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第117話 求愛! 少女と少女の母が求める家族の愛の形! (Aパート)
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それはある日の晩ごはんだった。
「ねぇねぇ、かなみぃ?」
「ん、どうしたの?」
涼美はやけに嬉しそうに話しかけてくる。
「今日ねぇ、買い物でねぇ、こんなことがあったのよぉ?」
「こんなことってどんなこと?」
「スーツを着た若い人からぁ、告白されたのよぉ」
「こッ!?」
「結婚を前提にお付き合いしてくださいって~」
「告白ッ!? 結婚ッ!? んんッ!?」
かなみは驚きのあまり、口の中の米を喉につまらせる。
「ほらぁ、お水ぅ」
「んん!?」
かなみは水を飲み込んで咳を止める。
「結婚を前提にお付き合いって誰がされたの!?」
「私がぁされたのぉ」
「えぇッ!?」
「驚きすぎよぉ」
「そんな、だって母さん!? 母さんでしょ!?」
「そうよぉ、かなみのお母さんよぉ」
「だから! 結婚もお付き合いもできるわけないでしょ!!」
「……そう、そうよねぇ」
涼美は急に神妙な顔つきになる。
そのせいで、かなみもツッコミを入れづらくなる。
「母さん、もしかしてさ……」
「ううん~、なんでもないわぁ。ささ、食べて食べて~」
涼美はごまかすように言う。
それで、かなみもこれ以上聞くことができなかった。
――父さんと仲直りしたくないの、なんて。
就寝する時間になって、布団をかぶった。
部屋に誰か入ってきた。
扉には鍵が締めてあるし、第一扉を開ける音はしなかった。
それでも、人がいる気配がする。
母ではない。
母は出かけていった。唐突に、仕事が入ったぁ、と言って。
何もこんな夜更けに、と思ったけど、母はそういう奇抜さなところがあった。
とはいえ、仕事に出かけてすぐ戻ってくることはないだろう。
それじゃ誰が入ってきたのだろうか。
この部屋に音を立てず、入ってくる人間なんて……わりと心当たりがある。
「誰?」
かなみは問いかけてみる。
「………………」
返事が来ない。
もしかして、泥棒? うちに盗めるような物はまったくないのに。……いや待てよ、棚の方に母がとっておいたヘソクリがあるかもしれない。それだけは盗られたらたまらない!
「でい!」
カナミは枕を振り上げて、気配に向かって飛びかかる。
「ぎゃふッ!?」
そこにあった人は、拍子抜けするくらい情けない悲鳴を上げて倒れた。
「え!?」
かなみは唖然とした。
その人は、かなみが知っている人だった。
「……父さん?」
「やあ、こんばんは。いや、そろそろおはようかな?」
「どっちだっていいわよ!」
「それじゃ、こんにちは」
「どうでもいいわ!」
「あははは、こんな時間に元気だね」
「誰のせいで……っていうか、なんで父さんがここに?」
「かなみがどこに住んでるか、父親だって知ってるものだろ」
「そうじゃなくて!」
おどけた調子でのらりくらりとかわしてくる。
まぎれもない父の調子だった。
かなみの父親――結城金太《ゆうききんた》は、浮気相手を怪人から助けるためにありったけの金を用意して、そしてその借金を娘のかなみと妻の涼美に押しつけて雲隠れした。
ようやく来葉の未来視で見つけ出して会いに行ったら、その浮気相手が怪人で、父を陥れるために一芝居打ったところまでわかった。
怪人のサフィアは強かった。かなみと涼美と協力したものの、倒すことができずに逃げられてしまった。とはいえ、それで一段落ついて、久々の家族三人の団らんでメデタシメデタシ。……とはいかなかった。涼美は、制裁と称して父を病院送りにするほどボコボコにしてしまった。一応、本人も「やりすぎちゃった」と反省していたみたいだけど。
それで、全治三ヶ月くらいだったのに、いつの間にか病院を抜け出して行方知れずになった。
その父がいきなりやってきた。
