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本編 第4章
気遣い?
重たい瞼を開き、ヴェルディアナが次に目覚めたのは太陽が真上にあるような時間帯だった。
それに驚き慌てて起き上がれば、自身の乱れていた服装はきれいに整えられていた。身も清められているようであり、あのリベラトーレとの行為が夢だったのではないかと思ってしまう。しかし、鈍い痛みを発する腰の所為で、現実に引き戻されてしまった。
「……とりあえず、着替えなくちゃ」
ゆっくりと寝台から降り、ヴェルディアナはクローゼットを開く。その中から侍女服を取り出し、着替えていく。侍女服は身に着けるとやはりと言っていいのか、スカート部分の丈の短さが際立っていた。それでも、今の自分にこれをどうにかする手段はない。そう思い、ヴェルディアナは次に髪の毛を整えていく。さすがにぼさぼさの状態でリベラトーレの前に立つことは出来ないだろう。なんといっても、自分はリベラトーレの専属侍女なのだから。
そんなことを考えながら身支度をしていると、不意に部屋の扉がコンコンコンと三回ノックされた。一体、誰だろうか。そう思いながらヴェルディアナが返事をすれば、部屋に入ってきたのはほかでもないラーレだった。
ラーレはヴェルディアナが起きていることに驚いたのか、一瞬だけ目を見開いた後ワゴンを押して部屋の中に入ってくる。そのワゴンの上には軽食と水。そして、何やら薬のようなものが載っていた。
「こちら、食事と飲み物でございます。まだ本日何も食べていらっしゃらないようですので……」
「……そう、ですね」
ワゴンの上に載せられた食事と水をテーブルの上に移動させていくラーレの手つきはとても手慣れたものだ。
どうやら、軽食はパンとサラダ。それからスープのようだ。そのどれもがとても美味しそうであり、ヴェルディアナは息を呑む。きっと使用人の賄なのだろうが、それでも実家で食べていたものよりも数段豪華だ。そう思いながら、ヴェルディアナは食事が並べられたテーブルの前にあるソファーに腰を下ろす。
「あと、こちらをどうぞ」
ヴェルディアナがソファーに腰かけたのを見て、ラーレは薬を差し出してきた。それを怪訝に思っていれば、ラーレは少し困ったように「避妊薬でございます」とその薬の正体を教えてくれる。
「リベラトーレ様が……その」
少し言いにくそうに口ごもるラーレを見て、ヴェルディアナは「わかりました」とだけ言ってその薬を受け取る。
やはり、リベラトーレとしても今のヴェルディアナとの間に子を設けるつもりはないらしい。それは素直にありがたいことだったので、ヴェルディアナは薬を一つ取り出し口に含む。そのまま、水で流しこんだ。
「本日の業務なのですが、一時間後からスタートしていただこうかと」
「……そう、ですか」
「専属侍女の業務は、主が快適に過ごしていただけるように行動することです。しばらくは私も手伝いますので、ご安心くださいませ」
「……ありがとう」
ラーレの口元が仄かに緩んだのを見て、ヴェルディアナはお礼を告げた。ラーレは基本的にはあまり表情が動かないようだが、笑うととても可愛らしい。そう思いながらヴェルディアナはパンを一口大に千切って口に入れた。パンはとてもふわふわであり、大層美味だ。『ライ』のパンにも匹敵するかもしれない。そんなことを考えながら、ヴェルディアナは次にスープに口をつける。スープはコーンスープのようであり、コーン特有の甘みが口の中に広がった。こちらも、大層美味だった。
「あと、リベラトーレ様はお屋敷にいらっしゃる時には午後三時に軽食という名のスイーツを食べられます。ヴェルディアナ様には、そちらを毎日運んでいただこうかと思っております」
ヴェルディアナが食事を進めていれば、ラーレはそんなことを教えてくれた。
確かに、リベラトーレは甘いものが大層好きだったな。十年前の記憶を引っ張り出せば、リベラトーレのその行動には納得がいく。貴族の男性はあまり甘いものが好きだと公言することはない。それでも、リベラトーレは甘いものが好きだとよくヴェルディアナに教えてくれたものだ。
「えっと、そのスイーツはどちらに取りに行けば……?」
「そこら辺も、初日なので私が同行させていただきます。ただ、リベラトーレ様のお部屋に入るのはヴェルディアナ様だけになります」
淡々と告げられたラーレのその言葉に、ヴェルディアナは目を見開いた。……先ほど、ラーレは手伝ってくれると言っていた。なのに、いきなりリベラトーレの元に一人で行けというのか。
視線だけでそう訴えれば、彼女は「リベラトーレ様に、指示されていますので……」と言いにくそうに告げる。その後、すぐに意を決したのか「リベラトーレ様は、ご自身のお部屋に侍女を入れることを嫌うので」と話してくれた。
「なので、今後は自分の部屋にはヴェルディアナ様以外の侍女は入れるな。私たちはそう指示されました」
「そ、そうなの、ですか……」
リベラトーレがそんなことを言うなど、到底想像できなかった。けれど、ラーレが嘘をつくことはないだろう。そう考え、ヴェルディアナは渋々といった風に納得する。
(……何も、されないといいのだけれど)
馬車の中や眠る前の行為を思い出すと、一人でリベラトーレの部屋に行くのを嫌だと思ってしまう。だが、これは仕事だ。そう自分自身に言い聞かせて、ヴェルディアナはサラダを口に含んで咀嚼した。
