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本編 第2章
第20話
コルネリアさまと対面してから、数日後。私は、王城の庭園で開かれている王妃殿下主催のお茶会に参加していた。
本当のところ、参加なんてしたくなかった。だって、社交界で私は嗤われているだろうから。でも、勇気を振り絞った。理由なんて簡単。……このまま逃げ続けることは、ダメだと思ったから。
あとは……まぁ、うん。ラインヴァルトさまに相応しくなりたい。その気持ちが、先行していた。
けど、気持ちだけではやっていけない。だってお茶会の際中。私はずっと他所のご令嬢たちに陰口をたたかれていたから。
(……やっぱり、こうなるわよね)
ティーカップを見下ろしつつ、私は耳に入ってくる罵りの言葉を受け流そうとする。
全然うまくいっていないけれど。むしろ、心にグサグサと突き刺さっているけれど。
無意味にティースプーンでカップの中身をかき回していると、ふと遠くからコルネリアさまがこちらに来るのが見えた。
無意識のうちに、ティースプーンを持つ手に力が入る。
「あら、テレジアさんではありませんか」
コルネリアさまが、軽く手を挙げつつ私にそう声をかけてくる。
無視するのも感じが悪い。むしろ、角が立つ。その一心で、私は貼り付けたような笑みを浮かべて「コルネリアさま、ごきげんよう」と当たり障りのない挨拶をする。
「ごきげんよう。こちら、ご一緒してもよくて?」
にっこりと笑ったコルネリアさまが、そう問いかけてくる。同じテーブルにいたほかのご令嬢たちは、扇で口元を隠しつつ言葉を交わす。……多分、今から修羅場かなにかが始まると、期待しているのだろう。
「えぇ、どうぞ」
ちょっと震えた声でそう返事をすれば、コルネリアさまは空いている席に腰を下ろす。
彼女は自身でティーポットからカップに紅茶を注ぐ。角砂糖を二つ入れた彼女は、ティースプーンでかき混ぜつつ私に笑いかけてきた。
「それにしても、こんなところでかのテレジアさんに会えるなんて、とても嬉しいです」
……これは、初対面ですアピールなのだろうか。
実際は数日前に会っているのだけれど、ここで空気を壊す勇気はない。なので、私は控えめに頷くだけにとどめた。
「私、あなたと一度お話してみたかったのです。だって、ラインヴァルト殿下が見初めた女性ですものね」
声を張り上げて、コルネリアさまがそう言う。瞬間、近くにいたご令嬢たちの視線が私に集まったのがわかった。
……この中には、もちろん私がラインヴァルトさまに求婚されているということを知らない方も、いる。
「けど、あなただと不相応だと思いません? だって、キズモノですものね」
笑いながら、残酷な真実を告げてくるコルネリアさま。……胸がずきずきと痛む。真実だから余計に、上手く反応が出来ない。
周囲のご令嬢たちが、私たちの様子を楽しそうに窺っている。貴族の女性は自分とは関係のない修羅場が好き。嫌と言うほどに、知っている。
「だから、辞退されたほうがよろしいと思います」
親切を装っていると思った。あくまでもこの言葉は私のため。そう、突き通すつもりらしい。
「それに、ほら。……あなただと家柄も釣り合わないと言いますか」
知ってる。伯爵令嬢である私と、侯爵令嬢であるコルネリアさま。どちらと結婚するほうがメリットが大きいか。それくらい、私だって理解している。
貴族の結婚とは、いわばビジネスだ。好きとか嫌いとか。そういう感情で左右されるものじゃない。
……一度、左右されている私が言えたことじゃないけれど。
本当のところ、参加なんてしたくなかった。だって、社交界で私は嗤われているだろうから。でも、勇気を振り絞った。理由なんて簡単。……このまま逃げ続けることは、ダメだと思ったから。
あとは……まぁ、うん。ラインヴァルトさまに相応しくなりたい。その気持ちが、先行していた。
けど、気持ちだけではやっていけない。だってお茶会の際中。私はずっと他所のご令嬢たちに陰口をたたかれていたから。
(……やっぱり、こうなるわよね)
ティーカップを見下ろしつつ、私は耳に入ってくる罵りの言葉を受け流そうとする。
全然うまくいっていないけれど。むしろ、心にグサグサと突き刺さっているけれど。
無意味にティースプーンでカップの中身をかき回していると、ふと遠くからコルネリアさまがこちらに来るのが見えた。
無意識のうちに、ティースプーンを持つ手に力が入る。
「あら、テレジアさんではありませんか」
コルネリアさまが、軽く手を挙げつつ私にそう声をかけてくる。
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「ごきげんよう。こちら、ご一緒してもよくて?」
にっこりと笑ったコルネリアさまが、そう問いかけてくる。同じテーブルにいたほかのご令嬢たちは、扇で口元を隠しつつ言葉を交わす。……多分、今から修羅場かなにかが始まると、期待しているのだろう。
「えぇ、どうぞ」
ちょっと震えた声でそう返事をすれば、コルネリアさまは空いている席に腰を下ろす。
彼女は自身でティーポットからカップに紅茶を注ぐ。角砂糖を二つ入れた彼女は、ティースプーンでかき混ぜつつ私に笑いかけてきた。
「それにしても、こんなところでかのテレジアさんに会えるなんて、とても嬉しいです」
……これは、初対面ですアピールなのだろうか。
実際は数日前に会っているのだけれど、ここで空気を壊す勇気はない。なので、私は控えめに頷くだけにとどめた。
「私、あなたと一度お話してみたかったのです。だって、ラインヴァルト殿下が見初めた女性ですものね」
声を張り上げて、コルネリアさまがそう言う。瞬間、近くにいたご令嬢たちの視線が私に集まったのがわかった。
……この中には、もちろん私がラインヴァルトさまに求婚されているということを知らない方も、いる。
「けど、あなただと不相応だと思いません? だって、キズモノですものね」
笑いながら、残酷な真実を告げてくるコルネリアさま。……胸がずきずきと痛む。真実だから余計に、上手く反応が出来ない。
周囲のご令嬢たちが、私たちの様子を楽しそうに窺っている。貴族の女性は自分とは関係のない修羅場が好き。嫌と言うほどに、知っている。
「だから、辞退されたほうがよろしいと思います」
親切を装っていると思った。あくまでもこの言葉は私のため。そう、突き通すつもりらしい。
「それに、ほら。……あなただと家柄も釣り合わないと言いますか」
知ってる。伯爵令嬢である私と、侯爵令嬢であるコルネリアさま。どちらと結婚するほうがメリットが大きいか。それくらい、私だって理解している。
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……一度、左右されている私が言えたことじゃないけれど。
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