26 / 58
本編 第2章
第19話
ぽかんとする私が面白かったのか、彼女は唇の端を上げた。
「あら、聞いていないの?」
明らかに挑発されている。それはわかるけど、なんだか無性に胸の奥がもやもやとして。
視線を彷徨わせて、唇を震わせることしか出来ない。
「まぁ、いいわ。どちらにせよ、ラインヴァルト殿下と結婚するのはこの私。……せいぜい、捨てられないように足掻くことね」
ころころと笑う彼女は、可愛らしい。けど、何処となく怖くも見えてしまう。
(……きっと、なんらかの行き違いよ)
だって、王妃殿下は私のことを応援してくださるって……。
そう思った。でも、どうしてなのか。……王妃殿下のお言葉が、嘘くさく感じてしまう。そんなわけないのに。
(そうよ。だって、王妃殿下は国でも人気の高い素晴らしい女性だもの……)
きっとこれは。この女性が私を動揺させるために言ったことなんだ。
自分自身にそう言い聞かせて、私は顔を上げる。恐る恐る見つめれば、にっこりと笑った。
「あの……」
「なぁに?」
ちょっとためらうように声をかければ、彼女は小首をかしげた。
……正直、沈黙が辛くて声をかけただけなので、なにを話そうか決めていない。
(ここは、私も応戦するべき……?)
と、一瞬思ったけど。今の私にそんな余裕はない。そのため、当たり障りのない言葉を探す。
「えぇっと、あなたさまのお名前は、なんとおっしゃるのでしょうか……?」
結局、そう言うことしか出来なくて。私が彼女を見つめれば、彼女はぽかんと口を開けていた。
「あ、あなた、この私を知らないの……?」
「も、申し訳ございません。私、人のお顔とお名前を一致させるのが苦手で……」
頭を軽く下げてそう言えば、彼女は「はぁ」と大きくため息をつく。
「それだったら、余計に王太子妃なんて務まらないじゃない」
「……う」
それは、間違いない。
言葉に詰まった私を見てか、彼女は「コルネリア」という名前を口にする。
「私の名前。コルネリア・プライス。プライス侯爵家の娘よ」
「……コルネリア、さま」
彼女のお名前を、かみしめるように何度か口にする。そうすれば、彼女――コルネリアさまはなんだかおかしそうな表情を浮かべられた。
それを見て、私はきょとんとする。だからなのか。彼女はすぐに表情を引き締めていた。
「ま、まぁ、いいわね? ラインヴァルト殿下と婚姻するのは、この私。……この決定事項は、覆らないのよ」
コルネリアさまはそれだけを言い残されると、颯爽と場を立ち去られる。かつかつとヒールを鳴らして歩く姿は、さすがは侯爵家のご令嬢と言うべきか。とても美しくて、見惚れてしまう。
(だけど……今は、そんなことよりも)
そもそも、コルネリアさまのおっしゃることが正しいのならば。王妃殿下はいつそんなことをおっしゃったのだろうか。
もしも、私が来るよりも前だったら……それはまぁ、おかしなことじゃないと思う。でも、私が来てからだったら?
(コルネリアさまのあの態度からして、後者みたいよね……)
あの自信満々な態度を見ていると、そう思ってしまう。それに、彼女は明らかに私に喧嘩を売りに来ていたし。
ということは、王妃殿下から私のことを聞いて、喧嘩を売りに来たのでは……?
(ううん、考えすぎよ。……ただの気のせい。勘違い。もしくは、行き違い)
自分の頬を軽く叩いて、私は人気のある廊下のほうへと戻るために足を動かした。
(……でも、コルネリアさまのほうがラインヴァルトさまに相応しいのは……間違い、ない)
彼女は侯爵家のご令嬢だし、私みたいにキズモノじゃないし。
そう思ったら、なんだか無性に苦しくなる。私が、私じゃないみたいだった。
こんな気持ち、ラインヴァルトさまに出逢うまで、抱いたことがなかったから。
「あら、聞いていないの?」
明らかに挑発されている。それはわかるけど、なんだか無性に胸の奥がもやもやとして。
視線を彷徨わせて、唇を震わせることしか出来ない。
「まぁ、いいわ。どちらにせよ、ラインヴァルト殿下と結婚するのはこの私。……せいぜい、捨てられないように足掻くことね」
ころころと笑う彼女は、可愛らしい。けど、何処となく怖くも見えてしまう。
(……きっと、なんらかの行き違いよ)
だって、王妃殿下は私のことを応援してくださるって……。
そう思った。でも、どうしてなのか。……王妃殿下のお言葉が、嘘くさく感じてしまう。そんなわけないのに。
(そうよ。だって、王妃殿下は国でも人気の高い素晴らしい女性だもの……)
きっとこれは。この女性が私を動揺させるために言ったことなんだ。
自分自身にそう言い聞かせて、私は顔を上げる。恐る恐る見つめれば、にっこりと笑った。
「あの……」
「なぁに?」
ちょっとためらうように声をかければ、彼女は小首をかしげた。
……正直、沈黙が辛くて声をかけただけなので、なにを話そうか決めていない。
(ここは、私も応戦するべき……?)
