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閑話*Ⅰ
閑話/ 鬼ごっこ
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*妖精宮が完成する少し前のおはなし*
「こら、リディ何処へ行く!」
「妖精妃殿!」
「リディアさまー」
一月以上もレオナルドの私室に、閉じ込められるような生活をしていたリディアのストレスが爆発した。
政務から戻ったレオナルドを迎えるフリをして、彼の長い足元をすり抜け廊下に飛び出して行ったのだ。
そんな様子を妖精たちは楽しそうに見ていた。
ロロとララはリディアたちに見つからないように後を追い、リディアの行動を見守っている。
「ヤッター!脱出成功よ」
長い廊下の調度品の陰に隠れながら逃げていくリディア。
その後を必死の形相で追い掛けるレオナルド。
王宮の中での鬼ごっこが始まった。
「あら、妖精妃様お一人でどうなされましたか?」
三階から隠れるようにしながら降りてきたリディアに、廊下を曲がったところで出くわしたメイドが、驚き声を掛けて来た。
宮内では何時も王太子殿下に抱かれている妖精妃様が、一人で歩き回ることなどありえない。
彼女は大きなワゴンを押しており、その中に洗濯するリネン類が無造作に押し込まれてあった。
「鬼ごっこをしているの。ちょっとここを借りるわね」
「ええっ、殿下と鬼ごっこ……?」
リディアはワゴンによじ登り、シーツの下に潜り込んだ。
「レニー様が鬼だから教えちゃ駄目よ。お願いね!」
――ウィンクをして頭からシーツを被る妖精妃様が可愛すぎます!――
「は、はい。かしこまりました!」
妖精妃と会話が出来た上にお願いまでされ、ウサギ獣人メイドの耳がピンと立った。
次の廊下を曲がったところでレオナルドと鉢合わせをする。
「おっと!」
「し、失礼いたしました、殿下」
慌てて頭を下げる。
「いや、大丈夫だ。それより私の妃を見なかったか?」
「い、いいえ。見ておりません!では、失礼いたします」
もう一度頭を下げ、ワゴンを押し立ち去るメイドの後ろ姿を見送りながら、こんな事をしている場合ではないと、リディア探しを再開するレオナルド。
メイドはその場をうまく切り抜け「はぁー」と溜息を吐き、リディアはワゴンの中で声を殺して笑っていた。
「ウサギのメイドさんありがとう」
「いえ、いえ、殿下に掴まらないように頑張って下さいね!」
「うん、まかせて!」
洗濯場へ向かう途中で降ろしてもらい、今度は厨房に紛れこんだリディア。
「せ、妖精妃様ではありませんか!このような場所に来てはなりません。お付きの者はどうされたのですか!」
料理長が慌てて駆け寄って来た。
「今、殿下と鬼ごっこをしているところなの。ちょっとだけお邪魔させて」
熊獣人の調理長は小さく可愛い妖精妃の願いを叶えない訳にはいかない。
「そうでしたか、でもここは火があり危険ですのでこちらへどうぞ」
料理長に抱かれ隣の作業場へ連れて行かれる。
「わぁー、いい匂い」
「はい、ティータイムにお出しするクッキーが焼き上がった所です。味見されますか?」
「うん」
笑顔で答えるリディアに冷ましている途中のクッキーが出される。
「いかがです?」
「ほんのり暖かくて、しっとりして美味しいわ。また食べに来ても良いかしら?」
「はい、殿下のお許しが出れば」
「ありがとう」
リディアは料理長にお礼を言うと、
「みなさん、いつも美味しいお料理ありがとう」
と、手を振って厨房から出て行く。
妖精妃の可愛らしさに料理番たちがメロメロになってしまったのは言うまでもない。
リディアが出て行ってすぐに護衛のドラフトが姿を現す。
料理長と少しだけ会話する。焼き立てのクッキーをいくつかの袋に入れてもらい厨房を出るとリディアの後を追った。
そこへロロとララが姿を現す。
「これは、妖精殿」
『なんか面白いことになってるね』
「ええ、ホントに。妖精殿たちは高みの見物ですか?」
『うん、そうなの~』
「では、これを」