しかし、その神出鬼没さも父らしい。そのあたりは母と似た者夫婦だった。
「何の用できたの?」
「かなみの顔を見に来ただけだよ」
「冗談は顔だけにして」
「かなみの冗談はきついな」
ハハ、と、父は笑う。
その笑顔を見ていると、今までのことなんて何もなかったかのように思えてくるから不思議だ。
浮気していた。
借金押し付けた。
雲隠れしていた。
どれもピンとこなかったし、この父ならまあやりそうだと納得もしてしまう。
それゆえに接し方がわからない。
いや、それぬきにしても昔からどう接していいかわからなかった。
何しろ、借金をする前から、色々なところを飛び回ってはひょっこり帰ってくる。
そんな父親だから距離感がわからない。
「私の顔より母さんの顔を見た方がいいんじゃないの?」
「う……きついことを言うね」
父は苦い顔をする。
「ま、今日の目的はそれなんだけどね」
「え?」
「だから、母さん……涼美のことだよ」
「母さん? 母さんに会いに来たの?」
かなみがそう問いかけると、父は若干顔を引きつる。
「い、いや……会いにきたわけじゃないんだ……」
「じゃあ、何?」
「かなみ、君は聞かされたと思うけど、今日、涼美、交際を申し込まれたらしいじゃないか」
「なんでそんなこと知ってるの?」
「父さんには色々な情報網があるんだよ」
「それをもう少し有効に使ったらいいのに……借金返済とか」
「借金は作ることはできても、返すことは得意じゃないんだ」
「私だって得意じゃないわよ」
「まあ、それはさておき、涼美のことだけど……かなみはその相手を知ってるかな?」
「知ってるわけないでしょ。さっき母さんから聞いただけなのに」
「そうか……」
「その、父さんは……相手を知ってどうするつもりなの?」
「どうするって……敵を知るのは兵法の基本だからね」
「敵? 兵法? 何言ってるの??」
「まあいい。今のところは大した敵じゃなさそうだ」
「あのさ、父さん……」
「ん、どうしたの?」
「母さんの交際相手に嫉妬してるの?」
「………………はあ!?」
父は飛び上がるような勢いで反応する。
「そ、そんなわけないじゃないか! この俺が嫉妬なんてそんなみっともない感情を抱くなんて!!」
「母さんとよりを戻したいの?」
「よ、より!? そうだな、別にそういうわけじゃないんだけど、す、涼美はそう思ってたりしないかな?」
「多分、ちっとも思ってないと思ってない」
「ちっとも?」
「うん、微塵も」
「微塵も……」
父は呆然とする。
そんなにショックだったのか。
「父さん?」
「いや、わかってたんだ……今更、どんな顔して合えばいいのかもわからないし」
「そのわりには何食わぬ顔で忍び込んできたと思うけど……」
「まあまあ細かいことはいいじゃないか」
「それは細かいことなの?」
かなみは呆れ顔で言う。
「まあ、何にせよ。相手のことは何もわからないんじゃ仕方ないか」
「どうするつもりなの?」
「どうもしないさ。ただ根掘り葉掘り情報を引き出してからだよ」
「引き出してから?」
かなみにはどうにも不穏に聞こえてしまった。
「それじゃまた会おう!」
そんなセリフをきざったらしく口にして、回れ右して部屋を去る。
追いかけようと思った頃にはもう姿がいなかった。
「まったく何考えてるのやら……」
かなみは呆れながらも、布団につく。
神出鬼没な父に関して深く考え出すと眠くなる。
翌日、学校を終えたかなみは出社して、すぐに魔法少女として出向いた。
「この世の猫は俺が絶滅させてゆるでチュー」
そんな大言壮語をはくネズミの怪人・チウチウとカナミは相対する。
バァン!
カナミは魔法弾を撃つ。
「グバァッ!?」
チウチウは派手にぶっ飛ぶ
「と、とんでもねえ魔法撃ちこんできやがったでチュー!?」
「あ、様子見のつもりで撃っただけなんだけど……」
「な、なにぃ!?」
「そんなにビックリされて、こっちもビックリなんだけど」
「ははは、そいつはいいでチュー! 一本とってやったでチュー!!」
バァン!
