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第64話 霧中! 光の上で見守る母親と少女 (Cパート)
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どれだけの意識が飛んでいただろうか。
一瞬、ここは天国なんじゃないかと錯覚したが、身体中に訴えかけてくる痛みが生きている時間を与えてくれる。
「う、くぅ……」
神殺砲。まさか自分が受けることになるなんて思いもしなかった。
(凄い威力……! さすがカナミさんだわ……! もう一発受けたら……!)
ゾッとする想像ととともにカナミの方を見上げる。
「あ……!」
カナミは二発目の充填を終えて、それをスイカへと向けていた。
「神殺砲」
優しさも温もりも一切ない機械的な声。
これが本当にカナミなのだろうか。
いくら操られていると言っても、自分へここまで魔法を向けられるものなのか。
「カナミさん、やめて……!」
必死に呼びかける。
「………………」
しかし、カナミは一切応じない。
確実にスイカを倒すマシーンしかみえない。
「こんな……! こんなのカナミさんじゃない! 私の憧れた魔法少女なんかじゃない……!
だから、だから、もうやめてぇぇぇッ!!」
スイカは必死に叫んだ。
涙で顔を濡らし、ボロボロの身体を奮い立たせ、喉が潰れんばかりの、力の限りに。
「――ボーナスキャノン」
しかし、カナミはどこまでも無慈悲だった。
容赦なく必殺の魔法をスイカへと撃ち放つ。
「く……!」
スイカは無力感に打ちひしがれながら、目を閉じる。
迫る砲弾に対して、もはや何もできない。
「そうねぇ、魔法少女なんかじゃないわねぇ」
声がした。
聞き慣れた、この場に似つかわしくないのんびりと間延びした声が鈴の音のようにはっきりと聞こえた。
「スズミ、さん……?」
気づいたら、スズミが目の前に立っていた。
「ゴールドエヴァン」
黄金の鈴を砲弾に向かって投げ入れる。
チリーン!
甲高くも心地良い鈴の音が響き渡り、砲弾は消滅する。
「す、すごい……!」
あれほど威力のあった神殺砲をあっさりとかきけした。到底スイカに真似できない凄い魔法だ。
「スイカちゃん、大丈夫ぅ?」
スズミは振り返り、訊いてくる。
操られたカナミがまだ目の前にいるといるというのに、いつもののんびりとした口調で。
「わ、私なんかより、カナミさんが……」
「カナミ?」
スズミは首を傾げる。
「ああぁ……」
そして、急に納得して振り返る。まるでさっきまで存在を忘れていたかのように。
「……母さん」
カナミはボツリと言う。
「ん?」
スズミは首を傾げる。
バァン!
そして、カナミは魔法弾を容赦なく撃つ。
(お母さんに向かって!?)
スイカはその姿に衝撃を受ける。母親に攻撃するカナミに。
ズドン!
カナミの魔法弾をスズミはこともなげに拳で弾き飛ばす。
「豆鉄砲じゃないのぉ」
涼し気に言ってのける。
バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン!
さらにカナミは魔法弾を連射してくる。
それをスズミは拳で次々に弾いてカナミへ接近する。
(あ、あれ……魔法なの!?)
さっきの自分みたいに魔法のレイピアで思いっきり弾いているのではなく、単なる拳で弾いているように見える。
「私は鳩じゃないんだけどねぇ」
フフッと笑みさえこぼす。
百以上にも及ぶの魔法弾をこともなげに弾きながら。
スイカはただ黙ってこの状況を見守るしか出来なかった。
「あ……!」
そうこうしているうちに、スイカはカナミへ距離を詰める。
スズミはとても涼しい顔でカナミを見下ろす。
このまま、「こんにちはぁ」と軽く挨拶するかのような調子だ。
「スズミさん、気をつけてください!」
ドスン!
鈍い打撃音が響く。
「……え?」
目の前に繰り広げられた光景が信じられなかった。
(スズミさんがカナミさんを殴った!? しかも、思いっきりグーで!?)