ドラフトは今貰ったばかりのクッキーを妖精たちに一枚ずつ渡した。
『わーい、ありがとう♪』
『ありがとねー、オオカミさん』
体の三分の一ほどあるクッキーを抱えてロロとララは姿を消した。
――次はどこ行かれるつもりかな――
彼は狼獣人だ。犬獣人同様に嗅覚は鋭い。
リディアが逃げ始めた時点から、少し距離を置いて彼女の後を追い掛けて来ていたのだ。
――どうやら殿下は焦り過ぎて番である妃のニオイを見失ってしまったようだな。部屋に閉じこもりきりの妃だ。たまにはこんなお遊びも良いではないか――
一人で何やら楽しそうに笑う美丈夫の狼騎士を、使用人やメイドたちが頬を染めて遠くから見とれているのを彼は知らない。
リディアは鼻歌交じりで洗濯棟の裏へ出てみた。
すると楽し気な少女の達の話し声が聞こえてくる。
誘われるように覗いて見ると、井戸の周りでシーツをタライに入れ足で踏んで洗っているようだ。
「楽しそうだわ」
リディアは井戸の方へ駆け寄り声を掛ける。
「私にもやらせて」
少女たちが一瞬で固まる。
――金色の長い髪を靡かせて目を輝かせているのは……
――自分たちを見上げている瞳の色は濁りの無いアクアマリンのブルー……
――まさか噂に聞く妖精妃様がこのようなところにいる筈はないけれど……
「まさか、妖精妃様ですか!」
震える声で一人の少女が聞いてくる。
「そうよ、リディアよ。よろしくね」
「な、何故こんな洗濯場に(汗)」
「殿下と鬼ごっこをしているんだけど、面白そうだからやらせて欲しいの」
「と、とんでもございません!妖精妃様が洗濯なんて、知られたらあたしたち辞めさせられちゃいます!」
「大丈夫よ、殿下には私から言っておくから」
答えながら靴を脱ぎ靴下を脱いで、一番大きなタライの中へ入って行くリディア。
「妖精妃さまー、そんな……」
「はい、みんなで頑張りましょう!」
タライに入っていた少女の手を取ると足踏みをし始めるリディアに、つられ少女も足を動かす。
「ウフフ、気持ちいいわ。でも冬は冷たくて大変ね」
「ええええー、あっ、はい、でもこの辺りは一年を通して温暖なのでそれ程ではありません!」
「そうなのね、私がいつもキレイなシーツで眠れるのは皆のお陰ね、ありがとう」
彼女たちが足で踏んで洗っているのは、使用人たちの物なのだが、六才児の妖精妃に礼を言われるなんて思いもしなかった洗濯場の少女たちは、感動して泣き出してしまう。
「ほらほら、みんな足が止まってるわよ」
ワンピースの裾を摘み上げバシャバシャと足踏みをする妖精妃の仕草が可愛すぎて、少女たちも泣き笑いをしながら足を動かした。
――やれやれ、暫らくここを動きそうもないか。妖精妃殿は何処へ行っても人気者になるな。仕方ない、そろそろ殿下に知らせて差し上げるか――
ドラフトからの知らせを受けたレオナルドが、血相を変えてやって来た。
陰で隠れいるドラフトに手招きされて一緒にリディアの様子を伺う。
井戸の周りに並べられたタライの中で、少女たちと楽しそうに笑いながら足踏みをしている。そんな番の姿に思わず笑いそうになり、手で口を押えた。
「殿下。楽しそうね、妖精妃殿は」
「ああ、本当に」
――ふっ、オーレア王家のあの池で初めてリディアを見た時と一緒だ。あんなに楽しそうに笑って……私の我儘でリディの自由を奪っていたのか――
フフッと笑みを浮かべてレオナルドがリディアの方へと近づいていく。
「楽しそうだなリディ」
突然現れた王太子に少女たちは青ざめ足を止める。
「皆、妃が迷惑を掛けたな」
レオナルドの美しすぎる笑みに、少女たちの青ざめた顔が一気に高揚した。
「と、とんでもございません。精霊妃様に洗濯など……申し訳ありません。どのような罰でもお受け致します」
震える声でリーダー格の少女が頭を下げると、他の少女たちもタライに入ったまま深々と頭を下げた。
「レニー?」
首を傾げて見てくるリディアにレオナルドは優しく微笑む。
「頭を上げなさい。私は怒っているのではないぞ。こんな楽しそうな妃を見たのは久しぶりだ。礼を言わせて貰う」
「殿下からお礼だなんて……み、みんな、どうしよう?」
