自らのフォークを伸ばし、切り分けてリーシャの口へ運ぶ。
一瞬顔を歪めたが、リーシャはそれを小さな口で啄めば、フェルディナンドは嬉しそうに見つめた。
「リーシャ、あなたの大変な事は全部やってあげますし、あなたの欲しいものはいくらでもあげられるようになった。リーシャ、僕の側にいて、リーシャ」
「初めて会った時は、八歳だか九歳だかだったのに、本当に王になったのですね」
それに肯定すれば、リーシャの機嫌が悪くなると思ったのか、フェルディナンドは黙ったままだった。
「…ですから、事実上は王である事は私も分かっています。実は私はあなたがまだ一歳の時に会ったことがあるのですよ」
一瞬目を見開いたが、よくよく考えれば伯爵家のリーシャが側室に召し上げられる前に王宮に来ていても不思議ではない。
「可愛かったですか?一歳の僕は」
「……ええ、あの時はアルベルトの誕生を祝いに行ったのです。その時一歳のあなたに会って、乳母に抱かれていて…幼心に不憫でした。母を亡くした事は聞いていましたから」
「…アルベルトの母の事は、正室になる前は好きだったのですか?」
リーシャは何も言わない。
フェルディナンドは王に即位して、知る事の出来る範囲も増え、リーシャの事がもっと分からなくなっていた。
誰かに聞こうにも、前王の側近は謀反で皆亡くなっていたし、何か知っていそうな官吏は言うつもりはないらしい。
何も教えてくれないのは分かっているがつい口を付く。
「リーシャ、あなたの妹が本来側室に召し上げられ、あなたは騎士になるつもりだったそうですね。でも、記録では消されていますが、あなたは明らかに騎士になる為に王宮に来た経路ではない。最初は騎士団で陛下に見初められたのかと思っていましたが…違いますね、あなたは何故………」
「フェルディナンド、今日は一緒に湯に入りますか?」
にこりと、美しい笑顔をフェルディナンドに向ける。
「う……リーシャ……。いつか、きっと教えてくださいね。そして…湯はお一人で…あなたに虐められて、情けなく欲情した僕の顔を見せたくないのです」
リーシャは、意地悪そうに口角を上げるとフェルディナンドに背を向け、纏っていた衣服を脱いでいく。
全裸の美しい背中を見せつけるように、ぱさりと衣服を落とし、浴室へ向かった。
「……おかしくなりそう」
パンを三欠けも食べたフェルディナンドは、就寝前のワインに口をつけながらうとうとと船を漕いでいた。
リーシャはゆっくりと嗜好を楽しみ、上がって見てみれば半裸のままソファに丸々まった大きな男。
「フェルディナンド、今度はあなたが風邪をひきます、私の防寒具が無くなったら困るのですから…起きて」
「……りーしゃ?あいし、ています…」
そのまま太い腕に捕獲されると、リーシャは強い力で胸の中に押し込まれる。
「……私をこんな所で寝させるつもり?」
「……」
「ちょっと、本当にここで寝るつもりですか?はぁ、困った男…。何故あなたは私を抱かないのでしょうね、むしろ私にとって抱かれるのが当たり前だというのに」
「………」
「寝ていると、あの時を思い出しますね。あなたが私に会いに来て…少し寝てしまった日。まだあなたが十二歳くらいの時、可愛かった」
「………」
「フェルディナンド、あなたの正室にはなれません。私は陛下のものでいると決めていますから……だから、陛下の正室入りも断った。嫌な予感がします、あなたとこうして…ふざけていられるのもきっと長くない」
「…………」
「今日くらいはこの男に心を許してもいいのでしょうか…聖女様 」
だが、リーシャはその腕を振りほどかなかった。狭いソファと、フェルディナンドのゴツゴツした筋肉、痛いくらいに抱き締めてくる腕…それを甘受したのだ。
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