はっきりと耳に聞こえるほどの激しい音だから、相当な威力だったのだろう。そんなものをお腹に思いっきり叩き込んだ。
「……アガ!」
カナミの顔が苦痛に歪む。
ゴツン!
さらにスズミはそのカナミの顔へ向けて拳を叩き込む。
「ひゃあッ!?」
あまりの痛々しさに、スイカは思わず悲鳴を上げる。
「す、スズミさん、なんてことを!?」
「なんてことぉ?」
スズミは顔だけ、スイカに振り向きつつ、拳打や蹴りをカナミへ見舞う。
「あ、ぐ!?」
沈痛な悲鳴に耳を塞ぎたくなる。
なのに、スズミは涼し気な笑顔をスイカへ向けている。
それがかえって恐ろしい。
「カナミさんは、操られてるだけなんです……! そんな、ひどいこと、やめ、」
「カナミぃ? 操られてるぅ? ひどいことぉ?」
「何を言っているのぉ?」と言いたげに、スズミは返す。
「く、この……!」
カナミは反撃を試みようとステッキを突き出す。
バチン!
それをスズミはあっさりと叩き折る。
「スイカちゃん、惑わされたらダメよぉ。
――これは幻覚なんだからぁ」
「げ、幻覚?」
「カナミはぁ、今あるみちゃんや千歳が頑張って助けようとしているところなのよぉ」
そう言われて、スイカは布団で静かに眠っているかなみの姿を思い出す。
「……グフ!?」
そんなやり取りしているうちに、スズミはカナミの幻覚? にレバーブローを入れる。見ているだけで痛々しくて目を背けたくなる。
「で、でも……」
いくら幻覚とはいえ、カナミの姿をしたものを傷つけるなんて。
スイカにはとてもできないし、母親のスズミがそんなことするさえ信じられない。
「ああぁ!」
手をポンと叩きそうな勢いで、スズミは急に納得する。
「これがカナミの姿してるからぁ、やりづらいのねえぇ」
「あ、は、はい……」
スイカは同意する。
「だったらぁ、簡単よぉ
――目をつぶっちゃえばいいのよぉ」
「……え?」
言われてみると、確かにスズミはずっと目を閉じていたことにスイカは気づく。
(漫画みたいに細目になってたんじゃなかったの!?)
別の意味で衝撃的だった。
「そうすればぁ、姿形に惑わされないわよぉ」
「ゴハァ!?」
横顔を殴られて、悲鳴が漏れ聞こえる。
「でも、この声はカナミさんの……」
「声? カナミ?
――スイカちゃんには、この聞くに堪えないダミ声がカナミの声に聞こえるの?」
身体の芯から底冷えするような冷たい声の返答に、スイカは震え上がる。
「アガァッ! グフゥッ! ゴボォッ!」
スズミの激しい打撃に、カナミの痛ましいまでの声が聞こえてくる。
「これが、カナミさんの声じゃないの?」
スイカは疑問を口にする。
「私がカナミの声を聞き間違えるなんてことはあり得ないわ」
あまりにもはっきりとした明確な答え。
それに以前カナミが言っていたことを思い出す。
『母さんは数キロ先の会話も聞き分けられるんですよ』
耳が良い、の一言では済まされない程の聴覚能力。
それなら幻覚に紛れたカナミの声を聞き分けることも造作もないだろう。
「か、母さん、やめて……!」
スイカにどう聞いても本物のカナミの声にしか聞こえないが。
「母さん? 私をそう呼んでいいのはかなみだけよ」
スズミにとっては神経を逆撫でするだけのダミ声のようだ。
ズドン! ドスン! ゴツン!
