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3.現在・智②

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 腰のダルさとともに目が覚めた。
 見慣れた天井。見慣れた部屋。そして馴染みのある温もり。
 ふと目を向けると、優しい表情をしたタケルと目が合った。

「おはようございます、智サン」
「おはよ。腰がダルいんだけどさぁ、がっつきすぎじゃね?」

 起きた早々悪態が出てしまったのは仕方のないことだと思う。許せ。


「それは智サンが魅力的だからですよ。しかもオレ、智サンをイカせるのを至上の喜びとしてますから。イクときの智サンの表情ってめちゃエロイんですよ」

 ニッコリ笑ってそう言うこいつ。野獣だ、ケダモノだ。


「おまえさぁ……、オレもうすぐ三十になるんだぜ。もうちょっとオッサンを労わろうって思わないわけ?」
「どこがオッサンですか。見た目だけなら二十五歳って言っても皆信じますよ」

 思わずタケルを睨みつけてしまう。でもタケルはそれには全く動じず、チュッと軽い口付けをしてからベッドを出ていった。


「朝メシ作りますね。それまでゆっくりしててください」
「気ぃ使わなくていいって」
「オレが作りたいんです。それに智サンまだ動けないでしょ」
「…………」

 いろいろ言いたいことはあるが動けないのは事実だ。オレは黙って横になる。男同士のセックスでは受けの方が身体に負担がかかる。そしてタケルとのこのやりとりは、もはやもうお馴染みと言っても良いくらいだ。毎回毎回目覚めた翌朝は腰がダルい。特に週末の場合は動けないのがほとんどだ。


「ケダモノめ……」




 オレの名前は相田智アイダ トモ。もうすぐ大台に乗る二十九歳で、システム開発会社に勤めている、少し身長低めのどこにでもいる普通の男だ。普通と違ってるのはただひとつ、ゲイだってこと。別に最初からそうだったわけじゃない。好きになった人が男で、オレが受けだったってだけだ。
 もしかしたら今後女性を好きになることもあるかもしれない。でもきっと無いだろうと思っている。受けだから。あの川を渡ってしまったから。抱かれる側だから。後ろの刺激が欲しくなってしまうから。

 後悔するとも、したいとも思ってないから良いけど。


「智サーン」 朝食の準備が出来たんだろう、タケルが呼びにきた。

「まだちょっと無理みたい。連れてってくれる?」

 そう言ってオレは、タケルに向かって両腕を差し出した。




「なぁタケル、オレのパンツ知らね?」

 朝食を食べながらそう聞いてみた。タオルケットに包まれた状態でダイニングに連れてきてもらったのだが、その下はマッパだったりする。非常に心許なくて、パンツくらいは穿きたいと思うのは普通だよな。


「ああ、今洗濯機の中にいますよ。絶賛洗濯中」
「洗わなくても良かったのに。乾くまで帰れないじゃん」
「あれは洗わないとダメでしょ。いろんな液でカピカピでしたから。それに、智サンが動けるようになる頃には乾いてますって」

 またまたニッコリ笑ってそう言うタケル。いろんな液ってのが身に覚えがありすぎて、結局それ以上は何も言えなかった。仕方なく朝食の残りを食べることに専念する。タケルの料理スキルは無駄に高い。今朝なんてリゾットとサラダだぜ。短時間でどうやってこんな美味いメシを作るんだろう?


「美味しいですか?」
「うん。お世辞抜きでマジで美味い」
「そう言ってもらえると作った甲斐がありますね。一緒に暮らしたら毎日美味しいご飯が食べれますよ」
「そうだね……」
「いつか一緒に暮らしたいですね」
「…………」

 思わず黙ってしまう。タケルに期待させちゃいけないのに、こうやってタケルに抱かれて甘やかされるオレは卑怯だ。


「何暗い顔してるんですか。オレは智サンを攻略すると言うチャレンジ精神が刺激されて元気いっぱいなのに。いつか一緒に暮らすってのはオレにとってのご褒美の人参なんですからね。暗い気持ちは全くなく、智サンへの愛とワクワク感に溢れてますから」

「うん、ゴメン。ゴメン……タケル」
「何謝ってるんですか? この場合セリフが違うでしょ」
「うん……、ありがと、タケル」


 朝食の後、オレはもう一度タケルに抱かれた。やっと腰が復活しかけてたときに襲うってさぁ、これはもう鬼畜って言って良いレベルなんじゃね?
「智サンは何もせず、ただ感じてくれたら良いんですよ」なんて……、元気なときに言われたらキュンと来るセリフかもしれないが、実際に動けないオレに対してはやはり鬼畜発言としか思えない。タケルの性欲は高校生並みなんじゃないかって思うよ。嗚呼腰ダル……。

 結局オレが自宅に戻ったのは夜も遅い時間だった。しかもタケルの車で送ってもらったと言うこの状況……。もし次回があるのであれば、週末ではなく平日にしようと思う。お互い翌日に仕事があるから無理はしないしね。加えて平日に鬼畜になると、オレから信一に連絡してタケルに制裁が行くから、そこらへんは安心できるってわけだ。


「智サーン、寂しくなったらいつでも呼んでくださいね。直ぐ行きますから!」

 そんなセリフを残してタケルは帰って行った。
 タケルに対して情はある。恋愛ではなく親愛だ。もし誰かひとりを選ばなきゃって状況になったら、きっとタケルを選ぶと思う。

 いつか、本当に、心からタケルを好きになれたら……。

 それ以上は考えまい。とりあえず一週間分の洗濯は明日だな。今夜はもう寝て、週末の細々したことは明日やるべく、オレは自宅に引っ込んだ。

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