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本編 第2章
第11話
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その後、律哉が真白を連れてきたのは、大きな百貨店だった。
外観からするに、建物は新しそうに見える。建築して、まだ年月がそこまで経っていないのだろう。
「真白?」
律哉が真白の顔を覗き込んできて、名前を呼ぶ。そのため、真白はハッとした。
「い、いえ、なんといいますか、立派だなぁ……と、思いまして」
心の底からの言葉だった。偽りも、誇張もない。素直な感想。
けれど、律哉はその言葉を聞いて眉間にしわを寄せた。
「……あなたは、百貨店に来たことがないのか?」
彼が怪訝そうにそう問いかけてくる。だから、真白は肩をすくめた。
「恥ずかしながら、来たことがありません。……父は、買い物をする際直接商人を邸宅に呼んだのです」
花里だって、万能ではない。だからこそ、取り扱っていない商品もあった。
そういうとき、父は自身が持つ人脈を存分に使って、専門の商人を邸宅に呼んだ。
「父は……その、お仕事以外で人ごみに行くのが、無理な人だったので」
だから、家族全員で出掛けることもなかった。
何度か姉や使用人たちに連れられ、花里家が所有する別荘に行ったことはある。だが、父はいつだって仕事一番で。
「それに、父は家族旅行なんて、無駄だって」
旅行に行きたいと言えば、父は「お前たちで行ってきなさい」と言い、お金だけ渡してきた。
彼にとって、仕事関連以外の遠出は無駄なことなのだろう。それを、幼いながらによく実感したものだ。
「なので、家族旅行とか。行ったこともなくて。あ、姉とは、時折行きましたよ」
なんだか無性に暗い空気になったので、真白は最後の言葉を付け足した。
すると、律哉は「そうか」と言ってくれた。ふっと息を吐いたのが、よくわかる。
「……俺でよければ、あなたと旅行に行きたいと、思うのだが」
「えっ……」
そして、次に彼の口から出た言葉に、驚いてしまった。
「不満、だろうか?」
真白の反応を見て、律哉が不安そうにそう問いかけてくる。
自然と、ぶんぶんと首を横に振る。
「ふ、不満だなんて、ありえません! ただ、その……えぇっと、ですね」
視線を彷徨わせて、ぴったりの言葉を探す。
多分、三十秒は経っただろう。そう思いつつ、真白は頬を押さえて、口を開いた。
「あの、行って、くださるのですか……?」
恐る恐る、そう問いかける。律哉はなんのためらいもなく頷いてくれた。
「あぁ。あなたは俺の妻だ。それに伴い、俺はあなたの夫だ」
さも当然のように紡がれた言葉。……真白の心臓が、大きく音を鳴らす。
「だから、俺たちは家族……で、間違いないだろう。俺も、家族旅行など長年行っていない。むしろ、俺も行きたいくらいだ」
「そ、そうなの、ですか!」
「あぁ。そのためにも、お金を貯めなければならないな」
彼のその言葉を聞いて、真白は大きく頷く。今の言葉は、何処までも正しい。
「どうせだし、家族旅行のための貯金額の目標でもたてようか。目標があるほうが、やりがいもあるだろう」
どうやら、律哉は家族旅行にかなり好意的らしい。
……意外だと、思ってしまった。
(だって、私は押し付けられた妻だもの……)
そうは思うが、彼はずっと真白に優しい。邪険にする様子もない。
たとえ、それが金銭絡みだったとしても。真白は、嬉しい気持ちを隠し切れない。
「私、楽しみにしておりますね」
にっこりと笑って、律哉にそう声をかける。
すると、律哉も頷いてくれた。その表情は、何処までも美しくて。まるで、作り物のようにも見えてしまった。
外観からするに、建物は新しそうに見える。建築して、まだ年月がそこまで経っていないのだろう。
「真白?」
律哉が真白の顔を覗き込んできて、名前を呼ぶ。そのため、真白はハッとした。
「い、いえ、なんといいますか、立派だなぁ……と、思いまして」
心の底からの言葉だった。偽りも、誇張もない。素直な感想。
けれど、律哉はその言葉を聞いて眉間にしわを寄せた。
「……あなたは、百貨店に来たことがないのか?」
彼が怪訝そうにそう問いかけてくる。だから、真白は肩をすくめた。
「恥ずかしながら、来たことがありません。……父は、買い物をする際直接商人を邸宅に呼んだのです」
花里だって、万能ではない。だからこそ、取り扱っていない商品もあった。
そういうとき、父は自身が持つ人脈を存分に使って、専門の商人を邸宅に呼んだ。
「父は……その、お仕事以外で人ごみに行くのが、無理な人だったので」
だから、家族全員で出掛けることもなかった。
何度か姉や使用人たちに連れられ、花里家が所有する別荘に行ったことはある。だが、父はいつだって仕事一番で。
「それに、父は家族旅行なんて、無駄だって」
旅行に行きたいと言えば、父は「お前たちで行ってきなさい」と言い、お金だけ渡してきた。
彼にとって、仕事関連以外の遠出は無駄なことなのだろう。それを、幼いながらによく実感したものだ。
「なので、家族旅行とか。行ったこともなくて。あ、姉とは、時折行きましたよ」
なんだか無性に暗い空気になったので、真白は最後の言葉を付け足した。
すると、律哉は「そうか」と言ってくれた。ふっと息を吐いたのが、よくわかる。
「……俺でよければ、あなたと旅行に行きたいと、思うのだが」
「えっ……」
そして、次に彼の口から出た言葉に、驚いてしまった。
「不満、だろうか?」
真白の反応を見て、律哉が不安そうにそう問いかけてくる。
自然と、ぶんぶんと首を横に振る。
「ふ、不満だなんて、ありえません! ただ、その……えぇっと、ですね」
視線を彷徨わせて、ぴったりの言葉を探す。
多分、三十秒は経っただろう。そう思いつつ、真白は頬を押さえて、口を開いた。
「あの、行って、くださるのですか……?」
恐る恐る、そう問いかける。律哉はなんのためらいもなく頷いてくれた。
「あぁ。あなたは俺の妻だ。それに伴い、俺はあなたの夫だ」
さも当然のように紡がれた言葉。……真白の心臓が、大きく音を鳴らす。
「だから、俺たちは家族……で、間違いないだろう。俺も、家族旅行など長年行っていない。むしろ、俺も行きたいくらいだ」
「そ、そうなの、ですか!」
「あぁ。そのためにも、お金を貯めなければならないな」
彼のその言葉を聞いて、真白は大きく頷く。今の言葉は、何処までも正しい。
「どうせだし、家族旅行のための貯金額の目標でもたてようか。目標があるほうが、やりがいもあるだろう」
どうやら、律哉は家族旅行にかなり好意的らしい。
……意外だと、思ってしまった。
(だって、私は押し付けられた妻だもの……)
そうは思うが、彼はずっと真白に優しい。邪険にする様子もない。
たとえ、それが金銭絡みだったとしても。真白は、嬉しい気持ちを隠し切れない。
「私、楽しみにしておりますね」
にっこりと笑って、律哉にそう声をかける。
すると、律哉も頷いてくれた。その表情は、何処までも美しくて。まるで、作り物のようにも見えてしまった。
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