敗北者

東園寺和響

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vol.6「いざ!キャバクラへ」

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「どうした?いきなり吠えだして。びっくりしたぞ」
「すいません。ちょっと興奮してしまいました」
普段の仕事ぶりからは想像できない蠢動だった。あれだけの騒ぎをおこして平然としている様子をみると反省してないだろう。
「ああいう奴をみると許せないっす」
スギの目がまた鋭くなった。
「酔っ払うと気が大きくなって、他人の事などお構いなしって奴」
そして深くため息をついた。
「自分の親父がそんな感じでした。普段小心者のくせに、酔っ払うと平気で母さんや婆さんを殴るし」スギの熱量がいつになく高まっているのを感じる。この熱量が仕事に反映されればいいのだが。
「酔っ払いが大声出して粋がっている風潮が大嫌いっす。酔っ払いってそんなに偉いんすか?」
スギは自分の感情を抑えようとせず、吐き出した。この一連の行為に快活さを感じた俺は、スギの肩に手を
まわし囁いた。
「お前は何も悪くない」

 夜が更けるにつれ、段々冷えてきた。雪は津々と降っている。今夜も積もりそうだ。ポケットに手を入れ、飲み屋街を闊歩する。ズサッ、ズサッ、路面をしっかり踏みつけて歩く。粉雪とネオンが織りなすコントラストは男達を和らげ、高揚感を醸成させる。週初めで、歩いている人間はほとんどいない。客引きは死臭を嗅ぎつけた蠅のように寄ってくる。「お兄さん!一時間四千円」「お兄さん!こっちは九〇分五千円女の子ドリンク込みだよ」「若い子いるよ!マンツーマン!」左右後方を確認すると、いつの間にか四、五人の客引きが俺たちにくっついていた。何人もの人間を引き連れて飲み屋街の真ん中を歩くのはまんざらでもない。「最後までマンツーマンで、女の子のドリンク飲み放題。一時間三千五百円ならいくよ」俺も要求を突きつける。すると客引き達は一斉に無線で確認をとった。そのうちの一人がOKを出したので、その店に行くことにした。新規二名さまご来店です。いらっしゃいませ。店の女の子七、八名が一斉に立ち上がって挨拶をする。いい気分だが、これは少し恥ずかしい。一応おじぎをして、そそくさと席に着く。いらっしゃいませ~、女の子二人が隣にそれぞれ座った。スギの隣には茶髪で細身の女、俺の隣には黒髪でちょっと太っているが愛嬌のありそうな女が座った。茶髪で今時の女より、こっちの方が好みなので問題なし。女のドリンクも注文して乾杯した。「ねー、仕事何やっているの」早速、黒髪が話しかけてくる。「誰にも言うなよ。俺たちヤクザだ」「本当!いやだー、ハハハ」いきなり職業を聞いてくるのはマニュアルなのかどうなのか分からないが、隣に座っているサラリーマン風の男達も同じ事を聞かれていた。スギは隣の女が気に入ったのか楽しそうに会話している。これで元気が出ればいいな。ウィスキーのロックをチビチビ飲みながら、スギの会話に耳を傾けた。俺は店が終わった後の事を考え、密かに作戦を立てていた。「何か食べたいものある?投資に成功したから金はあるよ」「へー、株とかやっている人なの」「まあそんな感じかな。オーストラリアドルで少し儲けたよ」適当なことをベラベラしゃべり、テーブルにあるナッツに手を伸ばす。「どのくらい?」女の姿勢が正面から俺に密着してくるのを感じた。よしよし食いついてきたな。「まあ今日は五〇万くらいかな」ロックグラスをカラカラ回す。「すごい。すごい。いつもそんなに勝っているの?」女はグラスをグイッと傾けグラスを空けた。「おかわりは?何でも飲んでいいよ」と気を配る。「ありがとう!じゃあモスキート頼んでいい?」黒髪はうれしそうにボーイを呼ぶ。こいつはかなり酒を飲めるな。俺は獲物を狙う猛禽類のようにたたみかけようとした、しかし、まだ早い。溢れ出す獣性をおさえ尋ねた。「店終わったら飲みに行かない?飲み足りないでしょう。いいバーがあるよ」「え~、いきなりですか~。一回しか会っていないのに」「二、三回店に来てくれると行きますよ。だからまた来てください!」そう甘くはないか。「オッケー、また来るよ。だから携帯の番号おしえて?」黒髪は慣れた手つきで名刺を差し出した。真ん中にはアヤと書かれていた。裏をみると携帯番号とメールアドレスが記入されていた。早速、アヤの前で携帯電話をかけてみた。ポーチが光った。うそではないな。「お客様、お時間です。延長いかがでしょうか?」ボーイが声をかけてきた。まあ延長してもいいのだが、明日も仕事だしな。おっと、もうこんな時間か。今日は収穫もあったし、この辺でいいか。俺達は店を出た。スギは茶髪に最後まで話しかけていた。こんなに饒舌なスギをみたのは初めてだった。

 「おー、スギ。なかなかいい店だったな。最後にラーメンでも食っていくか」未練たらたらのスギに話しかけた。いぐっすべ。ラーメン屋に入ると満席だった。どこにこんな人がいたのだ。少し外で待っていると席が空いた。ラーメンを注文して、瓶ビールで乾杯した。「たごさん。あの子可愛かったです。自分と歳も同じで、パチンコもやるみたいですよ。今日もヘブンに行ったと言っていました」「そうか、いずれ会うかもな」その後もスギは茶髪の話を延々と続けた。「スギ!俺も連絡先聞いたから、今度四人で同伴しようぜ」「それいいですね。ぜひ!」店を出て、時計をみると日付を超えていた。「スギ、帰りどうする?」「いつもの代行に連絡します」スギは足下がふらつくほど酔っていた。「お前、大丈夫か。少し休んだ方がいいよ」「車で少し休んで、それから代行呼びます」「そうか、明日も仕事だから気つけろよ」そう言って別れた。路面を踏みしめるとキュキュと音が鳴る。雪が締まってきた。
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