まほカン

jukaito

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第127話 偏愛! 受け入れざる少女の恋愛観 (Cパート)

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 意外にも佐々部との話は途切れることなく、気づくと夜が更けてきた。
 かなみの学校やオフィスの話をしても、佐々部は興味深そうに聞いているものだから、話は弾んでいた。
 佐々部も昔付き合った女性の話を持ち出してきたけど、それを遠い他人のように話すから世間話のように軽い感じで聞けたことが大きい。
「コーヒーお代わりするか?」
「結構です」
 もう四杯目だった。
「でも、怪人は全然来ないですね」
「そうだね。ここに立てこもってから二日目だよ。さすがに簡単にここに見つかるとは思えないけど」
「え、それじゃ!?」
 かなみは嫌な予感がする。
「依頼内容は、私の命を狙う怪人を倒すことだ。倒すまでは何日でもここで番をしていてほしい、としている」
「倒すまで? 何日でも?」
「そう」
 かなみは確認するように問う。
 それをあっさりと佐々部は肯定してしまう。
「か、帰りたいんですけど……」
「――ダメだ」
 佐々部は断言する。
「帰ってしまったら契約に反する」
「は、反するって!?」
「つまり、違約金」
「違約金!?」
 忌避感さえ覚える嫌な単語だった。
「ちょ、ちょっと、そんなの聞いていませんけど!?」
「聞いていない? 依頼の契約書にはちゃんと書いてあったはずだが」
「契約書? ちょっと、席を外します!」
 かなみは席を立つ。ぬいぐるみのふりをしているマニィを持って。
 入口の近くで誰もいないのを確認してから話しかける。
「どういうことなの!?」
 多分、近くにいた見張りの黒服の男には聞こえたかもしれないくらいの大きさだったけど、そこまで気が回らない。
「どういうことって?」
 一方のマニィはいたって冷静だった。
「契約書? 違約金って聞いてないんだけど!」
「言う必要がないと思って」
「どうして必要がないのよ?」
「君は断らないと思って。というより、断れないと思って」
「私だって、断る権利くらいあるわよ!」
「それじゃ、違約金払う?」
「うぅ……! いくらくらい?」
「聞いたことを後悔するくらい」
「私は引き受けたことを後悔してるんだけど……」
「でも報酬はいいよ。日当払いだし」
「に、日当払い? それって、一日ごとにお金が出るってこと?」
「そういうことだね。元気出たでしょ?」
「いくらくらい?」
「聞いたら幸せになれるくらい」
「今日現れなかったら、泊まりになるの?」
「うん、寝床は用意してるって」
「それで明日現れなかったら?」
「明日も泊まり込んでもらう。それでボーナスは一日分入るよ」
 それを聞いて、かなみは思わず笑みを浮かべる。
 ふとそんな自分に気づいて、ハッとする。
「私って、ゲンキンだと思ってる?」
「得な性分だと思ってるよ」
「そんなこと言って騙されないんだから」
 かなみはジト目でマニィを睨みつける。
「はあ~いっそ一週間くらい現れなかったら、いっぱいボーナス入るのに」

バババババァーン!!

 その途端、マシンガンのけたたましい銃声が響き渡る。
「あ~!? もう来ちゃったの!?」
 かなみは佐々部のいた部屋に戻る。
 すると、入口で案内してくれた黒服の男がマシンガンを持っていた。
 そして、その銃口の先には写真で見た袴を着たおかめの怪人が立っていた。
「あれがあんたの命を狙ってる怪人?」
「ああ、そうだ」
 一応、佐々部に確認を取る。
「どうやって入ってきたんですか?」
「そこから、スッと入ってきた」
「スッと、って……幽霊じゃないんだから……幽霊じゃないわよね?」
 かなみは不安げに確認する。
「足がついているだろ」
「じゃあ、幽霊じゃないわ」
 かなみは安心して、おかめの怪人と向き合う。
「あんた、どうしてこの人の命を狙ってるのよ!?」
「――ころしたいひとからたのまれた」
 おかめの怪人はようやく声を出した。
 その声は、怨嗟のこもっていて、寒気が走る。
「あんた、どこから恨まれてるの?」
「心当たりがありすぎる」
 佐々部はこともなげに答える。
「そのうらみがわたしにうつった」
「ウイルスじゃあるまいし、そんなことって……ま、いいわ。私は仕事を果たすだけだから!」
 かなみはコインを取り出す。
「マジカル・ワーク!」
 コインを放り投げ、宙を舞ったコインから光が降り注ぎ、カーテンとなる。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
 お馴染みの口上を決めて、怪人と向き合う。
「まほうしょうじょ、まあいいか」
 おかめの怪人は、指から爪が伸びる。
「まあいいか、でまとめてやられてたまるかってのよ!」
 カナミは即座に魔法弾を撃つ

バァン!

