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本編 第1章
第5話
(って、初対面の人にこんなことを言っても、困るわよね……)
見知らぬ女が傷ついているところなんて、見ていて面白いものじゃない。だから、私は目元をごしごしと拭う。
「すみません、なんか、重たい話をしてしまって……」
痛々しい笑みを浮かべて、私は立ち上がった。このままここにいてはいけない。だって、このままだと――この人に、迷惑をかけてしまう。それだけは、容易に想像がつく。
(見知らぬ人に迷惑なんて、かけられないわ……)
その一心で足を前に勧めようとすると、手首を掴まれた。……驚いて、そちらに視線を向ける。そこには、やっぱりあの男。
「別に、俺は困ってませんよ」
彼は、淡々とそう言う。なんだろうか。多分、根本が優しい人なんだ。
余計に迷惑をかけられないと思ってしまう。
「……優しいのですね」
少しだけ口元を緩めて、そう言ってみる。彼は、顔を歪めた。なんだか、苦しそうな表情だ。……多分。
「俺は、優しくなんてない」
小さな声量で呟かれた言葉。驚いて彼を見つめる。相変わらず目元は見えない。でも、その前髪の隙間から見える目は、鋭い色を帯びているような気がしてしまった。
心臓をぎゅっとつかまれたみたいな感覚に、陥ってしまう。
「あなただから、優しくしているんです」
「……は」
言葉の意味がわからなくて、ぽかんとしてしまう。
私たちの間に沈黙が走る。食堂の中は騒がしいのに、喧騒が遠のいていく。まるで、二人きりの世界になったような感覚になる。
「な、にを」
自分の声が驚くほどに震えている。この人は、一体なにを言っているのだろうか。
意味の分からない私に、彼が立ち上がって近づいてくる。至近距離に迫った、彼の顔。前髪の隙間から見える目が、私を射貫く。
「あなたさえよければ、俺の家に居候しませんか?」
……かといって。その言葉は予想外すぎる。その所為で目を瞬かせる私を、彼がまっすぐに見つめ続ける。
なんだろうか、この空間は。
「どういうこと、ですか……」
この人は、この男は。なにを企んでいるんだろうか。
そもそも、この状況下で見知らぬ人についていくという勇気は生憎私にはない。
……たとえ、そこそこ親しくなった人だったとしても、だ。
「俺、一人で暮らしているんです」
「……はぁ」
意味がわからない。いきなりそんなことを言われても、知らない。それが、正直な感想。
「ただ、俺の住んでいるところはだだっ広い邸宅でして。……部屋は、有り余っているんです」
「……は、はぁ」
もう「はぁ」しか言葉が出てこない。
だだっ広い邸宅。部屋が有り余っている。それは、わかった。うん、それくらいならばまだ理解できる……んだけれど。
「だからって、私が住むなんて……」
いろいろな意味で申し訳ないし、危ないだろうし……。いや、彼のことを信用していないというわけじゃない。
ただ、見知らぬ人との共同生活が不安っていうだけで。
「……これは、ただ困っているあなたを見過ごせないだけです。……そもそも俺、騎士ですし」
「は……?」
彼がそっぽを向いて口走った言葉に、驚いてしまう。……騎士、騎士!? この風貌で!?
(き、騎士って、もっとほら……かっこいい人がなる職業じゃん……)
偏見が過ぎるとは、私でも思う。ただ、厳しい訓練があるため自然と身体が引き締まって、見栄えもよくなるように容姿も磨く。それが、一般常識っていうか……。
「まぁ、その。ちょっといろいろあって、今は休職中なんですが」
「……そう、なのですか」
そう言った彼は、上着の内ポケットを探った。そして、彼は身分証明書らしきものを取り出す。
そこには、『竜騎士:ヴィリバルト』と書いてあった。……本当に、騎士なんだ。意外過ぎて開いた口がふさがらない。
見知らぬ女が傷ついているところなんて、見ていて面白いものじゃない。だから、私は目元をごしごしと拭う。
「すみません、なんか、重たい話をしてしまって……」
痛々しい笑みを浮かべて、私は立ち上がった。このままここにいてはいけない。だって、このままだと――この人に、迷惑をかけてしまう。それだけは、容易に想像がつく。
(見知らぬ人に迷惑なんて、かけられないわ……)
その一心で足を前に勧めようとすると、手首を掴まれた。……驚いて、そちらに視線を向ける。そこには、やっぱりあの男。
「別に、俺は困ってませんよ」
彼は、淡々とそう言う。なんだろうか。多分、根本が優しい人なんだ。
余計に迷惑をかけられないと思ってしまう。
「……優しいのですね」
少しだけ口元を緩めて、そう言ってみる。彼は、顔を歪めた。なんだか、苦しそうな表情だ。……多分。
「俺は、優しくなんてない」
小さな声量で呟かれた言葉。驚いて彼を見つめる。相変わらず目元は見えない。でも、その前髪の隙間から見える目は、鋭い色を帯びているような気がしてしまった。
心臓をぎゅっとつかまれたみたいな感覚に、陥ってしまう。
「あなただから、優しくしているんです」
「……は」
言葉の意味がわからなくて、ぽかんとしてしまう。
私たちの間に沈黙が走る。食堂の中は騒がしいのに、喧騒が遠のいていく。まるで、二人きりの世界になったような感覚になる。
「な、にを」
自分の声が驚くほどに震えている。この人は、一体なにを言っているのだろうか。
意味の分からない私に、彼が立ち上がって近づいてくる。至近距離に迫った、彼の顔。前髪の隙間から見える目が、私を射貫く。
「あなたさえよければ、俺の家に居候しませんか?」
……かといって。その言葉は予想外すぎる。その所為で目を瞬かせる私を、彼がまっすぐに見つめ続ける。
なんだろうか、この空間は。
「どういうこと、ですか……」
この人は、この男は。なにを企んでいるんだろうか。
そもそも、この状況下で見知らぬ人についていくという勇気は生憎私にはない。
……たとえ、そこそこ親しくなった人だったとしても、だ。
「俺、一人で暮らしているんです」
「……はぁ」
意味がわからない。いきなりそんなことを言われても、知らない。それが、正直な感想。
「ただ、俺の住んでいるところはだだっ広い邸宅でして。……部屋は、有り余っているんです」
「……は、はぁ」
もう「はぁ」しか言葉が出てこない。
だだっ広い邸宅。部屋が有り余っている。それは、わかった。うん、それくらいならばまだ理解できる……んだけれど。
「だからって、私が住むなんて……」
いろいろな意味で申し訳ないし、危ないだろうし……。いや、彼のことを信用していないというわけじゃない。
ただ、見知らぬ人との共同生活が不安っていうだけで。
「……これは、ただ困っているあなたを見過ごせないだけです。……そもそも俺、騎士ですし」
「は……?」
彼がそっぽを向いて口走った言葉に、驚いてしまう。……騎士、騎士!? この風貌で!?
(き、騎士って、もっとほら……かっこいい人がなる職業じゃん……)
偏見が過ぎるとは、私でも思う。ただ、厳しい訓練があるため自然と身体が引き締まって、見栄えもよくなるように容姿も磨く。それが、一般常識っていうか……。
「まぁ、その。ちょっといろいろあって、今は休職中なんですが」
「……そう、なのですか」
そう言った彼は、上着の内ポケットを探った。そして、彼は身分証明書らしきものを取り出す。
そこには、『竜騎士:ヴィリバルト』と書いてあった。……本当に、騎士なんだ。意外過ぎて開いた口がふさがらない。
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