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05「突然のプロポーズ」
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自分はかつて拾われた犬だとアリーナへ告げた青年。なんの事か分からずアリーナの思考は混乱を起こしていた。
(拾った? この青年を? 酔った勢いでって事? そんなに飲んだくれた記憶は……)
「まだ分からないのか?」
そんなアリーナに、青年は語気を強めて詰め寄ってくる。
「分からないですっ、あなたを拾った記憶なんて……」
「君が幼い頃、金色の犬を拾った記憶もか」
そこでふと記憶が蘇る。
(幼い頃……金色の犬……はっ!)
「フェルちゃんの事!?」
「だからそう言ってるだろ」
いや、それにしても可笑しな話だ。金色の犬を拾った記憶があるとして、何故目の前の青年がその犬だと言っているのか、まったく理解が出来ない。
「誰の差し金? グレン? ミレナ? 私を馬鹿にするのもいい加減にしてちょうだいっ!」
まったく理解出来ない状況に、アリーナは冷静さを失っていた。そんな事を知っているのは、幼い頃から付き合いのある二人ぐらい。
こんな所に居るとは知らない筈だが、状況を考えればそれしか思い当たらなかった。
「落ち着け、アリーナ」
「気安く呼ばないで!」
感情を露わにするアリーナに、青年の表情は微動だにしない。そればかりか、青年はどんどんアリーナへ近づき目の前でピタリと止まる。
「な、なによっ!」
「今から姿を変える。驚かないでくれ」
そう告げた青年は、アリーナから一歩下がると光の粒子に包まれた。
「な、なに!? なにが起こってるの!?」
動揺して尻餅をつくアリーナ。
やがて光の粒子はとある姿を形成する。
「これで信じて貰えたかな」
ふわふわした金色の毛並み。左右に揺れる尻尾。青年と同じ翠緑色の瞳は、驚いて口をパクパクさせるアリーナを真っ直ぐ見つめていた。
アリーナの目の前に現れたのは、正におとぎ話の中に登場するフェンリルそのものだった。
大きさで言えば馬。
見方を変えれば大きな犬とも言える。
「ほ、本当にフェンちゃんなの……?」
蘇った記憶の中で飛び跳ねる金色の子犬は、目の前に現れた大きな犬と瓜二つ。
かつてアリーナを見上げていた翠緑色の瞳が、今度はアリーナを見下ろしている。
「だからそうだと言っているだろ。あの時は転生したばかりの幼生体。今はようやく成体へ近づいている。かつてした約束を覚えているか?」
「約束?」
なんの事だろうか。アリーナは必死に記憶の引き出しを片っ端から開けていく。すると、一つの光景が頭に浮かんだ。
「ねえフェンちゃん。私が大きくなって一人ぼっちになっちゃったら、迎えに来てね」
それは、怪我をした子犬を保護し、数ヶ月面倒を見た後に森へ帰した時の光景だった。
アリーナは昔から生き物が好きだった。
よく怪我をした動物を拾ってきては、父を困らせていた。
だが、結婚してからは生き物が苦手なグレンに気を遣い、そういった行動はピタリと辞めていたのだ。
「見張りから君が一人で町を去ったと聞いて驚いた。最初は行商にでも出たのかと思っていたが、調べさせたら君は店を追い出されと言う報告を受けてね。探し出すのに一年もかかってしまった。待たせて悪かった」
青年ことフェンは、再び人間の形態へと変化してアリーナの手を取った。その手は温もりに満ち、アリーナの冷えた心を暖める。
「本当にフェンちゃんなのね……というか、あなた何者?」
フェンに起こされたアリーナは、ズボンに付いた埃を払いながら当然の疑問を口にする。
「フェンリルさ。永遠の時を生きる霊獣。精霊とも言っていい。私達霊獣は、千年単位で一度肉体を捨て新しい肉体を手に入れるために転生する。ちょうどその時さ、君に拾われたのは」
「フェンリルって本当にいたんだ……」
なんとも単純な感想だが、今の状況を理解するだけで精一杯のアリーナに、豊かな感想表現など無理な話だった。
「君はこうも言っていた。迎えに来る時は、王子様として来てと」
「そ、そんな事言ったかしら……」
乏しい記憶の中、フェンの事を思い出すだけ限界だったアリーナは、その時の細部な記憶までは思い出せていない。
「言った」
ちょっとムッとした表情をしたフェンは、言葉を続ける。
「だから国を乗っ取っていつでも迎えに行けるようにしていたんだ。王子ではないが、王様なんだから同じようなものだろ?」
「く、国を乗っ取るなんて随分大それた事したのね……」
「相手は悪政を引く暴君。人間の言葉で言えば、天誅を下したまでだ。国民は歓喜していたぞ? まあ、私は君以外の人間にさほど興味はないがな」
「そうなのねっ……それで、迎えに来たと言ってるけど、あなたの国で暮らせって事かしら?」
それが一番気になる所だった。
今は依頼の人形を製作している最中。
急な引越しで依頼をほっぽり出すなど、責任感の強いアリーナには到底出来ない。
「ああ、君を妃として迎える。人間の女はそれが一番嬉しい事だと聞いた」
「き、き、妃!? それって、私と結婚するって事!?」
「そうなるのではないか? 将来を誓った契りを交わすのだろ? なに、心配するな。人間の一生など私には些細な時間。君が老いてこの世を去るまで私が面倒を見る。それが私を拾ってくれた君への礼だ」
「ごめんなさい、頭が混乱して爆発しそうだわ」
どうやらアリーナは、一国の妃になるようだーー
(拾った? この青年を? 酔った勢いでって事? そんなに飲んだくれた記憶は……)
「まだ分からないのか?」
そんなアリーナに、青年は語気を強めて詰め寄ってくる。
「分からないですっ、あなたを拾った記憶なんて……」
「君が幼い頃、金色の犬を拾った記憶もか」
そこでふと記憶が蘇る。
(幼い頃……金色の犬……はっ!)