 魔法弾はおかめの怪人に命中。しなかった。
「え?」
 魔法弾がすり抜けて、後ろの壁を破壊する。
「す、すり抜けた!? 幽霊みたいに!?」
 カナミはもう一度試しに魔法弾を撃ってみる。

バァン!

 同じように魔法弾は、おかめの怪人をすり抜けて、後ろの壁を破壊する。
「ど、どうして!? 本当に幽霊なの!?」
 カナミは動揺する。
「カナミ、落ち着いて。あれだけ存在感を持っている怪人が幽霊のはずがない」
 マニィが助言する。
「え、存在感……? た、たしかにそうかもしれないわね……」
「よく目をこらして」
 カナミは言われた通り、目を凝らしておかめの怪人を見つめる。
 確かに幽霊特有の存在感の薄さがない。むしろ、力強い魔力を放っていて、自分は怪人だと誇示しているように感じる。
「そ、そうね、これは幽霊じゃ無さそうね……!」
 幽霊じゃないとわかったら、動揺は収まる。
「それじゃ、私の魔法がすり抜けたのは、そういう魔法だということね!」
 カナミはわかったところで、ステッキを向ける。
「そういう魔法って、どうやって倒せばいいの?」
 すり抜ける魔法を使って、魔法弾を透過するのだとしたら、ダメージを与えられることが出来ないということになる。
「わからない。なんとかするしかないよ」
 マニィに無茶を振られて
「なんとかって……あ~、もう! だったら、これでどうよ!」
 カナミはステッキの刃を抜いて、おかめの怪人へ斬りかかる。
「ピンゾロの半!」

キィィィィィン!!

 おかめの怪人は伸びた爪でステッキの刃を受ける。
「すり抜けない!?」
 やぶれかぶれに攻撃をしてみたけど、この攻撃なら通じると光明が見えた。
「この!」
 カナミは仕込みステッキで斬りかかる。おかめの怪人はこれを爪で受け止める。
 爪は細く見えるけど、かなり硬くできているのか、簡単には折れない感触だ。
 それでも、動きはそれほど速くないから、何度も斬り掛かっているうちに動きが読めてくる。
「そこ!」
 隙が見えて、すかさず斬り込む。

ヒュン!

 ステッキの刃でおかめの怪人を斬る。ことができなかった。
「え!?」
 斬った手応えがなかった。
 何もないところを振ってしまったようだった。
 おかめの怪人の身体が透けて見える。
「すり抜けの魔法!」
「じゃまをするな!」
 おかめの怪人の怒気のこもった声で爪をふりかざす。

ザシュゥゥッ!

 爪が衣装の腹部を裂く。
 カナミは自分の攻撃と同じようにすり抜けるかと少し期待していた。
「すり抜けなかった!」
 カナミは距離を取る。
「私の攻撃はすり抜けるけど、あいつの攻撃はすり抜けない」
「これでは一方的だな」
 佐々部は冷静に言う。
「狙われてるのに冷静ですね」
「慌てふためいたところで、解決はしないからな」
「それじゃ、解決策は何か思いつきませんか?」
「わからない。魔法はまったくわからない。君が専門じゃないのか?」
「魔法の専門家のつもりはありませんけど、あれはわかりません!」
 カナミは断言する。
「そうか。それは困った」
 困った顔してなさそうだけど、カナミは心中でぼやいた。

バァン!

 カナミは振り向きざまに魔法弾を撃つ。
 しかし、おかめの怪人はまたすり抜けてしまう。
 自分の攻撃はすり抜けるけど、向こうの攻撃はすり抜けない。
 ずるい。と、言いたかった。
「おまえ、しまつする」
 おかめの怪人は完全にカナミを標的にして襲いかかる。
「そう簡単に始末されてたまるかってのよ!」

キィィィィィン!!

 やはり、爪の攻撃はすり抜けることなく、ステッキに届いてくる。
(向こうが攻撃するときにはすり抜けの魔法を使っていない。だったら、攻撃してくる瞬間を狙えば!)
 カナミはそう読んだ。

キィン! キィン! キィン!

