目立たず静かに大人しく?

ふゆの桜

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1年

寮生活1

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 作り付けのクローゼットに小さな棚、ベッド、机、小さい洗面台。エンダル学園の寮の設備としてはこれが一般的だ。部屋の広さは少し余裕があって、小さなテーブルと椅子を置くくらいのスペースはあるよ。基本的に卒業まで部屋替えはしない方針だから、ある程度は好きな家具の持ち込みは認められている。とは言え男子の場合は家具は入れず、敷物を敷くくらいで済ませてるのが一般的みたい。あとはクッションがあるか無いかくらいかな。

 洗面台は部屋の隅にちょこんと設置されている。用途としては顔を洗ったり水を飲んだりとかくらいかな。大量の水が出るワケじゃないから、それ以上は期待できないんだ。水は魔石を使った魔道具から出るんだよ。水が出なくなったら管理人さんのところに持っていって、新しい魔石と交換してもらうんだ。もちろん自分で魔力を込めても良いことになってるよ。
 魔道具って便利だよね。僕が前世の頃は無かったものだから、本当に便利になったと思う。僕が前世の頃は魔石に陣を刻んであれこれ工夫して魔道具っぽくしてたけど、起動は魔力持ちしかできなかったんだ。でも今の魔道具は魔力が無い人でも使えるようになってるから、本当にすごいと思う。
 魔力が無くても使える魔道具の仕組みを発明した人は、他国の人なんだ。それを輸入して、当時の魔導師たちが仕組みを解明したんだって。発明した人は自分から技術を広めるのは嫌がったけど、他人がそれを解明するのは推奨したってのを以前聞いたことがある。その理由はもっと沢山の魔道具を発明することに時間を割きたかったからだって。まさしく研究者ってカンジだよね。

「マシュー、そろそろお風呂いかない?」
「そうだな。あまり遅くなると上級生が多くなるしな」

 お風呂はとても広いからそこまで混むってことは無いけれど、周りが上級生ばかりだとやっぱりちょっと肩身が狭いって言うか……。上級生は遅い時間にお風呂に入る人が多いから、僕たちみたいな下級生はなるべく早めに入浴するのが暗黙の了解になってるんだ。

 身体を洗ってお湯に浸かる……。昔も今もお風呂は僕の中での好きなものの上位だ。一番上はもちろんマシュー、次が魔法で、三番目がお風呂かな。時々マシューと魔法が逆転することはあるけれど、これは僕の心の中でのことだから内緒にしてるよ。でもきっとバレてもマシューなら分かってくれると思ってる。しょうがないなぁって眉を下げるくらいじゃないかな。

「何見てるんだ?」
「ん? レリーフだよ」
「嗚呼、レリーフだけは今でもあるんだな」
「お風呂が広くて大量の水が必要だから、きっと川から水を引いてると思うんだ」
「じゃあそれをレリーフの魔法で浄化して適温にしてるってことか」
「たぶん……」

 レリーフの図柄は古代魔法だ。文献も何も無くて既に廃れてしまった魔法だけど、現物だけはお城に残っててそのまま使われてたんだよね。お城にあったレリーフのパターンから効果と一部のレリーフの意味だけは分かったけど、結局全てのレリーフの解明は出来なかったんだ。それが前世の話だよ。

「結局このレリーフって解明されたのかな?」
「どうだろう? 今は魔石を使った魔道具があるから、わざわざレリーフに頼る必要は無いしな」
「そう言えば僕の家も魔道具だった」
「オレんちもだよ。水の魔道具は今では平民でも普通に入手できるものだしな。さすがに風呂は金がかかるから、風呂屋に行ってたな」
「へぇ~。僕んちはちゃんとお風呂があって、全部魔道具だったと思う」
「金持ちめ」

 前世お城で育った人が言うセリフじゃないと思うんだけど。

 後日調べてみたところ、レリーフについての研究は途中で断念したみたいだった。お城も昔はレリーフだったけど、今は普通に魔道具を使ってるみたいだよ。でも川に排水を流す部分だけは今もレリーフが残ってるみたい。ちなみにこれは大図書館の閲覧禁止区域にあった書物に書かれてた内容だったりする。ものすごーく気になったんで、こっそり閲覧したってワケ。まだ入学したばかりだと言うのに、僕もたいがいだよね。
 と言うワケで積極的にレリーフを使ってるのは、ここエンダル学園だけなんだ。今はムリでも後の世で誰かが解明できるかもしれない、そんな期待が込められてるらしいよ。

「このレリーフが魔法だと知ってる人は、この中にどれくらいいるのかな?」
「ほとんどいないんじゃないか」
「だよね……」
「セインはレリーフの研究をする気は無いのか?」
「ふふっ。前世でね、途中で諦めたんだよ。僕には向かないみたい」
「さすがの魔法バカも向き不向きがあるってことか」
「ひどーい」

 ひとしきり笑った後、お風呂からあがった。丁度入れ替わりで上級生の集団が入ってきたから、ギリギリセーフってところだったと思う。別にいじめられたりとかはないよ。でも体格が違い過ぎるから、威圧感ってのを感じるんだよね。仕方ないけど。きっと僕たちが進級して上級生になったとき、下級生たちは今の僕と同じように感じるんだと思うな。

「オレたちは卒業までこの風呂を利用するんだよな……」
「マシュー?」
「今はまだ許容できるけど、上級生になったセインの裸はオレ以外には見せたくない」
「マ……」

 溜息が出てしまった。今からそんなことを言ってたら、将来本当にどうなっちゃうんだろ?

「何で今世のオレは平民なんだ? 王子って前世じゃなく今世こそ必要じゃんか」
「……マシュー、部屋に戻るよ」

 ブツブツ言ってるマシューのひとりごとは、なるべく耳に入らないようにした。きっと王族用の部屋なら個人風呂があるからとか言うんじゃないかな。この状態のマシューには何言っても仕方ないってのは前世で十分学んだんだ。だから放っておくのが一番なんだよ。マジメに取ると僕の方が疲れるんだもの。

 と言うことで、半ば強引にマシューを部屋に引っぱって行った。
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