カナミはすかさず魔法弾を撃つ。
「グブエッ!?」
チウチウは再び派手にぶっ飛ぶ。
「こらーでチュー! いきなりなんで撃つでチュー!?」
「なんとなく撃っていい気がして」
「なんとなく!? なんとなくで撃たれたんじゃこっちはたまんねえでチュー!!」
「ごめんごめん、それじゃ今度はなんとなくじゃなくて倒すつもりで撃つから」
「おお!? いきなりやる気になったでチュー!? 顔に似合わず過激派でチュー!! だが、そうはいかないでチュー!?」
バァン!
カナミは三度魔法弾を撃ち、チウチウは三度ぶっ飛ぶ。
「ゴバァッ!?」
「それにしても気持ちよくぶっ飛ぶわね」
「油断してるとまずいことになるよ」
マニィが忠告する。
「まずいこと?」
「いてえじゃねえかでチュー! よくもやりやがったなでチュー!」
「え?」
かなみは呆気にとられた。
ぶっ飛んだチウチウがまた立ち上がってきたのかと思ったら、まったく同じ姿の怪人がもう一人現れたのだ。
「二人!? あんた、双子の怪人だったの!?」
「双子? 違うでチュー!! 俺はコチウチウ! チウチウの子供だチュー!!」
「こ、子供ぉッ!?」
「おうともよでチュー! 今のこの場で産んだのだチュー!!」
「いつの間に……!?」
「これこそ俺の得意魔法、ネズミ子だ!!」
「ネズミ講!?」
「違うチュー! ネズミ子だ! そんでもって!」
コチウチウがもう一人奥から現れる。
「俺がもう一人の息子チュー!」
「息子!?」
「俺はコチウチウ!」
「俺もコチウチウ!」
「「二人合わせてコチウチウ!!」」
二人のコチウチウが高らかに名乗りを上げる。
「……なんていうかめんどくさいことになったわね」
双子を産んで、倒さなければならない敵が一人から三人に増えたことで、労力も三倍になった気がする。
「ねえ、マニィ? 念のために聞いておくけど、」
「全部倒さないとボーナスはないよ。一人でも残すとまた子供を産んじゃうからね」
「やっぱり……」
カナミは肩を落とす。
「チュチュチュチュ、俺達が三人になって勝てるかどうか不安になっているようだな!」
「チュチュチュチュ、そんなお前を恐怖のどん底に落としてやる!!」
「「チュチュチュチュ、これが俺達の魔法だ!!」」
二人のコチウチウから魔力が放出される。
その放出された灰色の魔力が、四人もの人影を成していく。
「え、これって!?」
その四人のコチウチウは得意満面の笑みを浮かべて、カナミを見て言う。
「「「「俺達は双子の子供から生まれた双子の子供チュー! マゴチウチウだチュー!!」」」」
四人は一斉にカナミを語りかける。
「双子がまた双子を産んで四人……!」
「合わせて七人」
「言わなくてもわかってるから言わないで……」
七人に増えた怪人という頭の痛い事態に頭を抱えたくなる。
「チュチュチュチュ、まだまだこれからよ!」
「チュチュチュチュ、俺の、俺達の恐ろしさは!!」
「チュチュチュチュ、こんなものじゃねえぞ!!」
「チュチュチュチュ、ここからが本番だぜ!!」
「「「「チュチュチュチュ、これが俺達の魔法だ!!」」」」
四人のマゴチウチウの声が重なる。
そして、四人から同じように魔力が放出されるて、八人もの人影が成される。
「えぇッ!?」
これにはカナミも驚愕せざるをえなかった。
「フフフ、マゴチウチウから生まれた八人のヒマゴチウチウだ!! これだけいれば、お前を倒せるぜ!!」
チウチウが高らかに勝利宣言をする。
それと同時に、二人のコチウチウ、四人のマゴチウチウ、八人のヒマゴチウチウが一斉にカナミへ襲いかかる。
「マニィ、全部で何人だっけ?」
「子の二に、孫の四、ひ孫の八、で十四人」
「十四ね! よし!!」
カナミは気合を入れ直して、鈴を飛ばして、思いっきり魔法弾を撃つ。
「ジャンバリック・ファミリア!!」
バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン!