それに驚き慌てて起き上がれば、自身の乱れていた服装はきれいに整えられていた。身も清められているようであり、あのリベラトーレとの行為が夢だったのではないかと思ってしまう。しかし、鈍い痛みを発する腰の所為で、現実に引き戻されてしまった。
「……とりあえず、着替えなくちゃ」
ゆっくりと寝台から降り、ヴェルディアナはクローゼットを開く。その中から侍女服を取り出し、着替えていく。侍女服は身に着けるとやはりと言っていいのか、スカート部分の丈の短さが際立っていた。それでも、今の自分にこれをどうにかする手段はない。そう思い、ヴェルディアナは次に髪の毛を整えていく。さすがにぼさぼさの状態でリベラトーレの前に立つことは出来ないだろう。なんといっても、自分はリベラトーレの専属侍女なのだから。
そんなことを考えながら身支度をしていると、不意に部屋の扉がコンコンコンと三回ノックされた。一体、誰だろうか。そう思いながらヴェルディアナが返事をすれば、部屋に入ってきたのはほかでもないラーレだった。
ラーレはヴェルディアナが起きていることに驚いたのか、一瞬だけ目を見開いた後ワゴンを押して部屋の中に入ってくる。そのワゴンの上には軽食と水。そして、何やら薬のようなものが載っていた。
「こちら、食事と飲み物でございます。まだ本日何も食べていらっしゃらないようですので……」
「……そう、ですね」
ワゴンの上に載せられた食事と水をテーブルの上に移動させていくラーレの手つきはとても手慣れたものだ。
どうやら、軽食はパンとサラダ。それからスープのようだ。そのどれもがとても美味しそうであり、ヴェルディアナは息を呑む。きっと使用人の賄なのだろうが、それでも実家で食べていたものよりも数段豪華だ。そう思いながら、ヴェルディアナは食事が並べられたテーブルの前にあるソファーに腰を下ろす。
「あと、こちらをどうぞ」
ヴェルディアナがソファーに腰かけたのを見て、ラーレは薬を差し出してきた。それを怪訝に思っていれば、ラーレは少し困ったように「避妊薬でございます」とその薬の正体を教えてくれる。
「リベラトーレ様が……その」
少し言いにくそうに口ごもるラーレを見て、ヴェルディアナは「わかりました」とだけ言ってその薬を受け取る。
やはり、リベラトーレとしても今のヴェルディアナとの間に子を設けるつもりはないらしい。それは素直にありがたいことだったので、ヴェルディアナは薬を一つ取り出し口に含む。そのまま、水で流しこんだ。
「本日の業務なのですが、一時間後からスタートしていただこうかと」
「……そう、ですか」
「専属侍女の業務は、主が快適に過ごしていただけるように行動することです。しばらくは私も手伝いますので、ご安心くださいませ」
「……ありがとう」
ラーレの口元が仄かに緩んだのを見て、ヴェルディアナはお礼を告げた。ラーレは基本的にはあまり表情が動かないようだが、笑うととても可愛らしい。そう思いながらヴェルディアナはパンを一口大に千切って口に入れた。パンはとてもふわふわであり、大層美味だ。『ライ』のパンにも匹敵するかもしれない。そんなことを考えながら、ヴェルディアナは次にスープに口をつける。スープはコーンスープのようであり、コーン特有の甘みが口の中に広がった。こちらも、大層美味だった。
「あと、リベラトーレ様はお屋敷にいらっしゃる時には午後三時に軽食という名のスイーツを食べられます。ヴェルディアナ様には、そちらを毎日運んでいただこうかと思っております」
ヴェルディアナが食事を進めていれば、ラーレはそんなことを教えてくれた。
確かに、リベラトーレは甘いものが大層好きだったな。十年前の記憶を引っ張り出せば、リベラトーレのその行動には納得がいく。貴族の男性はあまり甘いものが好きだと公言することはない。それでも、リベラトーレは甘いものが好きだとよくヴェルディアナに教えてくれたものだ。
「えっと、そのスイーツはどちらに取りに行けば……?」
「そこら辺も、初日なので私が同行させていただきます。ただ、リベラトーレ様のお部屋に入るのはヴェルディアナ様だけになります」
淡々と告げられたラーレのその言葉に、ヴェルディアナは目を見開いた。……先ほど、ラーレは手伝ってくれると言っていた。なのに、いきなりリベラトーレの元に一人で行けというのか。
視線だけでそう訴えれば、彼女は「リベラトーレ様に、指示されていますので……」と言いにくそうに告げる。その後、すぐに意を決したのか「リベラトーレ様は、ご自身のお部屋に侍女を入れることを嫌うので」と話してくれた。
「なので、今後は自分の部屋にはヴェルディアナ様以外の侍女は入れるな。私たちはそう指示されました」
「そ、そうなの、ですか……」
リベラトーレがそんなことを言うなど、到底想像できなかった。けれど、ラーレが嘘をつくことはないだろう。そう考え、ヴェルディアナは渋々といった風に納得する。
(……何も、されないといいのだけれど)
馬車の中や眠る前の行為を思い出すと、一人でリベラトーレの部屋に行くのを嫌だと思ってしまう。だが、これは仕事だ。そう自分自身に言い聞かせて、ヴェルディアナはサラダを口に含んで咀嚼した。
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