末っ子第三王女は竜王殿下に溺愛される【本編完結】

文字の大きさ
5 / 60
第一章末っ子王女の婚姻

5/リディアの事情(後)

しおりを挟む


 リールーの話が終わり、オーレア王がレオナルドに向き直り悲しげに言う。

「それから一年が経った。リディアは一応六才と言っている」
 リディアはほんの少し背が伸びた気もするが、殆ど戻って来た時と変わらないようにも見えるのだ。
 しかし、話してみると中身は十五才の少女なのだよ。
 姿を消した十三才までの記憶は残っている。この一年で、その記憶に続く王女としての教育は、しっかり受けさせて来た。しかし、いつ実年齢に合った体に戻れるのかも分からない。
 事が事だけに、城内で働く者にはリディアの生還を知らせておる。だが、リディアは妖精と遊んだ幼い心と十五の心が混濁する事があったので、なるべく人目に触れないようにしてきたのだ。
 そのような娘ゆえ、殿下の番と言われても嫁がせるわけにはいかないのだよ」

 オーレア王が涙を浮かべながら訴えた。

「妖精の悪戯でそんな事が……リディは本当は十五才の少女。なるほど、どうりで言葉の端に六才児とは思えぬものがあったのか理解しました。エルフの子リールーよ。私の番であるリディアを、精霊の国から連れ戻してくれたことに感謝する。其方が動いてくれなければ、私は一生番と巡り逢う事が出来なかったと思う」

 レオナルドはリール―に向かって感謝の言葉を告げた。そして、オーレア王の方を向き目を合わせる。

「オーレア陛下、これまでの話をお聞きしても、それでも私は自分の番を諦める事は出来ません」
「兄上……」
「レオナルド殿下、リディアは一生今のままという事もあるのですぞ。それでも良いと?」
「ええ、それでもです。私はリディを傍らに置き、生涯愛でていたいと思うのです」

「…………」

 リディアにどんな事情があろうとも、レオナルドの番に対する思いは断ち切ることは出来なかった。

「しかし、伴侶となれば妻としての役目もあるであろう。リディアの体が戻らなければ、その役目も果たせないではないか」

「陛下の言う通りでございますわ。心と頭は十五才でも六才の体の娘に無体な事は出来ないでございましょう。夫婦としての繋がりが持てず、子を成せなくても、レオナルド殿下は良いと申されるのですか?」

「王妃殿、竜族は元々子が出来難いという事もあり、我々は普通の種族より長寿でもあります。人族が番になった場合は、竜族に伝わるものを摂取する事により、番も寿命を延ばすことが出来ます。長い年月の間にリディが元の体を取り戻すかもしれません。子作りはそれからでも遅くありません。もし生涯戻れなくとも、私はリディの事を大切に思い、あらゆる憂い事から守り、愛し続けると断言できます。
 どうか、リディア王女を私の妻とすることをお許しください」

 自分たちも娘がずっとこのままだとは思っていない。いつか元の姿に戻ると信じている。それでも、最悪の事態を考えてしまうのだ。
 彼の言葉に王妃は、これ以上何も言う事が出来なくなっていた。
 オーレア王はレオナルドの話を聞いて、竜族の番への愛情とは究極の愛なのだと思った。

「竜族としてのレオナルド殿下のお気持ちは理解した。しかし、リディアが拒めば無理に送り出すことは出来ない」

「はい、それは承知の上にございます。もし断られても、何度でもこちらに足を運び、リディア王女の前に跪き、何度でも乞うつもりです」

「……分かった。リディアをここへ」

◆◆◆

 少し前の事、自室で一人の食事を済ませたリディアは、クッションを抱えたままソファに寝転んでいた。 頭に浮かぶのは池で会った竜王国からきたというレオナルドの事だった。

「ねえ、リールー。レニーって時々だけど竜になれるんですって。背中にのせて頂いて空を飛んでみたいわ」
 お茶を入れていた侍女は、その手を止め幼い王女を見る。
「まぁ、それは夢みたいなお話ですね」
「うん、レニーの竜のお姿ってどんなかしら?黒髪に紫に金の瞳。あっ、きっと黒竜ね。素敵だわ♪」
 クッションで口元を隠し大きなブルーの瞳を出しているリディアだが、その目は恋する乙女の目だと思えた。
「はい、とても素敵なお方でしたもの。竜のお姿も凛々しく威厳がお有りになるのでしょう」
「そうよね。さっきメイドたちが噂していたけど・・・クリスティお姉さまか、リリアーヌお姉さまのどちらかとご婚約されるのかしら?レニーは素敵だから申し込まれたら、二人ともお受けするわよね」 