と、一瞬思ったけど。今の私にそんな余裕はない。そのため、当たり障りのない言葉を探す。
「えぇっと、あなたさまのお名前は、なんとおっしゃるのでしょうか……?」
結局、そう言うことしか出来なくて。私が彼女を見つめれば、彼女はぽかんと口を開けていた。
「あ、あなた、この私を知らないの……?」
「も、申し訳ございません。私、人のお顔とお名前を一致させるのが苦手で……」
頭を軽く下げてそう言えば、彼女は「はぁ」と大きくため息をつく。
「それだったら、余計に王太子妃なんて務まらないじゃない」
「……う」
それは、間違いない。
言葉に詰まった私を見てか、彼女は「コルネリア」という名前を口にする。
「私の名前。コルネリア・プライス。プライス侯爵家の娘よ」
「……コルネリア、さま」
彼女のお名前を、かみしめるように何度か口にする。そうすれば、彼女――コルネリアさまはなんだかおかしそうな表情を浮かべられた。
それを見て、私はきょとんとする。だからなのか。彼女はすぐに表情を引き締めていた。
「ま、まぁ、いいわね? ラインヴァルト殿下と婚姻するのは、この私。……この決定事項は、覆らないのよ」
コルネリアさまはそれだけを言い残されると、颯爽と場を立ち去られる。かつかつとヒールを鳴らして歩く姿は、さすがは侯爵家のご令嬢と言うべきか。とても美しくて、見惚れてしまう。
(だけど……今は、そんなことよりも)
そもそも、コルネリアさまのおっしゃることが正しいのならば。王妃殿下はいつそんなことをおっしゃったのだろうか。
もしも、私が来るよりも前だったら……それはまぁ、おかしなことじゃないと思う。でも、私が来てからだったら?
(コルネリアさまのあの態度からして、後者みたいよね……)
あの自信満々な態度を見ていると、そう思ってしまう。それに、彼女は明らかに私に喧嘩を売りに来ていたし。
ということは、王妃殿下から私のことを聞いて、喧嘩を売りに来たのでは……?
(ううん、考えすぎよ。……ただの気のせい。勘違い。もしくは、行き違い)
自分の頬を軽く叩いて、私は人気のある廊下のほうへと戻るために足を動かした。
(……でも、コルネリアさまのほうがラインヴァルトさまに相応しいのは……間違い、ない)
彼女は侯爵家のご令嬢だし、私みたいにキズモノじゃないし。
そう思ったら、なんだか無性に苦しくなる。私が、私じゃないみたいだった。
こんな気持ち、ラインヴァルトさまに出逢うまで、抱いたことがなかったから。
あなたにおすすめの小説
彼女を愛することはない 王太子に婚約破棄された私の嫁ぎ先は呪われた王兄殿下が暮らす北の森でした
まほりろ
恋愛
書籍化しました!
電子書籍配信日・2025年01月31日
紙の書籍販売日・2025年2月4日
描き下ろしSS投稿しました。
※登場自分紹介での誤字について。
登場人物紹介に「ハルト:現国王の兄。ワルモンド:ハルトの兄で現国王」とありますが、下記が正しい情報です。
「ハルト:現国王の兄。ワルモンド:ハルトの弟で現国王」
ハルト(ウィルバート)が【兄】で、ワルモンドが【弟】です。紛らわしくて申し訳ありません。
【粗筋】
公爵令嬢のリーゼロッテは王太子の婚約者だった。しかし双子の妹に婚約者を奪われ、20歳以上年上の王兄の元に嫁がされてしまう。
しかし、王兄殿下のお屋敷でリーゼロッテを出迎えたのは12歳ぐらいの少年で……。
「ハルト」の名乗った少年を、リーゼロッテは王兄殿下の隠し子だと推測した。しかし、少年の正体は意外な人物だった。
リーゼロッテの美貌に目をつけた国王が、彼女を愛人として差し出すように言って来た。
その上、王太子や妹までリーゼロッテを利用しようとしていて……。
「リーゼロッテのことは愛してないし、彼女を愛することはこれからもないよ」
それはハルトがついた苦しくも悲しい嘘だった。
※両片思い、じれじれ、もだもだ。
※第16回恋愛小説大賞で奨励賞を受賞しました!(2023/03/31)応募してくださった皆様のおかげです!ありがとうございます!!
※2022年2月14日HOTランキング25位、ありがとうございました!
