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本編 第7章
行動
そう思い、ヴェルディアナは慌てて身支度をする。ワンピースに上着を羽織り、靴を履く。そのまま窓の扉を開ける。……玄関からでは、怪しまれてしまう。ならば、窓から出た方が良いに決まっている。
ヴェルディアナの私室は二階にある。そのため、普通に降りればかなりの怪我を負うことは確実だ。が、近くには丈夫な木があった。この木ならば、女性が一人乗ったところで大丈夫だろう。そんな確信を持ち、ヴェルディアナは手袋をつけたままその木の上に乗っかる。
(えぇっと、確かこうすれば……)
幼少期。弟がよく木に登って遊んでいた。当時のことを思いだし、ヴェルディアナは木を使って庭に降りていく。寸前のところで足を踏み外し、芝生の上に落ちてしまったが大した怪我はしていない。こんなもの、リベラトーレの十年間に比べればなんてことない。
「……まずは、辻馬車を拾わなくちゃ」
上着のポケットに入れた財布の中身を確認し、ヴェルディアナはカザーレ侯爵家の庭を駆けた。
そのまま通りに出て、周囲を見渡す。とりあえず、辻馬車が拾える大通りにまで行こう。そう考え、ヴェルディアナは歩く。
辻馬車を拾った後は、とりあえず王宮に向かってみよう。研究所が建ち並ぶ通りはヴェルディアナ一人では入ることが出来ない。王宮だって一緒の可能性はあるが、こちらの方がチャンスはあると思った。
歩いて大通りにまで出れば、周囲の賑わいに目を奪われる。でもと思いなおし、ヴェルディアナは辻馬車を拾おうと周囲を見渡す。幸いにも王宮の付近には観光地が多いので、王宮に行くと行ったところで怪しまれる心配はないはずだ。
そして、ほんの少し遠目に辻馬車が見えた。だからこそ、ヴェルディアナはその馬車を拾おうと手を挙げたのだが――後ろから誰かに口元を押さえこまれ、路地裏に引っ張り込まれてしまう。
(何⁉)
そんな風に考え視線だけで後ろを見れば、見えたのはきれいな金色。……まさか。そう思い目を見開けば、そこにいたのは――ほかでもないオリヴァーだった。
「……ヴェルディアナさん」
彼はこの間とは違うローブを身に纏っている。その色は禍々しいほどの赤色であり、あれが王弟派の魔法使いの正装なのだろう。それを一瞬で理解し、ヴェルディアナは口元を解放されると「放してっ!」と言って暴れる。
「……リベラトーレを、助けたいんですか?」
オリヴァーはにっこりと笑ってヴェルディアナにそう問いかけてきた。そのため、ヴェルディアナは「……当たり前、です」と凛とした声で告げる。
「リベラトーレ様は貴方に嵌められた。それがわかれば、情状酌量の余地があるはずです」
その橙色の目をまっすぐに見つめてそう言えば、オリヴァーは一瞬だけ困ったように笑う。それから「……覚悟は、ありますか?」と意味の分からない問いかけをしてきた。
覚悟。
そんなものずっと昔にできている。そういう意味を込めて彼の目を見てうなずけば、オリヴァーは「……ついてきてください」と言って歩き出す。
オリヴァーのその行動に、ヴェルディアナは戸惑った。オリヴァーはリベラトーレを嵌めた張本人である。そんな彼に易々とついて行くことは出来ない。そう思いヴェルディアナがその場で立ち尽くしていれば、彼は「別に、襲ったりしませんよ」と言ってその口元を緩める。
「殺したりもしない。僕たち王弟派の魔法使いは、国王派の魔法使いを貶め嵌めることしかしませんから」
「……それ、は」
「だから、一般市民に手出しはしません。神に誓います」
ヴェルディアナの目をまっすぐに見つめてそう言うオリヴァーの言葉に、嘘は見えなかった。そのため、ヴェルディアナは意を決して彼について行くことにした。
(けれど、すぐに逃げ出せるようにしなくちゃ……)
かといって、彼を完全に信じるわけにはいかない。内心で警戒しながらオリヴァーに続いて歩いていれば、連れてこられたのは小さな屋敷だった。貴族の屋敷というには質素だが、自然豊かな住み心地のよさそうな場所。きょろきょろとヴェルディアナが周囲を見渡していれば、オリヴァーは門に手を押し当てていた。
「ここ、僕の家なんです」
「……オリヴァー、さまの」
「はい」
オリヴァーはそう言うと、開いた門の中にすたすたと入っていく。なので、ヴェルディアナもためらいがちに一歩を踏み出していく。
敷地の中は外観通り本当に自然豊かであり、療養にぴったりといった雰囲気だった。屋敷の中も同様であり、高価なものは一切おいていない。それに驚いていれば、オリヴァーは一つの扉の前で立ち止まる。
「……ヴェルディアナさん」
「……はい」
「僕と、交渉しませんか?」
