女帝の遺志(第一部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106

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第三章・拳激、登場

これが現実

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「なんで俺が、メンバーから外れてんだよ!」

高本は机を叩いて、怒りをあらわにしている。

「あの襲撃のとき、おれは先頭切って、向かって行ったじゃねぇか!
それに俺は、旗揚げのときから、何年もこのリングを盛り上げて来たんだよ。
この団体をずっと支えて来たつもりなんだよ。
それなのに、こんな大事なときに、なんで俺が外れなきゃいけないんだよ、おいっ!」

沙也加は高本を見つめながら、述べる。

「高本さん、あなたのこれまでのブレバリーズへの貢献は、ほんとうに感謝しています。
でも...、今回は解散がかかっているのです。
いまの最強のメンバーを揃えないと、ブレバリーズの未来がなくなってしまうのです。
だから、おねがいですから今回は、控えに回って5人を支えてください」
「ふざけんなよ、こら!俺が本気を出せば、ここにいる誰にも負けることなんて、ないんだよ!」

たまらず志桜里が割って入る。

「高本さん、外された理由は、今の高本さんは“誇り”を失ってるからですよ」
「なんだとぉ?」
「過去の高本さんの実績は認めますけど、今の力では、選ばれないことは当然ですよ」

怒った高本は、志桜里に食ってかかった。
部屋中が一気に凍り付いた。

「言ってくれるじゃねぇかよ、このションベン女!、何様のつもりだ?」
「今の高本さんだったら、わたしはあなたには、絶対に負けません。現実を教えてあげましょうか?」
「てめぇ、いい気になりやがって、こら!」

睨み合う、高本と志桜里。

「このクソ女が!今すぐリングに上がれっ、スパーリングだ!、俺がお前を叩き潰してやる!」

仁志の「お前ら、落ち着け!」の声には、聞く耳も持たない。
高本はリングに上がり、志桜里を挑発する。
気の強い志桜里もリングに上がった。
周囲の静止を無視して、即座に2人のスパーリングがはじまってしまった。

すっかり興奮した高本は、完全に上気している。
とにかく力でねじ伏せようと大技を繰り出し、躍起になっている。
見ていた誰もが思った。
(これはどう見ても、強引過ぎる。)
しかも、長らくまともに練習もしていない身体は、動きが重すぎた。

志桜里はスピードある動きで、交わしつづける。
そしてこんどは、志桜里が回り込み気味に狙い澄まし、ハイキックを叩きこんだ。
これが、高本の後頭部をきれいに捉えたのだった。

まともに食って倒れた高本は、そのままダウン。
頭を押さえて苦しがり、のたうち回っていた。
長い間、そのまま立ち上がることができなかった。

たった一発のハイキックで、ナンバー2の男子選手がデビュー1年目の18歳女子選手に、
あまりにも屈辱的な敗北を喫してしまった、という結果であった。

しばらくしてようやく、仁志から介抱されながら、高本は起き上がった。
誰も彼に声をかけられる者はいない。沈黙の中、時は過ぎた。
現実を目の当たりにした印象であった。

そして、そのまま何も語らず、選手たちに背を向けて、練習場から去ってしまった。

後から流れて来た話では、高本はその後、ほぼ誰とも会うことなく、そのままブレバリーズを退社してしまった。
去る直前の高本を見かけた者の話によると、「なにか決意したかのような目をしていた」とのことであった。

静寂の中、ずっと黙っていた沙也加が、口を開く。

「男子も女子も、経験の有り無しも、なにも関係ありません。
強く、誇りを持つ選手に、わたしたちの代表として、リングに上がってほしいです」

誰も反論しなかった。

***

その夕方、志桜里は療養中の修平のもとに、見舞いに向かった。
そして、その日の出来事を語った。選手選出のこと、スパーリングのこと。

「そうか……」
「はい、わたし、ちょっとやり過ぎたかなって、思っちゃって……」
「……いや、これまでの志桜里の努力の結果なのだから、いいんだよ」

ベッドの上の修平は、少し反省気味の志桜里をなぐさめる。

「……志桜里、お前、出るんだな」
「はい。あの拳激の連中に、倍返ししてやります」
「……気をつけろよ。あいつらリング上でも何をしてくるか、わからないから」
「大丈夫です、勝ちます!」
「……ケガしないでくれよ」
「……ブレバリーズのために、死んでも勝ちます!」

修平は苦笑し、天井を見つめた。
志桜里の拳の震えだけが、静かに熱を放っていた。



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