スズミはさらに苛烈な打撃を加える。
もはや悲鳴さえ上げることすらできないほどグロッキー状態であった。
いくらカナミの幻覚であっても、見るに耐えず、スイカはとうとう目を背ける。
(スズミさんにはあれがカナミさんじゃなくて怪人に視えているから、あんなに……)
むしろ、下手にカナミの姿をしているからこそ、それが許せないのだろう。
鈴を使って一気に倒さず、打撃による激痛を与え続けているのがその証拠のように思えてならない。
視百の得意とする魔法は、敵の視覚を操り、幻覚を見せる。
ただそれだけだったら支部長どころかその幹部でも扱える。
視百はさらにそこから聴覚や触覚といった五感の感覚を奪い取る。その有効範囲は数十キロ先にも及ぶ。
「……くぅ!」
百の目が苦しそうに蠢く。
いくら、数十キロ先にも魔法が届くとはいえ効力は落ちる。
それでも魔法少女を倒すには十分だとたかをくくっていた。
「魔法少女スズミめ……!」
だが、効力を落ちて効き目が薄かった分、対処された。
――魔法少女スズミは視覚を封印した。
視百の幻覚魔法の欠点は、視覚を操れなければ他の五感を奪うことはできない。
スズミは視覚を封印し、聴覚で戦うことで送り込んだ刺客はやられた。
「あのような戦い方、人間ごときができるはずが……! 魔法少女とは……!」
グシャリ!
視百の眼の一つに銀色に輝く釘が突き刺さる。
「ぐはぁッ!? な、こ、ここ、これは!?」
百以上の眼を蠢かせ、大いに動揺する。
――攻撃された。
「ば、バカな、そんなこと!?」
魔法少女達は数十キロ先のアパートの部屋に集まっていた。
これほどの離れた距離から魔法を放っていることに気づかれるはずがない。
「魔法少女クルハね」
「グランサー殿……」
いつの間にかグランサーがビルの屋上に降り立っていた。
ただ足音や気配を絶って、忍び寄るのは彼女の十八番なので、視百にとってはさして驚くほどのものではなかった。
「奴も視覚に関する魔法の使い手。貴様の魔法の足跡(そくせき)を視て、割り当てられたのだろう」
「バカな! そんな芸当を人間ごときが!」
「人間達を侮りすぎだ。特にあの魔法少女達の底力は眼にしたはずだろ」
「ぬぐぐぐ……!」
視百は悔しさのあまり、文字通り血眼になって眼をギョロギョロと蠢かせる。
「撤退だな。この独断、判真はご立腹なのではないか?」
「ぐぐぐ……!」
「黙れ!」と言いたげにグランサーを睨みつける。
普通の人間だったら、卒倒しそうなほどの視線をグランサーはどこ吹く風かと微笑んで受け流す。
「い、忌々しい者達め……!」
それは、魔法少女達だけではなくグランサーも差していた。
視界の歪みが消え、アパートの部屋が正常に戻る。
「幻覚の魔法が解けたみたいねぇ」
「あ……」
スズミの一言で、スイカの緊張が解け、同時に変身も解ける。
「お疲れ様ぁ」
「ありがとうございます」
翠華は一礼する。
「どういたしまてぇ」
翠華は視線を移す。
布団で未だに安静にしているかなみの姿が見える。
(よかった。やっぱりあれはかなみさんの幻だったんだ……)
スズミが何の疑いも無く幻覚を倒していたけど、本物がああして眠っているところを見ると、やっぱりあれは幻覚だったんだと安心する。
「あ~ひどい幻覚だったわ……」
「来葉さんが助けてくれなかったらどうなることか思いました」
みあと紫織も幻覚から解放されて安堵しているようだった。
「送り込んできた刺客の怪人二人も大したことなかったから助かったわ」
来葉は眼鏡に指を立てる。
「それに、敵にはちゃんと釘を打ち込んでおいたわ」
「さっすがぁ」
涼美は両手を叩いて、来葉を称賛する。
(二人とも、私がわからないうちにどうにかしちゃったってこと?)
