7 / 68
1年
寮生活1
しおりを挟む
作り付けのクローゼットに小さな棚、ベッド、机、小さい洗面台。エンダル学園の寮の設備としてはこれが一般的だ。部屋の広さは少し余裕があって、小さなテーブルと椅子を置くくらいのスペースはあるよ。基本的に卒業まで部屋替えはしない方針だから、ある程度は好きな家具の持ち込みは認められている。とは言え男子の場合は家具は入れず、敷物を敷くくらいで済ませてるのが一般的みたい。あとはクッションがあるか無いかくらいかな。
洗面台は部屋の隅にちょこんと設置されている。用途としては顔を洗ったり水を飲んだりとかくらいかな。大量の水が出るワケじゃないから、それ以上は期待できないんだ。水は魔石を使った魔道具から出るんだよ。水が出なくなったら管理人さんのところに持っていって、新しい魔石と交換してもらうんだ。もちろん自分で魔力を込めても良いことになってるよ。
魔道具って便利だよね。僕が前世の頃は無かったものだから、本当に便利になったと思う。僕が前世の頃は魔石に陣を刻んであれこれ工夫して魔道具っぽくしてたけど、起動は魔力持ちしかできなかったんだ。でも今の魔道具は魔力が無い人でも使えるようになってるから、本当にすごいと思う。
魔力が無くても使える魔道具の仕組みを発明した人は、他国の人なんだ。それを輸入して、当時の魔導師たちが仕組みを解明したんだって。発明した人は自分から技術を広めるのは嫌がったけど、他人がそれを解明するのは推奨したってのを以前聞いたことがある。その理由はもっと沢山の魔道具を発明することに時間を割きたかったからだって。まさしく研究者ってカンジだよね。
「マシュー、そろそろお風呂いかない?」
「そうだな。あまり遅くなると上級生が多くなるしな」
お風呂はとても広いからそこまで混むってことは無いけれど、周りが上級生ばかりだとやっぱりちょっと肩身が狭いって言うか……。上級生は遅い時間にお風呂に入る人が多いから、僕たちみたいな下級生はなるべく早めに入浴するのが暗黙の了解になってるんだ。
身体を洗ってお湯に浸かる……。昔も今もお風呂は僕の中での好きなものの上位だ。一番上はもちろんマシュー、次が魔法で、三番目がお風呂かな。時々マシューと魔法が逆転することはあるけれど、これは僕の心の中でのことだから内緒にしてるよ。でもきっとバレてもマシューなら分かってくれると思ってる。しょうがないなぁって眉を下げるくらいじゃないかな。
「何見てるんだ?」
「ん? レリーフだよ」
「嗚呼、レリーフだけは今でもあるんだな」
「お風呂が広くて大量の水が必要だから、きっと川から水を引いてると思うんだ」
「じゃあそれをレリーフの魔法で浄化して適温にしてるってことか」
「たぶん……」
レリーフの図柄は古代魔法だ。文献も何も無くて既に廃れてしまった魔法だけど、現物だけはお城に残っててそのまま使われてたんだよね。お城にあったレリーフのパターンから効果と一部のレリーフの意味だけは分かったけど、結局全てのレリーフの解明は出来なかったんだ。それが前世の話だよ。
「結局このレリーフって解明されたのかな?」
「どうだろう? 今は魔石を使った魔道具があるから、わざわざレリーフに頼る必要は無いしな」
「そう言えば僕の家も魔道具だった」
「オレんちもだよ。水の魔道具は今では平民でも普通に入手できるものだしな。さすがに風呂は金がかかるから、風呂屋に行ってたな」
「へぇ~。僕んちはちゃんとお風呂があって、全部魔道具だったと思う」
「金持ちめ」
前世お城で育った人が言うセリフじゃないと思うんだけど。
後日調べてみたところ、レリーフについての研究は途中で断念したみたいだった。お城も昔はレリーフだったけど、今は普通に魔道具を使ってるみたいだよ。でも川に排水を流す部分だけは今もレリーフが残ってるみたい。ちなみにこれは大図書館の閲覧禁止区域にあった書物に書かれてた内容だったりする。ものすごーく気になったんで、こっそり閲覧したってワケ。まだ入学したばかりだと言うのに、僕もたいがいだよね。
と言うワケで積極的にレリーフを使ってるのは、ここエンダル学園だけなんだ。今はムリでも後の世で誰かが解明できるかもしれない、そんな期待が込められてるらしいよ。
「このレリーフが魔法だと知ってる人は、この中にどれくらいいるのかな?」
「ほとんどいないんじゃないか」
「だよね……」
「セインはレリーフの研究をする気は無いのか?」
「ふふっ。前世でね、途中で諦めたんだよ。僕には向かないみたい」
「さすがの魔法バカも向き不向きがあるってことか」
「ひどーい」
ひとしきり笑った後、お風呂からあがった。丁度入れ替わりで上級生の集団が入ってきたから、ギリギリセーフってところだったと思う。別にいじめられたりとかはないよ。でも体格が違い過ぎるから、威圧感ってのを感じるんだよね。仕方ないけど。きっと僕たちが進級して上級生になったとき、下級生たちは今の僕と同じように感じるんだと思うな。
「オレたちは卒業までこの風呂を利用するんだよな……」
「マシュー?」
「今はまだ許容できるけど、上級生になったセインの裸はオレ以外には見せたくない」
「マ……」
溜息が出てしまった。今からそんなことを言ってたら、将来本当にどうなっちゃうんだろ?
