女帝の遺志(第一部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

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第二章・導かれる拳

挑戦

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 あれから一か月後。
 ブレバリーズ女子部は、いつもどおりの厳しい練習を行っていた。
 沙也加の指導のもとで、Satomiや志桜里らが、黙々とトレーニングを積んでいる。

 その中に一人、同じくトレーニングに打ち込む、新入団の女子。
 直美であった。

 鬼女のアジトで敗北を喫した後、相手がかつての天才プロレスラー・沙也加であったことを、初めて知った。
 直美は即座に鬼女を辞め、レディースの世界から足を洗った。
 さらに学校まで自主退学してしまった。
 髪を切ってショートカットの姿で、あのとき渡されたメモを頼りに、沙也加のもとに弟子入りしてきたのであった。

 「おねがいします。ブレバリーズに入団させてください。
 わたし、自分の力を試したいです。」

 あのときとは打って変わった、直美の態度。
 無駄な言葉はなく、素直にまっすぐに、自分の気持ちを述べていた。
 沙也加は黙って頷き、直美を中へ招いたのであった。

 それからの日々、直美の目つきは日を追うごとに変わっていった。
 最初は喧嘩の勘で動いていた身体が、次第に“技”を覚えていく。
 足の位置、腰の入れ方、呼吸のタイミング。
 沙也加の一言一句を、直美は貪るように吸収した。

 スパーリングにおいては、何度も何度も、沙也加に簡単に締め上げられる。
 そのたびに、直美の悲鳴が練習場に響く。

 「痛いのは当たり前。でも、痛みの中に道があるの」
 「はいっ!」

 どんなに痛めつけられようが、直美はまったく屈することなく、沙也加に立ち向かって行く。

 やがて他の女子選手たちも、二人の練習を見て動き出した。

 「なんだ、あの子……」
 「沙也加さんに必死で、張り合おうとしている……!」

 団体全体の空気が変わり、女子たちに熱が生まれていった。
 Satomiも志桜里も、自分も自分もと、目の色を変えていっそう厳しい練習に取り組みはじめた。

 試合においても、徐々にその効果が現れ始めていた。
 男子の前座としての扱いは変わらなかったが、女子の試合の熱が増していた。
 力強さも、スリリングな技も、試合を追うごとにヒートアップしていた。
 観客も大きな声援を送る。

 次第に話題が話題を呼び、相変わらずパフォーマンスに走る男子の試合よりも、人気が高まっていた。
 もはや女子の試合は、前座の域を超えようとしていた。
 加えてここで、女子柔道の世界選手権元代表・日系ハーフのリチャード環(たまき)が新規加入するという
 ホットなニュースまで重なった。
 ブレバリーズの女子選手たちは、日の出の勢いで成長をつづけることとなった。

 直美は持ち前の格闘センスを発揮。
 元々、類まれなる身体能力を持っていたが、日々の沙也加との特訓の成果で、華々しく開花していた。
 瞬く間に成長し、入団1年目からデビューを果たすこととなった。

 試合内容も力強くかつ華々しく、会場を常に盛り上げ、結果も先輩レスラーたちを相手に連戦連勝。
 気が付けば早くも、女子のエースとも言われる存在となっていた。

 沙也加は、その様子を静かに見つめていた。

 直美の動きには、かつての自分を重ねる。
 だが違う。彼女はもっと野性的で、迷いがない。

 ──もしかしたら、この子が……。

 夜、練習後のリング。
 直美が汗まみれで倒れ込みながら問う。

 「沙也加さん、いつか……私、もっと強くなれますか」

 沙也加は答えなかった。
 ただ、リングライトの下で直美の肩を支えながら、
 静かに言葉を落とした。

 「強くなれるかどうかじゃない。
  強くなきゃいけないのよ、女は。」

 夕食時の女子部の宿泊所。
 厳しかった練習を終えた女子選手たち全員が輪になり、しゃべっていた。
 直美がレディース時代の武勇伝の思い出を話しているようで、みんなが屈託のない笑顔で楽しんでいた。

 何気ないいつもの光景を、少し離れた場所でみていた沙也加。
 このとき、前々から温めていた構想を、実行に移す決意をしていた。


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