少女たちはぶるぶると頭を横に振った。
「ねっ、レニー様は優しいから大丈夫よ」
嬉しそうに言うリディアをレオナルドはひょいと抱き上げる。
「レニー、お洋服が汚れてしまうわ!」
「大丈夫だよ、汚れたら彼女たちが綺麗にしてくるよ。そうだろうみんな?」
「「「はい!」」」
王族の衣類などここにいる少女たちが洗える訳がないことは彼女たちも知っている。王族専門の者がいる事は承知の上で、彼女たちも笑顔で返事を返してきたのだった。
「さぁ、そろそろ部屋に戻ろうか。リールーとミルミルが心配していたぞ」
「ふふふ、そうね。鬼ごっこはお終いにする」
「ああ、悪戯妃はこれから私とお茶の時間だ。美味しいクッキーがある」
「えっ、それって」
ドラフトがレオナルドに抱かれたリディアに、料理長から貰って来た袋を一つ差し出す。
「ドラフトは知ってたのね」
ジト目でドラフトを見るリディアに、彼は何も言わず微笑み頭を下げた。
そして、リーダー格の少女にも残りのクッキーの袋を渡す。
「妖精妃殿と遊んでくれた礼だ。皆で食べなさい」
一言添え、彼はリディアの靴と靴下を回収し、レオナルドとリディアの後を追った。
「「「ありがとうございます!」」」彼女の達の頬が赤らみ、歓喜する。
レオナルドの肩越しに顔を覗かせ手をふる妖精妃に、少女たちも姿が見えなくなるまで手を振り続けていたのだった。
こうして妖精妃と王太子殿下の鬼ごっこは終了した。
王宮内には可愛い精霊が走り回り、使用人たちの心を癒して行ったという話が広まる。そして使用人たちの間では、次は自分たちのところにも幸せを運んで来てくれるかもしれないと囁かれる事となった。
部屋に戻ったリディアは、リールーにたっぷりとお説教をされる。
その後、お茶と一緒に出されたのは、先ほど厨房で味見したクッキー。
クッキーはもう冷めていていつも通りだったが、普段より美味しく感じられた。
*おしまい。*
_________________________________
※次回から第二章。
前に書きましたがほんのりエロはいります。が、中身15才ですがまだ身体は……ですので変な事にはなりませんのでご安心を(´▽`)
「こら、リディ何処へ行く!」
「妖精妃殿!」
「リディアさまー」
一月以上もレオナルドの私室に、閉じ込められるような生活をしていたリディアのストレスが爆発した。
政務から戻ったレオナルドを迎えるフリをして、彼の長い足元をすり抜け廊下に飛び出して行ったのだ。
そんな様子を妖精たちは楽しそうに見ていた。
ロロとララはリディアたちに見つからないように後を追い、リディアの行動を見守っている。
「ヤッター!脱出成功よ」
長い廊下の調度品の陰に隠れながら逃げていくリディア。
その後を必死の形相で追い掛けるレオナルド。
王宮の中での鬼ごっこが始まった。
「あら、妖精妃様お一人でどうなされましたか?」
三階から隠れるようにしながら降りてきたリディアに、廊下を曲がったところで出くわしたメイドが、驚き声を掛けて来た。
宮内では何時も王太子殿下に抱かれている妖精妃様が、一人で歩き回ることなどありえない。
彼女は大きなワゴンを押しており、その中に洗濯するリネン類が無造作に押し込まれてあった。
「鬼ごっこをしているの。ちょっとここを借りるわね」
「ええっ、殿下と鬼ごっこ……?」
リディアはワゴンによじ登り、シーツの下に潜り込んだ。
「レニー様が鬼だから教えちゃ駄目よ。お願いね!」
――ウィンクをして頭からシーツを被る妖精妃様が可愛すぎます!――
「は、はい。かしこまりました!」
妖精妃と会話が出来た上にお願いまでされ、ウサギ獣人メイドの耳がピンと立った。
次の廊下を曲がったところでレオナルドと鉢合わせをする。
「おっと!」
「し、失礼いたしました、殿下」
慌てて頭を下げる。
「いや、大丈夫だ。それより私の妃を見なかったか?」
「い、いいえ。見ておりません!では、失礼いたします」
もう一度頭を下げ、ワゴンを押し立ち去るメイドの後ろ姿を見送りながら、こんな事をしている場合ではないと、リディア探しを再開するレオナルド。