会話からそう聞き取れるが、自分はただ戸惑うばかりで何も出来なかった。
「…………………」
みあのしかめっ面からも自分と同じ気持ちなんじゃないかと読み取れる。
ピカーン
その時、かなみの身体が星のように瞬く。
「あ……!」
直感でわかる。
あれは、魂の輝き。かなみの魂がこの世界に戻ってきたのだ、と。
そして、かなみはゆっくりと目を開ける。
「かなみ?」
真っ先に涼美がその名前を呼んだ。
「かなみ、さん……!」
その次は翠華が呼んだ。
「かあ、さん……」
先に姿を認識したのは涼美の方だった。
「かなみ!」
涼美はすぐに飛び出して、思いっきり抱き締める。
「よかったぁ、起きてくれたぁ」
「か、母さん……く、苦しい……!」
涼美が心から喜んでいるのがこちらに伝わってくる。
「たすけ、て……」
とはいっても、あまりの喜びのせいでかなみには息苦しさを感じている。
「あ~、かなみがオッパイオバケに殺されかけてるわ~」
みあが茶化す。
ただその顔は笑顔で一安心できたという心境なのが一目でわかる。
「だ、だれ……?」
かなみは涼美から解放されて、声の主を見る。
「えぇっと、みあちゃん……?」
かなみは確かめるように名前を呼ぶ。それがみあを苛立たせた。
「あんたね……寝ぼけてんじゃないわよ!?」
いきなり怒鳴る。
「ご、ごめん……」
「みあさん、とっても心配してたんですよ。今日だって学校さぼって」
「バカ! 余計なこと言ってんじゃないわよ!」
「みあちゃん、紫織ちゃん……心配?」
かなみは何を言われているのかわからずに戸惑う。というより、自分の陥っていた状況がわかっていないようだ。
「かなみさん!」
翠華はいてもたってもいられなくなって、かなみの名前を呼んだ。
「あ……!」
「目を覚ましたのね、よかった」
目に涙を浮かべる。
かなみが元気で、また起きてくれたのだから、嬉しさが抑えきれない。
ただ、それとは対照的にかなみは戸惑っていた。
「……えっと、誰でしたっけ?」
「……え?」
翠華は信じられない一言を返されて硬直する。
一瞬、ここは天国なんじゃないかと錯覚したが、身体中に訴えかけてくる痛みが生きている時間を与えてくれる。
「う、くぅ……」
神殺砲。まさか自分が受けることになるなんて思いもしなかった。
(凄い威力……! さすがカナミさんだわ……! もう一発受けたら……!)
ゾッとする想像ととともにカナミの方を見上げる。
「あ……!」
カナミは二発目の充填を終えて、それをスイカへと向けていた。
「神殺砲」
優しさも温もりも一切ない機械的な声。
これが本当にカナミなのだろうか。
いくら操られていると言っても、自分へここまで魔法を向けられるものなのか。
「カナミさん、やめて……!」
必死に呼びかける。
「………………」
しかし、カナミは一切応じない。
確実にスイカを倒すマシーンしかみえない。
「こんな……! こんなのカナミさんじゃない! 私の憧れた魔法少女なんかじゃない……!
だから、だから、もうやめてぇぇぇッ!!」
スイカは必死に叫んだ。
涙で顔を濡らし、ボロボロの身体を奮い立たせ、喉が潰れんばかりの、力の限りに。
「――ボーナスキャノン」
しかし、カナミはどこまでも無慈悲だった。
容赦なく必殺の魔法をスイカへと撃ち放つ。
「く……!」
スイカは無力感に打ちひしがれながら、目を閉じる。
迫る砲弾に対して、もはや何もできない。
「そうねぇ、魔法少女なんかじゃないわねぇ」
声がした。
聞き慣れた、この場に似つかわしくないのんびりと間延びした声が鈴の音のようにはっきりと聞こえた。
「スズミ、さん……?」
気づいたら、スズミが目の前に立っていた。
「ゴールドエヴァン」
黄金の鈴を砲弾に向かって投げ入れる。
チリーン!
