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第1章 魔法と科学が紡ぐ世界

2 魔法学園とメルヘン王国

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 静かな部屋に男がコーヒーをれる音だけがコトコトとひびく。と言うよりまず異世界に珈琲豆コーヒーまめがある事におどろいている。
「ええと、それで貴方あなたは?」
 少しペースを取り乱していたが、らちが明かないので話を切り出そうとする。
「ん、僕かい?」
「はい」
 そこで一旦いったん静寂せいじゃくに包まれる。コーヒーをマイカップにそそぎ終わった男が、コーヒーに息を吹きかけた。
「いやだから貴方は誰ですか?!」
「ん、僕?」
「同じ反応しないでくださいよ・・・・・・」
 なんだこの人、二十歳前半くらいだろうけど何故か馬鹿ばかに見えて仕方しかたない。
「僕はリヒトだよ。君は?」
「俺は優人です、ユウト」
「ほう、では本題ほんだいへ移ろうか」
「そうしてください・・・・・・」
「コーヒー飲む?」
「いいですから早く進めてください!」
きびしいな君は。それじゃあまずこの世界についてからだね、この世界には沢山の王国が存在している。ここはメルヘン王国、さっき争っていたのは別の王国達だ」
「それじゃあここはやはり異世界・・・・・・」
「異世界とは何だい? 君は他の世界軸せかいじくから来たと言っていたね、君はどんな世界から来たんだ?」
 俺の居た世界か、なんて言えばいいんだろうな。魔法がない世界? それとも科学が統治とうち していた世界?
「どうやらなんと言えばいいのか分からないようだね、僕も正直そんな感じなんだよ。だから説明は難しい」
 確かに言われてみればそうだ。前に居た世界がどんな文化を持っていたかも分からない人間に今の世界を説明してと言っても無理がある。
「見たところ君はこちらの言語を喋れないようだ。まずは《 言語スキル 》を覚えるといい、このスキルは覚えている人間など、そうそう居ないが今の君には必要だろう」
「そうですね」
 とは言ったもののスキルなんて覚え方分からないぞ。現世にはスキルという概念がいねん自体無かったのだからな。
「スキルってどうやって会得えとくするんですか?」
「それも分からないか・・・・・・では精神こころに身をゆだねて自分が言語スキルを会得した時の想像をするんだ」
 リヒトさんが俺の傷を治していた時のように目を瞑り、瞑想する。言語スキルを習得した時の想像・・・・・・。

『魔法・《 天使の恵み 》を会得しました』

「違う、それは『回復魔法』だ。というかユウト君、よくその魔法を会得できたね・・・・・・僕も会得に三ヶ月かけた上級魔法なんだけどな」
「そうなんですか?! なんか頭に魔法名が浮かんだんですけど、これ俺に使ってくれた魔法か・・・・・・」
「でもその感覚かんかくだ、それでスキルを会得するんだよ」
 もう一度仕切り直してスキルを会得してみる、瞑想のようなイメージ。全神経をスキルを会得する事のみに集中させて、全身の力を抜く。異世界の人と会話をしているイメージ、英語を喋るかのような、そんな感じ。

『スキル・《 言語理解 》を会得しました』

 これで出来たのかな? とリヒトさんの顔を見てみる。口を開け唖然あぜんとしているようだ。
「君、本当に天才か?」
「誰でも覚えられるんじゃ?」
「ああ、それはスキルレベルが1の時の話。ただし君はそれを最初からMAXの状態じょうたいで会得した。普通の人間じゃそれは不可能なんだよ」
 俺の頭の中じゃ会得の文字すら出なかったけどな。これで理解出来るようになったのか?
「そこで君に話がある」
 改まったかのようにコーヒーを飲み干し、真剣しんけん眼差まなざしを俺に向けた。
「この世界じゃ魔法学園を卒業しなければ、クエストを受けてお金をかせぐ事も、騎士としてはたらく事も出来ないんだ。言いたいことはわかるね?」
「要するに俺はその学園に入学しろと?」
「そうだ。君のプロフィールをスキルで見させてもらったが、運がいい事に十六歳だ。ちょうど今、転校すれば何とかなる。生憎あいにく、僕はこれから用事で別の国にしばらく行かなければならない。元の世界に帰るとしても、それまでこちらの世界で生活出来なければもともないだろ?」
 言われてみればそうだ。異世界に来てしまったにしても戻るまでの過程プロセスが必要だ。魔法学園というのだから魔法が主役の学校なんだろうけど入るのもアリだろう。
「確かにそうですね・・・・・・」
「どちらにしろ僕は明後日あさってから当分家を空ける。家は帰ってくるまで君に貸そう、好きに使ってくれ。お金もたんまりある、ただ盗んで逃げたりするなよ?」
「そんなことしませんよ!」
冗談ジョークだよ、面白いな君。僕は君のいう異世界召喚いせかいしょうかんとやらを信じてみる事にするよ。という訳だ、早いとこ入学手続きをしに行かねばな」
「じゃあ俺も行きますよ」
「いや僕1人で行くよ、校長がせっかちな奴でね。面倒なんだ」
「そうですか」
 ニコリとみをかべ、リヒトさんは家を後にした。
 校長に直談判じかだんぱんしに行くって言うのか? どんな権力けんりょくの持ち主なんだこの人・・・・・・。
 リヒトさんが居なくなった部屋は物音ものおと1つしない静寂にたされた部屋となった。
 部屋は現世のマンションの部屋とは何ら変わりは無く、極々平凡な造り。置かれているものも、PCパソコンやテレビ、エアコンなどもそなえられており、とてもじゃないが異世界感はしない。ただパソコンの置かれているデスクの後ろにズラリと並べられた本棚だけは異世界感が漂っていた。
「ひとつくらい読んで見ようかな」
 リヒトさんは家を出る前に魔法の本とかを読んでいろと言って出ていった。ただ一つ気になることがある。
「やはりそうか」
 スキルが自動発動されて、文字が全て日本語になっていた。恐るべし言語理解・・・・・・。
 手に取った本には、表紙ひょうしに『魔法書』と書かれていて中には魔法名と思われるカタカタがズラリと並んでいる。
「シャスール・・・・・・か」
 炎と光の融合魔法ゆうごうまほうらしい。難しくてよく分からないけどな。まずさっき覚えた回復魔法しか使えない俺に融合魔法なんて使えるわけないだろ、と本を閉じる。
「眠いな・・・・・・ソファーで横になろう」
 豪快ごうかいにふかふかのソファーに寝転ねころんで深い息をすると、一瞬で眠りについた。
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