渾身の魔法弾で十四人の怪人が一気にぶっ飛ぶ。
「ぎゃああああああああッ!?」
耳をつんざく断末魔が路地裏に響き渡る。
「な、なんて奴だ……!?」
一人生き残ったチウチウはブルブルとたじろぐ。
「一人残ってるじゃない?」
「あ、そうか、最初の一人を数え忘れてた」
しっかりしてほしいな、と、カナミは思った。
「俺の子、孫、ひ孫が一瞬でやられるなんて!? ちくしょう! こうなったら!?」
「え、何やっぱり、自分の家族だからやられたら仇討ちするの!? 自分で襲わせたのに!?」
「逃げる!!」
「逃げる!?」
ヒョイ、と、チウチウは素早く路地裏の闇へと消えていく。
「……ってそこで逃げるの!?」
カナミは一瞬のうちに姿を消してしまったチウチウへ文句を言うけど、その声は届かなかっただろう。
「逃しちゃったね」
「……逃しちゃったね、じゃないわよ! どうするのよ!?」
「どうするも何もあいつ倒さないとボーナスは出ないよ」
「十四人も倒したのに?」
「十四人も倒したけど、大元の一人を倒さなければ意味がないからね」
「意味がないなんて……」
かなみはがっくりと肩を落とす。
「大したことない怪人一人倒す仕事だと思ったのに……」
「実際、大したことなかったじゃない。魔法弾で蹴散らせたし」
「……そうね、実際大したことなかったわね。メチャクチャ面倒くさい怪人だったけど」
「その面倒くさい怪人を取り逃がしちゃったんだけどね」
「言わないで……あいつを倒さないとボーナスは貰えないんでしょ? なんとか探し当てないと……」
「とは言ってももう近くにはいないみたいだよ。ネズミは危険を感じると一目散に逃げるものだからね」
「だったら、早く探した方がいいわね。……みつかるといいけど」
カナミは憂鬱な気分になりながら、路地裏の闇へと探していく。
結局、日が暮れても見つからなかった。
「ねぇねぇ、かなみぃ?」
「ん、どうしたの?」
涼美はやけに嬉しそうに話しかけてくる。
「今日ねぇ、買い物でねぇ、こんなことがあったのよぉ?」
「こんなことってどんなこと?」
「スーツを着た若い人からぁ、告白されたのよぉ」
「こッ!?」
「結婚を前提にお付き合いしてくださいって~」
「告白ッ!? 結婚ッ!? んんッ!?」
かなみは驚きのあまり、口の中の米を喉につまらせる。
「ほらぁ、お水ぅ」
「んん!?」
かなみは水を飲み込んで咳を止める。
「結婚を前提にお付き合いって誰がされたの!?」
「私がぁされたのぉ」
「えぇッ!?」
「驚きすぎよぉ」
「そんな、だって母さん!? 母さんでしょ!?」
「そうよぉ、かなみのお母さんよぉ」
「だから! 結婚もお付き合いもできるわけないでしょ!!」
「……そう、そうよねぇ」
涼美は急に神妙な顔つきになる。
そのせいで、かなみもツッコミを入れづらくなる。
「母さん、もしかしてさ……」
「ううん~、なんでもないわぁ。ささ、食べて食べて~」
涼美はごまかすように言う。
それで、かなみもこれ以上聞くことができなかった。
――父さんと仲直りしたくないの、なんて。
就寝する時間になって、布団をかぶった。
部屋に誰か入ってきた。
扉には鍵が締めてあるし、第一扉を開ける音はしなかった。
それでも、人がいる気配がする。
母ではない。
母は出かけていった。唐突に、仕事が入ったぁ、と言って。
何もこんな夜更けに、と思ったけど、母はそういう奇抜さなところがあった。
とはいえ、仕事に出かけてすぐ戻ってくることはないだろう。
それじゃ誰が入ってきたのだろうか。
この部屋に音を立てず、入ってくる人間なんて……わりと心当たりがある。
「誰?」
かなみは問いかけてみる。
「………………」
返事が来ない。
もしかして、泥棒? うちに盗めるような物はまったくないのに。……いや待てよ、棚の方に母がとっておいたヘソクリがあるかもしれない。それだけは盗られたらたまらない!