甲高くも心地良い鈴の音が響き渡り、砲弾は消滅する。
「す、すごい……!」
あれほど威力のあった神殺砲をあっさりとかきけした。到底スイカに真似できない凄い魔法だ。
「スイカちゃん、大丈夫ぅ?」
スズミは振り返り、訊いてくる。
操られたカナミがまだ目の前にいるといるというのに、いつもののんびりとした口調で。
「わ、私なんかより、カナミさんが……」
「カナミ?」
スズミは首を傾げる。
「ああぁ……」
そして、急に納得して振り返る。まるでさっきまで存在を忘れていたかのように。
「……母さん」
カナミはボツリと言う。
「ん?」
スズミは首を傾げる。
バァン!
そして、カナミは魔法弾を容赦なく撃つ。
(お母さんに向かって!?)
スイカはその姿に衝撃を受ける。母親に攻撃するカナミに。
ズドン!
カナミの魔法弾をスズミはこともなげに拳で弾き飛ばす。
「豆鉄砲じゃないのぉ」
涼し気に言ってのける。
バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン!
さらにカナミは魔法弾を連射してくる。
それをスズミは拳で次々に弾いてカナミへ接近する。
(あ、あれ……魔法なの!?)
さっきの自分みたいに魔法のレイピアで思いっきり弾いているのではなく、単なる拳で弾いているように見える。
「私は鳩じゃないんだけどねぇ」
フフッと笑みさえこぼす。
百以上にも及ぶの魔法弾をこともなげに弾きながら。
スイカはただ黙ってこの状況を見守るしか出来なかった。
「あ……!」
そうこうしているうちに、スイカはカナミへ距離を詰める。
スズミはとても涼しい顔でカナミを見下ろす。
このまま、「こんにちはぁ」と軽く挨拶するかのような調子だ。
「スズミさん、気をつけてください!」
ドスン!
鈍い打撃音が響く。
「……え?」
目の前に繰り広げられた光景が信じられなかった。
(スズミさんがカナミさんを殴った!? しかも、思いっきりグーで!?)
はっきりと耳に聞こえるほどの激しい音だから、相当な威力だったのだろう。そんなものをお腹に思いっきり叩き込んだ。
「……アガ!」
カナミの顔が苦痛に歪む。
ゴツン!
さらにスズミはそのカナミの顔へ向けて拳を叩き込む。
「ひゃあッ!?」
あまりの痛々しさに、スイカは思わず悲鳴を上げる。
「す、スズミさん、なんてことを!?」
「なんてことぉ?」
スズミは顔だけ、スイカに振り向きつつ、拳打や蹴りをカナミへ見舞う。
「あ、ぐ!?」
沈痛な悲鳴に耳を塞ぎたくなる。
なのに、スズミは涼し気な笑顔をスイカへ向けている。
それがかえって恐ろしい。
「カナミさんは、操られてるだけなんです……! そんな、ひどいこと、やめ、」
「カナミぃ? 操られてるぅ? ひどいことぉ?」
「何を言っているのぉ?」と言いたげに、スズミは返す。
「く、この……!」
カナミは反撃を試みようとステッキを突き出す。
バチン!
それをスズミはあっさりと叩き折る。
「スイカちゃん、惑わされたらダメよぉ。
――これは幻覚なんだからぁ」
「げ、幻覚?」
「カナミはぁ、今あるみちゃんや千歳が頑張って助けようとしているところなのよぉ」
そう言われて、スイカは布団で静かに眠っているかなみの姿を思い出す。
「……グフ!?」
そんなやり取りしているうちに、スズミはカナミの幻覚? にレバーブローを入れる。見ているだけで痛々しくて目を背けたくなる。
「で、でも……」
いくら幻覚とはいえ、カナミの姿をしたものを傷つけるなんて。
スイカにはとてもできないし、母親のスズミがそんなことするさえ信じられない。
「ああぁ!」
手をポンと叩きそうな勢いで、スズミは急に納得する。
「これがカナミの姿してるからぁ、やりづらいのねえぇ」
「あ、は、はい……」
スイカは同意する。
「だったらぁ、簡単よぉ
――目をつぶっちゃえばいいのよぉ」
「……え?」
言われてみると、確かにスズミはずっと目を閉じていたことにスイカは気づく。
(漫画みたいに細目になってたんじゃなかったの!?)
