まほカン

jukaito

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第64話 霧中! 光の上で見守る母親と少女 (Bパート)

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 そうして、いつもよりやや騒がしい学校生活はお昼休みになった。

 正直、かなみのことが気がかりで食欲が無い。

「青木さん、食堂に行きましょ」

「え、ええ……」

 翠華は反射的に返事する。



『お腹すいて力が出ません』



 かなみが言っていたことを思い出す。



『あなたこそいざという時は頼むわよ』



 あるみの言葉も。

(そうね、お腹を空かせていたら、いざという時が来たらかなみさんを守れない)

 翠華は思い立ち、友人と食事へ向かう。

 その日、翠華は昼食でご飯を大盛りにしたので、午後はその話題で持ちきりになった。







キンコーンカンコーン



 終業のチャイムが鳴る。

 なんだか、いつもよりも長い一日だった気がする。

(かなみさんのところへいきたいけど……)

 翠華はさっき届いたばかりのメールを確認する。



『差出人:あるみ

私が指示するまで部屋には来ないこと。

今あなた達にできることはないから。

でも、必要な時は必ず来るからその時に備えておいてね』



 もう一度読み直して、ため息をつく。

――あなた達にできることはないから。

 この一文に自分への不甲斐なさがこみ上げてくる。

(私はかなみさんのために、何が出来るんだろう……?)

 その日、翠華はまっすぐ家に帰った。







 そうして、三日経った。

 あれからあるみからの連絡は一切無い。かなみはどうなったのか、心配するばかりで何もわかっていない。

(今日こそ行こう! でも……)