虐げられた伯爵令嬢は獅子公爵様に愛される
高福あさひ
恋愛
リリム王国辺境伯エインズワース伯爵家の長女、ユーニス・エインズワース。伯爵令嬢であるはずなのに、生活は使用人以下で、まともに育てられたことはない。それでも心優しく強かに育った彼女は、ある日、隣国との国境である森で二人の怪我をした男性を見つけて……?※不定期更新です。2024/5/14、18話が抜けていたため追加しました。
【2024/9/25 追記】
次回34話以降は10/30より、他サイト様と同時の更新予定です。
氷の宰相補佐と押しつけられた厄災の花嫁
瑞原唯子
恋愛
王命により、アイザックはまだ十歳の少女を妻として娶ることになった。
彼女は生後まもなく始末されたはずの『厄災の姫』である。最近になって生存が判明したが、いまさら王家に迎え入れることも始末することもできない——悩んだ末、国王は序列一位のシェフィールド公爵家に押しつけたのだ。
2度目の結婚は貴方と
朧霧
恋愛
前世では冷たい夫と結婚してしまい子供を幸せにしたい一心で結婚生活を耐えていた私。気がついたときには異世界で「リオナ」という女性に生まれ変わっていた。6歳で記憶が蘇り悲惨な結婚生活を思い出すと今世では結婚願望すらなくなってしまうが騎士団長のレオナードに出会うことで運命が変わっていく。過去のトラウマを乗り越えて無事にリオナは前世から数えて2度目の結婚をすることになるのか?
魔法、魔術、妖精など全くありません。基本的に日常感溢れるほのぼの系作品になります。
重複投稿作品です。(小説家になろう)
悪役令嬢、猛省中!!
***あかしえ
恋愛
「君との婚約は破棄させてもらう!」
――この国の王妃となるべく、幼少の頃から悪事に悪事を重ねてきた公爵令嬢ミーシャは、狂おしいまでに愛していた己の婚約者である第二王子に、全ての罪を暴かれ断頭台へと送られてしまう。
処刑される寸前――己の前世とこの世界が少女漫画の世界であることを思い出すが、全ては遅すぎた。
今度生まれ変わるなら、ミーシャ以外のなにかがいい……と思っていたのに、気付いたら幼少期へと時間が巻き戻っていた!?
己の罪を悔い、今度こそ善行を積み、彼らとは関わらず静かにひっそりと生きていこうと決意を新たにしていた彼女の下に現れたのは……?!
襲い来るかもしれないシナリオの強制力、叶わない恋、
誰からも愛されるあの子に対する狂い出しそうな程の憎しみへの恐怖、
誰にもきっと分からない……でも、これの全ては自業自得。
今度こそ、私は私が傷つけてきた全ての人々を…………救うために頑張ります!
【完結】婚約破棄された令嬢の毒はいかがでしょうか
まさかの
恋愛
皇太子の未来の王妃だったカナリアは突如として、父親の罪によって婚約破棄をされてしまった。
己の命が助かる方法は、友好国の悪評のある第二王子と婚約すること。
カナリアはその提案をのんだが、最初の夜会で毒を盛られてしまった。
誰も味方がいない状況で心がすり減っていくが、婚約者のシリウスだけは他の者たちとは違った。
ある時、シリウスの悪評の原因に気付いたカナリアの手でシリウスは穏やかな性格を取り戻したのだった。
シリウスはカナリアへ愛を囁き、カナリアもまた少しずつ彼の愛を受け入れていく。
そんな時に、義姉のヒルダがカナリアへ多くの嫌がらせを行い、女の戦いが始まる。
嫁いできただけの女と甘く見ている者たちに分からせよう。
カナリア・ノートメアシュトラーセがどんな女かを──。
小説家になろう、エブリスタ、アルファポリス、カクヨムで投稿しています。
【完結】愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」
婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からなくなっていました。
婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェラルディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/01 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、二次選考通過
2022/07/29 FUNGUILD、Webtoon原作シナリオ大賞、一次選考通過
2022/02/15 小説家になろう 異世界恋愛(日間)71位
2022/02/12 完結
2021/11/30 小説家になろう 異世界恋愛(日間)26位
2021/11/29 アルファポリス HOT2位
2021/12/03 カクヨム 恋愛(週間)6位
【完結】何もできない妻が愛する隻眼騎士のためにできること
大森 樹
恋愛
辺境伯の娘であるナディアは、幼い頃ドラゴンに襲われているところを騎士エドムンドに助けられた。
それから十年が経過し、成長したナディアは国王陛下からあるお願いをされる。その願いとは『エドムンドとの結婚』だった。
幼い頃から憧れていたエドムンドとの結婚は、ナディアにとって願ってもいないことだったが、その結婚は妻というよりは『世話係』のようなものだった。
誰よりも強い騎士団長だったエドムンドは、ある事件で左目を失ってから騎士をやめ、酒を浴びるほど飲み、自堕落な生活を送っているため今はもう英雄とは思えない姿になっていた。
貴族令嬢らしいことは何もできない仮の妻が、愛する隻眼騎士のためにできることはあるのか?
前向き一途な辺境伯令嬢×俺様で不器用な最強騎士の物語です。
※いつもお読みいただきありがとうございます。中途半端なところで長期間投稿止まってしまい申し訳ありません。2025年10月6日〜投稿再開しております。