女子からの敗北と屈辱~プロレスラー・白川大斗の苦悩

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第二章

これが女子の力だとは

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試合開始早々、大斗は思わぬ苦戦を強いられていた。

抵抗も空しく、簡単に捕まる。直美から首を掴み上げられ、右の脇腹と腕でしっかりと包まれた。力の篭った直美のヘッドロックに捕まってしまった。
まるで大斗の首をねじ切るかのごとく、ぐいぐいと締め上げている。あまりに凄まじく、締め上げる音が伝わって来そうな力の入り具合に、観客も驚いていた。

――― 痛ぇぇぇ…。

そのうえ、直美は自分の右手首の尺骨で大斗の右頬骨に、無情にも力をこめてぐりぐりと痛めつけている。頭蓋骨を粉砕しようとでもしているようだ。

――― く、苦しい…。

耐えてもがく大斗に対し、頭上から声が聞こえた。直美が初めて、口を開いている。
「おい、お兄ちゃんよぉ。おまえこの試合、ずっとなめていただろ、おいっ!
どうせ相手は女だ、くらいに思っていただろ。なんとか言ってみろよ、おらぁ!」
迫力ある、挑発の声。しかし正直、図星であった。
「ほらぁ、女だからって、手加減なんかいらないよ。
かかってこいよ、おらぁ!帝プロの男子選手のホープさんよぉ~。」
直美は挑発をつづける。
「おまえなんて、所詮は大きな団体でぬくぬくと育てられた、お坊っちゃまだろがぁ、こらぁ!」
直美に締め上げられたままで動けない大斗は、言い返すことさえできない。
「ほらぁ、どうしましたかぁ~、先輩レスラーさん。締め方が足りませんかぁ~?」
直美はさらにぐっと力を入れた。
「ぐぐがぁぁぁ…!」
大斗の泣きそうな叫び声が響く。
直美は飽きたように、大斗を投げ捨てた。

顔を押さえて苦しむ大斗を、直美は引きずり起こす。
「せんぱぁ~い、ちょっとくらいは、お相手してほしいですけどぉ~。
キャリアがずっと浅い、女子レスラーでは、ご不満でしたでしょうかねぇ~。」
直美はそのまま、大斗を反対側ロープに飛ばす。返って来た大斗にめがけてドロップキック。これまた顔面にクリーン・ヒット。倒れ込む大斗の首を掴んで引き起こし、持ち上げて、ボディスラムでマット中央に叩き付ける。その力強さは、女子選手とは到底思えないものだ。
即座にひらりとコーナーのトップロープに上り、最上段からのジャンプ。そして大斗の胸元を目掛け、ダイビングニーパッドを叩き付ける。そのまま勢いをつけての、ストンピングやミドルキックの嵐。
「これが路上だったら、お前なんてとっくに、土下座させてるよ。タイマンで女に乗されてよぉ、情けないなぁ、おい。」

もはやエキシビジョン・マッチとは思えぬ、力の篭った波状攻撃。女の直美が、男の大斗を潰しにかかっているようにも、見て取れる。
地元の直美が帝プロの大斗になにもさせず、一方的に押し込んでいる展開に、会場の観客は大いに盛り上がっていた。

機敏かつ強烈な一撃一撃を受け続け、大斗は立ち上がることもままならない。呼吸や身体が既に根を上げそうであり、たまらず転がりながら、逃げる。
見た目など、気にしている余裕もなく、身を守るために必死にリング下に向かった。ダメージで立ち上がれず、膝をついて息を整えようとしていた。直美がここまで追ってこないことを、願いながら。

リング下ではセコンドに、数人のブレバリーズの女子選手たちが見えた。その中には、さっきまで戦っていた志桜里もいた。大斗を見ながら話している声が聞こえる。
「なんだ、帝プロの男って、こんなものだったの?」
「直美が強いのはわかるけど、ここまで敵わないとは、思わなかったわ。」
「これじゃ志桜里も、もうちょっとがんばったら、こいつに勝てるかもしれないね。」

まだ序盤ながら、ここまで直美から一方的に攻撃され続け、何も抵抗さえできていない。叩き込まれた無数の打撃により、大斗の胸や背中は、赤く腫れあがっていた。
女子選手なのにここまで強いとは。これほどの選手は、男子の世界でもそうそういるものではない。

回復を待ちながら、直美のプロフィールで目に入った一節を思い出した。

――― たしか、「元レディース総長」なんて書かれていたけど、まさか…。

急に、数年前に実家に帰省したときのことを思い出したのだ。


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