「フェルちゃんの事!?」
「だからそう言ってるだろ」
いや、それにしても可笑しな話だ。金色の犬を拾った記憶があるとして、何故目の前の青年がその犬だと言っているのか、まったく理解が出来ない。
「誰の差し金? グレン? ミレナ? 私を馬鹿にするのもいい加減にしてちょうだいっ!」
まったく理解出来ない状況に、アリーナは冷静さを失っていた。そんな事を知っているのは、幼い頃から付き合いのある二人ぐらい。
こんな所に居るとは知らない筈だが、状況を考えればそれしか思い当たらなかった。
「落ち着け、アリーナ」
「気安く呼ばないで!」
感情を露わにするアリーナに、青年の表情は微動だにしない。そればかりか、青年はどんどんアリーナへ近づき目の前でピタリと止まる。
「な、なによっ!」
「今から姿を変える。驚かないでくれ」
そう告げた青年は、アリーナから一歩下がると光の粒子に包まれた。
「な、なに!? なにが起こってるの!?」
動揺して尻餅をつくアリーナ。
やがて光の粒子はとある姿を形成する。
「これで信じて貰えたかな」
ふわふわした金色の毛並み。左右に揺れる尻尾。青年と同じ翠緑色の瞳は、驚いて口をパクパクさせるアリーナを真っ直ぐ見つめていた。
アリーナの目の前に現れたのは、正におとぎ話の中に登場するフェンリルそのものだった。
大きさで言えば馬。
見方を変えれば大きな犬とも言える。
「ほ、本当にフェンちゃんなの……?」
蘇った記憶の中で飛び跳ねる金色の子犬は、目の前に現れた大きな犬と瓜二つ。
かつてアリーナを見上げていた翠緑色の瞳が、今度はアリーナを見下ろしている。
「だからそうだと言っているだろ。あの時は転生したばかりの幼生体。今はようやく成体へ近づいている。かつてした約束を覚えているか?」
「約束?」
なんの事だろうか。アリーナは必死に記憶の引き出しを片っ端から開けていく。すると、一つの光景が頭に浮かんだ。
「ねえフェンちゃん。私が大きくなって一人ぼっちになっちゃったら、迎えに来てね」
それは、怪我をした子犬を保護し、数ヶ月面倒を見た後に森へ帰した時の光景だった。
アリーナは昔から生き物が好きだった。
よく怪我をした動物を拾ってきては、父を困らせていた。
だが、結婚してからは生き物が苦手なグレンに気を遣い、そういった行動はピタリと辞めていたのだ。
「見張りから君が一人で町を去ったと聞いて驚いた。最初は行商にでも出たのかと思っていたが、調べさせたら君は店を追い出されと言う報告を受けてね。探し出すのに一年もかかってしまった。待たせて悪かった」
青年ことフェンは、再び人間の形態へと変化してアリーナの手を取った。その手は温もりに満ち、アリーナの冷えた心を暖める。
「本当にフェンちゃんなのね……というか、あなた何者?」
フェンに起こされたアリーナは、ズボンに付いた埃を払いながら当然の疑問を口にする。
「フェンリルさ。永遠の時を生きる霊獣。精霊とも言っていい。私達霊獣は、千年単位で一度肉体を捨て新しい肉体を手に入れるために転生する。ちょうどその時さ、君に拾われたのは」
「フェンリルって本当にいたんだ……」
なんとも単純な感想だが、今の状況を理解するだけで精一杯のアリーナに、豊かな感想表現など無理な話だった。
「君はこうも言っていた。迎えに来る時は、王子様として来てと」
「そ、そんな事言ったかしら……」
乏しい記憶の中、フェンの事を思い出すだけ限界だったアリーナは、その時の細部な記憶までは思い出せていない。
「言った」
ちょっとムッとした表情をしたフェンは、言葉を続ける。
「だから国を乗っ取っていつでも迎えに行けるようにしていたんだ。王子ではないが、王様なんだから同じようなものだろ?」
「く、国を乗っ取るなんて随分大それた事したのね……」
「相手は悪政を引く暴君。人間の言葉で言えば、天誅を下したまでだ。国民は歓喜していたぞ? まあ、私は君以外の人間にさほど興味はないがな」
「そうなのねっ……それで、迎えに来たと言ってるけど、あなたの国で暮らせって事かしら?」
それが一番気になる所だった。
今は依頼の人形を製作している最中。
急な引越しで依頼をほっぽり出すなど、責任感の強いアリーナには到底出来ない。
「ああ、君を妃として迎える。人間の女はそれが一番嬉しい事だと聞いた」
「き、き、妃!? それって、私と結婚するって事!?」
「そうなるのではないか? 将来を誓った契りを交わすのだろ? なに、心配するな。人間の一生など私には些細な時間。君が老いてこの世を去るまで私が面倒を見る。それが私を拾ってくれた君への礼だ」
「ごめんなさい、頭が混乱して爆発しそうだわ」
どうやらアリーナは、一国の妃になるようだーー
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