26 / 104
第3章 リッター・デア・ヴェーヌス
プロローグ~金星行きのシャトルにて~
しおりを挟むヘクトン「火星では大活躍だったそうじゃないか。デイエスの検挙はこっちでもちょっとしたニュースになっているよ」
チャミー「ホンマか。いや実際にやったのはウチの仲間やけどな」
ほおわ「賞金首とったんかぁぁぁぁッ! なんという一攫千金! で、私に何割くれるんか」
チャミー「まあ、人には言えないぐらいの額はもらったけど、あんたには一銭だってやれんわ」
ほおわ「なんとぉぉぉぉぉッ!! 我らの友情もこれまでかぁぁぁぁッ!!」
浪速のよっしー「はいはい。いつものやつはええから。でもその賞金の使い道は決まってるんやろ?」
ロイヤルガード「その仲間の為か、チャミー?」
チャミー「せやな。それが目的でデイエスを捕まえて賞金貰ったからな」
ヘクトン「来るのか、天王星に? 歓迎するよ」
浪速のよっしー「手早いチャミーのことだから、もう天王星行きのシャトルに乗っているのかね?」
チャミー「いや、それがすぐには行けへんのや」
ヘクトン「ほう? チケットの手配ができなかったのかい? 確か火星から天王星への直行便は無かったしね。木星を経由するのが早いのだけど、あそこは最近きな臭い……」
ロイヤルガード「きな臭い……ゼウス・チャイルドの暗殺か。一人ならず二人までもその手にかかるとは思わなかったが」
チャミー「ちゃうねん。たしかに木星はきな臭いとは思うけど理由は他に理由があるんよ」
ロイヤルガード「ほう、その理由とは?」
チャミー「事情があってな……
――金星に寄ることになったんよ」
イクミはピッと前に浮かんでいるディスプレイを閉じる。
惑星と惑星を超えたチャットにより、気の合った情報仲間と色々と情報収集を行うのが日課だが、今はそこまで時間をかけなくてもいいだろうと思った。
「せっかくの旅行やしな」
今イクミ達は金星行きのシャトルに乗っている。
シャトルは火星の成層圏を抜けて、宇宙空間を航行している。ここまで来るとあとはもう金星へ着くのをゆったりと待つだけだ。
「のう、ダイチ? このシャトルは地球を通過するのか?」
「いや俺は詳しくないから、そういうことはイクミに訊いてくれ」
「んで、いきなりうちに振ってくるの堪忍してーなー。うち、疲れとるんよ。ヴァーランスの改修や金星と天王星行きのチケットの手配とか色々してたんやから」
「それで、地球は見えるのか?」
自分の言い分をまったくきかないフルートのふてぶてしさに少し呆れる。
「うんや地球が視認できるとこまで近づかんからみえんよ」
「なんじゃ……」
フルートはあからさまにがっかりする。
「まあ、そこに地球人がおるからそれで我慢するんや」
「おお、そうじゃ! ダイチは地球人じゃから地球を見てるようなものじゃな!」
「なんでそうなるんだ……? 俺はただの地球人だぞ。第一それを言ったらお前だって地球作っただろう?」
ダイチが言っているのは木星でのテロリストの拠点から脱出の際に、フルートが能力を発言させて、一瞬だけ地球に似せた天体を作り出したことだ。
「妾の記憶の奥底にある地球のイメージを映し出して作ったに過ぎんし、あれでは妾自身見ることができんからダメじゃ!」
「そうなものなのか?」
「自分の姿は自分で見ることができんということじゃ」
「そりゃそうだな」
「あれ、映像でも残せていないからな」
イクミもその時のことを思い出す。
ダイチが放り出されてから、フルートが力を発現させて、青い惑星・地球に似せた天体を作り出した。
イクミはカメラを回してみたものの、その様子は映像には一切残っていなかった。あれは一体何だったのか解析すらできなくて、イクミは密かに悔しい想いをしていたのだ。
そのため、フルートにもう一度できないかと頼んでみたが、まだ力の制御ができないため、小惑星の規模の天体を作り出すことはできないと言われた。
そこをなんとかとひと押ししてみたが、下手をすると火星に小惑星をぶつけて滅ぼすかもしれないと言われては引き下がるしか無かった。さすがに惑星の命運まで賭ける度胸は持ち合わせていない。
