敗北者

東園寺和響

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vol10「スギ〜、金返してくれ〜」

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 パチンコで勝った金も底をつき、スギに貸した金が必要となった。しかし、スギの携帯に何回も連絡したがつながらなかった。意地になって五分おきに電話をかけ、メールを打った。しかし、無反応だった。実は一回返済してもらったことがある。その時は土下座をして、くしゃくしゃの諭吉二枚を渡してきた。とりあえず、これで勘弁してくれというから許してやった。しかし、それっきりになってしまった。噂によると、女に貢いでいるらしい。この間一緒に行ったキャバクラに通っている姿を目撃されている。実際、スギはヴィトン、シャネル、グッチなどキャバクラ嬢が欲しいと言えば買い与えたらしい。職なし、金なしのくせにカード会社からバンバン金を借りて貢いでいる。本人がだめなら女に聞いてみようとアキに電話をしたら辞めたそうだ。ただ、パチンコ屋の「ヘブン」には来るだろうと店内で目を光らせた。

 二週間が経過した。俺はスギの女の事より、自分の負けをどう取り戻すか必死になっていた。この二週間でスギに貸した金と同じくらい負けてしまった。ミイラ取りがミイラになっちまった。早く女を見つけてスギから金をかえしてもらわねば。一発逆転を願い、大はまりの台を狙う。しかし出るわけがない。当たり前か、人間と同じだめな奴はとことんだめだし、貧乏人はとことん貧乏だし、そんな台に投資している愚かさについて真剣に考えた。分かっちゃいるけど俺が生き抜くにはお前に爆発してもらわなければ!目覚めろ!もう、昔のお前じゃねーべ!

 プリペイドカードを使い果たし、カウンター前にある販売機に歩いていくと見たことある顔が目に入った。スギの女だ。以前よりも派手になっている気がする。床に置いてあるバックはシャネルだし、服も高級ブランド品だ。おそらくスギから貢いでもらったのだろう。隣の男と談笑していたが、それはスギではなかった。色白で金髪。耳、鼻、唇にピアス、ヘビのような目つきをしている男だった。「おー久しぶり。元気!」二週間も待たせられ、借金と怨念が交錯しているにも関わらず、自分でもこんなにさわやかな声が出るとは思っていなかった。本当なら襟首つかんで脳みそを揺らしたかった。女は気まずそうだった。「ちょっと話したいけど、いいかな」隣の男が怪訝な顔をしていたが「知り合い、知り合い、何でもない、ちょっと……」と言って外に出た。

「ところでスギと会っている?」

単刀直入に尋ねた。

「私も電話やメールしているけど全然返ってこなくて」

 どうやら女も俺と同じ気持ちだったらしい。「毎日のように店に来てくれて、俺は社長の息子だから何でも欲しいもの買ってくれるって」それで?「出勤前、デパートに一緒に行って買ってもらいました。このバックも」腕に下げていたシャネルのバックをみせてきた。「無理しなくていいよって何度も言ったのだけど。大丈夫、大丈夫って、金はあるからいいよって、そして……」女の話が止まった。俯き躊躇っている様子から羞恥の念が湧き出てきたようだ。「いいよ、話したくなければ。無理しないで。俺はあんたとスギの間に何かあったとしてもどうでもいいから。俺はスギに貸した金を返してもらえればそれでいいけど」女の表情が少し和らいだ。「いくら貸しているの?」「十万くらい」「けっこうな額ね」女はフーとため息をついた後、覚悟を決めたように話した。「もうお店辞めたけど、アキちゃんや店の人に絶対言わないでね」「実は私、夜の店とデリの仕事を兼務していたの」俺は表情を変えずに受け流した。「同じ店の女の子から聞いたけど、客から五十万ほどまきあげたって」「まきあげた?」俺もやられたことがあったから意味は分かっていた。しかし初心者のふりをして尋ねてみた。「この業界、本番は禁止だけどけっこうOKにしている女の子も多くて。素股やったりいろんなところ舐めたりするより入れたほうが楽なの。お互い気持ちよくなれるしね」俺は少し驚いた表情で頷いた。「ただ、美人局っていうの?本番OKっていいながら無理矢理入れられたって、警察に訴えられたくなければ金出せっていうやつ。彼女はそれで何百万稼いでいるよ。やばくなってきたら店をどんどん変えてまたやるの」「今のデリは、現金がなくてもクレジットカードで支払えるから、私もずっと心配していたの」よく話してくれた。ここまで聞ければもういいだろう。しかし、どこ行ってもトラブっている奴だな。色々話してくれてありがとう、と言い残し駐車場に向かった。久しぶりに海岸通りをドライブしてみた。天から降り注ぐ太陽の光は海面をキラキラ輝かせている。正面にみえる禿げ山は毛穴がみえるくらい自分をさらけ出している。トンネルを抜けて前方をみるとタクシーがハザードをつけて止まっていた。初老の男が両手を広げて叫んでいるのが見えた。只事ではないと感じ、車を脇に寄せハザードをつけて停止した。
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