メイドはその場をうまく切り抜け「はぁー」と溜息を吐き、リディアはワゴンの中で声を殺して笑っていた。
「ウサギのメイドさんありがとう」
「いえ、いえ、殿下に掴まらないように頑張って下さいね!」
「うん、まかせて!」
洗濯場へ向かう途中で降ろしてもらい、今度は厨房に紛れこんだリディア。
「せ、妖精妃様ではありませんか!このような場所に来てはなりません。お付きの者はどうされたのですか!」
料理長が慌てて駆け寄って来た。
「今、殿下と鬼ごっこをしているところなの。ちょっとだけお邪魔させて」
熊獣人の調理長は小さく可愛い妖精妃の願いを叶えない訳にはいかない。
「そうでしたか、でもここは火があり危険ですのでこちらへどうぞ」
料理長に抱かれ隣の作業場へ連れて行かれる。
「わぁー、いい匂い」
「はい、ティータイムにお出しするクッキーが焼き上がった所です。味見されますか?」
「うん」
笑顔で答えるリディアに冷ましている途中のクッキーが出される。
「いかがです?」
「ほんのり暖かくて、しっとりして美味しいわ。また食べに来ても良いかしら?」
「はい、殿下のお許しが出れば」
「ありがとう」
リディアは料理長にお礼を言うと、
「みなさん、いつも美味しいお料理ありがとう」
と、手を振って厨房から出て行く。
妖精妃の可愛らしさに料理番たちがメロメロになってしまったのは言うまでもない。
リディアが出て行ってすぐに護衛のドラフトが姿を現す。
料理長と少しだけ会話する。焼き立てのクッキーをいくつかの袋に入れてもらい厨房を出るとリディアの後を追った。
そこへロロとララが姿を現す。
「これは、妖精殿」
『なんか面白いことになってるね』
「ええ、ホントに。妖精殿たちは高みの見物ですか?」
『うん、そうなの~』
「では、これを」
ドラフトは今貰ったばかりのクッキーを妖精たちに一枚ずつ渡した。
『わーい、ありがとう♪』
『ありがとねー、オオカミさん』
体の三分の一ほどあるクッキーを抱えてロロとララは姿を消した。
――次はどこ行かれるつもりかな――
彼は狼獣人だ。犬獣人同様に嗅覚は鋭い。
リディアが逃げ始めた時点から、少し距離を置いて彼女の後を追い掛けて来ていたのだ。
――どうやら殿下は焦り過ぎて番である妃のニオイを見失ってしまったようだな。部屋に閉じこもりきりの妃だ。たまにはこんなお遊びも良いではないか――
一人で何やら楽しそうに笑う美丈夫の狼騎士を、使用人やメイドたちが頬を染めて遠くから見とれているのを彼は知らない。
リディアは鼻歌交じりで洗濯棟の裏へ出てみた。
すると楽し気な少女の達の話し声が聞こえてくる。
誘われるように覗いて見ると、井戸の周りでシーツをタライに入れ足で踏んで洗っているようだ。
「楽しそうだわ」
リディアは井戸の方へ駆け寄り声を掛ける。
「私にもやらせて」
少女たちが一瞬で固まる。
――金色の長い髪を靡かせて目を輝かせているのは……
――自分たちを見上げている瞳の色は濁りの無いアクアマリンのブルー……
――まさか噂に聞く妖精妃様がこのようなところにいる筈はないけれど……
「まさか、妖精妃様ですか!」
震える声で一人の少女が聞いてくる。
「そうよ、リディアよ。よろしくね」
「な、何故こんな洗濯場に(汗)」
「殿下と鬼ごっこをしているんだけど、面白そうだからやらせて欲しいの」
「と、とんでもございません!妖精妃様が洗濯なんて、知られたらあたしたち辞めさせられちゃいます!」
「大丈夫よ、殿下には私から言っておくから」
答えながら靴を脱ぎ靴下を脱いで、一番大きなタライの中へ入って行くリディア。
「妖精妃さまー、そんな……」
「はい、みんなで頑張りましょう!」
タライに入っていた少女の手を取ると足踏みをし始めるリディアに、つられ少女も足を動かす。
「ウフフ、気持ちいいわ。でも冬は冷たくて大変ね」
「ええええー、あっ、はい、でもこの辺りは一年を通して温暖なのでそれ程ではありません!」
「そうなのね、私がいつもキレイなシーツで眠れるのは皆のお陰ね、ありがとう」
