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本編 第5章
第4話
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「……ラインヴァルト、わたくしは入室の許可を出した覚えはありませんよ」
いち早く現実に戻ってこられたのか、王妃殿下が鋭い声でそうおっしゃる。
でも、ラインヴァルトさまは気にされている素振りもない。ただじっと王妃殿下を見つめられている。
「母上のことだ。俺をこの場に入室させるとは思えない」
それはまぁ、正しいのだろう。
だって、王妃殿下には私との会話なんて聞かれたくないはずだ。……特に、ラインヴァルトさまには。
「だから、強行突破させてもらった。……さて、母上にお伝えしたいことがありまして」
ラインヴァルトさまが一歩前に踏み出されて。王妃殿下と向き合う。
かと思えば、振り返って扉のほうに視線を向けられた。そこには、二人の騎士に挟まれたゲオルグさまが……いて。
「この者に金品を渡したというのは、本当のことですか?」
視線を王妃殿下に戻されたラインヴァルトさまが、怒りを孕んだお声でそう問いかけられた。
意味がわからなくて、私はきょとんとする。
「……どういうこと、かしら?」
「俺の言葉通りの意味ですよ。この者に金品を渡し、テレジアに言い寄るようにと指示をした……違います?」
彼のお言葉は問いかけなんかじゃない。確証を持っていて、そのうえで認めさせようとしている。
そういう雰囲気というか、オーラを感じる。
「はっ、どうしてこのわたくしがそんなことをせねばならないのですか」
「テレジアの不貞をでっちあげて、この王城から追い出す算段だったのでしょうね」
ラインヴァルトさまが指示を出されると、二人の騎士はゲオルグさまの背中を押す。彼は床に転んで鋭い視線でにらみつけていた。
私でもラインヴァルトさまでもなく。――王妃殿下を。
「――あなたさまは言うとおりにすれば母に掛け合ってくれる。そう、言いましたよね?」
強く強く。怒りと憎しみ、殺意を帯びたような目で、ゲオルグさまが王妃殿下を睨みつけられる。
……王妃殿下の視線が、一瞬だけ彷徨った。
「母上。あなたはこの男を利用した。生活費と住む場所を提供して、思うがままに操っていた」
「……どういう、ことですか?」
私一人、なにも分からなかった。
きょとんとしつつラインヴァルトさまを見上げれば、彼は私に口パクで「大丈夫」と伝えてくださる。
「この男は、母親から絶縁を宣言された。……なにも持たずに、身体一つで公爵家を追い出されている」
「……え」
確かに、ゲオルグさまのお母さま……公爵夫人は世間体をすごく気にされるお方だった。
ただ、まさかそこまでされるなんて想像もしていなくて。……あぁ、でも、よくよく考えればそうか。
(彼のお父さま、公爵さまは夫人に頭が上がらないものね……)
だったら、夫人の一存で追い出されても仕方がないのかもしれない。
「そこを母上……いや、王妃は利用した。公爵家に戻るまでの生活面での世話と、公爵夫人に掛け合うというのを条件にして、テレジアに言い寄るようにと命令したんだ」
……ゲオルグさまを見つめた。
彼は私なんて気にも留めていない。ただただ、王妃殿下を睨みつけている。
「なんだ、この結末は! どうしてこの俺がこんな目に遭っているんだ!」
ゲオルグさまは立ち上がり、王妃殿下に詰め寄っていた。
王妃殿下は、なにもおっしゃらない。
「母はあなたさまと仲がいい。そんなあなたさまのお言葉ならば、母だって考えを改めると――」
けど、ゲオルグさまのお言葉は最後まで続かない。王妃殿下が、彼を突き飛ばしたからだった。
「……被害者ぶって、なんのつもり?」
彼女はそう零された。
「それに、わたくしのことを巻き込むなんて、なんてしつけがなっていないのかしら。そんなもの知らないわ。あぁ、恐ろしい」
一種の恐怖を感じるほどに、白々しい態度だと思ってしまう。
「あぁ、きっとその女にわたくしを嵌めるようにとお願いされたんだわ。気弱なふりをして、あくどいことをするのね」
まるでさも自分が被害者のように王妃殿下がそう嘆かれた。
