女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

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第六章・女帝戴冠

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沙也加は一人、帝プロ本社の重い扉を押し開けていた。

待っていたのは、
スーツ姿の帝プロ代表――阪口。

かつての帝プロ王者であり、
沙也加と無観客試合で戦い、敗北した男。

「来ましたね、沙也加さん」
「はい。阪口社長、お願いがあります」

沙也加は躊躇なく頭を下げた。

「――直美を、帝プロのリングに上げたいのです」

阪口は眉をわずかに動かす。

「……あの直美、ね?」
「はい。いまの直美は、たいていの男子相手でも、勝てる力があります。
 帝プロでこそ、本当の頂点を目指せると思うのです」

直美の底知れぬ実力は、先日の拳激との一戦を見た阪口は、完全に見通していた。
阪口はしばらく黙り、椅子に深く腰掛けた。

その沈黙には――
迷いと、焦りと、恐怖が混じっていた。

(あの直美という女子……
 見た限り、規格外の怪物。
 だが――伝統の帝プロのリングが、本気で女子に制覇されるやもしれない)

阪口は腕を組み、重い口を開いた。

「……わかった。ただし、条件がある」

沙也加が顔を上げる。

「うちの若きエース・白川大斗をブレバリーズに送り込むので、
 エキシビジョン・マッチを1戦、してもらいたい。
 まずはそこで実力を見極めたい」

沙也加は目を細めた。

「……つまり、帝プロの門番として大斗を置く、と」
「大斗は今の帝プロで最も勢いがある選手。
 直美といえど、簡単には勝てんだろう」

(――“勝てないだろう”と読みきっているのね)

沙也加は心の中で薄く笑った。

「あとで、うちの田牧という者に、手配しておくよ。
あと直美には、それなりのステータスを準備しておいてほしい。
例えば、その団体のタイトルフォルダーだとか」
「……なるほど、承知しました。」

阪口はまだ、女子が男子を超える現実を受け入れきれていない。
そう悟った沙也加は、一礼をして去って行った。

(阪口さんの認識を、直美がきっと、粉砕してくれるでしょう。)

***

ブレバリーズ事務所の廊下がざわついたのは、ある金曜の午後だった。

「マジで!?」「直美、ついに来たか!」「社長……大丈夫なのか?」

公式サイトのトップに――
《ブレバリーズ無差別級タイトルマッチ
チャンピオン・新崎仁志 vs 挑戦者・直美》
の告知が掲載されたのだ。

館内の空気が一気に揺れた。

女子選手たちは熱を帯び、
男子選手たちは驚き、
ファンたちはSNSで一斉に叫んだ。

男子選手の最後のプライドとして、仁志が何とか維持してきた、ブレバリーズのチャンピオンベルト。
その挑戦者として、ついに直美が挙がったこととなったのだ。
いま現在では、まさしく最強の挑戦者、と誰もが考えていたことであった。

「直美の秒殺だろ」
「社長は拳激戦から、ずっと精彩無いしな」
「直美はもう完全に“男子超え”の実力者だろ」

男子部の選手たちは重い沈黙に包まれていた。

「……俺ら、これで完全に、女子より下になるんだろうね」

男子たちの落胆が広がる中、
修平だけは拳を握っていた。

――直美さんがここまで来た。
自分も、いつか同じリングに立てるだろうか。

周りの空気とは正反対の熱が胸に広がっていた。


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