女帝の遺志(第一部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106

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第四章・それぞれのプライドを賭けた真剣勝負

第3試合/Satomiの信念

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控室。
Satomiは、テーピングを巻く指先を見つめていた。

キャリア15年。
いつの間にか、女子レスラーとして年長になっていた。

若い子たちの成長を見て、うれしい反面、
自分はもう終わったのではないか――そう思っていた時期もあった。
引退を考えていた時期もあった。

だが、直美の入団がすべてを変えた。
あの情熱的な、真っ直ぐな眼を見た瞬間、自分の中の何かが再び燃え上がった。

「もう一度だけ……このリングで、誰かの力になりたい」

そう呟いて、ゆっくり立ち上がる。

***

リングアナの声が響く。
「第3戦、ブレバリーズ・Satomi 対 拳激・花岡剛志!」

場内から歓声が上がる。
花岡は拳激の中でも“怪力”の異名を持つパワーファイター。
全身にびっしりとタトゥーを刻み、無表情のまま仁王立ち。
Satomiと並べば、その体格差は歴然だった。

だが、Satomiの表情は揺るがない。
花岡が鼻で笑い、
「悪いな、姐さん。ここは男のリングだ」
と吐き捨てる。

Satomiは静かに答える。
「……だったら、女が勝つところを見せてあげる」

ゴングが鳴る。

開始早々、花岡の突進。
その巨体で押しつぶすようにタックルし、ロープへ追い詰める。
コーナーに叩きつけ、頭突き。
反則すれすれの攻撃に、観客が息をのむ。

Satomiは顔を押さえながらも、倒れない。
「……まだ、こんなもんじゃ……ないッ!」

再び立ち上がるが、花岡の拳が腹に突き刺さる。
何度もマットに投げ飛ばされながら、ぐっと息を詰めながらも、目は死んでいなかった。
それどころか、花岡の動きの癖を、しっかりと見極めようとしていた。

ロープに振られたSatomi、
すれ違いざまに飛びつき、回転。
そのまま花岡の首を捕らえる――
“スイング・ネックブリーカー”。
「これが……プロレスだよ、アンタの喧嘩とは違う!」

花岡が崩れる。
Satomiはすぐに立ち上がり、花岡に対してハイスピードで、蹴りと掌打の連発。
空手はSatomiが長年、地道につづけて来た技。
その空手技が、この日は一段と冴えていた。

手を広げて構える。
観客が「サトミ! サトミ!」と叫び始める。

だが、花岡も意地を見せる。
ふらつきながらも立ち上がり、再び前進。
その瞬間、Satomiの視線が鋭く光った。

彼女は真正面からぶつかる。
腕を掴み、タイミングを見計らって――

「一本背負い!!」

花岡の体が宙に舞う。
会場がどよめく。
花岡の体がマットに叩きつけられ、
Satomiがすぐさまフォール。

「ワン!ツー!」

――だが、花岡はロープを掴んだ。

「くっ……!」
Satomiは汗を拭い、もう一度立ち上がる。
立ち上がったところ、ロープ際で再び空手殺法の嵐、花岡を窮地に追いやる。
凡戦女王、ミズ塩試合、花の咲かぬ女...
かつて自分に浴びせられた、数々の心無い言葉を思い出しながらの、猛ラッシュ。

苦し紛れに花岡は、Satomiのなんとか身体をつかみ、自分の身体ごとリング下に投げ捨てた。
リング下に落ちた両者とも、身体で受けたダメージが深そうであった。

レフェリーがカウントを始める。
「ワン!ツー!スリー!」

Satomiが一早く立ち上がった。そして再び、その場で花岡に蹴りを入れまくる。
「イレブン!トゥエルブ!サーティーン!」
全身の力を振り絞り、左右の足を叩きこんだ。

立てなくなった花岡。
「フォーティーン!フィフティーン!シクスティーン!」

(このまま先にリングに戻れば、勝てる!)
最後に蹴りを見舞ったSatomiは、ロープを掴んでリングに戻ろうとする――
(よしっ!これで、勝った!)

...いや、左足が動かない!
花岡が最後の力を振り絞って手を伸ばし、Satomiの足の甲を引っ張っていたのだ。
「セブンティーン!エイティーン!ナインティーン!」

もうあと一歩、足をじたばたさせてもがくSatomi。
だが、足が動かない...
(早く、早く、戻らなきゃ!!!)

「トゥエンティ!、両者リングアウト!」
試合終了。
---------------------------------------------
**月**日、〇〇体育館、ブレバリーズvs拳激、第3戦
△[ブレバリーズ]Satomi
(09分31秒、両者リングアウト)
△[拳激]花岡剛志
Satomi選手が押し込むも一歩間に合わず、両者リングアウトの引き分け。
---------------------------------------------

Satomiはロープを叩きながら、悔しさをこらえきれずに泣いた。

花岡は立ち上がって言った。
「けっ!女相手に、負けるわけにはいかねぇんだよ。」

そして、ぽつりとつぶやいた。
「けどなぁ……、大した女だよ、あんた」
そう言い残して去っていった。

***

Satomiが控室に戻ったとき、そこは静まり返っていた。

泣きはらした目を隠そうともせず、
彼女はベンチに腰を下ろし、両手で顔を覆う。
汗と血と涙が入り混じり、止めどなく流れ落ちていた。

その横に、志桜里が黙って座る。
手には氷嚢。
Satomiの肩にそっと押し当てると、
「……冷たい」
という小さな声が返ってきた。

志桜里は言葉を選びながら、口を開く。
「サトミさん……めっちゃ、カッコよかったっすよ」

Satomiは苦笑した。
「勝てなきゃ、意味ないよ」
「勝ち負けだけじゃ、ないっす。
 サトミさんが踏ん張ってくれたから、次につながったんすよ。
 ――わたし、絶対に勝ちますから」
志桜里の瞳の奥で、燃えるような闘志がゆらめいている。
“仲間の痛みを背負う覚悟”の色だった。

直美も駆け寄り、Satomiの肩を支える。

「……サトミさん、大丈夫。
このあとわたしも、勝つから」

Satomiが涙を拭いながら笑った。
「頼んだよ、女帝様」
Satomiの瞳が輝いた。
彼女の戦いは、仲間たちの火を絶やさぬための灯だった。


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