女帝の遺志(第一部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

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第四章・それぞれのプライドを賭けた真剣勝負

第4試合/因縁の闘い・志桜里の執念

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次のカードがアナウンスされる。

「第4戦、ブレバリーズ・志桜里、拳激・新堂翔!」

その名前を聞いた瞬間、
志桜里の指先がピクリと震えた。

――新堂翔。
あの襲撃の日、山崎修平を病院送りにした男。
志桜里が初めて、「憎しみ」という感情を抱いた相手。
奇しくも自分の相手が、あの新堂翔となったのだった。

志桜里は深く息を吸い、自分に向かって静かに言った。

「……Satomiさんの悔しさも、山崎さんの分も、全部まとめて返す!」

リングに足を踏み入れた瞬間、志桜里の鼓動は早鐘のように鳴っていた。
観客席から響く声援も、怒号も、すべてが遠くに霞んで聞こえる。

目の前には、新堂翔。
拳激の中でもっとも危険と呼ばれる男。
切れ長の目、薄笑い。
全身を覆う刺青が、ライトに照らされて妖しく光る。

あの日――
ブレバリーズの試合に乱入し、修平を血まみれにして笑っていた、その男。

志桜里の奥歯が軋んだ。
ロープを握る手が震える。

この試合前はあちこちで、志桜里の不利が囁かれていた。
大半の観客は思っていた。
デビュー間もないわずか18歳の志桜里にこの相手では、厳しすぎる、と。

(……絶対に、負けへん)

ゴングが鳴る。

開始早々、新堂が間合いを詰める。
その動きは、まるで獣のようだった。
ローキック、裏拳、頭突き――反則まがいの連打。
志桜里はガードしきれず、マットに叩きつけられる。

「どうした、チビ。プロレスごっこか?」

挑発に、志桜里の胸が燃え上がる。
倒れたまま新堂の足を掴み、

「誰が……ごっこやねん!」

ヒールホールド。
新堂が体勢を崩す。
すかさず志桜里は立ち上がり、ドロップキックを叩き込む。

会場がどよめいた。

志桜里の動きが速い。
ジャブからのスピンキック。
新堂の頬をかすめ、汗と血が飛び散る。

だが、新堂は笑っていた。
「おもしれぇ。ようやく人間らしくなったな」

次の瞬間、志桜里の腹部に膝蹴りが突き刺さる。
息が止まる。
そのまま背中を掴まれ、場外へ放り投げられた。

鉄柵に叩きつけられ、うずくまる志桜里。
花道の端で見ていたSatomiが思わず立ち上がる。

「志桜里っ!」

審判がカウントを取る中、
志桜里はロープを掴み、歯を食いしばって立ち上がった。

(山崎さんの分も……サトミさんの分も……ここで折れられへん!)

リングに戻ると、新堂が腕を広げて笑う。
「お帰り。ほな、次で終わりや」

新堂、ロープに走り――
だが、その腕を志桜里が掴み取る。

返し技の閃光。
回転しながら決める――
クロスアーム・スープレックス!

新堂の巨体が宙を舞う。
場内が爆発的な歓声に包まれる。

フォール!
「ワン!ツー――!」

――しかし、新堂は肩を上げた。

志桜里が汗にまみれた髪をかき上げ、
もう一度立ち上がる。

予想を覆す志桜里の大熱戦に、観客の歓声が最高潮に達する。

拳をぶつけ合い、蹴りを交わす。
しかし、お互いに既に限界だった。
試合時間、すでに20分を超えていた。

「おらあああっ!」
「なめんなぁあああ!」

互いの拳が同時に交錯。
二人とも崩れ落ち、マットに倒れ込む。

審判のカウントが響く。
「ワン!ツー!スリー!フォー!」

志桜里が、かろうじて片腕を上げた。
新堂も動く。

「ナイン!」

……だが、どちらも立ち上がれない。

カウント「テン!」

――両者ノックアウト・ドロー。

場内が割れるような拍手に包まれた。
---------------------------------------------
**月**日、〇〇体育館、ブレバリーズvs拳激、第4戦
△[ブレバリーズ]坂城志桜里
(27分26秒、両者KO)
△[拳激]新堂翔
坂城志桜里選手が、前評判を覆す大熱戦。両者とも死力を尽くしたドロー。
---------------------------------------------

志桜里は、ゆっくりと目を開ける。
視界の端に、新堂の背中が見えた。
立ち上がり、ふらつきながらもロープに寄りかかる男。

審判が二人の腕を取ろうとするが、
新堂は拒み、志桜里の前に立った。

「……悪くねぇ。
 お前、あの時のガキとは違ぇな」

志桜里は答えない。
ただ、ゆっくり立ち上がり、
真正面から新堂を見据えた。

新堂は口角を上げ、拳を軽く突き出す。
だが、最後の瞬間、踵を返して背を向けた。

観客からブーイングが起こる。
新堂はそれを無視し、ロープをくぐり抜けた。
「まだ終わっちゃいねぇ。
 次は潰すからな、チビ」

そう吐き捨てて去っていく新堂。

その背を見送りながら、志桜里は
ゆっくりと右拳を掲げた。

「……絶対、もう一度、叩き潰す。
今度は――完全に勝つ。」

その声を、控室で聞いていた修平が
涙をこぼしながら微笑んだ。


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