「――わたくしはあなたに精一杯尽くしたというのに。恩をあだで返された気分だわ!」
いち早く現実に戻ってこられたのか、王妃殿下が鋭い声でそうおっしゃる。
でも、ラインヴァルトさまは気にされている素振りもない。ただじっと王妃殿下を見つめられている。
「母上のことだ。俺をこの場に入室させるとは思えない」
それはまぁ、正しいのだろう。
だって、王妃殿下には私との会話なんて聞かれたくないはずだ。……特に、ラインヴァルトさまには。
「だから、強行突破させてもらった。……さて、母上にお伝えしたいことがありまして」
ラインヴァルトさまが一歩前に踏み出されて。王妃殿下と向き合う。
かと思えば、振り返って扉のほうに視線を向けられた。そこには、二人の騎士に挟まれたゲオルグさまが……いて。
「この者に金品を渡したというのは、本当のことですか?」
視線を王妃殿下に戻されたラインヴァルトさまが、怒りを孕んだお声でそう問いかけられた。
意味がわからなくて、私はきょとんとする。
「……どういうこと、かしら?」
「俺の言葉通りの意味ですよ。この者に金品を渡し、テレジアに言い寄るようにと指示をした……違います?」
彼のお言葉は問いかけなんかじゃない。確証を持っていて、そのうえで認めさせようとしている。
そういう雰囲気というか、オーラを感じる。
「はっ、どうしてこのわたくしがそんなことをせねばならないのですか」
「テレジアの不貞をでっちあげて、この王城から追い出す算段だったのでしょうね」
ラインヴァルトさまが指示を出されると、二人の騎士はゲオルグさまの背中を押す。彼は床に転んで鋭い視線でにらみつけていた。
私でもラインヴァルトさまでもなく。――王妃殿下を。
「――あなたさまは言うとおりにすれば母に掛け合ってくれる。そう、言いましたよね?」
強く強く。怒りと憎しみ、殺意を帯びたような目で、ゲオルグさまが王妃殿下を睨みつけられる。
……王妃殿下の視線が、一瞬だけ彷徨った。
「母上。あなたはこの男を利用した。生活費と住む場所を提供して、思うがままに操っていた」
「……どういう、ことですか?」
私一人、なにも分からなかった。
きょとんとしつつラインヴァルトさまを見上げれば、彼は私に口パクで「大丈夫」と伝えてくださる。
「この男は、母親から絶縁を宣言された。……なにも持たずに、身体一つで公爵家を追い出されている」
「……え」
確かに、ゲオルグさまのお母さま……公爵夫人は世間体をすごく気にされるお方だった。
ただ、まさかそこまでされるなんて想像もしていなくて。……あぁ、でも、よくよく考えればそうか。
(彼のお父さま、公爵さまは夫人に頭が上がらないものね……)
だったら、夫人の一存で追い出されても仕方がないのかもしれない。
「そこを母上……いや、王妃は利用した。公爵家に戻るまでの生活面での世話と、公爵夫人に掛け合うというのを条件にして、テレジアに言い寄るようにと命令したんだ」
……ゲオルグさまを見つめた。
彼は私なんて気にも留めていない。ただただ、王妃殿下を睨みつけている。
「なんだ、この結末は! どうしてこの俺がこんな目に遭っているんだ!」
ゲオルグさまは立ち上がり、王妃殿下に詰め寄っていた。
王妃殿下は、なにもおっしゃらない。
「母はあなたさまと仲がいい。そんなあなたさまのお言葉ならば、母だって考えを改めると――」
けど、ゲオルグさまのお言葉は最後まで続かない。王妃殿下が、彼を突き飛ばしたからだった。
「……被害者ぶって、なんのつもり?」
彼女はそう零された。
「それに、わたくしのことを巻き込むなんて、なんてしつけがなっていないのかしら。そんなもの知らないわ。あぁ、恐ろしい」
一種の恐怖を感じるほどに、白々しい態度だと思ってしまう。
「あぁ、きっとその女にわたくしを嵌めるようにとお願いされたんだわ。気弱なふりをして、あくどいことをするのね」
まるでさも自分が被害者のように王妃殿下がそう嘆かれた。
「――わたくしはあなたに精一杯尽くしたというのに。恩をあだで返された気分だわ!」
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