「じゃから、地球が見れなくて残念じゃな」
「そうか……」
ダイチは感慨深げに言う。
ダイチにとっても地球は故郷だから見たいはずだと、イクミは思うがこの様子から見るとそうではないらしい。
そもそもどうやって地球から火星にやってこられたのか非情に気になるところなのだが、本人はわからないと言うのだからどうしようもない。
「わからない、わからないことだらけやな……」
思わずぼやきたくなる。
もっとも、だからこそ知りたくなるわけなのだが。
「さあエリス、もっと物欲しそうな目をして、あーんしてください!」
「そんな目、できるかー!」
あっちの方も飽きずによくやるものだと感心する。
両腕が無くなったエリスは自分で食事をとることが出来ないため、ミリアがスプーンを使って食べさせてやらないとダメなのだが、ミリアがそんな状況でからかわないはずがない。
というわけで、ミリアが散々お預けさせて食べさせないのだから、エリスとしてはたまったものじゃない。
普通だったらエリスがいつ爆発しないかヒヤヒヤものだが、そこは長年一緒に住んでいることもあって安心してみていられる。
特にミリアはエリスのご機嫌に関しては物凄く敏いから、爆発するかしないかのギリギリのところで食べさせてやっているのには感心する。
ダイチはそんな様子を見て、エリスをからかって何が楽しいのだろうかと疑問を口にしていたが、それには少し同意してしまう。まあ見ていて飽きない二人ではある。
「………………」
そんな各々の様子を見ている中、一人落ち着かないマイナの姿が目に止まる。
「どうかしたんか?」
声をかけてみる。
「あ、いや!」
「そんな焦らといても墜落なんてせえへんて」
「べ、別に墜落を気にしてるわけじゃないわ!」
滅茶苦茶気にしてるなーと、イクミは思った。
「なんや、惑星間旅行は初めてか?」
「そんなわけないでしょ、二度目よ!」
「ああ、木星まで行って帰られなくなったときが初めてか」
「あうう……!」
マイナは秘密をバレたときのようにオドオドする。とはいってもこのぐらいのことはみんな知っていることなので今更だ。
「まあ、これであんたも水星に帰れるんやからよかったな」
金星と水星は距離が近いこともあってシャトルの便も多い。
水星人であるマイナは、一旦金星に行ってから、水星に帰ることにしていた。
「うぅ……すまない、この借りはいつか必ず返す」
「何言うてるんや? このまま帰すわけあらへんやろ」
「はあ?」
マイナは豆鉄砲を食らったかのような顔をする。
「あんたの水星行きのチケットまで手配してへんちゅうことや」
「はあああッ!? ちょっと待て! チケットを手配するように頼んだはずよ!」
「頼んだけど、了承したわけやないで」
「それじゃ、詐欺じゃないの!」
「人聞き悪いこと言わんといてーな」
「くうう……それでは私は天王星まで一緒に行かなければならないのか」
「せやな。一つよろしく頼むわ」
イクミが笑顔で言う。
「し、仕方が無いわね……まあ、ちょうどいい機会だ。今を逃したら二度と水星を出る機会は無いかもしれないからね」
「ああ……」
さすがにそこまで言われるとイクミも少しだけ悪い気がする。
水星人の寿命は短い。
マイナはこの中にいる誰よりも見た目が大人だが、誰よりも幼い。反対に、この中で誰よりも見た目が幼い冥王星人のフルートは、誰よりも年上という奇妙なことになっている。
そこで改めて考えさせられるのは、水星人の寿命は、太陽系のヒトの中で最も短い。地球で言う一年が彼らにとって、およそ6年に相当する。
そのため、マイナの言う、二度と水星を出る機会は無いかもしれない。というのは残り少ない一生を水星で暮らしていくうちに終えてしかもしれないということ。
果たして、マイナは自分よりも何倍も生きられる火星人や冥王星人を見てどう思っているのだろうか。
「この機会だ。せっかくの旅行を楽しむわね」
しかし、そう言ったマイナにはイクミが考えているような暗さは一切無かった。
「せやな!」
だから、イクミも笑顔で答える。
「あ~!」
そこに水を差すようにエリスの唸り声が聞こえてくる。