 決意しては躊躇ってばかりで踏み出せないでいる。

 自分が今行って何が出来るのだろうか。

 ただ足手まといになるくらいだったら行かない方がいいのでは、と考えてしまう。



キンコーンカンコーン



 そうして今日も終業のチャイムが鳴る。

 翠華は教室を出て、校舎を出ようとする。



ヒラッ



 下駄箱から一枚の手紙が舞い落ちる。

「らぶれたぁ?」

 不意に聞き覚えのある声がした。

「涼美さん!?」

 声のした方を見ると、涼美がニッコリ笑顔で手を振っていた。

「来ちゃったぁ」

「来ちゃったぁ、てどうして!? かなみさんは大丈夫なんですか!?」

「そっちはあるみちゃんが診てくれてるからぁ、大丈夫よぉ」

「まあ、それなら……」

 確かにあるみが診ているなら大丈夫だろう。とはいえ、心配がないかはまったくの別問題だ。

「どうして、私の学校に?」

「高校に一度ぉ、来てみたかったのぉ」

「そんな理由で……」

 不審者と疑われて逮捕されたらどうするつもりだったのだろうか。

 いや、この人だったら何事も無かったのように切り抜けてしまいそうだけど。

「翠華ちゃんを迎えにいってあげてぇ、って、来葉ちゃんが言うからねぇ」

「来葉さんが?」

「あの子、昔からぁよく気を遣うのよぉ」

 涼美はしみじみと言う。

「さぁ、行きましょう」

「行くってどこに?」

「かなみのところぉ」

「……かなみさんのところ」

 翠華の表情が沈む。

「あの……」

「ん、なにぃ?」

「私が行って、何が出来るんでしょうか?」

 この三日間ずっと悩んでいたことだ。

 三次試験の時もそうだった。強くて恐ろしい十二席を相手にして、かなみは必死に戦っていたが、自分は力になれたと言い難い。

 今度のことも、平行世界という突拍子もない話をされて何が何だかわからない中で、自分が果たして出来ることがあるのだろうか。

「何が出来るかぁ、じゃなくてぇ、何がしたいかよぉ」

「え……?」

「翠華ちゃんはぁ、かなみのためにぃ、何をしてあげたいのぉ」

「私のかなみさんのために?」

 してあげたいことなら前々から決まっている。

「守りたい……私、かなみさんを守りたいです!」

「フフゥ、かなみも幸せ者ねぇ。私も幸せよぉ」

 涼美は翠華を思いっきり抱き締める。

「むぎゅうぅッ!? く、苦しい……!?」

「あぁ、いけなぁい。早く行きましょぉ」

 涼美はそのまま翠華を抱えて去っていく

「あら、あの人誰かしら?」

「なんだかよくわからない人に、青木さんが攫われていった」

「おっぱいが凄かったぁ……」

 それを見ていた同級生達は唖然とした。

 その後、一週間は翠華がよくわからない金髪の美人に連れ去られたという話題で持ちきりになった。







「翠華ちゃん、お部屋にごあんなぁぁぁい♪」

「よく来てくれたわ」

 かなみの部屋に来ると来葉が歓迎してくれる。

「来ちゃいました……」

「何もぉ出すものはぁないけどぉ、ゆっくりしていってねぇ」

「お、お構いなく……」

 翠華が緊張気味に言うと、涼美はフフッと笑う。

「んん……」

 奥の方からあるみの声が聞こえてくる。

 滅多に聞いたことが無い、弱々しい口調であった。聞いたことがあるのは出張の帰りでその時は一週間徹夜したらしい。

「翠華ちゃん、いらっしゃい……」

「はい、お邪魔します」

「うん……」

 あるみはそう言って、湯気が立ついかにも熱そうなコーヒーを飲む。

「あの……大丈夫ですか?」

「慣れないことはするものじゃないわ」

「私は慣れてるけどね」

 千歳の方が若干元気に見える。それでも心なしか疲労の色が伺える。

「こればっかりは数十年もこの世に魂を繋ぎ留め続けてる幽霊には勝てないわ」

 あるみが素直に負けを認める。とてつもなくレアな光景を目にしているような気がする。

「ふふーん♪恐れ入ったか!」

 千歳はすっかり得意顔である。

「年季の差ね。私達があの年になっても同じ調子でいられるのかしらね……」

 来葉は感心する。

 少なくとも自分にはその自信は無い、と翠華は密かに思った。

 何しろ、あるみと知り合うまでは三十歳の魔法少女がいるなんて想像すらできなかったのだから。

「ババア達の会話って年寄り臭いわね」

 奥の方で居座っていたみあはぼやく。

「みあちゃん、ババアはいくらなんでも失礼でしょ」

 翠華が諫める。

 特にあのメンバーが相手だと怖すぎて生きた心地がしない。

「フフゥ、子供からするとぉ、三十超えるとみんなババアァなのかしらねぇ」

 涼美は笑っているけど、その発言に身体の芯から凍える。

「怖いです……」

 紫織はみあの陰に隠れて、びくびく怯える。

「でもぉ、みんなぁ、かなみのためによく来てくれたわぁ」

 一転して、涼美は明るい口調で言う。

「心からぁお礼を言うわぁ」

「そんな、当たり前ですよ」

「こいつが寝たきりだなんて、らしくないにも程があるしね」

「みあさん、素直じゃありませんね」

「なんだって?」

 みあは紫織を睨みつける。

「な、なんでもありません……」

 紫織は恐縮する。

「フフ、素直じゃなくてもぉいいのよぉ」

 涼美はみあを思いっきり抱き締める。

「む、むお……息苦しい!」

「みあさんがおっぱいに挟まれて沈んでます……」

「あははは……」

 自分がやられたと金おことを翠華は苦笑する。

「一睡もしてないのに、元気ね」

 あるみは珍しく呆れる

「若さってやつよぉ」

「私よりも年上なのによく言うわよ」

「え、そうなんですか?」

「ま、中学生の子持ちなんだから妥当ね」

 みあは物分かりよく納得する。

「あるみが三十で、涼美が三十一よ」

 来葉が補足する。

「はあ、三十一!? ってことは、かなみが十四だから……!」

「考えたくないですね……」

 紫織はゾッとする。

「ま、あの時は私達も驚かされたわね」

「フフ、いくらなんでもあんな未来まで視れなかったわね」

 あるみ、来葉、涼美の三人は笑い合う。

 それは昔を懐かしむという十年来の付き合い、そんな年季を感じさせるものであった。

(私もかなみさんとあんな風に……いえ、かなみさんだけじゃなくて、みあちゃんとも紫織ちゃんとも……

――そのためにも!)

 翠華は決意を新たにする。

 その様子を察したあるみはさりげなく微笑む。







「さて、あなた達に集まってもらったわけを話すわ」

 あるみは改めて話題を切り出す。

「わけって言われても」

「かなみさんのことじゃないんですか?」

「あ――」

 みあと紫織に出鼻をくじかれたようだ。あるみはつまらなそうに明後日の方向を向く。

「疲れてるんだから、もったいぶらないでさっさと話しなさい」

「あ~子供の気遣いが心にしみるわ~」

 あるみはさらにつまらなそうに言う。

「あははは……」

 翠華と来葉は揃って苦笑する。

「それじゃお望み通り話すけど、かなみちゃんの魂はまだ助けて出せてないのよ」

「そんなの見ればわかるわよ」

「見た目はそうだけど、私達この一日でかなみちゃんの魂が行き着いた世界にはあたりがついたの」

「本当ですか、それ!?」

 千歳に翠華は食いつく。

「ええ、本当よ」

「つまり、あと一歩ってわけね」

 みあも心なしか嬉しそうに言う。

「ちゃんと目を覚ました時の為に、ケーキも用意しておいたのよ」

「あいつ、泣いて喜ぶわね」

 誰もがその様子が容易に想像がついた。

「もっとも目を覚まさなければ、泣くことも喜ぶこともできないのよね。

――だからこそ、失敗は許されないのよ」

 あるみは珍しく熱の入った物言いで、翠華達に緊張する。

「それで、私達にお手伝いできることはなんですか?」

 翠華は食い入るように尋ねる。

 涼美がわざわざ呼んできたということは、自分達を必要としていること。

 かなみのために手伝える絶好の機会であった。

 なんでもする。その決意が翠華やみあ、紫織の瞳からうかがえる。

「手伝えることは無いわ」

「……え?」

 あるみの意外にしてあっさりとした返答に出鼻をくじかれる。

「手伝えることない、ですって? だったら、なんのためにあたしらを呼んだのよ!?」

 みあは台を叩く。

「手伝えることはないっていうのは、直接的に、って意味よ」

「ということは間接的に手伝える、ということですか?」

 紫織が訊く。

「ピンポーン。そういうことよ!」

「間接的に、どういうことですか?」

「単刀直入に言うとね」

 来葉が代わって答える。

「――敵が来るのよ」

「て、敵!?」

「どんな敵よ?」

 みあは翠華より落ち着いて訊く。

「私の未来視で視えたのは、三つのパターン。

一つは会場にいた怪人がやってくる。これは十分に撃退可能よ。

二つはアパートごと壊してくる豪快な攻撃。アパートは壊されるけど対処はできるわ」

「三つ目が肝心そうね」

 そこまでの話し方で、みあは察する。

「話が早くて助かるわ。多分これが最も確率が低くて、最も危険なパターンよ」

 来葉の声色に緊張が入っている。

「――十二席の一人がやってくる」







 アパートから数十キロ以上離れた高層ビルの屋上で視百は佇んでいた。

 百以上の目で四方八方を見通し、関東一体どころか全国の全てを目に映すことができる、最高役員十二席の千里眼であった。

「――む!」

 視百の眼の一つがギョロリと動く。

「まさか、この私が視られるとは――!」

 文字通り瞠目し、思案する。

「そんな芸当ができるのは、魔法少女アルミか……いや、視る魔法に長けているのはクルハの方か……

――あの失敗作めが……!」

 忌々しげに呟く。

「まあいい。この好機にまとめて潰しておくか」

 ニンマリと普通の人間が見たら嘔吐するような気味の悪い笑みを浮かべる。もっとも普通の人間に見つかるようなヘマなどする怪人ではないが。







「………………」

 一同は絶句した。

 最高役員十二席の物凄さは、つい昨日十分すぎるほど味わったばかりである。

 あの強大さと恐怖を前にして、生き残れたことが不思議でならない。

 それもこれも全てかなみの奮闘のおかげだ。

 でも、そのかなみは今眠っている。

「本当に十二席が?」

 翠華は言う。

 口にしたのは疑問ではなく不安からであった。

「確率的にはかなり低い未来よ」

「それなら安心ね」

 みあが珍しく一安心する。

「あんなのと二度と戦いたくないわ。生命がいくつあっても足りないし」

「はい……とても怖いです……」

 紫織はその時の恐怖を思い出してブルブル震える。

「正義の魔法少女がそれじゃ頼りないけど、ま、今はそれで仕方ないわね」

 あるみはぼやく。

(正義の魔法少女、か……)

 それは翠華にとって憧れてやまない存在であった。

 かなみこそまさに憧れの魔法少女そのものといっていい。

(そう、私が守らなくちゃ……!)

