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第1章
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着替えを済ませ、私室で身だしなみを整える。部屋の扉を開けると、台所に立つロジアネが振り返った。
「夜はどうするの?」
「適当に済ませるつもり」
「じゃあ、軽いものを作るから持っていきなよ」
リリアンは常々ロジアネをすごいと思っている。
お嬢さま育ちなのに、この貧乏生活を悲観していない。さらに適応力が素晴らしく、家事などもあっさり覚えてしまった。
リリアンの家事能力など未だに底辺なのに。
「なんか迷惑かけてごめんね」
水差しからカップに水を注ぐ。
そんなリリアンを見つめつつ、ロジアネは大きくため息をついた。
「別にいいよ。お義姉ちゃんは働いてくれてるし」
「……けど、生活費はロジアネの稼ぎじゃない」
「私の生活費だけだったら、こんなにいいアパート借りることができないよ。お義姉ちゃんのおかげ」
アパートの家賃はリリアンが払っていた。
二人にそれぞれ私室があり、リビングとベランダがある。ここらの住宅では比較的新しい建物であり、家具なども備え付けだ。
もちろんその分家賃は高い。
「それに、私たち……その、家族じゃん」
ロジアネが照れたようにうつむいた。
その姿が可愛くてたまらなくて、リリアンは抱き着こうとした。だが、あっさりと躱されてしまう。
「ほら、さっさとテーブルに運んでよ!」
これは明らかに照れ隠しだ。
リリアンはわかったが、口には出さない。
口に出すと間違いなくロジアネは真っ赤になる。彼女はツンケンしているが、案外照れ屋なのだ。
十分後。食卓テーブルには二人分の昼食が並んだ。――リリアンにとっては、朝食も兼ねているが。
「昨日卵が安くて。オムレツにしてみたんだけど、どう?」
「なんかほら、ふわふわしてて美味しい!」
「……お義姉ちゃんの感想、いつも語彙力ないよね」
ロジアネが肩をすくめる。
「けど、美味しいって気持ちは伝わってくるから、嬉しい」
リリアンがぱくぱくオムレツを口に運ぶのを見て、ロジアネが口元を緩めた。
「ロジアネの作るご飯は全部美味しいよ。ベーコンなんて焼き加減が絶妙だもん」
「それは慣れだよ。慣れると大体わかるようになるの」
素っ気ない言葉だが、ロジアネは嬉しそうだ。
ツンケンしていて、照れ屋で。そしてなによりも――ロジアネは可愛いのだ。
「そうだ。今度パンを焼こうかなって思ってるの」
思い出したように言うロジアネに、リリアンは目を見開いた。
「お店の常連さんにパン教室をやってる人がいてね。誘われたの」
「へぇ、いいじゃん。行っておいでよ」
「でも、教室だしなぁって」
彼女の言いたいことはわかった。教室ということは、お金がいるのだ。
「……私はロジアネが行きたいなら、行ったほうがいいと思うよ」
カップを口に運んで、リリアンはつぶやいた。
「しないで後悔するより、して後悔したほうがいいと思う。死ぬとき、あのときああしていたら~なんて思いたくないじゃん」
「……まぁ、そりゃそうだけど」
「やりたいことに全力でいようよ」
笑いかけるとロジアネがなんとも言えない表情をした。
しかし、少ししてうなずく。
「うん、前向きに考えてみる。独学でがんばってみようかなって思ってたけど、やっぱり美味しく作るにはプロから習ったほうがいいよね」
「……うん」
リリアンがああ言ったのは『美味しく作るため』ではない。
ロジアネの人生にたくさんの彩を添えたかったからだ。
(パン教室に行ったら、きっといっぱい出逢いがある。新しい交流もある。この子にちょっとでも楽しいことを与えたい)
口に出したら、ロジアネは拒否する。
だから、リリアンは黙っておくことにした。
こんなこと伝えたところで、なにも変わらないから。
「夜はどうするの?」
「適当に済ませるつもり」
「じゃあ、軽いものを作るから持っていきなよ」
リリアンは常々ロジアネをすごいと思っている。
お嬢さま育ちなのに、この貧乏生活を悲観していない。さらに適応力が素晴らしく、家事などもあっさり覚えてしまった。
リリアンの家事能力など未だに底辺なのに。
「なんか迷惑かけてごめんね」
水差しからカップに水を注ぐ。
そんなリリアンを見つめつつ、ロジアネは大きくため息をついた。
「別にいいよ。お義姉ちゃんは働いてくれてるし」
「……けど、生活費はロジアネの稼ぎじゃない」
「私の生活費だけだったら、こんなにいいアパート借りることができないよ。お義姉ちゃんのおかげ」
アパートの家賃はリリアンが払っていた。
二人にそれぞれ私室があり、リビングとベランダがある。ここらの住宅では比較的新しい建物であり、家具なども備え付けだ。
もちろんその分家賃は高い。
「それに、私たち……その、家族じゃん」
ロジアネが照れたようにうつむいた。
その姿が可愛くてたまらなくて、リリアンは抱き着こうとした。だが、あっさりと躱されてしまう。
「ほら、さっさとテーブルに運んでよ!」
これは明らかに照れ隠しだ。
リリアンはわかったが、口には出さない。
口に出すと間違いなくロジアネは真っ赤になる。彼女はツンケンしているが、案外照れ屋なのだ。
十分後。食卓テーブルには二人分の昼食が並んだ。――リリアンにとっては、朝食も兼ねているが。
「昨日卵が安くて。オムレツにしてみたんだけど、どう?」
「なんかほら、ふわふわしてて美味しい!」
「……お義姉ちゃんの感想、いつも語彙力ないよね」
ロジアネが肩をすくめる。
「けど、美味しいって気持ちは伝わってくるから、嬉しい」
リリアンがぱくぱくオムレツを口に運ぶのを見て、ロジアネが口元を緩めた。
「ロジアネの作るご飯は全部美味しいよ。ベーコンなんて焼き加減が絶妙だもん」
「それは慣れだよ。慣れると大体わかるようになるの」
素っ気ない言葉だが、ロジアネは嬉しそうだ。
ツンケンしていて、照れ屋で。そしてなによりも――ロジアネは可愛いのだ。
「そうだ。今度パンを焼こうかなって思ってるの」
思い出したように言うロジアネに、リリアンは目を見開いた。
「お店の常連さんにパン教室をやってる人がいてね。誘われたの」
「へぇ、いいじゃん。行っておいでよ」
「でも、教室だしなぁって」
彼女の言いたいことはわかった。教室ということは、お金がいるのだ。
「……私はロジアネが行きたいなら、行ったほうがいいと思うよ」
カップを口に運んで、リリアンはつぶやいた。
「しないで後悔するより、して後悔したほうがいいと思う。死ぬとき、あのときああしていたら~なんて思いたくないじゃん」
「……まぁ、そりゃそうだけど」
「やりたいことに全力でいようよ」
笑いかけるとロジアネがなんとも言えない表情をした。
しかし、少ししてうなずく。
「うん、前向きに考えてみる。独学でがんばってみようかなって思ってたけど、やっぱり美味しく作るにはプロから習ったほうがいいよね」
「……うん」
リリアンがああ言ったのは『美味しく作るため』ではない。
ロジアネの人生にたくさんの彩を添えたかったからだ。
(パン教室に行ったら、きっといっぱい出逢いがある。新しい交流もある。この子にちょっとでも楽しいことを与えたい)
口に出したら、ロジアネは拒否する。
だから、リリアンは黙っておくことにした。
こんなこと伝えたところで、なにも変わらないから。
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