別の意味で衝撃的だった。
「そうすればぁ、姿形に惑わされないわよぉ」
「ゴハァ!?」
横顔を殴られて、悲鳴が漏れ聞こえる。
「でも、この声はカナミさんの……」
「声? カナミ?
――スイカちゃんには、この聞くに堪えないダミ声がカナミの声に聞こえるの?」
身体の芯から底冷えするような冷たい声の返答に、スイカは震え上がる。
「アガァッ! グフゥッ! ゴボォッ!」
スズミの激しい打撃に、カナミの痛ましいまでの声が聞こえてくる。
「これが、カナミさんの声じゃないの?」
スイカは疑問を口にする。
「私がカナミの声を聞き間違えるなんてことはあり得ないわ」
あまりにもはっきりとした明確な答え。
それに以前カナミが言っていたことを思い出す。
『母さんは数キロ先の会話も聞き分けられるんですよ』
耳が良い、の一言では済まされない程の聴覚能力。
それなら幻覚に紛れたカナミの声を聞き分けることも造作もないだろう。
「か、母さん、やめて……!」
スイカにどう聞いても本物のカナミの声にしか聞こえないが。
「母さん? 私をそう呼んでいいのはかなみだけよ」
スズミにとっては神経を逆撫でするだけのダミ声のようだ。
ズドン! ドスン! ゴツン!
スズミはさらに苛烈な打撃を加える。
もはや悲鳴さえ上げることすらできないほどグロッキー状態であった。
いくらカナミの幻覚であっても、見るに耐えず、スイカはとうとう目を背ける。
(スズミさんにはあれがカナミさんじゃなくて怪人に視えているから、あんなに……)
むしろ、下手にカナミの姿をしているからこそ、それが許せないのだろう。
鈴を使って一気に倒さず、打撃による激痛を与え続けているのがその証拠のように思えてならない。
視百の得意とする魔法は、敵の視覚を操り、幻覚を見せる。
ただそれだけだったら支部長どころかその幹部でも扱える。
視百はさらにそこから聴覚や触覚といった五感の感覚を奪い取る。その有効範囲は数十キロ先にも及ぶ。
「……くぅ!」
百の目が苦しそうに蠢く。
いくら、数十キロ先にも魔法が届くとはいえ効力は落ちる。
それでも魔法少女を倒すには十分だとたかをくくっていた。
「魔法少女スズミめ……!」
だが、効力を落ちて効き目が薄かった分、対処された。
――魔法少女スズミは視覚を封印した。
視百の幻覚魔法の欠点は、視覚を操れなければ他の五感を奪うことはできない。
スズミは視覚を封印し、聴覚で戦うことで送り込んだ刺客はやられた。
「あのような戦い方、人間ごときができるはずが……! 魔法少女とは……!」
グシャリ!