「でい!」
カナミは枕を振り上げて、気配に向かって飛びかかる。
「ぎゃふッ!?」
そこにあった人は、拍子抜けするくらい情けない悲鳴を上げて倒れた。
「え!?」
かなみは唖然とした。
その人は、かなみが知っている人だった。
「……父さん?」
「やあ、こんばんは。いや、そろそろおはようかな?」
「どっちだっていいわよ!」
「それじゃ、こんにちは」
「どうでもいいわ!」
「あははは、こんな時間に元気だね」
「誰のせいで……っていうか、なんで父さんがここに?」
「かなみがどこに住んでるか、父親だって知ってるものだろ」
「そうじゃなくて!」
おどけた調子でのらりくらりとかわしてくる。
まぎれもない父の調子だった。
かなみの父親――結城金太《ゆうききんた》は、浮気相手を怪人から助けるためにありったけの金を用意して、そしてその借金を娘のかなみと妻の涼美に押しつけて雲隠れした。
ようやく来葉の未来視で見つけ出して会いに行ったら、その浮気相手が怪人で、父を陥れるために一芝居打ったところまでわかった。
怪人のサフィアは強かった。かなみと涼美と協力したものの、倒すことができずに逃げられてしまった。とはいえ、それで一段落ついて、久々の家族三人の団らんでメデタシメデタシ。……とはいかなかった。涼美は、制裁と称して父を病院送りにするほどボコボコにしてしまった。一応、本人も「やりすぎちゃった」と反省していたみたいだけど。
それで、全治三ヶ月くらいだったのに、いつの間にか病院を抜け出して行方知れずになった。
その父がいきなりやってきた。
しかし、その神出鬼没さも父らしい。そのあたりは母と似た者夫婦だった。
「何の用できたの?」
「かなみの顔を見に来ただけだよ」
「冗談は顔だけにして」
「かなみの冗談はきついな」
ハハ、と、父は笑う。
その笑顔を見ていると、今までのことなんて何もなかったかのように思えてくるから不思議だ。
浮気していた。
借金押し付けた。
雲隠れしていた。
どれもピンとこなかったし、この父ならまあやりそうだと納得もしてしまう。
それゆえに接し方がわからない。
いや、それぬきにしても昔からどう接していいかわからなかった。
何しろ、借金をする前から、色々なところを飛び回ってはひょっこり帰ってくる。
そんな父親だから距離感がわからない。
「私の顔より母さんの顔を見た方がいいんじゃないの?」
「う……きついことを言うね」
父は苦い顔をする。
「ま、今日の目的はそれなんだけどね」
「え?」
「だから、母さん……涼美のことだよ」
「母さん? 母さんに会いに来たの?」
かなみがそう問いかけると、父は若干顔を引きつる。
「い、いや……会いにきたわけじゃないんだ……」
「じゃあ、何?」
「かなみ、君は聞かされたと思うけど、今日、涼美、交際を申し込まれたらしいじゃないか」
「なんでそんなこと知ってるの?」
「父さんには色々な情報網があるんだよ」
「それをもう少し有効に使ったらいいのに……借金返済とか」
「借金は作ることはできても、返すことは得意じゃないんだ」
「私だって得意じゃないわよ」
「まあ、それはさておき、涼美のことだけど……かなみはその相手を知ってるかな?」
「知ってるわけないでしょ。さっき母さんから聞いただけなのに」
「そうか……」
「その、父さんは……相手を知ってどうするつもりなの?」
「どうするって……敵を知るのは兵法の基本だからね」
「敵? 兵法? 何言ってるの??」
「まあいい。今のところは大した敵じゃなさそうだ」
「あのさ、父さん……」
「ん、どうしたの?」
「母さんの交際相手に嫉妬してるの?」
「………………はあ!?」
父は飛び上がるような勢いで反応する。
「そ、そんなわけないじゃないか! この俺が嫉妬なんてそんなみっともない感情を抱くなんて!!」
「母さんとよりを戻したいの?」
「よ、より!? そうだな、別にそういうわけじゃないんだけど、す、涼美はそう思ってたりしないかな?」
「多分、ちっとも思ってないと思ってない」
「ちっとも?」
