捨てられ令嬢ですが、一途な隠れ美形の竜騎士さまに底なしの愛を注がれています。

扇レンナ

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本編 第2章

第12話

 昼食を済ませ、出かける準備をする。といっても、大したことはしない。軽く身だしなみを整えるだけ。

 言われたとおりに部屋の前で待っていると、ヴィリバルトさんが迎えに来てくれた。

「お待たせしました。時間がかかってしまって、すみません」

 彼がぺこりと頭を下げる。気にしないでほしいのに。

「私が早く待っていただけですので、お気になさらず」

 笑って返すと、彼はほっとしたように胸をなでおろした。

「そう言ってもらえると助かります。では、行きましょうか」

 うなずいた私を見て、彼は歩き出す。私は彼のあとに続く。

「探し物をしていたんです。こちらをどうぞ」

 言葉の意味を理解するよりも前に、頭にぽすんとなにかが載せられる。触れてみると、どうやら帽子のようだ。

「少々歩くことになるので、日よけがあったほうがいいでしょう。こんなものしかないんですが……」

 申し訳なさそうな彼だけど、逆にこちらが申し訳ない。だって、気を遣わせたみたいだもの。

「お気遣いさせてしまって、申し訳ございません」

 どうして彼はここまで気を遣ってくれるのだろう。元婚約者にだって、こんな風に優しくされたことないのに……。

「謝らないでください! 俺が好きでやってるんです」
「ですが……」
「むしろ、こんなことしかできなくてこっちが申し訳なくて」

 どうしてか、謝り合う形になった。こういうはとても新鮮だし、やっぱり慣れない。

「……私、こういう風にされるの慣れなくて」

 ついぽつりと言葉がこぼれた。

「だから、すごく新鮮で……その、嬉しかった、です」

 声が小さくなったのは当然だ。……恥ずかしかったから。

 こういうときどう反応するのが正解なのか。私にはわからない。可愛げがないから当然だ。

「メリーナさん」
「やっぱり、忘れてください!」

 彼の声に現実に引き戻される。穴があったら入りたいくらい、恥ずかしくなる。

 咄嗟に顔を覆った私の手をヴィリバルトさんがつかむ。覗き込む彼の表情は相変わらず見えなかった。

 だけど、前髪の隙間から覗く瞳は美しい。純粋な輝きを宿した瞳に、私は吸い込まれてしまいそうになる。

「……忘れたくないって言ったら、どうしますか?」
「へ?」

 予想もしていなかった言葉に、瞬きを繰り返す。

「あなたの言葉を一言一句間違えず、脳内に刻み込みたいって言ったら――どう思いますか?」

 視線がまじりあう。私の胸が高鳴る。心臓の音がとても大きくて、ヴィリバルトさんに聞こえていないことを祈った。

「メリーナさん」

 ヴィリバルトさんが私のほうに一歩近づいてくる。縮まった距離に、無性にドキドキした。

 なんでだろう。元婚約者にも、こんな気持ちを抱いたことはなかったのに。

「ヴィリ、バルトさん」

 声が震える。彼に見つめられると、視線が逸らせない。逸らすことは許さないって、伝えてくるみたいだから。

 それから、何分経ったんだろう。現実には十秒ほどだったはず。けど、それくらい長く感じた。

「――なんて、すみません」

 彼がそっと身を引いた。

「ちょっとからかいたくなっただけです。俺のほうこそ、忘れてください」

 忘れられるわけがない。当然だ。

 こんなに胸が高鳴ったのははじめてだから。

(どうしてこんなにドキドキしてるの――?)

 私はただ彼に助けてもらっただけだ。

 好きになっていいはずがない。それに――私は婚約破棄されたばかりの女。

 絶対迷惑になる。

 この気持ちは、気のせいだ。気のせいに決まっている。

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