女子からの敗北と屈辱~プロレスラー・白川大斗の苦悩

kazu106

文字の大きさ
1 / 10
第一章

プロモーター・篠崎沙也加

しおりを挟む
帝プロの正式名称は、帝国プロレスリング株式会社。
国内に数多あるプロレス団体の中でも、最も古い歴史を誇り、かつ最大勢力である。厚い選手層と試合レベルの高さ、そして興行規模、いずれをとっても業界のトップとして君臨している。
業界において、帝プロの位置づけは、言わずもがなのところ。他団体に所属する者にとって、帝プロのリングに上がることは、多くの選手にとっての夢でもある。そのため、帝プロに所属する選手ともなると、それだけで一目置かれる存在となる。それくらい業界での帝プロのグレードは、高いものであった。

そんな帝プロの練習場にて、ほぼ毎日、熱のこもった練習を続ける若者がいる。
白川大斗、28歳。
新進気鋭・伸び盛りのプロレスラーである。日々の練習に裏付けされた試合内容をこなし、勝ち星を重ねている。
一部では、帝プロが創設し国内で最も権威あるタイトル・CWAヘビー級王座に、若手の中では最も近い選手とも、噂されている。さらに持ち前のセンスとルックスも加わり、ファンも非常に多い。
興行を大いに湧かせる存在として、今や帝プロのメインイベンターの1人となり、大活躍している。

その白川大斗がある日、練習前にフロントから呼び出された。
入った応接室には、営業担当の田牧、それに女性がひとり座っていた。

田牧が口を開く。
「大斗さん、ちょっと営業の話をさせてもらいたいのですけど、いいですか?」
「はい、なんでしょう?」

横の女性に目を向ける。女性は大斗の方を向いており、真剣ながらも優しそうに見える笑みを浮かべている。
堂々とした雰囲気は、いかにも ”やり手の女性プロモーター” といった感じである。

それにしても、この女性には、なんとなく見覚えがあった。
引き締まった風貌からして、かなりのトレーニングを積んでいそうな雰囲気を感じる。
現役の格闘家の様にも思われる。

「大斗さん、すみませんが1か月後、単独で熊本でエキシビジョン・マッチをしてきてほしいのですけど、いかがでしょうかね?」
「はぁ、熊本でエキシビジョン・マッチですか。他の試合の予定が空いていれば、別に問題はありませんよ。でも、どうして?」
「ありがとうございます。
実はですね、紹介が遅れましたが、こちらは株式会社ブレバリーズ・プロレスリングで副社長兼プロモーターをされている、篠崎沙也加さんです。
篠崎さんから、今回ぜひ大斗さんに、ブレバリーズのリングで試合をしてほしいと、持ちかけてくださっているのです。」

女性が立ち上がり、大斗に挨拶をする。
「はじめまして。株式会社ブレバリーズ・プロレスリングの、篠崎沙也加と申します。よろしくお願いいたします。」
張りと胆力のある、しっかりとした挨拶。そのうえ、なかなかの美女である。

大斗は沙也加を改めて見て、ようやく理解できた。
「はじめまして。帝国プロレスリングの白川です。
で、篠崎さんって、ゴールド女子プロレスのリングでも活躍されていた、あの篠崎沙也加選手ですよね?」
「あら、ご存じくださったのですね、光栄です。ありがとうございます。」
沙也加は笑顔になり、丁寧に頭を下げてお礼を述べた。
「はい、ゴールド女子と言えば女子プロ界の超大手団体ですもんね。
そこに外部団体から単独乗り込み連勝を重ねる大活躍をされ、あっという間に女子プロの最高峰・NLWA王座を獲得してしまった、あの方ですよね。女子プロ界の超新星だって、大きく騒がれていたのを、思い出しましたよ。」
大斗は当時の沙也加の活躍のことは、スポーツ新聞でよく読んで知っていたのだ。

「NLWAを獲得して、とんとん拍子に全米マットに進出か、なんて騒がれていた最中に、突然の引退報道がされていましたね。あの時はぼくも驚きました。その後、どうされているのかと思っていたら、いまはフロントの仕事をされているのですね。」
沙也加は笑顔で頭を下げた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女帝の遺志(第一部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
アメリカで経営を学び帰国した元女王・篠崎沙也加は、 地方団体ブレバリーズで興行を成功へ導き、副社長へと昇りつめる。 だが胸の奥では、かつて果たせなかった夢── 「男女を問わぬ頂点決戦」への情熱が、いまだ消えていなかった。 そんな折、地元のレディース総長・直美と出会う。 彼女の荒削りな力に、かつての自分を見た沙也加は決意する。 自らが果たせなかった夢を、この少女に託すと。

M性に目覚めた若かりしころの思い出

kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

秘密のキス

廣瀬純七
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

処理中です...