「うん、微塵も」
「微塵も……」
父は呆然とする。
そんなにショックだったのか。
「父さん?」
「いや、わかってたんだ……今更、どんな顔して合えばいいのかもわからないし」
「そのわりには何食わぬ顔で忍び込んできたと思うけど……」
「まあまあ細かいことはいいじゃないか」
「それは細かいことなの?」
かなみは呆れ顔で言う。
「まあ、何にせよ。相手のことは何もわからないんじゃ仕方ないか」
「どうするつもりなの?」
「どうもしないさ。ただ根掘り葉掘り情報を引き出してからだよ」
「引き出してから?」
かなみにはどうにも不穏に聞こえてしまった。
「それじゃまた会おう!」
そんなセリフをきざったらしく口にして、回れ右して部屋を去る。
追いかけようと思った頃にはもう姿がいなかった。
「まったく何考えてるのやら……」
かなみは呆れながらも、布団につく。
神出鬼没な父に関して深く考え出すと眠くなる。
翌日、学校を終えたかなみは出社して、すぐに魔法少女として出向いた。
「この世の猫は俺が絶滅させてゆるでチュー」
そんな大言壮語をはくネズミの怪人・チウチウとカナミは相対する。
バァン!
カナミは魔法弾を撃つ。
「グバァッ!?」
チウチウは派手にぶっ飛ぶ
「と、とんでもねえ魔法撃ちこんできやがったでチュー!?」
「あ、様子見のつもりで撃っただけなんだけど……」
「な、なにぃ!?」
「そんなにビックリされて、こっちもビックリなんだけど」
「ははは、そいつはいいでチュー! 一本とってやったでチュー!!」
バァン!
カナミはすかさず魔法弾を撃つ。
「グブエッ!?」
チウチウは再び派手にぶっ飛ぶ。
「こらーでチュー! いきなりなんで撃つでチュー!?」
「なんとなく撃っていい気がして」
「なんとなく!? なんとなくで撃たれたんじゃこっちはたまんねえでチュー!!」
「ごめんごめん、それじゃ今度はなんとなくじゃなくて倒すつもりで撃つから」
「おお!? いきなりやる気になったでチュー!? 顔に似合わず過激派でチュー!! だが、そうはいかないでチュー!?」
バァン!
カナミは三度魔法弾を撃ち、チウチウは三度ぶっ飛ぶ。
「ゴバァッ!?」
「それにしても気持ちよくぶっ飛ぶわね」
「油断してるとまずいことになるよ」
マニィが忠告する。
「まずいこと?」
「いてえじゃねえかでチュー! よくもやりやがったなでチュー!」
「え?」
かなみは呆気にとられた。
ぶっ飛んだチウチウがまた立ち上がってきたのかと思ったら、まったく同じ姿の怪人がもう一人現れたのだ。
「二人!? あんた、双子の怪人だったの!?」
「双子? 違うでチュー!! 俺はコチウチウ! チウチウの子供だチュー!!」
「こ、子供ぉッ!?」
「おうともよでチュー! 今のこの場で産んだのだチュー!!」
「いつの間に……!?」
「これこそ俺の得意魔法、ネズミ子だ!!」
「ネズミ講!?」
「違うチュー! ネズミ子だ! そんでもって!」
コチウチウがもう一人奥から現れる。
「俺がもう一人の息子チュー!」
「息子!?」
「俺はコチウチウ!」
「俺もコチウチウ!」
「「二人合わせてコチウチウ!!」」
二人のコチウチウが高らかに名乗りを上げる。
「……なんていうかめんどくさいことになったわね」
双子を産んで、倒さなければならない敵が一人から三人に増えたことで、労力も三倍になった気がする。
「ねえ、マニィ? 念のために聞いておくけど、」
「全部倒さないとボーナスはないよ。一人でも残すとまた子供を産んじゃうからね」
「やっぱり……」
カナミは肩を落とす。
「チュチュチュチュ、俺達が三人になって勝てるかどうか不安になっているようだな!」
「チュチュチュチュ、そんなお前を恐怖のどん底に落としてやる!!」
「「チュチュチュチュ、これが俺達の魔法だ!!」」
二人のコチウチウから魔力が放出される。
その放出された灰色の魔力が、四人もの人影を成していく。
「え、これって!?」
その四人のコチウチウは得意満面の笑みを浮かべて、カナミを見て言う。