『リディア様の初恋なのかもしれない。こう見えても中身は十五才の少女なのだから、レオナルド様に恋をしてもおかしくない筈だ。
 姉上殿下との婚約の噂を聞いて、胸が締め付けらる思いをされているに違いないわ』

 リールーは王女の叶えられない初恋を痛ましく思いながら、紅茶に蜂蜜を落とした。

「失礼します。王女様はまだ起きておられますでしょうか?」
 ノックの後に侍従のアロンが、問い掛けて来た。

「はい、これからお茶を飲まれるところですが、なにか?」
「陛下が、リールーに暁の間に来るようにと」
「まぁ、こんな時間にお呼び出しなんて、何事でしょうか」
 リールーがリディアの顔を伺う。
「行ってきていいわよ、リールー」
「畏まりました。 アロン、すぐにお伺いいたします」
 彼女がドアの向こうのアロンに返事を返す。

 一人になったリディアは、レオナルドに想いを馳せていた。
――本当にお姉さまのどちらかに求婚されるのかしら?
 私が元の姿だったら、お声を掛けていただけたかしら?
 竜王国かー、行ってみたいな。獣人もいるのよね。会ってみたい。
 そうよ、お姉さまが嫁げば、遊びに行けるかもしれないわ!
 うん、きっと行けるわ――

 そんな事を考えながら、いつの間にか睡魔に襲われてしまったリディア。
 どのくらいの時が経ったのか、戻って来たリールーに起こされて目を覚ました。
 戻って来たリールーは、王がリディアを呼んでいると伝え、急ぎ着替えをさせる。
 そして、リディアは部屋の外で待っていたアロンの先導で、リールーに手を引かれ暁の間へと向かったのだった。


しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています

柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。 領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。 しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。 幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。 「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」 「お、畏れ多いので結構です!」 「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」 「もっと重い提案がきた?!」 果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。 さくっとお読みいただけますと嬉しいです。

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

番が見つけられなかったので諦めて婚約したら、番を見つけてしまった。←今ここ。

三谷朱花
恋愛
息が止まる。 フィオーレがその表現を理解したのは、今日が初めてだった。

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

呪われた黒猫と蔑まれた私ですが、竜王様の番だったようです

シロツメクサ
恋愛
ここは竜人の王を頂点として、沢山の獣人が暮らす国。 厄災を運ぶ、不吉な黒猫─────そう言われ村で差別を受け続けていた黒猫の獣人である少女ノエルは、愛する両親を心の支えに日々を耐え抜いていた。けれど、ある日その両親も土砂崩れにより亡くなってしまう。 不吉な黒猫を産んだせいで両親が亡くなったのだと村の獣人に言われて絶望したノエルは、呼び寄せられた魔女によって力を封印され、本物の黒猫の姿にされてしまった。 けれど魔女とはぐれた先で出会ったのは、なんとこの国の頂点である竜王その人で─────…… 「やっと、やっと、見つけた────……俺の、……番……ッ!!」 えっ、今、ただの黒猫の姿ですよ!?というか、私不吉で危ないらしいからそんなに近寄らないでー!! 「……ノエルは、俺が竜だから、嫌なのかな。猫には恐ろしく感じるのかも。ノエルが望むなら、体中の鱗を剥いでもいいのに。それで一生人の姿でいたら、ノエルは俺にも自分から近付いてくれるかな。懐いて、あの可愛い声でご飯をねだってくれる?」 「……この周辺に、動物一匹でも、近づけるな。特に、絶対に、雄猫は駄目だ。もしもノエルが……番として他の雄を求めるようなことがあれば、俺は……俺は、今度こそ……ッ」 王様の傍に厄災を運ぶ不吉な黒猫がいたせいで、万が一にも何かあってはいけない!となんとか離れようとするヒロインと、そんなヒロインを死ぬほど探していた、何があっても逃さない金髪碧眼ヤンデレ竜王の、実は持っていた不思議な能力に気がついちゃったりするテンプレ恋愛ものです。世界観はゆるふわのガバガバでつっこみどころいっぱいなので何も考えずに読んでください。 ※ヒロインは大半は黒猫の姿で、その正体を知らないままヒーローはガチ恋しています(別に猫だから好きというわけではありません)。ヒーローは金髪碧眼で、竜人ですが本編のほとんどでは人の姿を取っています。ご注意ください。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

処理中です...