 どんな敵がやって来たとしても、守る。

 そのために魔法少女になったのだから。

「私達の役目はここでかなみさんの生命を狙う怪人を倒すことなんですね」

「ええ」

 翠華の問いに来葉は肯定する。

「頼めるかしら?」

「もちろんです!」

 翠華は即答する。

「ま、やるしかないわね」

「やります、かなみさんを救ってみせます」

 みあも紫織も同じように答える。

「………………」

 ただ一人、萌実だけが断わるわけでもなく応じるわけでもなく、ただそこに佇んでいる。

「その意気込みは素晴らしいわ」

 あるみは満足げに笑う。

「かなみちゃんの魂の救出は私と千歳でやるわ。

その間、私達は戦えないからよろしく頼むわね」

「あるみさんと千歳さんが戦えない……」

 その事実に紫織は不安を隠せなかった。

「私とぉ来葉ちゃんもぉ、ついてるからぁ大丈夫よぉ」

 涼美がそう言ってくれる。

「社長と千歳さんが戦えないとはいえ、

来葉さんと涼美さんがいれば大抵のことは大丈夫ですね」

「そう、大抵のことはね……」

「来葉ちゃんはぁ、心配性ねぇ」

 涼美はフフッと微笑む。

 ただまったく気にしていないわけでもない様子であった。

「それじゃ、よろしく頼むわね」

 あるみはそう言うと、未だ眠っているかなみの横に千歳と共に座り込む。

「あ……!」

 翠華達には見えた。

 かなみの身体から見えるか細く光る糸が天井へ、さらにはその先の天へと伸びている。それは今にも切れてしまいそうなほど頼りなくて弱々しい。

 しかし、それがかなみがこの世界に戻ってくる希望なのだとはっきりわかる。

 あるみと千歳はその希望の糸を文字通り手繰り寄せるために戦っている。

(必ずかなみさんを守る!)

 自分もそういうふうに戦おうと誓う。



グニャリ



 突然、視界が歪む。

「あ……!」

 最初は目の錯覚かと思った。

 しかし、歪みはまったくなおらず、むしろだんだん大きくなっていく。

「涼美さん!」

 翠華は一番近くにいた涼美に、

「紫織!」

 みあは紫織が心配になり、

「みあさん!」

 紫織はみあを頼り、声を掛けた。

 しかし、お互いの声で存在を認識できても、恐怖と不安は拭いきれない。

 視界の歪みにより、自分以外の誰かが本当にそこにいるかわからない恐怖は尋常ではなかった。

 下手をしたら自分の目に映っているものは全て幻なのではないか、という不安さえこみ上げてくる。

「みんな……!」

 翠華は手を伸ばしてみる。

 いたはずなんだ。

 そこに涼美が、来葉が、みあが、紫織がいたはずなんだ。

 ここは狭いアパートの一室。手さえ伸ばせば誰かがそこにいて誰かと触れ合うことができるはずなんだ。

(誰もいない……?)

 そんな不安と恐怖がよぎる。

「涼美さん!来葉さん! みあちゃん! 紫織ちゃん!」

 不安に駆られて、仲間達の名前を呼ぶ。

 しかし、誰も返事が来ない。

「みんな! どこ!? どこなの!?」

 翠華は余計に不安になって叫ぶ。

「社長! かなみさん!!」

 返事が返ってこないはずの者さえ呼んだ。

「あ……」

 わかっていても、返事が来ない現実は辛い。

 いや、今のこの状況が現実なのかもわからない。

 かなみの部屋にいて、みんないたはずなのに、誰も目に映らず、景色がグニャリと歪みきっている。

 夢や幻だと言われればすんなり受け入れられるほど、現実離れしている。

「これは……これが……敵からの攻撃!?」

 そこでようやく認識できた。

 敵からの攻撃ならやることは一つ。

「マジカルワーク!」

 青の魔法少女が閃光とともに姿を現す。

「青百合の戦士、魔法少女スイカ推参!」

 お決まりの口上を敵へと突きつける。どこにいるかもわからない敵に向かって。



――ギョロリ



 何かが蠢いた気がする。

 はっきりと何かとは言えない。だけど、この上なく不気味で禍々しい何かが。

 それが敵の正体。

 直感でわかる。この禍々しさは間違いなく最高役員十二席のものだと。



『百の目を持つ怪人・視百』



 来葉が最も確率が低く、最も危険な可能性として提示した未来がやってきてしまった。

 最高役員十二席。

 その恐ろしさは昨日十分すぎる程味わったばかりだ。

 刻み込まれた恐怖で身体がすくみあがる。

(怖い……でも、それでも!)

 胸の中にある使命感で身体を奮い立たせる。



――守りたい……私、かなみさんを守りたいです!



 その誓いを思い出す。

「私はかなみさんを守る! だから、こんな幻覚なんかに負けない!」

 自分を鼓舞し、幻覚は振り払おうとする。

 しかし、歪みは消えることなく、一層歪みは大きくなる。

「あぁ……!」

 歪みの断層から、スイカが良く見知った少女が現れ絶句する。

「かなみさん!?」

 魔法少女カナミであった。

「いつ、起きたの!?」

 スイカはすぐに駆け寄る。

 心配だった。

 もうこのまま目覚めないんじゃないかと不安になった。

 もう永遠に話すことはできないんじゃないかと恐怖した。

 でも、今こうして立って歩いているのなら、もう大丈夫。

 もっと近くに行って無事を確かめたい。

 早く「大丈夫よ」と言って安心させてほしい。

 スイカはそんな想いで走った。

「え……?」

 しかし、カナミは駆け寄ってくるスイカに対してステッキの穂先を向ける。

 あまりにも予想外の行動にスイカは驚きで立ち止まった。

「カナミ、さん……?」

「………………」

 スイカが呼びかけても、カナミは一切応じない。

 まるで人形のような無機質さでこちらを見つめてくる。

(まさか!?)