「「「「俺達は双子の子供から生まれた双子の子供チュー! マゴチウチウだチュー!!」」」」
四人は一斉にカナミを語りかける。
「双子がまた双子を産んで四人……!」
「合わせて七人」
「言わなくてもわかってるから言わないで……」
七人に増えた怪人という頭の痛い事態に頭を抱えたくなる。
「チュチュチュチュ、まだまだこれからよ!」
「チュチュチュチュ、俺の、俺達の恐ろしさは!!」
「チュチュチュチュ、こんなものじゃねえぞ!!」
「チュチュチュチュ、ここからが本番だぜ!!」
「「「「チュチュチュチュ、これが俺達の魔法だ!!」」」」
四人のマゴチウチウの声が重なる。
そして、四人から同じように魔力が放出されるて、八人もの人影が成される。
「えぇッ!?」
これにはカナミも驚愕せざるをえなかった。
「フフフ、マゴチウチウから生まれた八人のヒマゴチウチウだ!! これだけいれば、お前を倒せるぜ!!」
チウチウが高らかに勝利宣言をする。
それと同時に、二人のコチウチウ、四人のマゴチウチウ、八人のヒマゴチウチウが一斉にカナミへ襲いかかる。
「マニィ、全部で何人だっけ?」
「子の二に、孫の四、ひ孫の八、で十四人」
「十四ね! よし!!」
カナミは気合を入れ直して、鈴を飛ばして、思いっきり魔法弾を撃つ。
「ジャンバリック・ファミリア!!」
バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン! バァン!
渾身の魔法弾で十四人の怪人が一気にぶっ飛ぶ。
「ぎゃああああああああッ!?」
耳をつんざく断末魔が路地裏に響き渡る。
「な、なんて奴だ……!?」
一人生き残ったチウチウはブルブルとたじろぐ。
「一人残ってるじゃない?」
「あ、そうか、最初の一人を数え忘れてた」
しっかりしてほしいな、と、カナミは思った。
「俺の子、孫、ひ孫が一瞬でやられるなんて!? ちくしょう! こうなったら!?」
「え、何やっぱり、自分の家族だからやられたら仇討ちするの!? 自分で襲わせたのに!?」
「逃げる!!」
「逃げる!?」
ヒョイ、と、チウチウは素早く路地裏の闇へと消えていく。
「……ってそこで逃げるの!?」
カナミは一瞬のうちに姿を消してしまったチウチウへ文句を言うけど、その声は届かなかっただろう。
「逃しちゃったね」
「……逃しちゃったね、じゃないわよ! どうするのよ!?」
「どうするも何もあいつ倒さないとボーナスは出ないよ」
「十四人も倒したのに?」
「十四人も倒したけど、大元の一人を倒さなければ意味がないからね」
「意味がないなんて……」
かなみはがっくりと肩を落とす。
「大したことない怪人一人倒す仕事だと思ったのに……」
「実際、大したことなかったじゃない。魔法弾で蹴散らせたし」
「……そうね、実際大したことなかったわね。メチャクチャ面倒くさい怪人だったけど」
「その面倒くさい怪人を取り逃がしちゃったんだけどね」
「言わないで……あいつを倒さないとボーナスは貰えないんでしょ? なんとか探し当てないと……」
「とは言ってももう近くにはいないみたいだよ。ネズミは危険を感じると一目散に逃げるものだからね」
「だったら、早く探した方がいいわね。……みつかるといいけど」
カナミは憂鬱な気分になりながら、路地裏の闇へと探していく。
結局、日が暮れても見つからなかった。
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これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。
※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。
※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。
ゆっくり投稿です。
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