目立たず静かに大人しく?

ふゆの桜

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1年

学園祭4

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「なあなあ、今日の先生たちの出し物知ってるか?」

 学園祭四日目。今日も大勢の人が学園に遊びに来てるよ。今日のメインは剣術大会の団体戦の予選なんだ。団体戦は騎士科の生徒だけじゃなく魔法科の生徒も参加してるから、僕としてはものすごく興味ある。どうやって連携してるのかな? 僕も上級生になったら絶対にマシューと一緒に出るつもり。

「女装コンテストでしょう?」
「そうそう。んでさ、誰が出ると思う?」
「知らない。フィラー先生は出ないんじゃないかな」

 例によって朝ごはんを軽めにした僕たちは、模擬店で思い思いの品を買って食べ歩きしてるんだ。行儀悪いけど、こんな日でないと出来ないからね。それに周りも食べ歩きしてる人ばかりなんだよ。一応椅子とテーブルが置いてある場所もあるけど、そこは人がいっぱいで僕たちの座る席は無いし、模擬店の周りの芝生も大勢の人が寛いでて、残念ながらスペースが空いて無いんだ。
 そんな中、突然アルト君が今日の出し物の話をしてきた。女装コンテストってのは僕も知ってたよ。知ってたけど、見に行きたいとは思わなった。それはきっと、前世無理矢理女装させられたからじゃないかと思ってる。

 前世の話だけどね、僕の知らないうちに、お城に僕専用のドレスが六着も用意されてたんだ。何度かお願いされて仕方なく女装したけど、本当はイヤだった。だからマシューに泣きついて、なんとか諦めてもらったんだよ。その後処分されたハズのドレスが、何故か隣国のサルバーヌ皇国の王家に譲渡されたって聞いたときは、何の冗談かと思ったよ。マシューはすっごく怒っちゃったし。欲しがった人の見当はついてたけど、結局取り戻せなかったんだ。僕のドレスを餌に、我が国に有利な取引をしたとかで。うん……。つい思い出しちゃったけど、実はずーっと忘れていたかった思い出だ。

「それがさぁ、バグズダッド先生が出るんだって。毎年出てて、結構人気あるって話だぜ」
「バグズダッド先生が?」
「なんだそれ。熊が女装したってメス熊になるだけじゃないのか?」
「うわあ、マシューは毒舌だなぁ」

 バグズダッド先生は『治療室の熊』ってあだ名があるくらいだからね、体格は本当に熊みたいなんだよ。結構気さくな先生なんだけど、あの風貌で損をしてて、治療で近づいただけで泣かれたこともあるとか……。見た目だけだと、治すより傷つける方が得意に見えるもんね。ちょっと同情しちゃうかも。

 結局アルト君に押し切られて、全員で女装コンテストを観に行った。思った以上にたくさんの人が集まってて、すっごく驚いたし。毎年やってる先生方の女装コンテストは、昔から大人気なんだって。特に冒険者と生徒に人気があるらしいよ。コンテスト開始を待ってる間に聞こえてきた話し声で、たった今知ったことだ。何故冒険者にまで人気があるのかについてはその理由を話して無くて、僕には分からなかったけど。

「皆様、本日はアタクシの為に集まってくれて、本当に嬉しくてよ」

 女装コンテストでは、まずはひとりずつエントリーした先生が紹介されて、ステージに出てきた。アルト君お待ちかねのバグズダッド先生は四番目。そして先生の女装は、『ド派手』と言う表現が地味に感じるくらいの迫力だった。
 髪はキレイに結い上げた金髪のカツラ、化粧は素顔の面影が全くない迫力ある厚化粧。ドレスは光沢のある深紅の布地で、ゴツめのアクセサリーがキラキラと言うかギラギラと言うか……。そして体型……。背が高くて熊みたいなゴツイ身体の胸と腰の部分に詰め物をしたド迫力ボディって言うのかな? 幅も厚みもすごいことになってるんだ。幅にしろ厚みにしろ、僕ふたり分以上あるのは間違い無いよ。
 そんな先生が扇を手に気取って歩いてきて、ウインクしながらさっきのセリフを言うんだよ。キレイか?って言われたら……ホラーだね。

 そしてマシューだけど……。

「マシュー、マシューッ! 大丈夫? 一旦外に出ようか。歩ける?」
「――ッ!」
「おいっ坊主! オレが運んでやろう」
「すいません。ありがとうございます」
「気にするな。毎年坊主みたいなのが何人か出るんだよ」

 笑い過ぎたマシューは笑いが止まらず、最後は声も出せずに痙攣しちゃったんだ。一緒にいた僕たちはオロオロしちゃって、本当にどうしようかと思った。そんなとき親切な冒険者のお兄さんが、マシューを抱えて会場の外に向かってくれたんだ。僕たちだとマシューを抱えられないから、本当に助かった。
 お兄さんが運んでくれたのは、会場を出たところに設置されてた救護スペースだ。わざわざこんなスペースが用意されてるなんて知らなかったよ。救護スペースはかなりの人がいて、顔に涙の跡がついてる子供が何人もいたよ。きっとバグズダッド先生の女装を見て、怖くて泣いちゃったんだろうね。今夜魘されなきゃいいけど……。

「死ぬかと思った……」

 受け取った水を飲んだマシューはかなりグッタリした様子だった。マシューが笑い過ぎてダウンなんて、三度目の人生の中でも初めてだと思うな。

 親切な冒険者のお兄さんに教えて貰ったところによると、この女装コンテストは別名を『衝撃コンテスト』って言って、投票の基準はどれだけ観客を驚かせたかなんだって。だからこそ、入り口のところに救護スペースがあったってわけ。
 このコンテストは毎年1年生がターゲットになってるそうだよ。先輩たちは1年生には真実を教えず、毎年人気がある女装コンテストとしか伝えないんだ。何も知らない僕たち1年生は先輩たちの思惑通り会場へ行って、そこでかなりの衝撃を受けるってワケ。女装した先生の中には、ステージを降りて生徒たちを追いかけまわす人もいるんだって。捕まった生徒は情熱的なキスをされるそうだよ。トラウマになりそう……。

「なんつぅコンテストだよ」
「そうだね。僕もかなりの衝撃を受けたよ」
「オレは先生よりマシューの状態の方が怖かったぞ」
「アルト君、オロオロしてたもんね」
「そう言うトーマだって同じだったじゃんか」
「えへへ」

 僕たちが救護スペースでのんびりしてる間にも、大泣きした生徒が入って来てたよ。彼の頬にはべったりと口紅がついてたから、きっと餌食になったんだろうね。マシューには悪いけど、ここに避難出来てよかったかも。

「なあ、もうここを出ようぜ」
「そうだね。マシューも元気になったし」
「じゃあ模擬店で何か買おうぜ。腹減ったような気がする」
「アルト君はよく食べるねぇ。じゃあ食べ物買ったら剣術大会の会場へ行こうよ。今なら良い席が取れるかも」

 カオスになった救護室を出た僕たちは、模擬店に立ち寄った後、のんびりと屋外訓練場へ向かって行った。団体戦はどんなグループが出るんだろうね? 見る前から本当に楽しみだ。
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