彼女たちが足で踏んで洗っているのは、使用人たちの物なのだが、六才児の妖精妃に礼を言われるなんて思いもしなかった洗濯場の少女たちは、感動して泣き出してしまう。
「ほらほら、みんな足が止まってるわよ」
ワンピースの裾を摘み上げバシャバシャと足踏みをする妖精妃の仕草が可愛すぎて、少女たちも泣き笑いをしながら足を動かした。
――やれやれ、暫らくここを動きそうもないか。妖精妃殿は何処へ行っても人気者になるな。仕方ない、そろそろ殿下に知らせて差し上げるか――
ドラフトからの知らせを受けたレオナルドが、血相を変えてやって来た。
陰で隠れいるドラフトに手招きされて一緒にリディアの様子を伺う。
井戸の周りに並べられたタライの中で、少女たちと楽しそうに笑いながら足踏みをしている。そんな番の姿に思わず笑いそうになり、手で口を押えた。
「殿下。楽しそうね、妖精妃殿は」
「ああ、本当に」
――ふっ、オーレア王家のあの池で初めてリディアを見た時と一緒だ。あんなに楽しそうに笑って……私の我儘でリディの自由を奪っていたのか――
フフッと笑みを浮かべてレオナルドがリディアの方へと近づいていく。
「楽しそうだなリディ」
突然現れた王太子に少女たちは青ざめ足を止める。
「皆、妃が迷惑を掛けたな」
レオナルドの美しすぎる笑みに、少女たちの青ざめた顔が一気に高揚した。
「と、とんでもございません。精霊妃様に洗濯など……申し訳ありません。どのような罰でもお受け致します」
震える声でリーダー格の少女が頭を下げると、他の少女たちもタライに入ったまま深々と頭を下げた。
「レニー?」
首を傾げて見てくるリディアにレオナルドは優しく微笑む。
「頭を上げなさい。私は怒っているのではないぞ。こんな楽しそうな妃を見たのは久しぶりだ。礼を言わせて貰う」
「殿下からお礼だなんて……み、みんな、どうしよう?」
少女たちはぶるぶると頭を横に振った。
「ねっ、レニー様は優しいから大丈夫よ」
嬉しそうに言うリディアをレオナルドはひょいと抱き上げる。
「レニー、お洋服が汚れてしまうわ!」
「大丈夫だよ、汚れたら彼女たちが綺麗にしてくるよ。そうだろうみんな?」
「「「はい!」」」
王族の衣類などここにいる少女たちが洗える訳がないことは彼女たちも知っている。王族専門の者がいる事は承知の上で、彼女たちも笑顔で返事を返してきたのだった。
「さぁ、そろそろ部屋に戻ろうか。リールーとミルミルが心配していたぞ」
「ふふふ、そうね。鬼ごっこはお終いにする」
「ああ、悪戯妃はこれから私とお茶の時間だ。美味しいクッキーがある」
「えっ、それって」
ドラフトがレオナルドに抱かれたリディアに、料理長から貰って来た袋を一つ差し出す。
「ドラフトは知ってたのね」
ジト目でドラフトを見るリディアに、彼は何も言わず微笑み頭を下げた。
そして、リーダー格の少女にも残りのクッキーの袋を渡す。
「妖精妃殿と遊んでくれた礼だ。皆で食べなさい」
一言添え、彼はリディアの靴と靴下を回収し、レオナルドとリディアの後を追った。
「「「ありがとうございます!」」」彼女の達の頬が赤らみ、歓喜する。
レオナルドの肩越しに顔を覗かせ手をふる妖精妃に、少女たちも姿が見えなくなるまで手を振り続けていたのだった。
こうして妖精妃と王太子殿下の鬼ごっこは終了した。
王宮内には可愛い精霊が走り回り、使用人たちの心を癒して行ったという話が広まる。そして使用人たちの間では、次は自分たちのところにも幸せを運んで来てくれるかもしれないと囁かれる事となった。
部屋に戻ったリディアは、リールーにたっぷりとお説教をされる。
その後、お茶と一緒に出されたのは、先ほど厨房で味見したクッキー。
クッキーはもう冷めていていつも通りだったが、普段より美味しく感じられた。
*おしまい。*
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※次回から第二章。
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