扉の前に立ち止まり、オリヴァーはそう問いかけてくる。……交渉。それは一体、どういう意味なのだろうか。そう思い頭上で疑問符を浮かべていれば、彼は「……僕には、病気がちの母がいます」と静かな声で言葉を発した。
ヴェルディアナの私室は二階にある。そのため、普通に降りればかなりの怪我を負うことは確実だ。が、近くには丈夫な木があった。この木ならば、女性が一人乗ったところで大丈夫だろう。そんな確信を持ち、ヴェルディアナは手袋をつけたままその木の上に乗っかる。
(えぇっと、確かこうすれば……)
幼少期。弟がよく木に登って遊んでいた。当時のことを思いだし、ヴェルディアナは木を使って庭に降りていく。寸前のところで足を踏み外し、芝生の上に落ちてしまったが大した怪我はしていない。こんなもの、リベラトーレの十年間に比べればなんてことない。
「……まずは、辻馬車を拾わなくちゃ」
上着のポケットに入れた財布の中身を確認し、ヴェルディアナはカザーレ侯爵家の庭を駆けた。
そのまま通りに出て、周囲を見渡す。とりあえず、辻馬車が拾える大通りにまで行こう。そう考え、ヴェルディアナは歩く。
辻馬車を拾った後は、とりあえず王宮に向かってみよう。研究所が建ち並ぶ通りはヴェルディアナ一人では入ることが出来ない。王宮だって一緒の可能性はあるが、こちらの方がチャンスはあると思った。
歩いて大通りにまで出れば、周囲の賑わいに目を奪われる。でもと思いなおし、ヴェルディアナは辻馬車を拾おうと周囲を見渡す。幸いにも王宮の付近には観光地が多いので、王宮に行くと行ったところで怪しまれる心配はないはずだ。
そして、ほんの少し遠目に辻馬車が見えた。だからこそ、ヴェルディアナはその馬車を拾おうと手を挙げたのだが――後ろから誰かに口元を押さえこまれ、路地裏に引っ張り込まれてしまう。
(何⁉)
そんな風に考え視線だけで後ろを見れば、見えたのはきれいな金色。……まさか。そう思い目を見開けば、そこにいたのは――ほかでもないオリヴァーだった。
「……ヴェルディアナさん」
彼はこの間とは違うローブを身に纏っている。その色は禍々しいほどの赤色であり、あれが王弟派の魔法使いの正装なのだろう。それを一瞬で理解し、ヴェルディアナは口元を解放されると「放してっ!」と言って暴れる。
「……リベラトーレを、助けたいんですか?」
オリヴァーはにっこりと笑ってヴェルディアナにそう問いかけてきた。そのため、ヴェルディアナは「……当たり前、です」と凛とした声で告げる。
「リベラトーレ様は貴方に嵌められた。それがわかれば、情状酌量の余地があるはずです」
その橙色の目をまっすぐに見つめてそう言えば、オリヴァーは一瞬だけ困ったように笑う。それから「……覚悟は、ありますか?」と意味の分からない問いかけをしてきた。
覚悟。
そんなものずっと昔にできている。そういう意味を込めて彼の目を見てうなずけば、オリヴァーは「……ついてきてください」と言って歩き出す。
オリヴァーのその行動に、ヴェルディアナは戸惑った。オリヴァーはリベラトーレを嵌めた張本人である。そんな彼に易々とついて行くことは出来ない。そう思いヴェルディアナがその場で立ち尽くしていれば、彼は「別に、襲ったりしませんよ」と言ってその口元を緩める。
「殺したりもしない。僕たち王弟派の魔法使いは、国王派の魔法使いを貶め嵌めることしかしませんから」
「……それ、は」
「だから、一般市民に手出しはしません。神に誓います」
ヴェルディアナの目をまっすぐに見つめてそう言うオリヴァーの言葉に、嘘は見えなかった。そのため、ヴェルディアナは意を決して彼について行くことにした。
(けれど、すぐに逃げ出せるようにしなくちゃ……)
かといって、彼を完全に信じるわけにはいかない。内心で警戒しながらオリヴァーに続いて歩いていれば、連れてこられたのは小さな屋敷だった。貴族の屋敷というには質素だが、自然豊かな住み心地のよさそうな場所。きょろきょろとヴェルディアナが周囲を見渡していれば、オリヴァーは門に手を押し当てていた。
「ここ、僕の家なんです」
「……オリヴァー、さまの」
「はい」
オリヴァーはそう言うと、開いた門の中にすたすたと入っていく。なので、ヴェルディアナもためらいがちに一歩を踏み出していく。
敷地の中は外観通り本当に自然豊かであり、療養にぴったりといった雰囲気だった。屋敷の中も同様であり、高価なものは一切おいていない。それに驚いていれば、オリヴァーは一つの扉の前で立ち止まる。
「……ヴェルディアナさん」
「……はい」
「僕と、交渉しませんか?」
扉の前に立ち止まり、オリヴァーはそう問いかけてくる。……交渉。それは一体、どういう意味なのだろうか。そう思い頭上で疑問符を浮かべていれば、彼は「……僕には、病気がちの母がいます」と静かな声で言葉を発した。
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