視百の眼の一つに銀色に輝く釘が突き刺さる。
「ぐはぁッ!? な、こ、ここ、これは!?」
百以上の眼を蠢かせ、大いに動揺する。
――攻撃された。
「ば、バカな、そんなこと!?」
魔法少女達は数十キロ先のアパートの部屋に集まっていた。
これほどの離れた距離から魔法を放っていることに気づかれるはずがない。
「魔法少女クルハね」
「グランサー殿……」
いつの間にかグランサーがビルの屋上に降り立っていた。
ただ足音や気配を絶って、忍び寄るのは彼女の十八番なので、視百にとってはさして驚くほどのものではなかった。
「奴も視覚に関する魔法の使い手。貴様の魔法の足跡(そくせき)を視て、割り当てられたのだろう」
「バカな! そんな芸当を人間ごときが!」
「人間達を侮りすぎだ。特にあの魔法少女達の底力は眼にしたはずだろ」
「ぬぐぐぐ……!」
視百は悔しさのあまり、文字通り血眼になって眼をギョロギョロと蠢かせる。
「撤退だな。この独断、判真はご立腹なのではないか?」
「ぐぐぐ……!」
「黙れ!」と言いたげにグランサーを睨みつける。
普通の人間だったら、卒倒しそうなほどの視線をグランサーはどこ吹く風かと微笑んで受け流す。
「い、忌々しい者達め……!」
それは、魔法少女達だけではなくグランサーも差していた。
視界の歪みが消え、アパートの部屋が正常に戻る。
「幻覚の魔法が解けたみたいねぇ」
「あ……」
スズミの一言で、スイカの緊張が解け、同時に変身も解ける。
「お疲れ様ぁ」
「ありがとうございます」
翠華は一礼する。
「どういたしまてぇ」
翠華は視線を移す。
布団で未だに安静にしているかなみの姿が見える。
(よかった。やっぱりあれはかなみさんの幻だったんだ……)
スズミが何の疑いも無く幻覚を倒していたけど、本物がああして眠っているところを見ると、やっぱりあれは幻覚だったんだと安心する。
「あ~ひどい幻覚だったわ……」
「来葉さんが助けてくれなかったらどうなることか思いました」
みあと紫織も幻覚から解放されて安堵しているようだった。
「送り込んできた刺客の怪人二人も大したことなかったから助かったわ」
来葉は眼鏡に指を立てる。
「それに、敵にはちゃんと釘を打ち込んでおいたわ」
「さっすがぁ」
涼美は両手を叩いて、来葉を称賛する。
(二人とも、私がわからないうちにどうにかしちゃったってこと?)
会話からそう聞き取れるが、自分はただ戸惑うばかりで何も出来なかった。
「…………………」
みあのしかめっ面からも自分と同じ気持ちなんじゃないかと読み取れる。
ピカーン
その時、かなみの身体が星のように瞬く。
「あ……!」
直感でわかる。
あれは、魂の輝き。かなみの魂がこの世界に戻ってきたのだ、と。
そして、かなみはゆっくりと目を開ける。
「かなみ?」
真っ先に涼美がその名前を呼んだ。
「かなみ、さん……!」
その次は翠華が呼んだ。
「かあ、さん……」
先に姿を認識したのは涼美の方だった。
「かなみ!」
涼美はすぐに飛び出して、思いっきり抱き締める。
「よかったぁ、起きてくれたぁ」
「か、母さん……く、苦しい……!」
涼美が心から喜んでいるのがこちらに伝わってくる。
「たすけ、て……」
とはいっても、あまりの喜びのせいでかなみには息苦しさを感じている。
「あ~、かなみがオッパイオバケに殺されかけてるわ~」
みあが茶化す。
ただその顔は笑顔で一安心できたという心境なのが一目でわかる。
「だ、だれ……?」
かなみは涼美から解放されて、声の主を見る。
「えぇっと、みあちゃん……?」
かなみは確かめるように名前を呼ぶ。それがみあを苛立たせた。
「あんたね……寝ぼけてんじゃないわよ!?」
いきなり怒鳴る。
「ご、ごめん……」
「みあさん、とっても心配してたんですよ。今日だって学校さぼって」
「バカ! 余計なこと言ってんじゃないわよ!」
「みあちゃん、紫織ちゃん……心配?」
かなみは何を言われているのかわからずに戸惑う。というより、自分の陥っていた状況がわかっていないようだ。
「かなみさん!」
翠華はいてもたってもいられなくなって、かなみの名前を呼んだ。
「あ……!」
「目を覚ましたのね、よかった」
目に涙を浮かべる。
かなみが元気で、また起きてくれたのだから、嬉しさが抑えきれない。
ただ、それとは対照的にかなみは戸惑っていた。
「……えっと、誰でしたっけ?」
「……え?」
翠華は信じられない一言を返されて硬直する。
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