 スイカは直感したが、すぐに否定する。

 いや、否定したくなったのだ。

 カナミが自分を攻撃するはずがない。そんなはずがないのだと。



バァン!



 カナミは即座に魔法弾を撃ってくる。

「あ……!」

 全くの予想外の攻撃にスイカはまったく反応できず、直撃する。

「あ、ぐ……! カナミさん、どうして……?」

「………………」

 スイカは疑問を投げるが、相変わらずカナミは何も答えない。

(カナミさんがこんなことするはずがない!

もしかしたら、敵に操られて!?)

 カナミはさらに魔法弾を撃ち込んでくる。



バァン! バァン! バァン! バァン!



 容赦なくどんどん撃ってきて、スイカはそれを走る。

 ここは狭いカナミの部屋だったはずなのに、思う存分走っても壁にぶつかることはない。まるで異空間に彷徨いこんだみたいだ。

「カナミさん! やめて! 目を覚まして!」

 魔法弾を避けつつ、スイカはカナミへ必死に呼びかける。

「…………………」

 しかし、カナミは応えない。やはり、人形のように。

「カナミさん!」



 バァン!



 魔法弾が足をかすめる。

 だんだん、狙いが正確になっている。

「が、あぐ……!」

 足、膝、腹と次々と当たっていく。

「カナミさん、やめて!!」



バァン! バァン! バァン! バァン!



 スイカの叫びは空しく、魔法弾によって弾き飛ばされる。

「く、うぅ……!」



バァン!



 スイカは立ち上がり、魔法弾をレイピアで弾き飛ばす。

「やられるわけにはいかない! 私がやられたら、カナミさんを目覚めさせられない!!」

 その決意を持って、スイカは魔法弾を弾いていく。



バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン!



 カナミの魔法弾を撃つ手が止まらない。

 それどころか、どんどん増えていく。

「これぐらい!」

 あるみにつけてもらった猛特訓のおかげでなんとかさばきききれる。

 だが、スイカが知っているカナミの実力はこんなものではない。

「ストリッシャ―モード!!」

 二刀のレイピアを持ち、さらに魔法弾をさばく。

 そして、さばきながら一歩、一歩と着実に近づいていく。

「……!」

 カナミは無言で撃ち続ける。

「単調すぎるわ!」

 スイカは文字通り斬って捨てる。

「カナミさん!」

 とうとう、レイピアの届く間合いまで距離を詰める。

「………………」

 レイピアの切っ先をカナミの顔へ突きつける。

「カナミさん……」

 スイカは呼びかける。

 カナミが目覚めてくれることに一縷の望みを賭けて。

「スイカ、さん……」

 その望みが届いたのか、カナミはスイカの名前を口にする。

「カナミさん! 正気に!?」

 スイカはレイピアの代わりに手を差し伸べようとする。

「――!」

 しかし、カナミは敵意とともにステッキを向けようとする。

「させない!」

 スイカは即座にレイピアでステッキを弾き飛ばす。

(操られているけど、解けかけているわね。とりあえずステッキは奪ったからこれでもう抵抗はできないはず!)

 あとはカナミを目覚めさせ、操った敵を倒すだけ。

 そう、スイカは安堵しかけていた。

 だから、カナミの手にもう一本のステッキがあることに気づくのが遅れた。

「え……?」

 カナミのステッキは一本だけ。その先入観があったのも大きい。



バァン!



 至近距離から魔法弾を撃ち込まれた。

「ガハッ!?」

 せっかく詰め寄ったのに、弾き飛ばされた。

「く……!」

 スイカはすぐに立ち上がる。

「神殺砲」

 カナミの無機質で鉄のような声が処刑宣告のように聞こえた。

「――!?」

 大砲の銃口を向けられる。

 それは幾多の怪人を葬ってきた必殺の魔法。

 自分に向けられるなんて夢にも思わなかった、カナミの魔法であった。

「ボーナスキャノン」

 スイカは魔力の洪水ともいうべき砲弾に飲み込まれた。
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