「何で今世のオレは平民なんだ? 王子って前世じゃなく今世こそ必要じゃんか」
「……マシュー、部屋に戻るよ」
ブツブツ言ってるマシューのひとりごとは、なるべく耳に入らないようにした。きっと王族用の部屋なら個人風呂があるからとか言うんじゃないかな。この状態のマシューには何言っても仕方ないってのは前世で十分学んだんだ。だから放っておくのが一番なんだよ。マジメに取ると僕の方が疲れるんだもの。
と言うことで、半ば強引にマシューを部屋に引っぱって行った。
洗面台は部屋の隅にちょこんと設置されている。用途としては顔を洗ったり水を飲んだりとかくらいかな。大量の水が出るワケじゃないから、それ以上は期待できないんだ。水は魔石を使った魔道具から出るんだよ。水が出なくなったら管理人さんのところに持っていって、新しい魔石と交換してもらうんだ。もちろん自分で魔力を込めても良いことになってるよ。
魔道具って便利だよね。僕が前世の頃は無かったものだから、本当に便利になったと思う。僕が前世の頃は魔石に陣を刻んであれこれ工夫して魔道具っぽくしてたけど、起動は魔力持ちしかできなかったんだ。でも今の魔道具は魔力が無い人でも使えるようになってるから、本当にすごいと思う。
魔力が無くても使える魔道具の仕組みを発明した人は、他国の人なんだ。それを輸入して、当時の魔導師たちが仕組みを解明したんだって。発明した人は自分から技術を広めるのは嫌がったけど、他人がそれを解明するのは推奨したってのを以前聞いたことがある。その理由はもっと沢山の魔道具を発明することに時間を割きたかったからだって。まさしく研究者ってカンジだよね。
「マシュー、そろそろお風呂いかない?」
「そうだな。あまり遅くなると上級生が多くなるしな」
お風呂はとても広いからそこまで混むってことは無いけれど、周りが上級生ばかりだとやっぱりちょっと肩身が狭いって言うか……。上級生は遅い時間にお風呂に入る人が多いから、僕たちみたいな下級生はなるべく早めに入浴するのが暗黙の了解になってるんだ。
身体を洗ってお湯に浸かる……。昔も今もお風呂は僕の中での好きなものの上位だ。一番上はもちろんマシュー、次が魔法で、三番目がお風呂かな。時々マシューと魔法が逆転することはあるけれど、これは僕の心の中でのことだから内緒にしてるよ。でもきっとバレてもマシューなら分かってくれると思ってる。しょうがないなぁって眉を下げるくらいじゃないかな。
「何見てるんだ?」
「ん? レリーフだよ」
「嗚呼、レリーフだけは今でもあるんだな」
「お風呂が広くて大量の水が必要だから、きっと川から水を引いてると思うんだ」
「じゃあそれをレリーフの魔法で浄化して適温にしてるってことか」
「たぶん……」
レリーフの図柄は古代魔法だ。文献も何も無くて既に廃れてしまった魔法だけど、現物だけはお城に残っててそのまま使われてたんだよね。お城にあったレリーフのパターンから効果と一部のレリーフの意味だけは分かったけど、結局全てのレリーフの解明は出来なかったんだ。それが前世の話だよ。
「結局このレリーフって解明されたのかな?」
「どうだろう? 今は魔石を使った魔道具があるから、わざわざレリーフに頼る必要は無いしな」
「そう言えば僕の家も魔道具だった」
「オレんちもだよ。水の魔道具は今では平民でも普通に入手できるものだしな。さすがに風呂は金がかかるから、風呂屋に行ってたな」
「へぇ~。僕んちはちゃんとお風呂があって、全部魔道具だったと思う」
「金持ちめ」
前世お城で育った人が言うセリフじゃないと思うんだけど。
後日調べてみたところ、レリーフについての研究は途中で断念したみたいだった。お城も昔はレリーフだったけど、今は普通に魔道具を使ってるみたいだよ。でも川に排水を流す部分だけは今もレリーフが残ってるみたい。ちなみにこれは大図書館の閲覧禁止区域にあった書物に書かれてた内容だったりする。ものすごーく気になったんで、こっそり閲覧したってワケ。まだ入学したばかりだと言うのに、僕もたいがいだよね。
と言うワケで積極的にレリーフを使ってるのは、ここエンダル学園だけなんだ。今はムリでも後の世で誰かが解明できるかもしれない、そんな期待が込められてるらしいよ。
「このレリーフが魔法だと知ってる人は、この中にどれくらいいるのかな?」
「ほとんどいないんじゃないか」
「だよね……」
「セインはレリーフの研究をする気は無いのか?」
「ふふっ。前世でね、途中で諦めたんだよ。僕には向かないみたい」
「さすがの魔法バカも向き不向きがあるってことか」
「ひどーい」
ひとしきり笑った後、お風呂からあがった。丁度入れ替わりで上級生の集団が入ってきたから、ギリギリセーフってところだったと思う。別にいじめられたりとかはないよ。でも体格が違い過ぎるから、威圧感ってのを感じるんだよね。仕方ないけど。きっと僕たちが進級して上級生になったとき、下級生たちは今の僕と同じように感じるんだと思うな。
「オレたちは卒業までこの風呂を利用するんだよな……」
「マシュー?」
「今はまだ許容できるけど、上級生になったセインの裸はオレ以外には見せたくない」
「マ……」
溜息が出てしまった。今からそんなことを言ってたら、将来本当にどうなっちゃうんだろ?
「何で今世のオレは平民なんだ? 王子って前世じゃなく今世こそ必要じゃんか」
「……マシュー、部屋に戻るよ」
ブツブツ言ってるマシューのひとりごとは、なるべく耳に入らないようにした。きっと王族用の部屋なら個人風呂があるからとか言うんじゃないかな。この状態のマシューには何言っても仕方ないってのは前世で十分学んだんだ。だから放っておくのが一番なんだよ。マジメに取ると僕の方が疲れるんだもの。
と言うことで、半ば強引にマシューを部屋に引っぱって行った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる