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本編 第4章
第6話
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そう思っても、私のような小娘が出来る抵抗なんて、知れていて。
あの日から、あっという間に二日が経つ。食事はミーナではない別の侍女が運んできた。その侍女にミーナのことを聞くものの、教えてはくれない。……責められていなければ、いいのだけれど。
(……王妃殿下の怒りが、私だけで済めばいいのだけれど……)
万が一、ミーナにまで向かってしまったら……と思うと、気が気じゃない。
そして、そんなことを考えるとどうしても食欲が失せてしまった。目の前にある夕食も、手つかずのまま。
「あと、三日」
その三日で、なにが出来るというのだろうか。
それに、このままだとラインヴァルトさまに挨拶することさえ、許されそうにない。
王妃殿下のことだ。ラインヴァルトさまに、私に会うなと命じられているだろうから。
(……会いたい、な)
ふと、そう思ってしまった。
私の軽率な行動がこの状態を生み出している。理解している。けど、やっぱり。
私はラインヴァルトさまに会いたい。彼と直接お話がしたい。
「なんとか、出来ないかしら……?」
視線を落として、夕食のスープを見つめた。これは、コーンスープなのよね。色合いが、トウモロコシそのものだもの。
そう思っていれば、ふと窓のほうからからんという音が聞こえてきた。
……慌てて、そちらに視線を向ける。カーテンが閉められている所為で、外は見えない。
(気のせい?)
そんな風に思っても、またからんと音が聞こえてきた。
このお部屋の窓が面しているところは、夕方を過ぎると滅多に人が通らない。だから、人為的なものではないと思うのだけれど。
しばらくして、またからんと音が聞こえてきた。
そのため、私は慌ててそちらに近づいた。音を殺して、カーテンを開ける。もしも、外にいる王妃殿下の手のかかった使用人に見つかったら、面倒だもの。
「……テレジアさま!」
カーテンを開ければ、そこにはミーナがいた。
驚いて目を見開けば、彼女はほっと息を吐きだす。
「よかったです。無事で……!」
「え、えぇ、私は、無事よ。ミーナのほうは?」
「私も、特には」
彼女の言葉にほっと胸を撫でおろした。……でも、どうしてこんなところにいるのだろうか?
「ねぇ、ミーナ」
「……申し訳ございません、テレジアさま。あまり、時間がございません」
ミーナが周囲をきょろきょろと見渡しつつ、私に折りたたんだ紙を差し出す。
私は静かにそれを受け取った。
「こちらは、ラインヴァルト殿下からのお手紙でございます」
「……え」
「殿下は真実を知ろうとされております。……どうか、お返事を」
ミーナはそう言うけれど、返事なんてどうやって出せばいいかわからない。
今すぐに書いて、ミーナに手渡すのには時間が足りないだろうし……。
「このお手紙の中に、便箋が入っております。それでお返事をお書きください」
「え、えぇっと……」
「最後に名前を書けば、その便箋は殿下のもとに届きます」
……意味が、わからない。
かといって、ミーナが嘘をつくとも思えない。
なので、首を縦に振った。
「わかったわ」
もう一度力強く首を縦に振って、そう告げる。
その言葉を聞いたミーナが、頬を緩めてくれた。
「よかったです。……では、私はこれで。見つかると、面倒なことになりますので」
「……ミーナも、気を付けてね」
私の言葉を聞いて、彼女はにっこりと笑ってくれた。
そのまま、彼女は足音を殺して、その場を立ち去る。……私も、音を殺してカーテンを閉めた。
(……お手紙)
お手紙と言うには、小さく折りたたまれている。けど、あの格子を通り抜けるには、これくらいしないといけなかったのだろう。
……それは、容易に想像がついた。
あの日から、あっという間に二日が経つ。食事はミーナではない別の侍女が運んできた。その侍女にミーナのことを聞くものの、教えてはくれない。……責められていなければ、いいのだけれど。
(……王妃殿下の怒りが、私だけで済めばいいのだけれど……)
万が一、ミーナにまで向かってしまったら……と思うと、気が気じゃない。
そして、そんなことを考えるとどうしても食欲が失せてしまった。目の前にある夕食も、手つかずのまま。
「あと、三日」
その三日で、なにが出来るというのだろうか。
それに、このままだとラインヴァルトさまに挨拶することさえ、許されそうにない。
王妃殿下のことだ。ラインヴァルトさまに、私に会うなと命じられているだろうから。
(……会いたい、な)
ふと、そう思ってしまった。
私の軽率な行動がこの状態を生み出している。理解している。けど、やっぱり。
私はラインヴァルトさまに会いたい。彼と直接お話がしたい。
「なんとか、出来ないかしら……?」
視線を落として、夕食のスープを見つめた。これは、コーンスープなのよね。色合いが、トウモロコシそのものだもの。
そう思っていれば、ふと窓のほうからからんという音が聞こえてきた。
……慌てて、そちらに視線を向ける。カーテンが閉められている所為で、外は見えない。
(気のせい?)
そんな風に思っても、またからんと音が聞こえてきた。
このお部屋の窓が面しているところは、夕方を過ぎると滅多に人が通らない。だから、人為的なものではないと思うのだけれど。
しばらくして、またからんと音が聞こえてきた。
そのため、私は慌ててそちらに近づいた。音を殺して、カーテンを開ける。もしも、外にいる王妃殿下の手のかかった使用人に見つかったら、面倒だもの。
「……テレジアさま!」
カーテンを開ければ、そこにはミーナがいた。
驚いて目を見開けば、彼女はほっと息を吐きだす。
「よかったです。無事で……!」
「え、えぇ、私は、無事よ。ミーナのほうは?」
「私も、特には」
彼女の言葉にほっと胸を撫でおろした。……でも、どうしてこんなところにいるのだろうか?
「ねぇ、ミーナ」
「……申し訳ございません、テレジアさま。あまり、時間がございません」
ミーナが周囲をきょろきょろと見渡しつつ、私に折りたたんだ紙を差し出す。
私は静かにそれを受け取った。
「こちらは、ラインヴァルト殿下からのお手紙でございます」
「……え」
「殿下は真実を知ろうとされております。……どうか、お返事を」
ミーナはそう言うけれど、返事なんてどうやって出せばいいかわからない。
今すぐに書いて、ミーナに手渡すのには時間が足りないだろうし……。
「このお手紙の中に、便箋が入っております。それでお返事をお書きください」
「え、えぇっと……」
「最後に名前を書けば、その便箋は殿下のもとに届きます」
……意味が、わからない。
かといって、ミーナが嘘をつくとも思えない。
なので、首を縦に振った。
「わかったわ」
もう一度力強く首を縦に振って、そう告げる。
その言葉を聞いたミーナが、頬を緩めてくれた。
「よかったです。……では、私はこれで。見つかると、面倒なことになりますので」
「……ミーナも、気を付けてね」
私の言葉を聞いて、彼女はにっこりと笑ってくれた。
そのまま、彼女は足音を殺して、その場を立ち去る。……私も、音を殺してカーテンを閉めた。
(……お手紙)
お手紙と言うには、小さく折りたたまれている。けど、あの格子を通り抜けるには、これくらいしないといけなかったのだろう。
……それは、容易に想像がついた。
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