 闇雲に攻撃してくるおかめの怪人にタイミングを図りつつ、攻撃を受け止める。
「しぶとい。おとなしくしろ」
「大人しくできるわけないでしょ。人殺しを黙って見過ごすわけにいかないんだから!」
「ひとごろし。いえ、これはせいとうなほうふく」
「人殺しに正当なんてあるわけないじゃない!」
「だまれ、わたしにはそのけんりがある」
「どんな権利があるっていうのよ?」
「あのおとこはわたしをすてた」
「すてた? あんた、もしかして、あの人に振られた人?」
 かなみは問いかける。
 そうなると、怪人が主張する『せいとうなほうふく』というのも少しわかる話ではある。
「いや、そのふられたひととやらにいらいされた」
「依頼? その依頼した人って?」
「けっこんしてりこんされた、といってた」
「あちゃあ~、そういう線の恨み……」
 カナミは呆れる。
 それと同時に、佐々部に恨めしげに視線を送る。
 自業自得じゃないの、と。
 佐々部はそんなことは気にしていないようだった。
 とはいえ、それで見捨てるわけにはいかないのだけど。
「そのうらみはわたしにうつった」
「うつった? そんなウイルスみたいに!?」
「あり得る話だよ。強い想いは魔力を帯びて独り歩きすることがある」
 マニィが解説してくれる。
「それが人から怪人に乗り移ったってわけね!」
 おかめの怪人は振りかぶる。
「今よ!」
 カナミは攻撃を受けつつ、魔法弾を撃つ体勢に入る。

ザシュ! バァン!

 爪が肩を斬ったものの、魔法弾はおかめの怪人の腹に直撃する。
「やった! やっぱり、攻撃のときはすり抜けられないみたいね!」
「ぐぐッ!」
 おかめの怪人はうめき声を上げつつも、立ち上がってくる。
「タネが割れたんだから、観念しなさい!」
「いや、あの恨みはこの程度で止まるとは思えないが」
 佐々部が言う。
 その通りに、おかめの怪人は爪を振りかざして、襲いかかってくる。
「くッ!」
 カナミは咄嗟に、ステッキで受ける。
「じゃあ、どうやったら止まるんですか!?」
 カナミは佐々部に問う。
「止まらない。徹底的に潰すしかない」
 佐々部は驚くほどあっさりとそう言ってのけた。
 おそらく、敵の多い彼のことだろうから、今までそうしてきたのだろう。
「でも、潰すのは私なのよね」
 カナミはぼやいて、ステッキを構える。
「おおぉッ!!」
 おかめの怪人は闇雲に爪を振ってくる。

ザシュ! バァン! ザシュ! バァン!

 攻撃を受けて、魔法弾で反撃する。
 おかめの怪人の攻撃のタイミングはもうs読めている。攻撃しても、防御と反撃を同時に行えば、すり抜けの魔法は間に合わず、攻撃は通じる。
 ただ、それでも、おかめの怪人は止まらない。
 攻撃を受けるたびに、おかめの怪人は激しく怒り、攻撃してくる。
 簡単には止まらない。
 こうなったら、神殺砲で倒すしか無い。
 でも、すり抜けの魔法ですり抜けられたらまずい。
 敵の攻撃と同時に神殺砲を撃つにはタイミングがシビアすぎる。それに何よりこの狭い室内で神殺砲を撃ったら、この部屋の壁や屋根ごとふっ飛ばしてしまいかねない。
(――せめて!)
 カナミは佐々部へ視線を送る。
 せめて、彼だけでも避難してくれればもっと戦いようがある。そんな言葉を投げたつもりだけど。佐々部は避難する気配が無い。
(さっさと逃げなさいよ!)
 文句を含みつつ、視線を送る。
「君は思いっきり戦いなさい」
 佐々部は言う。
「思いっきり……いいんですか?」
 カナミは確認する。
「いい」
 佐々部は簡潔に、しかし、明確にそう答える。
「いいって言いましたよね! だったら!」
 カナミは魔力をステッキに込める。
 爪の攻撃に合わせて、神殺砲を撃ち込む。
(確実に! 絶対に! 当てるためには!!)
 カナミは、おかめの怪人の動きを見つつ、思案する。
(――あぁ、これだわ)
 その時、自分の心の声はやたら冷めきっていたような気がした。
 思いついたこと。
 思いっきりやっていい。と言われた。
 それだったら、やってやるしかない。
「おおぉぉぉッ!!」
 おかめの怪人の叫び声によって、現実に引き戻される。

ザシュゥッ!