「どうですか、おいしいですか?」
「おいしいも何も、あんたのせいで不愉快よ!」
「うーん、それは困りましたね。
あ、そうだ。ダイチさんにやってもらうのはどうでしょうか?」
「俺かよ!?」
急に自分に振られるとは思わなかったダイチは面食らう。
「たまにやってみたそうな顔をしていましたので」
「してねえ!」
「大丈夫です。猛獣を手なづけてみる感覚でやれば簡単にできますから」
「私は猛獣か!?」
「たしかにかみついてきそうだな」
「そこは否定しなさいよ!」
「普段の行いというやつじゃな」
フルートの発言にダイチとミリアは同意する。
「あんた達ねえ……! 義手が出来たら憶えてなさいよ。あとダイチはあとで蹴り殺す!」
「やっべ……これ以上怒らせたらマジで殺される」
「じゃあ、ご機嫌取りですね」
そう言って、ミリアは嬉々とした態度でスープの皿をダイチに差し出す。
「うぅ……」
ダイチはスープとエリスを交互に見やる。
苛立ちで歯軋りを立てているエリスは猛獣そのもので、スプーンどころか手ごと噛みつかれそうだ。
「しょうがねえな」
「言っておくけど、こんなことしても手心は加えないから」
「それはどうも。腕が治ったらサンドバックにされないことだけを祈るよ」
「それはあんたの心がけ次第ね」
「心がけねえ……」
ダイチはため息を付いて、スプーンを差し出す。
「いつまで、こんな不自由なのよ?」
エリスはぼやく。
「もう少しの辛抱や。金星についたらすぐ腕のいいマイスターに見繕ってもらうから。腕だけにな、ハハハハ!」
イクミの冗談のせいで、エリスの怒りは急激に冷めた。
「本当に……大丈夫なんでしょうね?」
それと共に不安まで込み上げてきた。
果たして、無事に質のいい義手を着けてもらえるのだろうか。
ダイチ達が乗っているのは金星行きのシャトルであった。
天王星の指名手配犯デイエス・グラフラーを捕らえたことで多額の賞金が貰えた。
その金を天王星行へ行く旅費にあてても十分お釣りがくるほどであったので、
一度エリスの義手を見繕ってもらうために、金星に行くことにした。
金星は金属の採掘・加工が太陽系で最も盛んな惑星であり、それにともなってマイスターと呼ばれる腕利きの職人も多い。当然、それにともなって金属で出来ている義手を作成する義肢装具士のマイスターもいる。
金星に行って彼らにエリスの新しい義手の作成を依頼する。それが目的の金星旅行であった。
当初エリスはすぐにでも天王星に行くべきだと反対した。
何故ならそこにエリスの本当の両腕の手がかりがそこにあるのかもしれないし、そこで本当の両腕を取り戻せるのなら、その義手は無駄になる。というのがエリスの主張だった。
しかし、天王星に行くまでに両腕が無いと何かと不便だし、天王星についたとしても両腕どころか、その手がかりすら掴めるか確証もない。
それに何より旅客機にわけのわからない生物を積み込むような輩が絡むのなら穏便に済むはずがない。何しろエリスから両腕を、ミリアから足を切り落とした張本人なのだから。
――そんな奴にもし会って、ぶん殴れなかったら困るやろ?
この一言がエリスの金星行きを決意させる決め手になった。
しかし、イクミは別の誰かが真っ先にぶん殴られないか心配になってきたのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち
半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。
最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。
本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。
第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。
どうぞ、お楽しみください。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる