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本編 第5章
第6話
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別に悪いことをしたとは思っていない。ただ、あの場にいることが辛くて。
私はどんどんスピードを上げて、王城の中を早足で歩いていた。
行き場所なんてなかった。ただ、私の足は自然と中庭のほうへと向かっていて。
気が付いたら、中庭にあるベンチに腰かけていた。
「……私は、これからどうすればいいんだろう」
あの場を穏便に済ませることも、やろうと思えばやれたのだろう。ただ、どうしても。
私は王妃殿下が許せなかった。ラインヴァルトさまの幸せなんて願っていない、彼女のことが。
そして、私はこれ以上ここに居たいとは思えなかった。
ラインヴァルトさまのご迷惑になるくらいならば、出て行ったほうがいい。そう思う気持ちがある。
修道院に行く。もしくは、田舎でのんびりと暮らすのもいいかもしれない。
「そうだわ。……やっぱり、そうするべきだもの」
小さくそう呟いて、ベンチから立ち上がったとき。
不意に私の目の前に誰かが立つ。恐る恐る顔を上げてみれば、そこには厳しい表情をされたラインヴァルトさまがいらっしゃった。
「……テレジア」
彼が少し気まずそうに、私の名前を呼ばれた。
……とくとくと心臓が早足になる。
あぁ、そうだ。だって、私。彼と対面したのは本当に久々なんだもの。
「ラインヴァルト、さま」
「何処に行くつもりだ?」
彼の隣を通り抜けようとして、声をかけられた。
びくんと肩を跳ねさせて、足を止める。彼が私のほうに身体を向けられた。
「……その、行きたい場所が、あって」
別に行きたい場所なんてない。これはただ、ここから逃れるための言葉だ。
「そうか」
私の言葉に、ラインヴァルトさまがそれだけを返す。かと思えば、彼が私の行く手を阻むように移動された。
「俺の勘が正しければ、テレジアの行きたいところとは――そうだな。修道院とか、そういうところだろう?」
「っ」
見透かされている。
心臓がドキッと音を鳴らして、私は誤魔化すように視線を逸らした。
これじゃあ、図星ですって言っているみたいなのに。
「なんだ? 俺と一緒にいてくれるんじゃなかったのか?」
彼がそう声を発する。その声の奥には、縋るような感情が宿っているように感じられる。
……ぎゅっと目を瞑って、顔を背けた。
「……私は、ラインヴァルトさまに相応しくない……」
絞り出すようにそう言葉を紡いだ。彼に相応しくなろうと思っていた。が、今回のことで痛感した。
――私がどれだけ相応しくなろうとしても、文句を言う人はいるのだと。
(だったら、ラインヴァルトさまには誰にも文句をつけられない女性と一緒になってほしい……)
それが、私の望みだった。
「……相応しい、か」
「は、い」
「俺に相応しいのはテレジアだ」
……意味がわからなくて、ぽかんとする。
彼がおもむろに私の手を取る。それから、上着のポケットからなにかを取り出した。
「これは、まぁ、いわば玩具みたいなもんだけど。……とりあえず、着けるな」
ぽかんとする私を他所に、ラインヴァルトさまがその『なにか』を私の指に通す。
そこにあるのは、シンプルなシルバーのリングだった。
「……あの、これ」
目を瞬かせて、彼を見つめる。私の視線を感じた彼は、ちょっと照れくさそうに頬を掻いていた。
「婚約指輪……は、また別に用意する。これはただのプレゼントだ」
その割には、しっかりと薬指に嵌っているのはどうしてなのか。絶対、逃がさないっていう強い意思を感じる。
……あぁ、そうだ。ラインヴァルトさまは、そういうお人だった。
「なんですか、それ……」
私の口から出た声には、涙が混じっていたと思う。
「プレゼントなのに、薬指にはめるんですか……」
軽く嗚咽を漏らしながら、私は抗議の色を宿した言葉をぶつける。ラインヴァルトさまは、大きく頷かれていた。
「だって、逃がさないためだし」
私はどんどんスピードを上げて、王城の中を早足で歩いていた。
行き場所なんてなかった。ただ、私の足は自然と中庭のほうへと向かっていて。
気が付いたら、中庭にあるベンチに腰かけていた。
「……私は、これからどうすればいいんだろう」
あの場を穏便に済ませることも、やろうと思えばやれたのだろう。ただ、どうしても。
私は王妃殿下が許せなかった。ラインヴァルトさまの幸せなんて願っていない、彼女のことが。
そして、私はこれ以上ここに居たいとは思えなかった。
ラインヴァルトさまのご迷惑になるくらいならば、出て行ったほうがいい。そう思う気持ちがある。
修道院に行く。もしくは、田舎でのんびりと暮らすのもいいかもしれない。
「そうだわ。……やっぱり、そうするべきだもの」
小さくそう呟いて、ベンチから立ち上がったとき。
不意に私の目の前に誰かが立つ。恐る恐る顔を上げてみれば、そこには厳しい表情をされたラインヴァルトさまがいらっしゃった。
「……テレジア」
彼が少し気まずそうに、私の名前を呼ばれた。
……とくとくと心臓が早足になる。
あぁ、そうだ。だって、私。彼と対面したのは本当に久々なんだもの。
「ラインヴァルト、さま」
「何処に行くつもりだ?」
彼の隣を通り抜けようとして、声をかけられた。
びくんと肩を跳ねさせて、足を止める。彼が私のほうに身体を向けられた。
「……その、行きたい場所が、あって」
別に行きたい場所なんてない。これはただ、ここから逃れるための言葉だ。
「そうか」
私の言葉に、ラインヴァルトさまがそれだけを返す。かと思えば、彼が私の行く手を阻むように移動された。
「俺の勘が正しければ、テレジアの行きたいところとは――そうだな。修道院とか、そういうところだろう?」
「っ」
見透かされている。
心臓がドキッと音を鳴らして、私は誤魔化すように視線を逸らした。
これじゃあ、図星ですって言っているみたいなのに。
「なんだ? 俺と一緒にいてくれるんじゃなかったのか?」
彼がそう声を発する。その声の奥には、縋るような感情が宿っているように感じられる。
……ぎゅっと目を瞑って、顔を背けた。
「……私は、ラインヴァルトさまに相応しくない……」
絞り出すようにそう言葉を紡いだ。彼に相応しくなろうと思っていた。が、今回のことで痛感した。
――私がどれだけ相応しくなろうとしても、文句を言う人はいるのだと。
(だったら、ラインヴァルトさまには誰にも文句をつけられない女性と一緒になってほしい……)
それが、私の望みだった。
「……相応しい、か」
「は、い」
「俺に相応しいのはテレジアだ」
……意味がわからなくて、ぽかんとする。
彼がおもむろに私の手を取る。それから、上着のポケットからなにかを取り出した。
「これは、まぁ、いわば玩具みたいなもんだけど。……とりあえず、着けるな」
ぽかんとする私を他所に、ラインヴァルトさまがその『なにか』を私の指に通す。
そこにあるのは、シンプルなシルバーのリングだった。
「……あの、これ」
目を瞬かせて、彼を見つめる。私の視線を感じた彼は、ちょっと照れくさそうに頬を掻いていた。
「婚約指輪……は、また別に用意する。これはただのプレゼントだ」
その割には、しっかりと薬指に嵌っているのはどうしてなのか。絶対、逃がさないっていう強い意思を感じる。
……あぁ、そうだ。ラインヴァルトさまは、そういうお人だった。
「なんですか、それ……」
私の口から出た声には、涙が混じっていたと思う。
「プレゼントなのに、薬指にはめるんですか……」
軽く嗚咽を漏らしながら、私は抗議の色を宿した言葉をぶつける。ラインヴァルトさまは、大きく頷かれていた。
「だって、逃がさないためだし」
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