「ボーナスキャノン!!」
 肩を裂かれた音と同時に発声する。
 発生の直後に、砲弾が発射される。

バァァァァァァン!!

 砲弾は、おかめの怪人に直撃し、吹っ飛ぶ。
 その爆発によって部屋の壁や屋根も吹っ飛んでしまう。
「ハァハァ、手応えあり……!」
 カナミは息を切らせてへたりこむ。
 おかめの怪人の攻撃にタイミングを合わせるために振り絞った集中による気疲れが、怪人を倒した安堵とともに一気にやってきた。
「見事だったよ」
 佐々部がやってきて、労いの言葉をかける。
「肩の傷は大丈夫か? 手当てをすべきだな」
 カナミは肩の傷を確認する。
 神殺砲をおかめの怪人の攻撃に合わせて撃った。
 神殺砲は魔力を十分な力を充填し、一気に撃つため魔法弾よりも格段に集中力を要する。
 そのため、魔法弾で反撃したときのように、おかめの怪人の攻撃を防御する余裕がなかった。
 その爪によって、衣装が裂かれて、血が滲んでいる。
「あ、大丈夫です」
 カナミは変身を解く。
「大した傷じゃないので、魔法ですぐ治ります」
「そうか。魔法というのは凄いな」
「そ、そうですか……これくらいいつものことですから、そんなに凄いわけじゃないと思いますけど……」
「そうか。訂正する、魔法ではなく君が凄いな」
「な、なんで、そこを訂正するんですか?」
「思ったことをそのまま口にしただけだ」
「そ、そうですか……」
「結婚しよう」
「え? え、えぇぇぇッ!? どうして、そうなるんですか!?」
「思ったことをそのまま口にしただけだ」
「えぇ……冗談ですよね?」
 かなみは退く。
「俺は冗談は言わない」
「本気で言われても困ります」
「それは断る、ということか?」
「え、えぇ……」
 かなみは、断ったつもりなのに……と心中でぼやく。
(はっきり言った方がいいわよね……でも、相手はその筋の人だし、怖いけど……ええい、はっきり言ってやれッ!)
 心中の葛藤を乗り越えて、佐々部の方へ向く。
「お断りします!」
「そうか……」
 佐々部は意外なほどあっさり引き下がった。
 かなみは穏便に済んでホッと安堵する。



「部長!!」
 それは翌日の出来事だった。
 かなみは鯖戸のデスクをダン! と叩いて問い詰める。
「何かあったのかね?」
「何かあったのかね? じゃないわよ!! なんなの、この請求書は!?」
 かなみは自分のデスクに置かれていた一枚の紙を鯖戸へ突きつける。
「君宛ての請求書だよ」
「なんで私宛てなのよ!?」
「昨晩の怪人退治」
「う……」
 かなみは言葉に詰まる。
「怪人を倒すことができたけど、ビルを相当壊したそうじゃないか」
「あ、あれは……あの人が思いっきりやっていいって言ったから!」
「断れた、と言っていた」
「え? 断れたって何を?」
「プロポーズ」

ガタッ!

 かなみの背後から物音がする。
 それは、翠華が椅子から転げ落ちる音だった。
「かなみさん、プロポーズされたの!?」
「え、えぇッ!? は、はい!?」
 それは事実だったので、かなみは素直に肯定する。
「………………」
 翠華は絶句する。
「あ、でも、ちゃんと断りましたから! 断りましたから!」
「こ、断った……?」
 翠華は、少し我に返る。
「そ、それは本当……?」
「え、ええ……は、はい……」
 そう言われて、かなみは翠華に安心する。
「翠華さん、私が結婚するのがそんなに心配なんですか?」
「え、えぇ、いや、心配っていうか、まだ早すぎるっていうか……!」
「そうですよね! まだ早すぎるですよね! 私まだ十四歳ですよ、結婚なんてまだまだ早すぎて考えられないですよ!」
「そ、そうよね!?」
「……逆に、翠華さんはどうなんですか!?」
「ふえッ!?」
 思わぬ反撃に、翠華は言葉を失う。
「翠華さんは十六歳だから、一応は結婚できますよね? 彼氏もいることですし!」
「結婚!? 彼氏!?」
「結婚について彼氏とどう考えているか、是非教えてほしいです!」
 かなみは目を輝かせて、翠華を問い詰める。
「えぇ……私は……」
 好きな人がいるという誤解をどうやって解くか。
 先日、かなみに相談されたことをどうやって解決させるか、自分にこそ教えてほしい相談だった。
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